アイキャッチ画像:ポンチョ
モノづくりの面白さを感じさせる、パーゴワークスの「トレイルポット」

撮影:ポンチョ
チェストバッグ、トレランパック、デイパック、スタッフバッグ、タープ、テント等々、独自の使い勝手を追求しながらも、誰もが使いやすいと感じる個性を装備した道具を手掛ける「パーゴワークス」。
このブランドは、楽しみながらモノづくりをしていることが、その道具から感じられます。それらは、既存の道具を学び、使い手の声を聞き、固定観念に囚われず、機能性を追求。トライ&エラーを繰り返したからこそ生まれた、細かなギミック、アイデアの融合です。
2024年に新たに加わった「トレイルポットS900」というクッカーも、そうしたパーゴワークスらしさを纏っています。

撮影:ポンチョ
同社は2022年にトレイルポットS1200Pという角形クッカーとフライパンのセットを発売しました。
そのクッカーセットを初めて見たとき、手掛けたデザイナーであり社長の斎藤 徹さんか愛用しているという、現在のユニフレーム/山クッカー角形3の前身、モリタの角形クッカーの影響が感じられました。
しかしモリタの角形クッカーは80年代頃にデザインされたモノ。浅型で高さがなく、2000年頃から普及した登山で使うのにぴったりな110缶をそのままでは収納することができません。
110ガス缶を収納できる高さ+収納性をアップ

撮影:ポンチョ
その点でトレイルポットS1200Pは、容量が大きいこともあって250缶も収納可能です。
そして今回発売されたトレイルポットS900も、満水容量900mlながら110缶を収納できる高さをしっかり装備しています。
さらにクッカーの形状を横長の長方形にすることで、丸型や正方形よりもムダのない収納性を持たせています。

この長方形、流行りのメスティンに似ています。
でも横が短め、幅が広く、高さもあるので、その機能性はまるで異なるんです。詳細は後述しますが、熱効率と収納効率を考えた結果が、この形なんだと思われます。
ソロキャンパー用を、ソロハイカー用に。「トレイルポットS900」は待望の軽量・コンパクトタイプ

上の写真のようにトレイルポットS1200内にすっぽりと収納できるサイズ、形状なのが、トレイルポットS900です。
それぞれのスペックは下記の通りです。
- 商品名
- トレイルポットS1200P
- トレイルポットS900
- 価格
- 9,350円(税込み)
- 7,370円(税込み)
- サイズ
- 130×185×80mm
- 156×107×80mm
- 重量
- 440g
- 225g
- 容量
- 満水容量1200ml
- 満水容量900ml
- コゲつき防止加工
- フッ素樹脂塗膜処理
- フッ素樹脂塗膜処理
トレイルポットS1200Pは、1200ml容量のクッカーとそのフタ、そしてフライパンのセットで440g。スペックからは、登山というよりもソロキャンパー向きのセットという印象です。
例えば、前述のユニフレーム/角形クッカー3は、大小2つのクッカーとフライパンのセットで449g、スノーピーク/ヤエンクッカー1000は、1000mlクッカーとフライパンのセットで390g。

撮影:ポンチョ
山料理をする登山なら、スノーピーク/ヤエンクッカー1000を私は持っていくでしょう。50gの差は、登山ではかなり大きいからです。小クッカーを外して、ユニフレームの角形クッカーを持っていくのもアリです。そうすれば重量は400g以下になります。
だからソロ登山用料理派のためのクッカーとして、軽さとコンパクトさを重視したトレイルポットS900がラインナップに加わったのだと思います。
コゲつき防止加工がされ、煮る、焼く、蒸すができる浅型クッカーなら、フライパンはなくても問題ありませんから!できるだけ装備を軽くしたいけれども、ある程度の料理もしたい私にとっては、「やっとパーゴワークスが出してくれた!」という感想です。
クッカー形状ごとの特長を考えてわかったこと

撮影:ポンチョ
ここで、トレイルポットS900の特長でもある、クッカーの形状ごとの特長を考えてみました。
- 形状
- 角浅型
(メスティン) - 角浅型
(トレイルポットS900) - 丸浅型
- 丸深型
- 容量
- 750ml
- 900ml
- 1000ml前後
- 750ml前後
- 重量
- 150g
- 225g
- 200g前後
- 100g前後
- 素材
- アルミ無垢
- アルミ+コゲつき防止加工
- アルミ+コゲつき防止加工
- チタン、またはアルミ
- 110ガス缶の収納
- 不可
- 可
- ほぼ可、1200ml以上の容量だと250缶も収納可
- 可
- ストーブの炎の当たり方
- 短辺側からハミ出がち。長辺側に当たらない部分が多い
- 長辺側に当たらない部分もあるが、炎がハミ出ることはない
- まんべんなく当たる
- 直径が細いので火が強いとハミ出るので調節が必要

撮影:ポンチョ
トレイルポットS900は、角浅型のメスティンと丸浅型の中間を狙った形状、特長です。
110ガス缶を収納でき、箸やナイフ等の長めのカトラリーも余裕で収納できます。またバックパック内では、丸型よりも収まりがよいです。
クッカーは丸型が主流で、角形はメスティン以外では少数派。でも、登山において、バックパックの限られた容量を最大限に活かすことを重視すれば、少数派の角形のほうが道具としては有効です。
炎の当たり方も、よく考えられている

メスティンは、火力の弱い固形燃料やアルコールストーブでの煮炊きなら、炎が小さいこともあって、底面から炎がハミ出ることはほとんどありません。
でも、直径の小さな丸深型のクッカー同様に、炎が広がるガスストーブだと、短辺側から炎がハミ出して熱効率がよくないんです。
ちなみに私はガスストーブで調理をすることが多いので、効率がよくないメスティンを使うことがありません。また、米を炊くのが得意といわれるメスティンですが、私の経験では、炎がムラなく当たって対流がしっかり起きる丸浅型クッカーのほうが、上手く炊けます。

撮影:ポンチョ
一方、メスティン的な形状のトレイルポットS900は、短辺に幅を持たせ、長辺を短くした角形なので、直径の広い丸浅型に近く、底面に炎が当たる面積を広く取れます。
また、コゲつき防止加工が施されたクッカーは、コーティングの劣化を防ぐために中火以下で使用することが原則となっています。底面の広いトレイルポットS900は、中火であればストーブの炎がハミ出すこともなく、角形であってもムダが少なく、熱効率がよいのが利点です。
メスティンと似ていますが、機能は丸浅型寄りです。
フタのつまみ、重心位置など、調理のしやすさも装備

トレイルポットS900は、使い勝手にもすぐれています。フタにツマミが装備されているので、中身の確認をする際に慌てる必要がありません。メスティンだと、手ぬぐい等で断熱してフタを持ち上げるしかありません。
また細かいことですが、ラーメン等をクッカーで食べる際、その重さでハンドルを持つ手がツラいんです。それが丸浅型クッカーと変わらない重心位置かつ大きなハンドルなので、メスティンよりも持ちやすく感じます。
そのハンドルは、炎から少し距離のある位置に取り付けられているので、熱くならないのもポイントです。

提供:PAAGO WORKS(トレイルポットS1200Pのの収納袋)
それでも重いと感じた時……トレイルポットS1200Pだと収納袋をカバーにして丼のように手で持つことができるんです。S1200Pの収納袋は上側が開く巾着タイプなので、クッカーを少し冷ましてからコジー的に保温カバーとして使えます。

でもトレイルポットS900の収納袋は上の写真のように横開きなので、保温カバー的に使うことができないのが残念で
す。

とはいえ収納袋はペラペラな素材ではなく、厚みがあってクッション性もあるので、携帯時にクッカーに傷がつきにくいのがよいです。
もともとエスビットがこのクッション性の高い収納袋を標準装備していますが、あらゆるブランドのクッカーにこの素材の収納袋を付けてほしい!ですね。
フッ素樹脂加工でお手入れ簡単!ですが……

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さてトレイルポットS900は、S1200P同様に内側にコゲつき防止加工のフッ素コーティングが施されています。
上の写真は、ラーメンを食べ終わったママの状態です。結構、油が残っています。

そして上の写真が、ウェットティッシュで拭き取った後の状態です。サッと拭いただけで、油分はなくなり、ベトベト感もほとんど感じないので、縦走等で続けてクッカーを使用する際も、前回の料理の油や味の影響は最小限に抑えられます。
ただし、近年は、フッ素コーティングに使用せれる有機フッ素化合物のPFASが、地下水や飲料水を汚染する問題が欧米はもちろん、日本各地で起きています。欧米のアウトドアショップではPFAS使用製品の販売を禁止しはじめているので、パーゴワークスに限らず、日本のメーカーも同様の取り組みを行なってほしいと思います。
実際にラーメンをつくってみました

撮影:ポンチョ
トレイルポットS900を、実際に使ってみました。
私が山でよく食べるのは袋ラーメンです。今回は棒ラーメンを超えた美味しさが評判の赤流。辛みそ味は担々麺風に思えますが、ゴマではなく、みその風味と美味しい辛味がドンとくるラーメンです。

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必要な水の量は、多くの袋ラーメン同様に500mlです。トレイルポットS900は満水容量900ml。なので、半分よりも少し上。400mlと600mlの目盛りが刻印されているので、その中間まで水を入れました。
ちなみにトレイルポットS900には、米を1合、そして2合炊く際の目盛りも刻印されています。

撮影:ポンチョ
500mlの湯が沸騰すると、こんな状態です。
袋ラーメンをつくるクッカーの容量は750~800mlあれば問題ないという人もいますが、私はできれば1000ml、少なくとも900mlの容量が必要だと思っています。その理由は、この後で。

ラーメンを投入。トレイルポットS900は長辺が長めなので、湯に麺を入れると柔らかくなって沈み、折らずに済みます。袋ラーメンの定番である四角や丸の乾麺でも、トレイルポットS900は幅があるので、湯につけて柔らかくすれば、折らずに済みます。つまり、食すときにズルッズルッと、美味しくすすれるのです!
袋ラーメンをつくるには、ギリギリの容量

撮影:ポンチョ
この写真でわかる通り、満水容量900mlで野菜まで投入すると、火加減をしっかり調節しないと噴きこぼれます。トレイルポットS1200だともっと余裕があり、ある程度の対流も起きて、より美味しくつくれます。
トレイルポットS900だと対流が起きるスペースが少ないので、適宜、麺と具材をかき混ぜる必要があります。

撮影:ポンチョ
とはいえ、美味しくできました!
フタは箸やレンゲ置きにも使えます。そして今まさに気がつきました。クッカーの受け皿としてフタを下部に敷いて使えば、手持ちが可能になるんじゃないかと思います!
山では高さのあるテーブルで食べることができないのが大半。フタ受け皿で手持ち、ぜひ試してみてください!!
煮るだけでなく焼くこともできるので、ラーメン&餃子も可能

先行モデルのトレイルポットS1200は、クッカーとフライパンのセットなので、ラーメン&餃子が簡単にできます。
新型のトレイルポットS900はクッカーひとつだけですが、コゲつき防止加工がされているので、こちらも餃子を問題なく焼けます。そして焼き上がったら、フタを皿にして盛り付け。
続いてクッカーでラーメンをつくりながら、できあがった餃子とビールを楽しむひとときを堪能できるでしょう!
オプションカップも追加予定で、ますます“らしさ”を感じられます!

トレイルポットS900は、2024年10月にぴったりと収納できる専用のインナーカップが発売されて、さらに使い勝手がアップする模様です。それが上の写真のようなモノ。110缶に被せられる丸いカップ等、パーゴワークスらしい逸品です。

そして、あれこれ試してできたであろうトレイルポットS900を、今度は私たちがあれこれ試して、これまでのクッカーにはなかった機能や、新たな使い方を発見する楽しみのある道具に仕上がっていると感じました。
その形状、サイズ、軽さ、コゲつき防止加工が施されたクッカーは、いろいろなクッカーのよさを融合させたもの。既存の角形クッカーのよさをアップ、そしてメスティンの使いにくさを改善。それは他にありそうでいて、唯一無二な特長をもったものです!
それでは皆さん、よい山旅を!