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こんなとき、どうするのが正解? 山小屋利用のマナー

撮影:YAMA HACK編集部
登山には、身につけておきたい「山のマナー」がたくさんあります。しかし、登山経験者の知人がいない場合には教えてもらう機会があまりなく、イマイチよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
また、わかっていたつもりでも、勘違いなどで無意識にマナー違反をしてしまっていた……というのはよくあることです。
今回は、実際に登山者が出くわした「マナー違反かも?」という7つの場面をピックアップ。みんなの体験談から、山小屋利用についてのマナーを今一度確認してみましょう。
【実録①】山小屋に電話するベストな時間って?

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1泊2日で山に行こうと思い立ったAさん。さっそく山小屋の宿泊予約をすることに。「山の朝は早いから、もう起きているだろう」と朝5時に小屋に電話をかけてみました。
さて、Aさんが電話をかけた時間は適切だったのでしょうか?
電話は問い合わせ時間内に。小屋が忙しい時間帯は避けるのがベター

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予約の電話をする際は、問い合わせ受付時間内にかけるのがマナー。小屋によって設定時間が異なるので、まずは公式サイトを確認してみましょう。
電話の受付時間がわからない場合は、早朝や夕方など小屋が忙しい時間帯を避けるのが◎。もちろん就寝中の深夜も避けること。
朝食(5~6時頃)・夕食(17~18時頃)の時間とその前後は、準備などで忙しいって山小屋の方に聞いたことがあるよ。
コロナ禍以降、ほとんどの山小屋の宿泊が完全予約制となり、テント場についても予約が必要な場所が増えています。WEB予約ができる小屋もあるので、利用するとスムーズです。
行けなくなってしまった場合は、キャンセルの連絡を忘れずに。キャンセル料を導入している小屋もあります。
【実録②】とりあえず、明るい時間に到着すれば大丈夫?

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はじめての北アルプスを楽しんでいるBさん。今日は山小屋に泊まる予定です。思いのほか急登で体力を消耗してしまい、後半はかなりのペースダウン。18時に山小屋へ到着しました。「時間はかかったけど……まだ日が沈む前だし、無事に到着できたからよしとしよう!」と自分を労います。
なんだかBさんには改善すべき点がありそう。どんなことを意識するとよいでしょうか?
遅くとも16時までには到着を。余裕のある山行計画を立てることが大前提

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山小屋へは昼過ぎに到着できるように計画を立てるのがGOOD!思いがけないトラブルで遅れても、16時までには到着できるようにしておきましょう。
やむを得ず遅くなりそうな場合は、小屋への連絡を忘れずに。
泊まる予定の人が遅くなっても到着しなくて、連絡もなかったら「途中でなにかあったのかな」って山小屋の方はとても心配するはず。
無断キャンセルなのかどうかも判断できないから、夕飯の準備をするべきかも、きっと悩んじゃうね……。
もちろん、「連絡をすれば到着が遅くなってもいい」ということではありません。
街灯があるわけではない山の中は、日が沈んだら真っ暗。自分のヘッドライトのみが頼りです。転倒や道迷いのリスクを避けるためにも、暗くなる前に到着することはもちろん、日の長い夏季であっても早出早着(朝早くに出発して午後の早い時間に到着する)が基本。夏場はとくに、午後から一気に天候が崩れることも多いんです。

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だからこそ余裕のある山行計画を立てることが重要。Bさんの場合は、自分の体力やスキル、行程や天候を踏まえた計画が立てられていなかったのかもしれません。
テント泊から小屋泊への当日の変更も同様。天候や体調の変化よってやむを得ない場合もありますが、できる限り「変更が必要な事態に陥る可能性」を潰した計画ができているかの確認も大切です。
【実録③】水道の使い方……コレってNGだったの?!

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宿泊予定の山小屋に到着したCさん。びっしょり汗をかいたので、手洗い場で頭や足を洗い、着ていたTシャツを洗濯。「あ~、さっぱりした!」とご満悦です。
Cさんのこの行動、どう思いますか?
山では超がつくほど水が貴重!洗髪・洗濯は控えるべし

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山小屋では水の確保が非常に大変。雪や雨不足により、2023年シーズンはとくに稜線上の小屋で水不足が深刻です。厳しい状況下でも、なんとか水道を使えるようにと奮闘してくださっている山小屋が多いんです。
そんな貴重な水なので、洗髪や洗濯はもってのほか。手洗い・うがいなど最小限にし、水の無駄使いをしないことも登山者の心得のひとつです。
水道の水を出しっぱなしにしている人を見ると、すごく気になる!
うがいをするときも水を無駄にしないように、コップを持っていくと便利だよね。
【実録④】自分では意外と気づかない、“あの音”に注意

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山小屋泊を満喫中のDさん。夕食の時間まで読書でもしようと部屋でくつろいでいると、チリンチリ~ン、チリンチリ~ンとひっきりなしにベルの音が聞こえてきます。どうやら、熊鈴を身につけている宿泊者が小屋内を歩き回っているよう。ちょっとうるさいなと思いつつ、耳栓を手に取りました。
さて、Dさんが神経質すぎるのでしょうか?
「お互いが気持ちよく」が基本

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話し声、足音、荷物を整理する音など、自分が思っている以上に生活音が周りに響いていることはよくあります。消灯中にあなたがつけているヘッドライトの光が、周囲の人には眩しく感じられることも。個室であっても相部屋であっても、宿泊者同士が互いに気持ちよく過ごせるように配慮することが大切です。
熊鈴は盲点かも……。自分は音を聞きながら山を歩いてきているから、鳴っていることに鈍感になってしまっているのかもしれないね。
山小屋に入る前に外すか音が出ないようにするのを、私も忘れないようにしないと。
濡れたレインウェアのまま屋内に入って床をびしょびしょにしてしまったり、汚れた服で布団にダイブして寝具を汚してしまったりすることのないよう、小屋への配慮も欠かせません。部屋内での飲食がNGの場合もあるので、各小屋の決まりに従って良識のある行動を。
【実録⑤】天気のことは山小屋スタッフに聞けばOK?

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山小屋に宿泊中のEさんは、明日、山頂を目指す予定。でも夕方になるにつれて、なんだか空模様がどんよりとしてきました。問題なく登れるのかどうか気になったEさんは、「明日の午前中の天気はもつでしょうか?」と小屋のスタッフに尋ねてみました。するとスタッフは少し戸惑っているよう……。
Eさんの質問にスタッフがやや戸惑ってしまったのは、なぜでしょうか?
まずは自分で調べることが重要

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入山前に最新の気象情報を確認することは、登山をするうえで必須。Eさんは、山行日程の天気を事前に確認していなかったのでしょうか。
覚えておきたいのは、山小屋のスタッフが確認できる天気予報は、登山者がテレビやラジオ、インターネット上で確認できる麓の予報と同じ情報であるということ。その情報をもとに、今後の計画をどうするかは登山者自身が判断する必要があり、判断できるだけのスキルが求められます。
もし初対面の人から、「この天候で登れるのか?」と聞かれても、スキルがわからない人の判断は僕もできないな。
でも、自信がなくて、経験が豊富そうな人の意見を聞きたくなる気持ちはすごくわかる!
だから僕は、不安なところを少しでもなくせるように、天気に限らず、どんなコースなのか、どのくらい時間がかかるのか、登る山やコースについて、まずは自分で徹底的に調べることにしてるよ。

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一般的なテレビや天気アプリの予報は麓の天気について。麓と山頂では天気が大きく異なるため、山の天候は「天気図」をチェックする必要があります。
そうはいってもすぐに天気図を読めるようになるわけではないのは当然。まずは日々、天気図に触れることです。
山岳専門の気象予報サービス「ヤマテン 山の天気予報」や、登山に特化した天気予報サービス「登山ナビ(お天気ナビゲータ)」は、有料ですが山頂の天気予報を確認できるので、あわせて活用してみては。
長期で山に入る場合は、事前に調べていた天候が変わることもあるでしょう。スマートフォンの電波が入らず、最新の情報を確認できない場合もあるので、ラジオを携帯しておくと便利です。
【実録⑥】忘れたのか置いていったのか……残されたアイツ

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山小屋に宿泊していたFさんが起床すると、部屋の片隅にポツンとビニール袋の姿が。相部屋だった人の忘れものかなと思い見てみると、なんとゴミではありませんか!
早朝に出発した誰かが置いていったのでしょうか……?
ゴミの放棄はもってのほかだけど、“うっかり”をなくす工夫も必要

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「持ち込んだゴミを小屋に置いていってしまう人なんているの?」って思うかもしれませんが、悲しいことにいるんです。もしかしたら最後にザックに入れようとして、忘れてしまっただけかもしれません。
早朝出発時はヘッドライトの明かりを頼りに、薄暗い中で準備をします。うっかり入れ忘れることがないように、荷物は前夜に整えておくのがベターです。
繰り返し使えるゴミ袋「ガベッジバッグ」を用意しておくのもおすすめ。
ビニール袋だといかにもゴミって感じだけど、ガベッジバッグだとかっこよく持ち歩けるから、ゴミを持っていても嫌な感じがしないよ。
100円ショップの防水スタッフサックなんかを代用するのもあり。
【実録⑦】宿泊はしないけど、小屋内に入ってもいいんだよね?

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日帰り登山中のGさん。ルート途中の山小屋でひと休みすることに。小屋内のトイレで用を足し、食堂と思しきところで持ってきた昼食をとって、小屋を後にしました。
さて、Gさんの行動はいかがでしょうか?
小屋内の施設を使用するときは「ひと声」かけよう!

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ルート上の山小屋に立ち寄った際、小屋内の施設を勝手に使うのはNG。小屋内はあくまで宿泊者のための施設です。一時利用者向けのトイレは外に設置されていることがほとんどですが、室内にしかトイレがない場合は、スタッフにひと声かけましょう。休憩や持ってきた行動食などの飲食も外のベンチで。
トイレは基本的に1回100~300円程度の利用料(協力金)が必要です。し尿は汲み取ってヘリコプターで処理場まで運ぶのが一般的で、膨大な労力と費用がかかります。利用料は必ず支払うようにしましょう。
山にトイレを設置してくれているだけでも本当にありがたい……。もしかしたら、登山者からの協力金だけでは足りないくらいかもしれないね。
いつも100円玉を何枚か用意して、すぐ出せるところに入れてあるよ。
”想像力”をフル活用して、デキる登山者に!

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山小屋の利用について、一部の方のマナー違反が登山者全体のマナーの悪さとしてニュースなどで目立って取り上げられがちですが、良識のある素晴らしい登山者の方が多いのではないでしょうか。
しかし実例のように、登山を始めたばかりの方は山のマナーがよくわからなくて戸惑ったり、ベテランの方でも勘違いしていたりすることもあるものです。
「これってどうなんだろう?」と悩んだときは、山の環境や山小屋が置かれている状況、周りの人たちがどう感じるかを想像してみてください。
計画時も行動時も欠かせない「想像力を働かせること」は、登山者の特技。山小屋の利用に限りませんが、山では状況にあった言動を心掛け、みんなが安全で気持ちよく登山を楽しめるといいですね!
【制作協力(五十音順)】
涸沢ヒュッテ
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