⑤甘酒茶屋〜権現坂〜箱根関所跡

5区間目の所要時間|1時間
甘酒茶屋(10分)→旧街道入口(20分)→権現坂入口(15分)→一の鳥居(15分)→箱根関所跡
※休憩や見学なしの歩行時間のみ
最後の区間も石畳を多く歩きます。甘酒茶屋裏手から続く於玉坂(おたまざか)から白水坂・天ヶ石は上り坂、そこから芦ノ湖へ向けて下り坂となり、権現坂で石畳が終わります。最後のハイライトである杉並木を抜けて、ゴールの箱根関所跡をめざします
於玉坂

甘酒茶屋の裏手からも石畳が続いていますが、やがて石はまばらになり登山道のように変わります。笹原や杉林の中を緩やかに登っていきます。

関所破りを試みた「玉」という女性が捕まった場所であることから、この道は「於玉坂」と呼ばれ、県道に交わる直前に石碑が残っています。

於玉坂が終わり県道737号線に出たら、箱根旧街道石碑が建つ反対側へ渡ります。横断歩道がないので注意しましょう。

県道737号線を渡った場所にある箱根旧街道石碑。この奥から、白水坂・天ヶ石坂・権現坂の石畳が続いています。
白水坂・天ヶ石坂・権現坂

この付近の石畳は白水坂と呼ばれています。石碑が現れてからしばらくは、ゆるやかな上り坂です。

石畳の傾斜は、段々と急になっていきます。登り詰めていくと前方に、箱根旧街道最高地点の稜線が見えてきます。

天ヶ石坂石碑の先で、石畳の道は大きく右にカーブします。このあたりから傾斜はゆるやかになります。

右へ進むと展望広場という分岐が現れますが、直進して石畳を登っていきます。

右から展望広場からの道が合流し、この道標のあたりから石畳は下り坂に変わります。

石畳をさらに下っていくと、二子山を背景に箱根馬子唄碑が建てられており、「箱根八里は馬でも越すが こすに越されぬ大井川」という歌詞が刻まれています。
川幅が広く急流で架橋が禁じられていたため、川越人足の手を借りて渡るしかなかった大井川のように、箱根八里以外にも東海道には難所が多かったことがわかる唄です。

いったん車道を渡り石畳を下っていくと、前方に芦ノ湖の水面が見えてきます。

再度車道を渡り中央の石畳を下っていくと、権現坂石碑があります。この先の下りきった場所で、石畳は終わります。
ケンベル・バーニー碑

ドイツ出身のケンベルは江戸時代初期に長崎・出島のオランダ商館の医師を務め、彼がまとめた「日本誌」は西洋に日本文化を伝えた最初の書籍といわれています。
大正時代のイギリスの貿易商であったバーニーはこの書籍に記された美しい日本文化を後世に伝えるべく、ケンペルの「日本誌」の序文を引用した碑を、別荘を所有していた箱根に建てました。
日本文化の素晴らしさを世界に発信しようとしたふたりの外国人の想いが集約された場所が、箱根旧街道だったのです。

ケンベル・バーニー碑から登山道を下り、瑞龍山・興服院という寺院へ渡る橋の手前で、いったん箱根旧街道は終わります。
大鳥居

瑞龍山(ずいりゅうさん)・興福院の本堂と墓地の間を下ると国道1号線に合流し、朱塗りの大鳥居が出迎えてくれます。
沿道には新しいショップや宿泊施設が点在しており、日本人旅行客だけでなく訪日外国人旅行客でも賑わっています。

至近の芦ノ湖畔からは、赤い鳥居がシンボルの箱根神社を前景に、堂々とそびえる富士山を望むことができます。
元箱根旧街道杉並木

江戸・日本橋から二十四里目にあたる葭原久保(よしわらくぼ)一里塚跡。ここを入口として、元箱根旧街道杉並木が始まります。

この杉並木は往来する旅人に木陰を与えるために江戸幕府が植えたもので、現在は国指定史跡として保護されています。第二次世界大戦中には伐採されそうになりましたが危機を脱して、今も約400本の杉が残されています。

杉並木を抜けたら横断歩道で国道1号線を右側へ渡ります。恩賜箱根公園の駐車場があり、これに沿って進むと右奥に箱根関所跡への道が続いています。
箱根関所跡

坂道を下っていくと、黒塗りの門が印象的な箱根関所跡(観覧料:大人500円)に到着します。江戸時代末期に行われた箱根関所の解体修理の報告書「相州御関所御修復出来形帳」の発見と発掘調査をもとに、江戸時代の建物がほぼ忠実に復元されています。
江戸幕府は全国に53ヶ所の関所を整備しましたが、箱根は同じく東海道の新居(あらい)・中山道の福島・碓井(うすい)と並ぶ大規模かつ重要な関所でした。

旅人たちを取り締まった番所はもちろん、江戸口・京口という両側の御門、関所の役人が生活した台所や湯殿(風呂)などが、建物に使う木材の寸法や戸などの建具まで忠実に再現されています。
逆に関所内の人物は着物の色・模様や背格好が現代でも明らかでないため、あえて着色せずシルエットのように展示されています。

江戸時代の関所では「入り鉄砲(江戸に鉄砲などの武器を持ち込むこと)」と「出女(江戸屋敷にいる大名の妻子が地元の藩へ抜け出すこと)」を主に取り締まっていましたが、箱根関所は「出女」に厳しい関所でした。
女性の旅人が「御留守居証文(おるすいしょうもん)」という特殊な通行手形を携えて関所を通過する際には、番所での役人による証文の確認だけでなく、人見女という女性の役人が旅人の髪を解いて証文に記載された特徴を確認する「女改め」が行なました。
他の旅人は「女改め」の間は関所に入れず、江戸口・京口御門前の千人溜りで待機させられたそう。江戸時代の女性の往来が、いかに厳しく制限されていたのかを実感する施設とエピソードです。
今回の「山岳古道」歩きはここまで。旧東海道はこの先の箱根峠を越えて、伊豆国(現在の静岡県)三島宿へと続きます。
箱根旧街道へのアクセス

《往路》
公共交通機関の場合は、小田急電鉄小田原線で箱根湯本駅へ。急行・快速急行も乗り入れていますが、特急ロマンスカーを利用して快適に移動するのも楽しみです。
クルマ利用の場合は小田原厚木道路・小田原西インターから約3km・10分ほどで箱根湯本へ。駅周辺の駐車場を利用しましょう

《復路》
ゴール地点の箱根関所跡がある芦ノ湖畔には複数のバス停がありますが、箱根関所跡から5分ほど歩いた箱根町港バス停からが、箱根湯本への箱根登山バスの運行路線・本数も多くおすすめです。
箱根新道を経由する急行路線に乗ればわずか20分あまりで箱根湯本へ戻ることができ、現代の交通網の発達をあらためて実感することでしょう。
山岳古道を歩いてみよう!

他にも旧五街道沿いには、美ヶ原と霧ヶ峰の間にあり中山道でもっとも過酷な峠越えとなる和田峠など、往時の面影を残しつつ絶景を楽しめるスポットが点在しています。
道そのものが『紀伊山地の霊場と参詣道』として世界文化遺産に登録されている熊野古道も、日本が誇る「山岳古道」です。
ピークハントにこだわらず、悠久の歴史に想いを馳せながら歩くことが魅力の「山岳古道」。様々な山歩きのスタイルのひとつとして、楽しんでみてはいかがでしょうか。
【参考文献・地図】
八木牧夫・五街道ウォーク(2019)「新版 ちゃんと歩ける東海道五十三次 東」山と溪谷社
ウエスト・パブリッシング(2015)「歩いて旅する東海道」山と溪谷社
大石学(2021)「地形がわかる東海道五十三次」朝日新聞出版
日本遺産「箱根八里」サイト「日本遺産構成文化財を訪ねる 東海道 箱根八里 散策地図」
箱根町観光協会公式サイト「はこね文化財ぶらりMAP~旧東海道~」
事前の資料確認や地図の携行も忘れずに
「山岳古道」歩きには、正しい古道を歩いたり沿道の史跡を見逃さないために、予めガイドブックなどの資料で歩くルートを予習しておくことがおすすめです。もちろんこれらと一緒に、実際に歩く際には地図も携行しましょう。
~おすすめのガイドブック~
山と溪谷社 ちゃんと歩ける東海道五十三次 東
講談社 決定版東海道五十三次ガイド
~おすすめの地図~
吉備人出版 箱根・湯河原 登山詳細図
昭文社 山と高原地図 箱根
ハイキングシューズも用意しよう!
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