夏こそ最高!忘れられない絶景!僕が愛する「島登山」(伊豆諸島編)
第5回
日本にはいくつの島があるか、ご存じでしょうか? 国土交通省が公開している資料(令和7年4月1日時点)によると、その数、なんと14,125!そのなかで人が住んでいる島は417です。それぞれの島に“最高地点”があり、そのほとんどは当然ながら山。せっかく日本に住んでいるのなら、そんな島々にある山に登らねば、もったいない!そこで今回は「お勧めの離島の山」を伊豆諸島からご紹介します!
すべて「品川」ナンバーのクルマが走る“東京都”の島!
僕は山岳/アウトドアライターなる肩書で仕事をしていて、業務上いくつかのキーワードというかテーマを意識しながら執筆活動をしている。例えば「テント泊」、「ソロ山行」、「北アルプス」といったものだが、そのなかでも意外と重要なのが、僕が愛する“島登山”だ。これまでに利尻島の利尻山や屋久島の宮之浦岳などの大メジャーな場所はもちろんのこと、登山道すらない小高い丘のようなものまで、ヤブをかき分けて登り続けてきた。
島というからには海に囲まれているわけで、青い海を眺めながら歩く気持ちよさはいうまでもなく抜群だ。だが、それ以上に島登山には不思議な“異世界”を感じさせる要素がゴロゴロとあり、その非日常な感覚が僕にはたまらない。いつか僕好みの島の山だけを集めて、「島登山」の本を出版できないかとも想像したりもするが、今の時代は紙の書籍よりもウェブ上にまとめるほうが現実的なのかも。
というわけで、僕のお勧めの島登山をここでご紹介しよう。今回は首都圏から行きやすい「伊豆諸島」の山々。すべて東京都の島なので、走っているクルマは品川ナンバーだ。
登ってよし、眺めてよし。伊豆諸島の島登山“ベスト3”
さて、はじめに僕の個人的“ベスト3”を発表しよう!
山頂部には砂漠!? 神津島の「天上山」
飛行機から空撮した神津島。中央の白い部分が天上山だ
紹介する山に順位をつけるつもりはないのだが、伊豆諸島でNo.1を選ぶとしたら、ここしかない!太平洋の眺望がすばらしい天上山の山頂は572m。だが、この山は山頂に登っただけでは真のすばらしさはわからないのである!
天上山山頂からは集落や港を見下ろすことができ、気持ちいい!
この山は全体が溶岩ドーム。大きな岩が点在する溶岩台地は起伏しながら遠くまで広がり、そのいちばん高い場所が山頂といった感じだ。場所によっては岩が風化してできた白砂が積もっている「表砂漠」 「裏砂漠」と呼ばれる空間が開けている。その景色の見ごたえは、僕には間違いなく山頂以上!天上山は少し時間をかけて砂漠なども歩き回らなければ、せっかく登った意味がないと思うのだ。
天上山の「裏砂漠」。ここが標高500m以上の場所だとはとても思えない
それにしても、この異世界感よ。SF映画のロケ地を日本で探すならば、天上山は第一候補になるのではないか? もっとも、ここは「富士箱根伊豆国立公園」だから、許可は下りないだろうけれど。
山頂付近から表砂漠方面を見た風景は、異世界感たっぷり
テント泊好きの僕は、一度でいいから天上山の砂漠のどこかで野営してみたいと夢想してしまう。あんな場所で星を見ながら一晩明かせたら……。「富士箱根伊豆国立公園」だから、キャンプ禁止なのだけれど。
これがひょっこりひょうたん島の山? 八丈島の「八丈富士」
島の南側、三原山方向から眺めた八丈富士。たしかに富士山っぽい形状だ
上から見ると中央部がくびれた形状の八丈島は、かつてNHKで放映された「ひょっこりひょうたん島」のモデルとして知られる。とはいえ、この日本放送史に残る人形劇の放送は1969年で終了し、僕はリアルタイムで見たことがなく、ピンとはこない。しかし、八丈島がひょうたんのようなユニークな形をしているのは確かなことだ。
赤いウェアの人が小さく見える外輪山。1時間ほどで1周できる
そんな八丈島には主な山が2座あり、北側にあるのが標高854mの八丈富士。中央に爆裂火口があり、その切り立った外輪山をぐるりと歩ける。また、底部が湿地になった爆裂火口内に降りることも可能で、そこから見上げる空は外輪山で円形に切り取られていて、これがなかなかの風景なのだが、あまりに大きすぎて広角レンズでも撮影しきれないのであった。
山頂部の外輪山から見下ろした八丈小島。源為朝がそこで自害したという伝説が残る
ただでさえ異世界感が漂う八丈富士だが、僕がそれ以上に現実離れしていると感じるのは、八丈富士の北側の海にぽっかりと浮かんでいる八丈小島の姿だ。かつて人が住んでいたが、今は無人。しかし標高617mの頂上には登れなくもないらしく、じつは僕が今後いちばん登ってみたい島の山はここだったりする。だれか僕を取材のために八丈小島へ派遣してください!
島登山の大定番! 伊豆大島の「三原山」
西側の展望台からの三原山。標高758mで、冬には雪や霜で真っ白になることも
日本百名山のなかに含まれる利尻山、宮之浦岳ほどでないにしろ、その次くらいにメジャーな島登山のフィールドが、伊豆大島の三原山だろう。なにしろ東京の竹芝桟橋からは高速船で1時間45分。首都圏に住んでいれば、日帰りも可能だ。
上空から見た三原山。下部の集落から一段高い場所を広く占めている
いかにも活火山らしい三原山の魅力は、その広大さだ。登山道が縦横に延び、神津島の天上山よりも大きな“砂漠”を長々と歩くこともできる。ただし、増殖しすぎて問題になっているキョン(小型のシカ科の動物)がやたらに出没したりするから、びっくりしないように!ともあれ、どこを見ても離島とは思えないほど雄大な景色だ。
三原山の爆裂火口。周囲では今でも水蒸気を上げている様子が確認できる
三原山にも大きな外輪山があり、その中央部はどこまでも深い爆裂火口だ。その昔、この火口は自殺の名所で、大島町公式サイトによると、あるときは1年で129人も身投げしたのだとか。湿気が多い海に浮かぶ島だけに、霧が発生して視界を失われやすい山だが、亡霊を追って異世界に入り込まないように注意したいものだ。
いつかは登りたい! 島登山“通好みの3選”
次に紹介するのは、チャンスがあれば訪れてみてほしい3つの島の山である。
まさに日本の秘境! 青ヶ島の「大凸部」
上空からの青ヶ島。典型的な二重式火山の地形だ(出典:海上保安庁ホームページ)
アウトドア好きであれば、この作り物じみた異形の島のことはどこかで見聞きしたことがあるだろう。それが青ヶ島だ。1日に数人しか乗れないヘリコプターか、頻繁に欠航することで有名な定期船でしか向かえず、たとえ島に上陸してもスケジュール通りに帰れるかどうかはわからない。日本でもっともアクセス困難な有人島である。
中央が大凸部。外輪山よりも低く見えるが、標高423mでここが正しく島の最高地点
島の南側には火口を取り囲む大小2つの外輪山。中央の火口丘が歩いて一周できる丸山で、その最高部が大凸部だ。プリンのような形の山が上に向かってストライプ状になっているのには驚くが、これは人工的に植林して生まれた模様。それをはじめて知ったとき、正直なところ、僕は不自然過ぎる風景にがっかりしてしまった。ここはかつて噴火で丸焼けになった場所ではあるが、本来の植生の丸山と大凸部も見てみたいものである。
外輪山内部は耕作地などに利用されているが、定住者は一切いない
いずれにしても青ヶ島は、一度は行ってみる価値がある島だ。船の欠航が比較的少ない夏を狙うか、ヘリコプターの予約を何としてでも確保して、ぜひ上陸してほしい。
島そのものが山。山そのものが島。利島の「宮塚山」
東側から空撮した利島。この記事のトップ画像も同じく利島だ
はじめて利島に旅したとき、どうやら僕は民宿のおばさんに妙な人だと思われたようだ。この島に来るほとんどの人は釣りが目的で、宮塚山に登るだけで釣りはしないという僕は相当珍しいようなのである。たまたま空いていた宿が、もっぱら釣り人相手だったということもあるのだが、それほど宮塚山を登りに来る人は少ないのだろう。
フェリーが発着する港からも宮塚山はよく見える
実際、登山口はわかりにくく、登山道はヤブっぽくて歩きにくい。やっと登った山頂は樹木で覆われていて、まったくおもしろくもない。やはりここはわざわざ登りに行くほどの山ではないのか?
上の写真とは反対に、山頂から見下ろした港。海との標高差は508mだ
しかし、山頂近くには木製のジャングルジムのような展望台へ登ってみると、印象は激変した!そこからの眺めは抜群で、 僕が乗ってきた船が発着する港の眺めも良好だ。広いウッドデッキの展望台には気持ちの良い風が吹き抜け、民宿ではなくここで一晩眠りたくもなる。人口300人少々の小さい島で、そんな好き勝手ができるはずもないのだが。
最高地点はここではない! 式根島の「神引山」
山という存在が感じられないほど、式根島は平たい。その奥には新島も見える
式根島には遊歩道でアプローチできる標高99mの「神引展望台」が島西部にあり、そこが神引山として式根島最高地点だと僕は聞いていた。しかし実際はもっと南のほうに標高109mの佐々木山があり、遊歩道で近くまで行けるようなのだ。それなのに以前の僕は佐々木山のほうが高いことを知らず(島の案内図に載っているわけでもない)、そのすぐ近くまで歩いていたのに写真を撮ることもしていなかった。少し悔しい。
右奥の少しだけ小高い場所が、神引山の山頂だ
とはいえ、神引山は式根島で二番目に高い山で、そこからの青い海の眺望は特筆すべきもの!さすが「神引山」ではなく「神引展望台」という名前で地図に掲載されているだけはある。登山という感覚はまったくないのだが、それもまた島登山ではよくあることだ。
神曳山の山頂からの景色は最高!標高が低いので海面は近く、透き通っている
しかし神引山は観光客向けで、通好みという山ではなかったかもしれない……。いや、こんな場所でもひとつの山として登りにいく人は、やはり通なのだと僕は思うぞ。
こんな場所もご紹介! その他の伊豆諸島のフィールド
伊豆諸島は“伊豆七島”という名称でも知られ、そのラインアップは北から、伊豆大島、利島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島。大昔は新島と地続きだったという伝説が残る式根島は七島にカウントされず、無人の時期が長かった青ヶ島も除外されている。というわけで、以下はここまで紹介できていない残り3つの伊豆諸島の話だ。
ポテンシャルは高いが、しかし……という“御蔵島”
人工物がどこにもない原始的な雰囲気!水も豊富な御蔵島は植物の緑も瑞々しい
この島で真っ先に思い出すのは、観光案内所に立ち寄ったときに「天気が少々悪くても、楽しめる場所はありますか?」と尋ねたところ、「そんなこと自分で考えてください」といわれてしまったことだ。いやはや、そんな答えってある? それはともかく、“山”という意味でいえば、本当は御蔵島こそ伊豆諸島のトップクラス。なにしろ急峻過ぎて人が住める場所はわずかしかなく、ほとんどすべてが山岳地帯だ。最高地点は標高851mの御山。ただ、この島は2004年からエコツーリズムを開始し、ガイドが同行しないと大半の山域に入れない。環境を守ることはもちろん大事だが、少し不自由でもある。僕は時間がなく、ガイドといっしょに標高800mの長滝山までしか行けなくて残念だったが、もう再訪はしないだろう。ガイドさんはいい人だったのになあ~。
火山活動が活発過ぎる“三宅島”
2000年の噴火による泥流に飲み込まれた椎取神社。鳥居は再建され、雄山のほうを向いている
伊豆諸島のなかで火山活動がもっとも激しいのは、三宅島だ。東京防災ホームページで公開されているデータによると、この100年間で4回、17-22年周期で噴火を続けており、2000年には全島避難をしなければならなかったほど。そんな島だから、標高775mの雄山(噴火前までは標高814mもあった)までの登山道がないばかりか、立ち入り禁止区域が非常に広い。だが、溶岩で埋め尽くされた海岸の遊歩道を歩くだけでも思いのほかおもしろい。登山ではなく、トレッキング的に楽しめばいい島なのだ。
この島だけは、山よりも美的な海岸へぜひ! “新島”
羽伏浦海岸の白ママ断層。ここは東京一美しい場所かもしれない
新島の最高地点は、標高432mの宮塚山。利島と同じ名前の山だ。ここからの眺望もすばらしいのだが、それ以上に僕が推薦したいのは島の南東部にある羽伏浦海岸!あの真っ白な浜と、すぐにでも大崩壊しそうな大絶壁には神聖な雰囲気すら感じてしまい、ここを初めてみたときに僕は圧倒されてしまった。新島に行ったらまずはこの海岸をのんびり歩いてほしい。宮塚山もすばらしいのだが、他の島の山と似ていなくもない。しかし、新島の羽伏浦海岸はここだけの風景なのだから。
伊豆諸島は“島登山”のすばらしいフィールドだ!
伊豆諸島には高速船のほか、夜に眠ったまま移動できるフェリーの便もある
そんなわけで伊豆諸島の名山・名所を一気に紹介してしまったが、さて、登りに行くのはどんな時期がいいのか?
伊豆諸島は暖かいイメージがあるためか、冬に足を延ばす人も多い。だが、海が荒れやすい寒い時期は船が欠航することが多い。また、夏場のほうが東京を出る船の時間は早く、東京に戻る時間は遅くなる。冬場は休んでいた宿が、夏には営業を再開し始めたりもする。つまり、伊豆諸島の島登山の適期はこれからだ。そもそも離島って、やっぱり夏のイメージでしょう? ここで紹介した情報をヒントに、よりおもしろい計画を立ててほしい。

高橋 庄太郎 Shotaro Takahashi
山岳/アウトドアライター。仙台市出身。高校の山岳部から山歩きを始め、登山歴は35年以上に。好きな山域は北アルプスでテント泊山行をこよなく愛し、北海道の深山や南の島のジャングルにも通い続けている。近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアメーカーとのコラボレーションでアウトドアギアもプロデュース。著書『トレッキング実践学』(ADDIX)『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、共著『“無人地帯”の遊び方』(グラフィック社)など執筆した著作も多い。
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