山道具の中でも高価なテントが、さらに高価に!

山道具のなかでも高価なものがシューズですが、それ以上に値段が張るのがテントです。
とくに“軽い”ことが重視される山岳用テントは、高度な素材を使っていることもあって価格が極端に跳ね上がり、いまや一人用で70,000~80,000円台でも驚きではなく、60,000円台ならお手頃に思ってしまうほど。
メーカー各社に聞いてみると、購入される数が減ってしまうのはわかっていても、もはやどうしようもないのだとか。
でも、防水コーティングがどうしても加水分解を起こしてしまうテントは経年劣化が激しい山道具のひとつでもあり、永遠に使えるものではないのです。
ならば、どうすればいいのか?

その解決策のひとつは、軽量かつ高機能の高価なテントではなく、ズバリ”低価格のテント”を選ぶことではないでしょうか?
その分だけ少々重くなったり、かさばったり、機能性もいくらか抑えられたりはしますが、山中で十分に“使える”性能を持っているテントは、有名ブランドからも意外と販売されているものなのです。
そんなわけで僕は、そんな“ひとつの例”となるテントを背中に山へ!
実際にテストしてきました。
ザ・ノース・フェイスの新作テント。その特徴とは?
そのテントとは、ザ・ノース・フェイスから2024年に発売された「マウンテンネスト1」。そして重要な価格は、なんと税込み30,800円!
近年の山岳テントの半額程度なのです!

しかし、低価格のテントを実現するためには、何かの要素との“トレードオフ”が必要。
要するに、安価な代わりに使用する生地に厚みがあって重かったり、収納時にかさばったりしてしまう、ということです。
カタログ的な収納サイズのスペックは、長さ50×直径12㎝。やはりかなり大きくなります。最近の軽量タイプの山岳テントに慣れていると、倍以上のサイズに感じられるでしょう。
試しにマウンテンネスト1を背負ってきたバックパックと並べてみると……。

相当にデカい収納サイズであることは否めません。しかし、収納サイズが倍以上であっても、重さはそこまで増えてはいないのです。
インナーテント、フライシート、ポールという、いわゆる“最小重量”は約1.5㎏。スタッフバッグやガイラインなどを含む総重量は約1.67kgです。
たかだか10年ちょっと前であれば、一人用でこの重量は十分に軽いテントに位置づけられるレベルでした。

それにこれは、風雨に強いダブルウォールの自立式テント。
ここ数年で1㎏を切るテントが続々登場し、なかには600g台のモデルも生まれていますが、そのほとんどが非自立式や半自立式で、軽量に作ることはできても設営しにくいものばかり。
しかしダブルウォールの自立式テントは、初心者でも簡単に立てられます。
シンプルなドーム型で、風雨に強い構造
では、他にどんな特徴を持つテントなのか?
居住空間となるインナーテントのメイン素材は、メッシュ。通気性に優れています。

正面にはU字型にファスナーが付き、出入り口を大きく広げることも可能。

ダブルウォール、つまり内部と外界のあいだに布地の“壁”が2つある(インナーテントの生地と、フライシートの生地)タイプなので、防水性が高く、通気性も上々です。

遠目で見ていると、いたって普通の山岳用テントですね。
次に、素材を中心に少し寄って見てみましょう。すると、マウンテンネスト1の「軽くはない」理由がわかります。
いまどきの山岳テントとしては、かなり分厚い生地
フライシートとインナーテントのフロアの生地は、75デニールポリエステルタフタ。最近の山岳テントに慣れていると、かなり厚手の生地に感じられます。



DAC社製のポールもちょっと重め。設営に必要なのは2本ですが、最近の他の山岳用テントであれば3本分くらいの重量になっています。

細かなパーツ、ガイラインやペグも丈夫で重め

付属のガイラインも極太。
テントの生地やポールの素材は低価格化のために重くなるのは避けられないでしょうが、ガイラインのようなロープ系はあまり変わらない価格でもっと細くて軽く、強度も十分なものを採用することはできるように思われます。
しかしこのテントに極細のガイラインは似合わない気もしますし、これは全体的なバランスからの太さなのかもしれません。

ペグも同様にもっと軽量なタイプにはできるはずですが、いたって普通の太さのものが付属していました。
ここで残念だったのは、“本数”が足りなかったこと。
テントの四隅、フライシートの前室部分と後側に打つ本数、つまり6本しか付属しておらず、ガイラインやフライシートの左右の裾を止める分が足りないのです。
マウンテンネストが本来持つ風雨に対する防御力を最大に発揮させるためには、あと6本必要なはず。これからこのテントを購入した方は、自分で残り6本を用意したほうがいいですよ。

僕のフィールドテストは、いつも実際に販売されている付属品のみで行っているため、今回もこのままガイラインは張らずに進めました。
なお、ガイラインをペグで留めて、テントの四隅は省けばいいのではないかと考える方もいらっしゃるでしょう。そんな方は、僕が以前書いた「年間テント泊数100日の山岳ライターが語る!本当にあった嘘のようなテントの話」をご一読ください。