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自然、人、仲間と深くつながる。パタゴニアのイベントで体感した「本当の自由な山の遊び方」(2ページ目)

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登って、語って、仲間になる

急峻なカモシカ周回コースをたどるAチームに対し、それ以外のチームは既存のボルダリングエリアを舞台にサーキットを設定する作戦。

Bチームは「クジラ岩」から「水晶スラブ」に至る人気エリア。あえて有名ボルダー課題がひしめくメジャースポットに足を向けたのには、なにか意図があってのことでしょう。

Cチームは「マラ岩下ボルダー」から「石楠花遊歩道」へと向かう予定でしたが、最初のマラ岩下ボルダーがあまりに充実しすぎたため、その場に腰を据えて一つのエリアに集中することになったようです。

有名課題「不可能スラブ」の下に集まっていたBチームに合流したのは、ちょうど昼の休憩時間でした。スタッフを中心に輪になり、なにやら語り合っています。
実はこのイベントには、「ディスカッション」というプログラムも用意されていました。

「普段自分がどういうクライミングをしているか」、「なぜこのイベントに参加したのか」一人一人が会話をした後、「クライミング文化の変化、今みんなが感じていること」について話し合いました。

初対面同士でいきなり語り合うとなると、少し身構えてしまいそうですが、そこは司会を担うスタッフのリードもあって、参加者たちは自然な笑顔で打ち解けていました。

もっとも、すでに午前中のセッションを終え、互いのクライミングスタイルや人となりも少しずつ見えてきたタイミングです。そんななかで、それぞれのこれまでのクライミング歴が語られるわけですから、自然と興味をもって耳を傾けてしまいます。

トポはとりあえず無視

Bチームのリーダー・大木さん(写真右)と王鞍さんと話し合って決めた方針は、「トポ(ルート図集)を見ないで楽しむボルダリング」でした。あえて人気課題が集結するメジャーエリアを選んだ理由もそこにあります。

大木さんは言います。

「ボルダリングを楽しむ多くの人は、トポを片手に歩き回って、『あれがクジラ岩だな』って確かめますよね。トポを見れば、その岩のどこに、どんな課題があるのかも一目瞭然。
でも、あえてトポを開かなければ、もっと自由な発想でラインが見えてくると思うんです」

もちろん、既存の課題かどうかはチョーク跡を見ればある程度は判断できます。ただ、写真のような小粒の岩はどうでしょうか。苔むした岩肌は誰も手をつけていないように見えます。ただし、トポには載っていなくても、まったく登られていないとは言い切れません。

そんな曖昧なボルダーでも、この日はひとつの“課題”として見いだされていきました。

ゲストクライマーやスタッフ、参加者たちが次々とトライを重ねるなかで、新たなムーブが次々と生まれていきます。写真のボルダーでは、中央のクラックをどう使うかによって、4〜5通りの“回答”が見つかりました。

既存課題にこだわらない見本は、ボルダリングを始めたばかりの子どもたちでした。グレードの概念やトポとは一切無縁の彼らは、「ここ、登れるかも」という率直でシンプルな直感で岩に取り付きます。

そんな彼らの純粋な遊び心は、ときに大人以上のきらめきを放つものです。

写真の課題の初登者は、トウフックからのマントリングを見事に決めた11歳のジョージ君。もちろん、そのラインは「ジョージ課題」として、Bチームのサーキット課題のひとつに加えられました。

なにやら河原の石を物色していたゲストクライマーの二人が、「次は、このボルダーに挑戦してみませんか?」と言って、一抱えほどの石を運んできました。

ボルダーというよりは、ただの石にしか見えません。けれどもこれは、カナダ・スコーミッシュに現存する「ポータブル・ボルダー」、つまり、”持ち運びできるボルダー”という人気課題の、オマージュなのだそうです。

腰を下ろして両手を石に置き、両足を地面から離した体勢がスタート。そこから一度も手足を地面につくことなく、石の上に両足で立てばゴールです。

コツは、写真の王鞍さんのように、ヒールフックと重心移動によって繊細にコントロールし、石を転がさないように立ち上がること。体の柔軟性と瞬間的なパワーも必要です。こんなに小さな石でも、ボルダリング本来の醍醐味と本質がぎっしり詰まっていることに驚かされました。

この日のBチームの成果は、クジラ岩周辺から水晶スラブにかけて、逆Jの字に広がる全25課題。「グレードは抑えめで、リーチに関係なく子どもでも楽しめる多彩なライン。その名も『バナナサーキット』」が完成しました。

絵心のある王鞍さんが、その場で描き上げたサーキットマップにも注目です。

クライミング・イズ・フリーダム

最後に訪れたCチームでは、いよいよこの日の最終盤。各々が思い思いに課題を開拓し、最後に集まって発表し合うという場面でした。

セッションから生まれた課題もあれば、参加者が独自に見いだしたラインもある。その遊び心の斬新さと、バリエーションの豊かさは、3つのグループのなかでもひときわ際立っていたように感じました。

そんなユニークな成果のなかから、代表作(?)を二つほどご紹介しましょう。まさに「自由なクライミング」を具現化したような、渾身の2作です。

頭を外に出し、岩の隙間にすっぽり体を収めたこの体勢。いったい何をしているのかと思いきや、実はこれが最初のムーブです。隙間上方のクラックに両足を差し込むフットジャムで体を支え、全身が地面から浮き上がった状態になっています。

続いて、岩の隙間に両腕を突っ込み、グリグリ、ズリズリと体を押し上げながら、狭い隙間を抜け出すように上へと進んでいきます。

岩と体とのフリクションによって前進する登り方は、いわゆるワイドクラック・スタイル。チームのまとめ役であり、ワイドクラックマスターとして知られる北平さん(赤いジャケット)も、この課題には大受けでした。

ちなみに、この課題を見つけて初登したのは、オレンジのTシャツを着たボビーさん。その柔軟な発想には、思わず感心させられます。課題名は「カプセルホテル」だそうです。

立木を使ってもいいんですか? いいんです。「カプセルホテル」のゴールは、岩の隙間から抜け出した後、最後は立木でマントリングを返して立ち上がるというもの。写真は、この課題を嬉々として再登した北平さんです。

続いて、これまた摩訶不思議な体勢です。いったいどんなクライミングなのでしょうか。

答えは、次の動画をご覧下さい。

見事に完登したのは、ゲストクライマーの柴沼さん。課題名は、見たままの「逆上がり」です。

Cチーム全員集合。ちなみに、前列右の女性はゲストクライマーで、元スポーツクライミング日本代表の尾上彩さんです。

その瞬間を分かち合いたい

18時半からは夜の部のスタートです。ゲストクライマーによるトークショーに続いて行われたのは、各チームからのプレゼンテーションです。

この日、それぞれが設定したボルダリング・サーキットの魅力やチャレンジ性を、思い思いにアピールしていきます。

そして、参加者全員による投票へ。それは、明日はどのサーキットに参加したいかという意思表示でもあります。

2日目の朝は、新たなチームでの行動がスタートします。前夜の投票ではやや人気に偏りが見られましたが、朝の再投票の結果、3つのチームにほぼ均等に参加者が分かれていました。

前夜は熱く盛り上がりすぎた人も、一夜明けて少し冷静になった、ということかもしれません。

ボルダリングの魅力のひとつは、セッションの楽しさにある。そう感じさせられました。

誰にも邪魔されず、ひとり黙々と課題と向き合う。それもまた、ボルダリングの醍醐味です。けれど、仲間とひとつの課題に取り組めるのも、ボルダリングならではの魅力でしょう。

同じ課題に挑戦しても、登り方はひとつではありません。リーチや柔軟性といった身体的な強みを生かす人もいれば、不得意な部分をどう克服するかに挑む人もいる。そうした一人ひとりの個性が、目の前で次々と形になっていきます。

最後の一手に苦しめば、「行ける!」「ガンバ!」と声が飛び、そこを乗り越えて完登すれば、歓声が上がって笑顔が弾けます。

ひとりのクライミングが、いつの間にかみんなのものになっていく。その瞬間を分かち合ってしまったら、もう後戻りはできません。

親子で参加された方も二組いらっしゃいました。こうしたイベントに小さなお子さんを連れてくるという決断は、きっと大きな勇気が必要だったはずです。それでも、子どもたちが自分なりに挑戦していく姿は、かけがえのない時間になっていたように感じられました。

クライミングを語り合うことで生まれるもの

2日目は午前中でクライミングを切り上げ、午後からは最後のディスカッションが行われました。テーマは「これからのクライマーと自然のコミュニティ」です。

取材前に「ディスカッションの時間がある」と知らされたとき、正直なところ少し疑問もありました。ボルダリングを楽しむために岩場に集まったはずなのに、ちょっとお堅いテーマで話し合う必要があるのだろうか。そう感じる人もいるのではないかと思ったのです。

ところが、実際に目の前で展開されていたのは、誰もが積極的に言葉を交わす光景でした。イベント開始直後、クライミングの合間、1日の終わりにと、何度もディスカッションを重ねた結果、参加者同士の距離が加速度的に縮まっていく。その様子がとても印象的でした。

このイベントの取材を終えて感じたことは多々ありますが、大きく2点をご紹介します。

ひとつは、やはりクライミングは自由だということ。昔からクライミングと自由は切っても切り離せない関係といわれてきました。けれど、実際はどうでしょうか。

有名な人気課題には順番待ちの列が途切れない一方で、SNSや動画サイトに取り上げられることのないボルダーは、休日でも閑散としています。私たちは、本当に自由な発想でクライミングを楽んでいるのでしょうか。

同じことは、夏山登山にも当てはまるように思います。有名山域や、地図アプリ・登山記録サイトで人気のコースに人が集中する一方で、それは登山のほんの一側面に過ぎません。はたして、有名コースをなぞることだけが登山なのでしょうか。

今回のイベントでは、あえて既存の課題(ルート)にとらわれないことで、参加者たちはこれまでにない視点を獲得したはずです。小さな岩でも、いかに充実したクライミングを楽しめるか。そのために、自由な視点と柔軟な発想を働かせること。そんな“遊び上手なクライマー”への一歩を踏み出したのだと思います。

もう一点は、クライマー同士のコミュニケーションの大切さです。最後の発表会で、ある参加者がこんな言葉を口にしていたのが強く印象に残っています。

「今はSNSで誰でも気軽に発信できる時代ですが、やはり、こうしたフィジカルな場で話し合う機会は大切だと思います。
相手の意見に耳を傾け、自分の言葉で発信する。それは現代において意味のあることだと感じました」

発表の場では、多くの参加者が自らの思いを語っていました。どうやってクライミングと出会い、どう夢中になり、そして、どう継続させてきたのか。そのなかで感じている、ジムや岩場の現実や悩み、自分たちが愛するクライミングコミュニティの将来……。

一人ひとりが、クライミングに対してさまざまな思いを抱えながら向き合っている。そんな現実が、リアルな熱量をもって伝わってきます。

そして、普段は寡黙そうな人や、人前で話すのが得意ではなさそうな人が、唇を震わせながらも真摯に自分の思いを伝えようとしている。それは実に感動的なシーンでした。

SNSとは違い、そこで交わされる言葉の多くはポジティブで、「一緒に考えようよ」という空気に満ちていました。これこそが、クライミングコミュニティの理想的なあり方なのかもしれません。

さて、百聞は一見にしかず。このレポートを読んで少しでも気になった方は、ぜひ来年の開催時に参加されることをお勧めします。どんな熱いディスカッションが行われたのか。身をもって体験いただければと思います。

「レベルや経験を問わず、クライミングを愛する方ならどなたでも大歓迎」——その言葉に、偽りはありませんから。

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