「登って、つながる」

清々しい空気に包まれた4月の長野県・小川山で、ちょっと気になるクライミングイベントが開催されました。題して「Climb and Connect」。クライミングって、やっぱり自由で楽しく、人生を豊かにしてくれるアクティビティ。そんな思いを参加者全員で分かち合った2日間をご紹介します。
「Climb and Connect」とはどんなイベント?
国内屈指の人気クライミングエリア、長野県・小川山でのイベント「Climb and Connect」。直訳すれば、「登って、つながる」といった意味でしょうか。
主催はパタゴニア。さらに、カラファテ、モデラート、ルーフロックの3つの専門店と、クライミングジムPUMPグループというクライミングを応援する計4社が協力しています。

小川山のベースである廻り目平キャンプ場に集結したゲストクライマーは、写真左から横山勝丘さん、鳴海玄希さん、(司会のルーフロック・北平友哉さん)、王鞍慧介さん、大木輝一さん、柴沼潤さん、尾上彩さんという個性派6名。
参加者は、北は山形から南は徳島まで、世代も経験値も違う男女20名が集まりました。
この2日間に用意されたコンセプトは、「クライミングを通して、人・コミュニティ・自然とのより良い関係を考える」こと。具体的には次の4点が挙げられています。
- ゲストクライマーとの、いつもとはちょっと違ったクライミングセッション
- クライミング文化やコミュニティの未来を見つめるグループディスカッション
- ゲスト同士の対話や交流を通じて、参加者それぞれがクライミングとの向き合い方に新たな視点や気づきを得る時間
- レベルや経験を問わず、クライミングを愛する方ならどなたでも大歓迎

パタゴニアのようなアウトドアブランドが主催する野外イベントでは、ビギナーや初級者を対象にした講習会的な内容も少なくありません。そこには、誰もが気軽にチャレンジできる機会をつくって、アクティビティ参加の敷居を下げたい。そんな意図が込められています。
けれども、今回のイベントは少々趣が違うようです。では、いったいどんなイベントだったのでしょうか。
その答えは、スキルアップのための「講習やレクチャー」ではなく、自然と対峙する「大人の遊び」を徹底することにありました。
2日間のルールは「自由であること」
開会式の後は、参加者全員が3つのグループに分かれて行動開始です。まずは芝生の広場に輪になって座り、オリエンテーションが始まりました。
ここで明かされたのは、私たちが普段縛られている『常識』から抜け出し、小川山の岩場を心の底から遊び尽くすためのユニークなクライミングスタイルでした。
みんなで「サーキット」をつくる

最初に提示されたのは、「サーキットをつくる」というテーマです。「サーキット」という言葉は、クライミング経験者でも聞き慣れないかもしれません。
これは、複数のボルダリング課題を連続して登るスタイルのこと。1日で多くの課題に取り組むことで、持久力はもちろん、さまざまな岩の弱点を読み解く発想力が養われ、クライマーとしてのレベルアップにつながります。

「もともとは、ボルダリングの聖地として知られるフランス・フォンテーヌブローで生まれたスタイルです。アルプスやヒマラヤの大岩壁を登るために、小さな岩場でどう強くなるかを考え抜いた末の登り方です」
そう語るのは、“ジャンボ”こと横山勝丘さん。その説明には、確かな説得力があります。
ジャンボさんや鳴海さんもまた、国内のルートを何本も継続して登ることで、海外の大岩壁に挑む実力をつけてきました。彼らの話にうなずく参加者のみなさんも、その背景はよくご存じのようでした。
さらにジャンボさんは話を続けます。

「私たちAグループは、カモシカ登山道を登りながら、目についた岩を片端から登って、新たな課題を開拓していきます。目標は30課題です」
人気と歴史を兼ね備えた小川山エリアは、現在、ルート数で1300本以上、ボルダーは600課題以上とも言われています。そんな山域で、まだ誰も登ったことのないラインを見つけ、形にしていく。それは決して簡単なことではありません。さて、どんな展開になるのでしょうか。
「これまでクライマーはほとんど入らなかった登山道なので、おそらく目に入る岩のほとんどが手つかずのはず。ということは、最初に登った人が“初登者”ということになります(笑)。では、始めましょうか」
弘法、”岩”を選ばず
「カモシカ登山道」は、廻り目平キャンプ場から急峻な斜面をダイレクトに登り、標高2418mの小川山山頂へと続く一般登山道。途中、尾根を右に下り、唐沢の滝を経由して再び廻り目平に戻る周回ルートは、「カモシカ登山道周回コース」と呼ばれています。

ジャンボさんと鳴海さんが率いるAチームは、この周回コースをたどりながら、周囲に点在する手つかずの岩(ボルダー)に次々と挑んでいきます。
「数を登る必要があるので、難しすぎるラインやリスキーなハイボルダーはパス。一人あたり2トライまでにして、登れても登れなくても、どんどん先へ進みましょう」

まずはキャンプ場に面した大岩を手早く攻略したAチームは、そのまま登山道へと入り、わずか5分ほどで早くも2つ目の課題候補を見つけます。
おそらく、これまでクライマーの目に留まることはなく、あったとしてもボルダリングの対象には見なされなかった小さな岩。けれども、しっかりとSD(シットダウン)スタートで取り組めば、なかなかの手応えがありました。
登行→発見→トライ→完登。この流れを何度か繰り返すうちに、参加者のみなさんはすっかりこの“開拓ゲーム”に夢中になっていきます。登山道を登りながら、どこかにいい岩はないかと、自然と左右に目を配るようになってきました。
跡は汚さず、記録に美しく残す

人気のボルダリング課題では、ホールドやフットホールドに、これまでトライしてきたクライマーたちのチョーク(滑り止め)の跡が残っています。それがラインを追う手がかりとなります。
けれども、手つかずの岩には当然チョーク跡が一切ありません。すべてをイチから、自分で見つけ出すしかないのです。
それこそが、クライミング本来の醍醐味であり、シンプルに岩を登る楽しさというもの。岩面に積もった砂を吹き払い、泥を剥がしてホールドを探り当てていく。そんな“プチルート開拓”を体験しながら、次から次へと課題を生み出していきます。

各チームには、拡大コピーした地形図をはさんだバインダーが手渡され、登った課題の位置と順番をその場でプロットしていきます。この記録係も、参加者が担います。

同時に、同行したスタッフが「スーパー地形」アプリのポイント記録機能を使い、正確な位置情報も残していきます。写真は、この日のAチームがトライした全29課題のログです。
朝10時にスタートし、再びキャンプ場に戻ってきたのは17時前。まさにフル稼働の一日となりました。集合時間を大幅にオーバーしたことは、ご愛敬としておきましょう。
