檀上 曜さんとシェルジャケット
第2回
自然と対峙する登山という行為を支えてくれる山道具。それらは優れた実用性と機能性を兼ね備え、日々進化し、今日も登山者の心を豊かにしてくれている。ここではそんな山道具と人との関係性に注目し、誰かの日常に欠かせないものとなっている山道具を取り上げて紹介していく。
山でも街でも、自分らしくいられるものを選ぶこと
外苑前の「ドワネル」にてスタイリング商品のピックアップ
「山の服を選ぶときに、機能性が第一なのはもちろんですが、身につけたときの心地よさを大切にしたいのと、自分に似合うかどうかよく考えます。普段の洋服を選ぶ感覚から逸脱しないようにしていますね」
スタイリストとして活躍する檀上 曜さんが着ているのは、優れた技術と高いデザイン性で定評のあるアークテリクスのもの。山用のシェルジャケットだと言われないと気がつかないほどすっきりとした佇まいで、スタイルにとても自然に似合っている。
「選んだ理由としては、普段の自分のワードローブに合ってくれる、グレーがかったニュアンスのある色であったこと。また、今っぽいバックにかけて長くなっているデザインで、街でも山でも着やすいと感じたことです。レディース特有の少しシェイプされたシルエットですが、あえて上のサイズを選ぶと気にならなくなりました」
日本の美しい伝統色にも通じる、微妙な色合い。四十八茶百鼠の一色のよう
山のウェアを選んでいて、ついつい普段では着ないような派手な色を手にすることがあるかもしれない。そんなとき、山に行くならこういう感じの色、という勝手なイメージだけが先行し過ぎてはいないだろうか。
「着ていて自分らしくいられるようなものを選びたいなと思います。また、優しい色彩の自然の中で、強い色のアイテムで固めると、少し居心地の悪さを感じてしまうのかもしれません。穏やかな色の装いだと、自分も自然に溶け込めているようで落ち着きます」
もちろん悪天候などで視界の悪い中でも目立つという理由で、鮮やかな色が選ばれることもある。しかし登山に多様なスタイルが生まれてくるなかで、色に対する考え方にも変化があり、選択肢もかなり増えたはずだ。
アークテリクスも独特な感性で、近年の山のウェアに見られる配色の美しさを牽引してきたブランドのひとつだ。趣のあるカラーリングは、日本人の微妙な色彩感覚にも通じるところがある。
檀上さんが選んだシェルジャケットは、まるで江戸時代の染色のような風情のある、ほんのりと藤色を帯びた淡いねずみ色をしている。自然にとけ込み、主張しすぎずにお洒落を楽しみたい。そんな奥ゆかしい気持ちが伝わるような色だ。
歩いているだけで、気持ちが満たされる
素敵なお店を訪ねるときは、自然と足どりも軽くなる
普段着として山の服を着ることはあまりないという檀上さんだが、スタイリストという仕事柄、撮影の現場やリースなどでの慌ただしい移動の際には、邪魔にならずに携帯できるシェルジャケットが重宝するという。
「地図アプリで調べて、時間的に間に合いそうな時はわざわざ電車にのらなくてもいいか、と思ってしまい、小一時間くらいつい歩いてしまうことも。気持ち良さそうな川沿いや緑のある道を歩けそうだったりするとなおさらです」
時間の問題がないなら歩いてしまおう。少々の距離を歩くことくらい苦にならずむしろご機嫌、というのは、山登りが好きな人たちにとって共通の感覚なのではないだろうか。
お気に入りのシェルジャケットを持ち歩いていれば、途中で肌寒かったり、小雨が降ってきても大丈夫。機能的というだけでなく、デザインもしっかりと好みのものを選んでおけば、より一層気持ちも満たされる。
さらにリース用の大きなバッグも撥水性のあるものを使っている。山と同じようにこうした準備があれば、仕事の途中にささやかな旅を見つけることだってできるのだ。
大好きな山との、ちょうど良い関係を
さりげない飾り気を感じる檀上さんの山道具
頻繁に山に行っている印象がなくてもなぜか、山登りが大好きなのだなと感じさせる人がいる。そういった人たちに共通するのは、山や自然に対する謙虚な姿勢だ。
檀上さんはもしものことを考え、ひとりで山に行くことはないという。それに山で得る感動を誰かと分かち合いたいという思いも強いようだ。
「最近は仲間との調整が難しくてなかなか山に行けないのですが、少しでも自然のなかに行きたくて。そんな目的でする旅行も好きです。でもやっぱり、山に行きたいですね」
いつも癒してくれる自然に対して、いつもお邪魔しますという気持ち。自分らしさを大切にしつつ、無理はせずに控えめに。檀上さんと山との関係は心地よく、優しい距離感を保ってこれからも続いていくに違いない。
北アルプス三俣山荘と鷲羽岳(撮影:檀上 曜)

檀上 曜 Yo Danjo
スタイリスト。雑誌、カタログ、広告等にて、ファッション、インテリア、テーブル、フラワーのスタイリングを手がける。趣味は旅と、自然と関わること。
web site: https://www.yo-danjo.com/
special thanks to: doinel(ドワネル) tel.03-3470-5007 https://doinel.net
text: Tomoya Arai
photo: Misa Nakagaki
edit: Rie Muraoka(YAMA HACK)