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ハイクと焚き火の日々~最高のルーティンが続く~

第2回

ヨセミテのトレイルを歩く旅。
見せ場が多すぎて、なかなか前に進めない。美しい針葉樹林歩き、クラシックなハイカーとの出会いなど、旅の2日目を見ていこう。

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夜の間、テントの外に出しっぱなしにしていたバックパックに薄く氷が付いている。

今回歩くルートは、基本的に2000m超えの道を歩く。10月ともなれば当然、寒い。日中はTシャツ1枚でも歩けるけど、夜になると10月初旬の北アルプスくらいの気温だ。

2日目は、グレンオウレンを経由してトゥオルミメドウズを超えていく予定で、約18kmの行程。
日本の山だったら、18km歩くとなったら相当にハードだ。でもヨセミテは基本的にアップダウンが少ないので、時速3kmくらいで歩ける。
行動時間は6時間で済むはずだ。

テントを撤収して、ずっしりと重いバックパックを背負って歩き出す。
日本を出発する際に量ったときは水を抜いて約15kg。セクションハイクだから特にウルトラライト(UL)である必要性は感じないんだけど、スルーハイクの場合、ジョン・ミューア・トレイルでも1ヶ月、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)にいたっては半年もの間を歩き続けることになる。

長期間重たい荷物を背負い続けると、体力も気力も奪われ、せっかくの自然を満喫できないかもしれない。
スルーハイカーの間でULスタイルが生まれたのも納得できる。

木漏れ日を浴びながら美しい森を歩く

木漏れ日が美しいシングルトラックの中を歩いて行く。松脂とタンニンの植物由来の香りが自然の眠気覚ましだ。

ちょっと歩くと、また美しい湖につく。
あれ、こっちに泊まれば良かったか? と思ったりするんだけど、これはヨセミテあるある。だから休憩も、疲れたからというよりは、良いところがあったら取るようにする。でも見せ場がありすぎて、ついつい休憩時間が長くなるのが玉に瑕と言えなくもない。

この日は森歩きがメインだ。
針葉樹の森なのに不思議と明るい。くわえて森歩き特有の単調さを感じないのは樹種が多いせいだろう。
このあたりの標高帯にはシュガーパイン、ジェフリーパインといった松を中心に、レッドファーというモミの仲間やヘムロックというツガ類もいる。
日当たりが良いから下草たちも元気いっぱいで、鬱蒼という言葉は似合わない。おたがい切磋琢磨している感じで、強い生命力を感じる。松脂のスーッとした良い香りが眠気覚ましにはピッタリだ。

匂い、というのは記憶に結びつきやすいようで、この香りを嗅ぐと「あぁ、ヨセミテに来たのだな」と思ったりもする。

つい1時間前までは白い岩に囲まれた世界を歩いていたのに、景色が目まぐるしく変わって行く。このルートを選んだ理由のひとつも、それだった。ヨセミテが持つさまざま表情を一気に楽しむためだ。

途中で出会ったハイカーのおじさん。コットンシャツにチノパン、ハットというクラシカルな出で立ちは、まるでタイムスリップしてきたかのよう。憧れる。

何度かの渡渉を繰り返して森を歩いて行くと、木の下になにかの気配を感じてハッとする。

まさか熊か!と思ったら休憩中のハイカーだ。

大木を背もたれにして、日向の中で気持ち良さそうにしている。コリン・フレッチャーの名著「遊歩大全」にでも出てきそうなクラシカルな雰囲気でとても絵になっている。
写真を撮らせてほしいとお願いすると「オッケー。モデルみたいに止まっとくな」とおじさんがキメ顔をする。その声も予想を裏切らず、ものすごく渋い。

グレンオウレンに辿り着くと、そこに小さな張り紙が。なんとトゥオルミメドウズの周辺4マイルは植生保護のためキャンプ禁止だという。さてどうしたものか。

ヨセミテのルールと自由

暖が取れるのもうれしいんだけど、はるか昔の旅人もきっと同じように旅をしていたと想像するとちょっとゾクゾクする。

ならばと計画変更。川沿いを北上するとすぐに絶好のキャンプ地が見つかる。しかもファイヤーサークルもある。しめしめ。

ヨセミテのハイキングでは焚き火が出来るのだ。
日本の登山との最大の違いはここかもしれない。日頃からなにかと理由を付けては焚き火をしにいく僕にとって、ハイキングと焚き火の組み合わせは、なににも代えがたい魅力だ。

とうぜん焚き火に関してもしっかりしたルールがある。
・標高は2900m以下であること
・ファイヤーサークルはすでにあるものを使い、新しく作るのはNG
・ゴミを燃やさないこと
などだ。

季節は秋だから水量は夏に比べると少ない。けれど、こんな美しい川がいたるところにあるので、水の補給に困ることはない。

ヨセミテハイクでは、キャンプ地に着いたらまず薪集め。そして浄水だ。
ヨセミテの水は北海道同様、エキノコックスという寄生虫の恐れがあるため、そのまま飲むのは危険なのだ。

それだけでなく、万が一水に当たりでもして悶絶するなんていうのはごめんだし、これだけ深い自然の中で動けなくなるということは、命の危険にも直結してくる。

今回持っていった浄水器は2種類。ひとつはソフトフラスクのキャップ部分にフィルターが入っているもので、これは行動中にサクッと水を汲むときに重宝する。もうひとつはプラティパスなどに装着して使うタイプ。絞り出すこともできるんだけど、量があるとけっこうしんどい。

だからキャンプ地にある木や岩などを利用する。高いところに引っ掛ければ、重力を利用した自動浄水装置の出来上がりだ。

中央のデカいやつがベアキャニスター。寝る前は匂いのするものをすべて収め、テントから100mほど離れた風下側に隔離。熊が転がせないように岩などでガッチリ固定する。

ほかの必携装備としてはベアキャニスターというものがある。これは熊対策のための樹脂製の円筒型ケースで、ヨセミテのウィルダネスに入るすべてのハイカーが所持することを義務づけられている。

食糧はもちろん、ゴミや虫よけ、化粧品などちょっとでも匂いのするものは、寝る前にすべてここに収めて、テントから離れた場所に隠しておく。

熊に食糧を奪われてしまうと、「人間=美味しい物持ってる」となる。ヨセミテでは、それが原因で人が熊に襲われる事件も過去にあった。人にとっても熊にとっても悲しいことだ。
とにかく頑丈に作ってあるからめちゃくちゃ重たい。熊ちゃんのためとはいえ、他に使い道がないのも悔しいから、僕はキャンプ地の椅子として活用している。

もちろん排便にもルールがある。
水場から30m以上離れた場所で、最低でも20cm掘って埋めなければならない。だから小型のスコップも必須。もちろんトレイルのすぐ脇でするなんて、ルール的にもモラル的にもNGだ。

ちょっとルールが多い?でもルールをしっかり明確化することで、ある程度の自由をくれるのは、アメリカという国の良い所だと思う。

もう、なにもかもキラキラしていたヨセミテガールたち。若いって良いねぇ。

疲れた足をアイシングしようと思い、近くのトロ場まで戻ると、青春しかない集団に遭遇してしまった。

男の子たちはフライロッドを振るい、その横では、あろうことかアメリカンギャルたちが下着のみというアラレモナイ姿になって水浴びをしているではないか。

素早く濃いめのサングラスを装着し、プロテクトを計る。別にいやらしい目をしていたわけじゃない。いろんな意味で眩しかっただけだ。

Text:Takashi Sakurai
Photo:Hinano Kimoto
Edit:Michitaro Osako(YAMA HACK)