⑤入笠山|2つの湿原と山岳パノラマの稜線をめぐる(長野)

富士見パノラマリゾートのゴンドラで標高1780mまでアクセスできる入笠山(1955m)には、山中に入笠湿原と大阿原(おおあはら)湿原の2つの湿原があります。初夏はドイツスズランや絶滅危惧種のアツモリソウを求めて、花好きのハイカーで賑わう場所です。
晩夏〜初秋もサワギキョウやアキノキリンソウなどが咲き、中でも8月下旬〜9月中旬の入笠湿原を上品な青紫色に染め上げるエゾリンドウの群生は、この時期ならではの絶景です。

もちろん、南アルプス連峰の北端に位置する山頂からの展望も魅力です。少しずつ気温が下がり晴天率が上がる初秋以降は、山岳パノラマを楽しむシーズンでもあります。眼前には雄大な裾野を広げた八ヶ岳連峰が堂々と対峙しています。
目を転じれば富士山や奥秩父・南アルプス・中央アルプス・木曽御嶽山・北アルプスなど名だたる名峰がずらり。空気が澄んでいれば、日本百名山のうち実に22座を望むことができます。
おすすめコース

コース概要
富士見パノラマリゾート ゴンドラ山頂駅(20分)→山彦荘(15分)→御所平峠登山口(20分)→入笠山登山道分岐(20分)→入笠山(5分)→首切登山道分岐(15分)→仏平峠(40分)→大阿原湿原(15分)→仏平峠(35分)→山彦荘(20分)→富士見パノラマリゾート ゴンドラ山頂駅
⑥二ツ塚|日本一の高峰の名を冠した花・フジアザミ(静岡)

いわずと知れた日本一の高峰・富士山(3776m)。その登山期間は吉田ルート・須走ルート・御殿場ルート・富士宮ルートの各登山口とも9月10日までで、それ以降は山小屋やトイレなども閉鎖され一般登山者が山頂をめざすことはできません。
しかしそんな9月中旬に富士山の中腹で見頃を迎えるのがフジアザミの花です。例年初秋に見頃を迎えるアザミの中でもひときわ大きく、まさに日本一の山の名に相応しい存在感で、たくましく大輪の花を咲かせます。

そんなフジアザミが大きな群落を形成しているのが、御殿場口新五合目から周遊できる二ツ塚(双子山)周辺です。上塚(1929m)・下塚(1804m)という2つの富士山の寄生火山で構成される二ツ塚ハイキングコース周辺。富士山を背景に荒涼とした砂礫地に咲くフジアザミは、初秋の富士山を代表する光景です。
なおフジアザミは富士山の固有種ではなく、周辺の山々にも生育しています。富士山の展望峰として知られる富士五湖周辺や丹沢山塊でも見ることができ、少し離れた位置からフジアザミと富士山のツーショットを狙うのも楽しみです。
おすすめコース

コース概要
御殿場口新五合目(10分)→大石茶屋(50分)→二ッ塚分岐(10分)→下塚(55分)→上塚(35分)→四辻(20分)→幕岩(5分)→幕岩下降点(60分)→御殿場口新五合目
⑦葦毛湿原|もっとも標高が低い花の百名山は「東海のミニ尾瀬」(愛知)

これまで幾度も紹介してきた『花の百名山』には、雨竜沼や大雪山の沼ノ平(北海道)、志賀高原(長野県)、北アルプスの五色ヶ原(富山県)など、山ではなく高原・湿原・湖沼も複数選定されています。その中でもっとも標高が低いのが愛知県・豊橋市に位置する葦毛(いもう)湿原です。
登山口である葦毛湿原駐車場は海抜約47m。ほぼ低地といっていい標高ながら、南アルプスの最南端ともいわれる船形山(276m)・座談山(315m)などの弓張山地の麓に広がる湧水湿地。ミカワバイケイソウ・ミカワシオガマ・ミカワシンジュガヤなど東海地方固有の植物の他、北方系・南方系の植物も自生する稀有な植生が特徴で「東海のミニ尾瀬」とも呼ばれています。

そんな葦毛湿原を代表する花として『花の百名山』で紹介されたのが、例年9〜10月に見頃を迎えるシラタマホシクサ(白玉星草)です。日本固有種で東海地方の湿地帯に生育しており、その可愛らしい見た目から「金平糖草」の別名もあります。
空気が澄んだ満天の星空を思わせる可憐な白い花々。その壮麗な群落を、ぜひ楽しみながら鑑賞してください。
しかしながら街に近い葦毛湿原。かつては森林化が進み、大規模な植生回復作業が行われた経緯も。自然と人との関わり方を模索し続けている場所として、園芸種や他地域の植物の持ち込みをすることがないよう、登山靴に付着した種子を含んだ土などもきちんと洗い落として入山しましょう。
おすすめコース

コース概要
葦毛湿原駐車場(15分)→葦毛湿原(15分)→葦毛湿原南側入口(10分)→葦毛湿原(15分)→葦毛湿原駐車場
⑧【番外編】涸沢カール|ナナカマドの赤い実と穂高連峰(長野)

花ではありませんが、初秋ならではの風物詩として紹介したいのがナナカマドの赤い実です。9月下旬〜10月中旬の紅葉シーズンには葉も真紅に色づきますが、その実はひと足早く8月下旬〜9月上旬には赤く色づき、周囲の緑が引き立て役となってかなり目立つ存在です。
特に日本有数の紅葉名所として知られる涸沢カールはナナカマドの株数自体が多いため、かなりのボリュームで楽しむことができます。背景には穂高連峰が連なり、この時期ならではの北アルプスの絶景が広がります。

また紅葉シーズンの涸沢カールは、山小屋は早い段階で満室に、テント場も設営する場所探しに困るほどの大混雑となります。けれども晩夏〜初秋にかけては登山者も少なく、のんびりと涸沢カールの魅力に浸ることができるでしょう。
涸沢カールに限らず、お盆休み頃までの夏山シーズンとシルバーウィーク頃からの紅葉シーズンに比べて、8月下旬〜9月中旬頃の日本アルプスは比較的混雑が少ない時期です。
また紅葉シーズンは場合によっては初冠雪に見舞われることもありますが、この時期は台風を回避できれば「暑すぎず・寒すぎず」ちょうどいい気候の下で歩くことができます。筆者個人の想いも入りますが、日本アルプスを快適に楽しむシーズンとして自信を持っておすすめします。
おすすめコース

コース概要
【1日目】上高地バスターミナル(15分)→小梨平(40分)→明神(55分)→徳沢(15分)→新村橋(55分)→横尾山荘(65分)→本谷橋(50分)→大崩落地(25分)→Sガレ(55分)→涸沢ヒュッテ(泊)
【2日目】涸沢ヒュッテ(30分)→Sガレ(15分)→大崩落地(30分)→本谷橋(55分)→横尾山荘(55分)→新村橋(15分)→徳沢(55分)→明神(40分)→小梨平(15分)→上高地バスターミナル
爽やかな晩夏〜初秋の花登山へ!

夏山シーズンと紅葉シーズンの間で登山はひと休み……となりがちな晩秋〜初秋ですが、今回紹介したように花をキーワードに探せば魅力的な山やスポットが盛りだくさん。猛暑も盛りを越えて涼しい風が吹き始めるこの季節、快適な花登山を楽しんでみませんか。