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アンダイドとソリューションダイ:染色と水の関係

エピソード 4

登山道具がもつ色は、山で目立つためにも、ファッションとして楽しむためにも、大事な要素のひとつです。今回は、色について注目していきましょう。

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機能と同じくらい山で大事な、色

「自然の中でも目立つ色のウェアを選ぶ」

遭難などで要請した救助隊に、登山者が自分の居場所を知らせる方法として、赤色や黄色、青などの自然の中で目立つ色のウェアを着るのは、万が一の対策として有効な備えです。ある意味、ウェアの色は機能のひとつといってもいいでしょう。

いまでは、登山でもウェアのファッション性が高まり、地球の大地や植物、海などの自然物をイメージしたアースカラーなどもよく着られるようになりました。

しかし、そのウェアの色が環境にインパクトを与えています。生地を色に染めるだけで、水質汚染につながっているのです。

汚れた水が、地球を循環してしまう

染色の工程では、染める前の生地の汚れを洗い落としたり、染めた後の余分な染料や化学薬品を洗い流したりするために、多くの水を必要とします。Tシャツを1枚作るために必要な水の量は、約2,700リットルともいわれています。

油やホコリなどの汚れや、染色のための化学薬品を含んだ水が産業排水として排出されると、川や海、土壌などを汚染し、生態系にも悪影響を及ぼし、公害の原因にもなります。

イタイイタイ病や水俣病などによって規制がきびしくなった日本では産業排水の対策が取られていますが、途上国では適切な処理がされずに排水されていることもあるようです。

そこで、そもそも水をあまり使わない新しい染色方法が確立され、アウトドアメーカーも採用するアイテムを増やしています。

「地球のために、より良い選択を」というモットーを掲げ、きれいな水の重要性をMOUNTAIN HARDWEAR(マウンテンハードウェア)の近藤さんにお話を伺いました。

限りある水を大切にするマウンテンハードウェア

「水は無限にあると思ってしまいますが、飲める水は地球上にわずかしかありません。しかし、生物が生きるためには必要不可欠です」という、マウンテンハードウェアの近藤さん。

蛇口をひねるだけで飲めるほどきれいな水が出てくる日本にいては、水の大切さを実感するのは難しいかもしれません。しかし、世界では4人に1人が汚染された水源を飲料に利用しているといいます。

「水の惑星」といわれる地球の表面の約70%が水に覆われていますが、そのほとんどは海水。淡水の大部分は南極や北極の氷や氷河として存在し、人が利用しやすい河川や湖などで存在する水は、ごくわずかです。

それほど貴重な水を、もの作りの染色で汚染しては持続可能とはいえません。

マウンテンハードウェアでは、染色に大量の水を必要としない新しい染色方法「ソリューションダイ」や「アンダイド」を採用した、やさしい色のアイテムを2018年から展開。

「ソリューションダイ」は、糸でなく、その原料であるプラスチックペレットそのものを染色します。糸や生地にしてから染色する従来の方法と比べて水の使用を89%、化学物質の使用を63%削減。

染色の機械も動かさなくなるため、地球温暖化の原因にもなる二酸化炭素の排出も60%減らすことができます。

原料を着色しているため、色が安定して色落ちしにくく、長く使えることも環境にやさしいポイントです。

環境にやさしい染色「ソリューションダイ」

Trail Verse GORE-TEX Jacket(トレイルバースゴアテックスジャケット)は、「ソリューションダイ」を採用した裏地を使用した3レイヤーの防水ジャケットです。

すっきりとしたシルエットは、登山だけではなく街中でも活躍する1着。

染色だけではなく、環境配慮の技術が惜しみなく注ぎ込まれています。GORE-TEXが新開発したPFC(フッ素化合物)フリーの防水透湿メンブレンを採用し、表地にはPFCフリーの撥水性が施されています。

環境負荷の高いフッ素化合物でできた素材なども使わず、とことん環境にやさしいもの作りでできたアウターシェルです。

課題は、コスト増や廃棄生地の懸念

環境にはいいこと尽くめの「ソリューションダイ」にも、課題があります。新しい染色方法を実現するための新たな設備投資や、あまり多く作れないことなどによって、生産コストが上がること。

また、染色済みの生地は他のアイテムへの応用がしにくいため、生地在庫のリスクや廃棄生地の増加につながってしまいます。そのため、先ほどのトレイルバースゴアテックスジャケットは、裏地に「ソリューションダイ」の生地を採用しています。

わたしたちが環境にやさしい色を選択することで、いずれは表地にも「ソリューションダイ」の生地を採用できるようになり、水をあまり使わない新しい染色方法のアイテムも増やしていけると、水の汚染も防ぐことができます。

水をほとんど使わない無染色の「アンダイド」

水をなるべく使わない染色方法はソリューションダイだけではなく、「アンダイド」というものもあります。染色をいっさいせず、素材そのものがもつ美しい色をそのまま活かすのが「アンダイド」です。染色のための水も化学物質もエネルギーも使わない、環境にやさしい色を追求したもの作りです。

マウンテンハードウェアでは、テント、スリーピングバッグ、バックパックなどのギアに「アンダイド」を採用しています。

Alpine Light 50(アルパインライト50)は、見た目にインパクトのある「アンダイド」のバックパックです。アックスホルダーに使用しているコードは、工場で余っている資材を再利用して、廃棄を削減しています。

「アンダイド」は、色を染めていない透明な糸が集まって生地になっているため、すべて白色になります。白色以外にはできないため、アイテムに色によるデザイン性を持たせにくいという、悩みもあるようです。

そのため、アルパインライト50はデザインにも注力。ボディには200Dナイロンリップストップ生地を、ボトムにはX-PAC生地を採用し、タフさとシンプルさを追求。アルパインクライミングだけではなく、雨蓋やウエストハーネスを取り外して軽量化もできるため、ウルトラライトハイクにも活躍するバックパックです。

近藤さん「アンダイドのアイテムは汚れを気にする方がいますが、メンテナンスをしていただければ大丈夫です。」

汚れた箇所を固く絞ったタオルで叩くと、ある程度は汚れが落ちます。ただ、気になってしまうのは汚れだけではありません。紫外線などで、黄変してしまうこともあるようです。

しかし、黄変や少しの汚れも使い込んだからこその証でもあります。メンテナンスしながら、長く大事に使ってきたアイテムは、きっと味わい深い自分だけのバックパックになります。

もの作りだけではなく、貴重で限りある水を重要視している株式会社コロンビアスポーツウェアジャパン(マウンテンハードウェアの親会社)は、世界の恵まれない地域にきれいな水を提供するPlanet Water Foundationとパートナーシップを結んでいます。

ベトナムやバングラデシュなどの水が貧困な地区に、清潔で安全な水を提供できるプラネットウォータータワーを建設するプロジェクトに参加。ただ作って終わりではなく、水と衛生に関する知識をその地域の住民に教え、地域全体を巻き込んで、行動していくことで、その地区の下痢の発生率を80%も減少させてもいます。

近藤さん「目の前のもの作りだけでは持続可能になりません。染色などの工場がある地域の人たちの水環境をきれいにすることも含めて、本当の持続可能なもの作りだと考えています。」

ファッションや安全視点に、環境視点もプラスしよう

山で目立つためやコーディネートを楽しむために、登山に使うアイテムに色は欠かせません。しかし、その色に染めることで、きれいな水にインパクトを与えていました。

水が豊かな日本にいると実感しにくいことですが、見て見ぬふりはできません。きれいで飲める水は地球の限りある資源だからです。

見た目や機能だけではなく、どうやって作られているのかにも目を向けてみましょう。

産業排水を垂れ流し、二酸化炭素をたくさん排出して製造された物ではなく、より環境に配慮されたもの作りをしているアイテムを選びましょう。

アウトドアショップなどの店頭では、もの作りの工程まで知ることはできませんが、WEBサイトなどで発信しているアウトドアメーカーもあります。どうやって作られているのかを知ることで愛着も深まります。

アイテムの色を考えるときには、より環境にいい工程のもの作りをしているアイテムを選ぶことを検討してみてください。ひとりひとりでは小さな一歩ですが、その一歩が多く集まれば、環境にやさしいもの作りの技術を高めることになります。

文: 大堀 啓太
写真: 後藤 武久
イラスト: 大西 土夢
編集: 大迫 倫太郎(YAMA HACK)