リサイクル素材:循環させること、長く使うこと
エピソード 3
リサイクルされたポリエステルやナイロンなどを使ったベースレイヤーやアウターシェルなどの山道具は、ひと昔前に比べてよく目に入るようになりました。今回は、環境配慮素材の代表とも言える、リサイクル素材に注目しましょう。
新たな素材のもの作りは環境にインパクト
多くのアウトドアウェアに使用されている素材はポリエステルやナイロンなどの化学繊維。吸汗速乾性や撥水性などの機能を備えることができ、軽量で耐久性も高いため、登山などのフィールドで欠かせません。
しかし、ポリエステルやナイロンは石油由来素材のため、採掘にともなう原油流出や廃棄物の発生、温室効果ガスの排出が問題視されています。つまり、天然資源を原材料にしたバージン素材を新しく作ることは、環境にインパクトを与えてしまいます。
さらに、【 作る → 使う → 捨てる 】という物の流れも、環境へのインパクトや限りある資源の活用方法として、疑問視されていました。
持続可能な循環型のもの作り
そこで注目され始めているのが、サーキュラーエコノミーというシステム。原料の調達段階からリサイクルすることを前提とし、できるだけ新たな材料を投入しないで循環させます。
リサイクル素材を使ったものは、新たな材料で作られているものよりは環境に配慮していると言えますが、それだけで満足してはいけません。
大切なのは廃棄物を出さないで、どのように再利用し、どう循環させていくのかという視点と仕組みです。そこで、サーキュラーエコノミーの輪を健全に回すもの作りを目指しているpatagonia(パタゴニア)の桑原さんにお話を伺いました。
これ以上ゴミを増やさないパタゴニア
「そもそも新しい製品をつくる必要があるのか。そこからもの作りを考えています」という、パタゴニアの桑原さん。
これまでの大量生産・大量消費では多くのゴミが排出され、環境には大きなインパクトがありました。
パタゴニアでは、石油由来の素材を過剰に新しく作らないようにすることはもちろん、これ以上ゴミを出さないように、循環するものづくりをしています。リサイクルナイロン素材「ネットプラス」はその取り組みのひとつです。
廃棄されていた漁網を回収して循環の輪へ
「ネットプラス」は、南米の漁業コミュニティから回収された使用済みの漁網を100%再利用して、プラスチックの海洋汚染とバージン素材製造による環境インパクトの2つの問題を軽減している素材です。
南米では使い古された漁網は他に選択肢がないために海にそのまま廃棄され、海洋プラスチックゴミとなり、海洋生物に多大な被害を与えています。3人のサーファーがこの問題を改善するべく、廃棄漁網を回収するブレオ社を2013年に立ち上げたことが始まりのきっかけとなりました。
彼らの活動を知ったパタゴニアが、環境保護の貢献をバックアップするために資金提供と活用アイデアを提案。さらに、高い技術力で素材を開発する豊田通商とも連携することで、廃棄されるはずだった漁網を再利用したリサイクルナイロン「ネットプラス」が製造されるようになりました。
patagoniaではじめて「ネットプラス」を採用したのは帽子のつばでした。ウェアの素材として採用するには硬いという課題があったためです。
より多くの人に廃棄漁網の問題と「ネットプラス」を知ってもらうために、ブレオ社や豊田通商と緊密に取り組んで、漁網をウェアにも採用できるように開発。やわらかで高品質な糸は、バギーズショーツをはじめ多くのウェアに採用されました。
そのままではゴミになっていたものを、循環の輪に戻すことができるようになったのです。
パタゴニアのレインウェアを代表するグラナイト・クレスト・ジェケットにも「ネットプラス」が採用されています。撥水加工はもちろんPFCフリーで環境に配慮。
ラボとアウトドアフィールドの両方で防水性、透湿性、撥水性、長期的な耐久性を厳密にテストしているため、たとえリサイクル素材でも機能が劣ることはありません。
ただし、高い機能を維持するためにはメンテナンスが大切です。汗をかいたり、雨に打たれたりした場合には、必ず洗濯をして皮脂や汚れを落としましょう。
ジャケットの内側には、メンテナンスの大切さを伝えるメッセージがプリントされています。アウトドアフィールドで長く使うためにも、このメッセージをみて思い出してください。
リサイクル素材だからといって大量には作らない
パタゴニアではリサイクル素材の製品でも生産量を決めています。それは、売るための製品を無駄に作らず、廃棄される製品や製造工程のゴミをできるだけ少なくするためです。
桑原さん「新しい製品が欲しくなった時、本当に買う必要があるのか考える機会となってほしいです。今使用しているものがありまだ使えるようであれば、そちらを大切に使ってください。そのために、私たちも修理対応やメンテナンスのご案内に力を入れています」
ものを大事にする日本人の心
新しいアウトドアウェアが発売されると、ついついその機能を試したくなってしまいます。ですが、衝動に任せて買う前に、いったん立ち止まって考えてみましょう。
少しでも機能のいいものに買い替えたり、まだ使えるのに汚いからと捨ててしまったりと、必要以上に買ってはゴミを増やしていました。ものが溢れる豊かな大量生産・大量消費の悪い半面です。
私たち日本人には、ものを大事にする文化があります。
手に入れたものは大切に手入れしながら使う。使えなくなったものは修理して再生する。まだ使えそうな人にお下がりとしてあげる。ものが少なかった時代背景もあるかもしれませんが、ものを大事にする心はしっかりと根付いているはずです。
環境に配慮できる一番身近なアクションは、いまあるものを大切に長く使うこと。
ものを新しく買う場合には本当に必要なものかしっかり考えて、リサイクル素材の製品なども検討してください。
文: 大堀 啓太
写真: 後藤 武久
イラスト: 大西 土夢
編集: 大迫 倫太郎(YAMA HACK)