マイクロプラスチック:素材とアクションの選択

エピソード 2

寒さから体を守りながら快適に行動できるフリースは、寒い時期の登山には必要な行動保温着です。今回は、やわらかくて快適な着心地のフリースの保温性と通気性をもたらす起毛生地に注目しましょう。

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保温性の代償。フリースの目に見えないインパクト

行動中でも着用できる保温着の定番フリース。暑すぎず寒すぎずのちょうどいい温度をキープして、登山者のアクティブな行動をサポートしてきました。

フリースが主流になる以前は、ウール素材のセーターが登山者に好まれていましたが、重く乾きにくいという弱点が。より安全で快適な中間着が追求され、ポリエステルを起毛させたフリースが誕生。

しかし、このフリースも完璧ではありません。あたたかさと快適さをもたらすこの起毛が「マイクロプラスチック」として流失して、海洋汚染につながることが分かったのです。

海がマイクロプラスチックで埋め尽くされる!?

マイクロプラスチックの海洋環境へのインパクトはどのようなものでしょうか。

マイクロプラスチックは、直径5mm以下のプラスチックごみのこと。化繊ウェアから繊維が抜け落ちたものもそのひとつで、フリースは非常に多くのマイクロプラスチックが発生すると報告されています。

自然環境では分解されず、有害物質を吸着しやすい性質。非常に小さいため回収するのは困難で、近い将来魚の数より多くなるともいわれています。

有害物質に汚染されたマイクロプラスチックを餌として食べてしまう魚も多く、体内に蓄積して死んでしまうことも。そして、マイクロプラスチックで汚染された魚を人間が食べてしまう影響も懸念されています。

そのため、アウトドアメーカーはマイクロプラスチック対策の素材を開発して、登山アイテムに採用する選択をはじめました。

では、ユーザーである私たちには、どのような選択肢があるのでしょうか。環境配慮型アウトドアブランドとして、環境負荷の少ない素材へ置き換えたもの作りをするSTATIC(スタティック)の田中さんにお話を伺いました。

環境負荷の少ない選択肢を増やし続けているSTATIC

「既存のアウトドアアイテムをエコ化する。より環境負荷の少ない素材に置き換えていく」という、STATICの田中さん。

アパレル製造はゴミ排出業といえるほど、製造工程では大量の裁断ゴミが排出され、使われなくなったウェアは毎年大量に焼却や埋め立て処分されています。さらに、一般的なアパレル製造では、二酸化炭素を多く排出するため、環境へ大きな負荷も課題です。

そして製造工程だけではなく、洗濯するたびに環境負荷を与えているのがマイクロプラスチックの恐ろしいところです。

STATICでは、ウールや植物由来の素材などの環境負荷の少ない素材も採用しながら、原料を使いまわす半永久的な循環型のもの作りをしています。

残念ながらいまの技術ではリサイクルできない素材も、割いて芯にしたものを織り込んでランチョンマットにするなど、“捨てないアパレル”を目指しています。

しかし、捨てないアパレルを徹底しながらも、どうしても排出されてしまうのがマイクロプラスチックです。

マイクロプラスチック対策は大きく2つ。「抜け落ちにくい生地構造」か「自然で分解されやすい素材」を採用することで、STATICが選択したのは、「自然で分解されやすい素材」を採用することでした。

そうしてできたのが、天然由来の「ユーカリ」を素材にして作られたMT TO SEA HOODYです。

MT TO SEA HOODYの速乾性は一般的なポリエステル製より劣りますが、日帰りハイキングやボルダリング、普段着まで幅広く活躍する必要十分な機能を備えた中厚手のフリース。

従来のポリエステル比較して、マイナスな面だけではありません。肌面に採用したユーカリ由来の素材「テンセルⓇ」は、肌当たりがとても柔らかく、気持ち良い着心地。一定の条件下においては、海水での生分解性が証明されています。

さらに、自然由来のテンセルⓇは有害物質を使用せず、製造時に必要な少量の水も全て工場内でリユースできる、始めから終わりまで自然にやさしい素材です。

捨てるか、リサイクルか

STATICが提案するのは、自然にやさしいアイテムだけではありません。山で着たおしたフリースを再生させるプロジェクト「ByeHello」という取り組みもしています(現在は終了。今後も実施予定)。

「ByeHello」は愛用していたフリースの汚れを落として、ジッパーやタグなどは自分の手でカット。そうすることで「再生できるもの」と「再生できないもの」に分けて回収に出すという取り組み。

田中さん「着なくなったウェアを目の前からただ見えなくするだけではなく、自分が着ているウェアについて考えてもらえる機会にもなっている。どんな風に作られているのか、まだ使えそうな状態なのか、リサイクルできる量はどれくらいなのかとか。これからも続けていきたい取り組みです」

もう着ないウェアを捨てるのではなく、再生させるという選択肢。ごみも減り、焼却処分や新たに製造するときの二酸化炭素も削減できる、自然にやさしいアクションです。

考え、そして選択しよう

今回は保温性をもたらす起毛生地とフリースに注目してみました。これまでのフリースでは、知らず知らずに自然へ大きなインパクトを与えていました。しかし、目に見えないからといってそのままにするわけにはいきません。

大切なのは「なにを選択するか」ということ。

マイクロプラスチックが流失しにくい生地を使ったウェアを着る。流失しても自然で分解される素材を使ったウェアを選択する。ByeHello」のようなリサイクルプロジェクトに参加したり、ウェアの回収ボックスを利用する。洗濯時にはマイクロプラスチックの流出を防ぐ洗濯ネットを使う、など私たちが選べる自然に優しい選択肢は今でもたくさんあります。

マイクロプラスチック対策をしているアウトドアウェアはたくさんあり、アウトドアメーカーも説明しています。選択するための知識として、メーカーWEBサイトもチェックしてみましょう。

選択次第で環境負荷は大きく変わります。できることから自然にやさしいアクションを始めてください。

文: 大堀 啓太
写真: 後藤 武久
イラスト: 大西 土夢
編集: 大迫 倫太郎(YAMA HACK)