トレイルを長く歩いて分かったのは、自由さや自然に親しむ楽しさ

2日目、下り坂になる天候を気にしながら、「寒風」から「大谷山」を目指した
メンバーの多くはこれまで山頂を目的とする登山を楽しんできましたが、高島トレイルを旅したことでロングディスタンスハイキングならではの楽しみをみつけたようです。
目的地までの「過程」を楽しむと、違う視点をもてる
地元の登山者に教えていただいたサラサドウダンツツジ(写真1枚目)。豪雪の重みにも負けず縦横に成長するブナの巨木(2枚目)
古賀さん
これまでの登山は山頂が目的なので、登っている間はコースタイムと比較しながら登るのに必死で、あまり余裕がなかったんですよね。
でも、今回はトレイルを歩くこと自体が目的だったためか、リラックスしながら楽しめたんですよ。
おかげで、植物や生き物などの自然にも興味をもちながら歩けました!
大迫
2日目は悪天候予報だったので、稜線から下りて谷沿いの林道を歩くルートに変更。
山頂に縛られることなく、目的地へのルートを自由に選べるのは新鮮でした。
山から街が見えるからこそ、人の営みも感じられる

トレイルから琵琶湖と町並みが見える。水と山の恵みを得ながらの営みが想像できる。
千葉さん
高島トレイルは、山の上からでも町が近くにみえるんですよ。峠道などでは、山の地形を活かした道路の通し方も見えて、人の営みも感じられました。
豪雪に負けない樹々の成長も、豊富な水も、生き物の息遣いも身近で、生命力がひしひしと伝わってくるトレイルでした。
ロングディスタンスハイキングの楽しさ
・「山頂を目指すこと」にしばられない自由さ
・山道だけでなく、周囲の里の暮らしや営みを感じながら歩ける
・長く歩くことで感じる仲間との一体感
実際に体験して感じた、「ロングディスタンスハイキングを楽しく歩くためのポイント」を振り返ってみましょう。
地図で地形を読みながら歩くと、見えてきた山のカタチ

高島トレイルには、自然保護の観点からテント指定地はありません。そのまま飲める湧き水のような、整った水場もありません。
そのため、地形と歩くために必要な情報が読める国土地理院が発行する25000分の1の地形図を片手に歩きました。
地形図から読み取れる情報
・水が取れそうなポイント
・テント場になりそうな開けたポイント
・尾根や沢などの地形
・トレイルの登り下りの傾斜角度
・ルート上で自分がどの方角に向かっているか

計画時に水場やテント場、尾根や沢を地形図に書き込んで、歩くトレイルのイメージを高めた
古賀さん
今までは地図アプリに頼っていたため、紙の地図までは見ていませんでした。
アプリだと、表示されるルートと現在地くらいしか見ていなくて、平面的で”真っ直ぐ歩いてるだけ”のような感覚でした。
紙の地図を使って歩くと方角を確認するため、道が曲がっているか、どの方向に続いているかなどを意識するようになります。
また、山道がどれくらいの傾斜なのかルートの地形も読んでいきます。
古賀さん
紙の地図では、歩く方角を確認したり、地形を読むようになって、山を立体的にとらえながら歩けることが新鮮でした。
地図アプリで現在地を見つけ、紙の地図でルートの全容を把握する

次のポイントの標高や距離などを地形図で読み、行動計画と確認しながら歩いた
清水
歩いている地形と地図の等高線を確かめながら読み続けていると、だんだん山のカタチがイメージできるようになるんですよ。
地形図が読めてくると歩くために必要な情報も見えてきて、読図力が身に着く実感もあって、うれしかったです!
GPSで現在地が確認できる地図アプリはとても便利です。
それに加えて、紙の地図も使い、読図をすることでどんな山のどんなトレイルを歩いているのかイメージしやすくなったようです。
広範囲の地形を読める紙の地図と、現在地確認に長けた地図アプリを合わせて使うと、長い距離を歩く山旅の楽しさが広がります。
地形図の情報と現地の答え合わせ。予想外の状況に備えをしよう

歩き始める前日にメンバーで集まって、それぞれが考えてきた水場やテント場のポイントを持ち寄り、行動の計画を詳しく立てていきました。
ただ、実際に歩いて現地をみると地形図からは読み取れない情報もあったようです。
水を汲めないかも?水場をいくつかポイントしておくと安心

渡辺ガイド
水場まで下りられない崖だったり、晴天続きで水が枯れていたりすることもあります。
水は長く歩くために欠かせません。安心して歩けるよう、あらかじめ地図上に水場をいくつかチェックしておきましょう。
【高島トレイルの豊富な水源から水を汲む】

琵琶湖の水源でもある高島トレイルは水が豊富です。今回は事前にチェックしておいた水場で、無事に水を汲むことができました。
飲み水や食事など、山での生活に欠かせない水を自分たちでみつけられると、山を歩き続けられる自信を高められます。
実際の路面状況は行くまでわからない。地形図で読めない情報は、想定が大事

高島トレイルにもザレ場、木道、ぬかるみなど、さまざまな路面状況があった
古賀さん
地図から歩く地形はイメージできても、トレイルの路面状況までは分からないのが不安でした…。
渡辺ガイド
地形や事前の天気などからある程度予測はしますが、実際のトレイルの路面状況は歩いてみないとわかりません。
大事なのは、いろんな路面状況を経験して歩ける自信を付けておくことと、計画時にどんな路面状況もあり得ると心の準備をしておくことです。
テント場によさそう!でも、適地かどうかは現場判断

等高線を読んでテント場として考えていたところが、適地ではなかったところも
高島トレイルではテント場が整備されていないため、地形図の等高線が緩やかなところをテント場と想定して行動計画を立てました。
地形図では傾斜が緩やかで平らそうに読めた場所も、実際にその場で見てみると斜めになっていたり、植物が生い茂っていたり、テント場に適さない場所もあります。
水場と同様に、いくつか候補地を挙げておくことが大事です。
【1日目は、イメージ通りのテント場で快眠】

1日目に予定していたテント場は、地形図の等高線が緩やかになる「粟柄越(あわがらごえ)」周辺。
当日は風が強く、「粟柄越」手前から、風を避けてテントを張れる場所を気にしながら行動しました。
結果的に広くなだらかな「粟柄越」周辺で、風下斜面の平らな場所を無事に発見できました。
快適に安眠できるテント場をみつけることができれば、翌日の長い距離を歩く英気を養えます。
歩ける道を読めると、自由度が高められる

2日目のルート変更の最終判断ポイント「抜土」に向かう途中、どんどん湧いてくる不穏な雲に不安をかきたてられる
いろいろな道をつなげて自然のなかを歩いて旅をするのが、ロングディスタンスハイキングの醍醐味。その歩き方やルート取りはひとそれぞれです。
登山道や稜線、山頂を通らなくても、林道や舗装路などを使って目的地に向かうのも自由。
それゆえ、地形図から登山道以外の道を読めると、旅の自由度を高められます。
【2日目は、目的に縛られず、功を奏したルート変更】
この日の天気は、残念ながら下り坂…。ラジオなどから得た情報では、台風の影響もあって夜には風も雨も強まるようです。
「三重嶽(さんじょうがだけ)」周辺の稜線でテント場を探す予定でしたが、このままでは悪天候のなかで泊まることになりそうです。
それでは体が休まらず、リスクもあるため、三重嶽の手前にある「抜土(ぬけど)」という場所から林道を使って、谷間まで標高を下げることにしました。
また、移動中にも雨風が強くなる見込みだったので、稜線歩きを避けたことも理由です。

きびしい悪天になる稜線から下りて、安全な林道まで標高を下げて旅を歩き続ける
これが三重嶽という点(山頂)や他のピークをつなぐ縦走登山であったら、なかなかできないルート変更でした。
「歩く過程」それ自体をを楽しむロングディスタンスハイキングだからこそのルート変更で、その先には高島トレイルに棲む生き物との触れ合いも。
土の中で「ギュウ、ギュウ」と鳴くタゴガエル、渓流に美しい鳴き声を響かせるカジカガエル、足元にはアカハライモリ。ルートを登山道だけに縛られていては出会えない体験でした。
※アカハライモリは毒があるので、触った手が目や口に入らないよう注意が必要です。

足元に目をやるとアカハライモリが。林道を歩いたからこその出会い。
大迫
山というよりも、もっと大きな自然のなかで自由に遊んでいる感覚があって、おもしろいですね!
楽しい旅路は工夫次第。歩き続けるためのちょっとしたコツ

歩き続けるために必要なのは、体力だけではありません。
モチベーションを保つための気分転換、フィールドに適応する道具なども大切です。メンバーがどういった工夫をしたのか、教えてもらいました。
メンバーそれぞれのリフレッシュできるアイテム
【千葉さんの場合】ハーブティ

千葉さん
香りと味わいで、1日の疲れをいやしながら、気分転換ができるハーブティをもってきました。
その日の気分に合わせてハイビスカス、オレンジピール、クローブ、シナモンなどをブレンドします。
大迫
これは、おいしかった!それに、気分までリフレッシュされました。
飲むとさっぱりする千葉さんオリジナルブレンドのハーブティはメンバーにも大好評!
【清水の場合】ドライシャンプー

清水
髪の毛についた汗のにおいやベタつきが、寝るときに気になるので、ドライシャンプーとシャンプーシートで頭を清潔に。
すごく気持ちよくて、さっぱりします!
渡辺ガイド
いい匂いにもなるし、気持ちいいですよね!
メンバーもさっそくドライシャンプーを借りて、みんないい匂いになってさっぱりしました。
【古賀さんの場合】スキンケア&パジャマ

古賀さん
装備の軽量化よりも、長く歩くための余裕あるメンタルを保てるように意識して、1日中外を歩いた肌をいたわるスキンケア品や、リラックスして眠れるようにパジャマ(着替え兼用)をもっていきました。
山とはいえ、お肌の調子がいいと気分も上がります!
清水
スキンケアもメンタルケアの一環なんですね。
軽量化志向の男性メンバーは関心しきりでしたが、メンタルの大切さにとても共感していました。
【大迫の場合】具たっぷりスープ

大迫
毎晩の食事の一品担当でもあったので、ドライフード中心になるだろうメンバーの食事が豪華になるよう、野菜などの具がたっぷりなスープを用意しました。
生野菜などは重かったですが、みんなの笑顔を想像すると背負えちゃいました。
古賀さん
ちゃんとした食事だと、気分もリフレッシュできると実感しました。とってもおいしかったです!
栄養バランスがよくボリューム満点な大迫料理長の晩ごはんで、しあわせな満腹感を得られました。
長く歩くフィールドで活躍するアイテム
【安全な水を確保できる浄水器】

長く歩く旅では、必ずしも安全性が保証された水場で、水を汲めるとは限りません。
渡辺ガイド
いまではソロでも使いやすいコンパクトなタイプもあるため、浄水器を装備して、安全な水を確保しましょう。
【設営場所を選ばない自立式テント】

キャンプ指定地がない場合には、現地に行かないとテント場の適地が判断できず、ペグを打てないような硬い地面のときも。
そのため、立てる場所をあまり選ばない自立式テントがおすすめ。テント場の選択肢も増えて、その安心感から行動にも余裕がもてるようになります。
慣れてきたらハンモックやタープを使ってみるなど、さまざまなスタイルに挑戦するのもあり。
寄り道は、旅を彩る出会いのきっかけ

若狭熊川宿にあるお店の軒先を借りて一服しながら、ご主人と談笑
山や自然だけではなく、道をつないだ先にあるものを楽しめるのも、ロングディスタンスハイキングならでは。
ふと寄った町や観光名所での出会いが、旅のおもしろさをよりいっそう深めてくれます。
高島トレイルと交差する若狭鯖街道
昔の旅人に思いを馳せながら、情緒ある若狭熊川宿を歩く。若狭熊川宿の看板を読むと、ここで培われた文化に触れられた気がした
3日目を歩き終えた旅の終点「水坂峠」は、高島トレイルと若狭鯖街道が交差するポイントでもあります。
その昔、福井県小浜市から京都まで、海産物などの豊かな食材を届け、京の食文化を支えてきたのが若狭鯖街道でした。
鯖街道でいただく鯖寿司は絶品

名物の焼鯖寿司で旅の終わりを祝した
トレイルを歩き終えて食欲がふつふつとしているメンバーは、名物の鯖寿司を求めて、「水坂峠」近くにある鯖街道宿場町「若狭熊川宿」に向かいました。
地のものをいただくのも、旅の醍醐味のひとつ。またひとつ、忘れられない味が増えました。
長く歩いた先に触れた、ロングディスタンスハイキングの本質

高島トレイルを2泊3日で歩いたあと、メンバーたちはどんなことを感じたでしょうか。
古賀さん
地形を感じたり、自然に触れたり、途中雨に降られましたが、全体を通して楽しい歩き旅でした!
登山では雨が降ると気分が下がっちゃいますが、ロングディスタンスハイキングだと雨のおかげで新しい選択ができるって感覚でした。
またどこかのトレイルでロングディスタンスハイキングをして、この魅力を多くの人に伝えたいです!
清水
ロングディスタンスハイキング、ハマりました。
山頂を目指さなくても、道をつないで歩くことがこんなにもおもしろいなんて…。
長く歩く旅ならではの経験も技術も得られたので、山を遊ぶものとしてパワーアップできたように思います!

千葉さん
歩いたことも楽しかったのですが、一緒に歩いたメンバーの道具や山の知識、考え方に刺激を受けました。
いつのまにか固定していた自分の装備や思考を考え直すきっかけになって、おもしろかったです。
長い距離、時間を一緒に歩いて体験を共有したメンバーだからこそ、そんな刺激もすんなり受け入れられました。

大迫
登山やロングディスタンスハイキングという言葉の定義にとらわれずに、自由な山歩きをしたいと思いました。
そのために、地形と気象を理解して、臨機応変に対応できるスキルを身につけたいです。
そして、次に誰かと歩いたときには「山について伝えられる」ように、周りの自然に関心を持ちながら歩こうと思います。
ロングディスタンスハイキングで広がる、山の楽しさ
登山で山頂に立ったときの達成感は、ほかでは得がたい体験です。
しかし、目的地を目指す歩き方だけでなく、ロングディスタンスハイキングのように自然のなかで自由に遊ぶような楽しさを体験すると、山の知見が広がって、山や自然をもっと好きになります。
次に山を計画するときには、道と道を繋げて1本のトレイルにして、長い距離を歩いてみてはいかがでしょうか。
Suponsored by ゴールドウイン株式会社