そもそもトレイル歩きって、登山と違うの?

撮影:筆者
自然や山を楽しむためのスタイルとして、最近、耳にすることが増えてきた「トレイル歩き」や「山歩き」。
編集部のひとり、 大迫もトレイル歩きが気になっているものの
編集部 大迫
登山とトレイル歩きって、どっちも山を歩いているけど何が違うんだろう?
と、なかなか重い腰をあげられずにいました。
少し調べてみると、
【トレイル歩き】【山歩き】
必ずしも山頂を目指すことがゴールではなく、山や自然の中を歩くこと。
登山道だけではなく自然散策路や林道、車道までもが歩くフィールドのため、山域の自然や集落の文化だけではなく、ときには地元の人にも触れながら、旅をするように歩くことができます。
よく耳にするロングディスタンスハイキングもトレイル歩きのスタイルひとつ。
一方の登山は、クライミングや沢登り、バリエーションルートなどいろいろな遊び方がありますが、山頂を目的として登ることが多く、登頂したときの大きな達成感が魅力のひとつです。
トレイル歩きと登山。山というフィールドは同じでも、どうやら遊び方や目的が違うようです。頭では理解できますがまだまだ引き続きモヤモヤ感が……。
山形から届いた「新しいトレイル」の便り

撮影:筆者
そんなとき、編集部に一通の便りが山形から届きました。中身を見てみると「白鷹丘陵トレイル」という新しいトレイルが開通したお知らせです。
山形といえば、蔵王山、鳥海山、月山、吾妻山、朝日岳、飯豊山の六座の日本百名山がありますが、この新しいトレイルは、そのどの百名山も登らないようです。
編集部 大迫
これは何かの縁だ!いっちょ、山形まで行ってみよう!
ということで、実際に歩いて「トレイル歩き」の楽しさを発見する旅が始まりました。
トレイル歩きを求め、いざ山形へ
出典:google map
山形駅に降り立つと、西の方角に白鷹丘陵が見えます。山形駅から車で約40分、距離でいうと16kmほど。
白鷹丘陵トレイルは、主峰の白鷹山などの登山道を整備し、自然散策路や林道とを繋ぎ合わせた約31kmの周回コース。
トレイル歩きとなると、ロングトレイルのような何泊もするイメージがありますが、1泊2日でも歩くことが可能なので、トレイル歩きの入り口としてもちょうどよいコースです。
編集部 大迫
東京駅から山形駅までは、新幹線で約3時間。都内からすごく遠いイメージがありましたが、乗り継ぎなども少ないのでアクセスは思ったより楽ちん。
ただし、バスはほとんどないため、山形駅からはレンタカーでの移動がおすすめです。
22,000km以上歩いたハイカーが作った白鷹丘陵トレイル

撮影:筆者
今回は、白鷹丘陵トレイルのコース整備の先陣を切って行った、「山形ロングトレイルクラブ(通称:YLT)」の斉藤正史さんと一緒に歩いてきました。斉藤さんは、アメリカの3大トレイルを踏破したトリプルクラウナーです。
アメリカの3大トレイル
・ アパラチアン・トレイル(通称:AT、3,500km)
・ パシフィック・クレスト・トレイル(通称:PCT、4,260km)
・ コンチネンタル・ディバイド・トレイル(通称:CDT、5,000km)
いまも海外のトレイルを歩くことをライフワークとし、みちのく潮風トレイルなどの国内トレイルも数々歩き、これまでトレイルを歩いた総距離はなんと22,000km以上。地球を半周は歩いていることになります。
また、トレイルを歩くだけではなく、新しいトレイルの開設やトレイル歩きの普及のために東奔西走するプロハイカーです。
トレイル初心者でも楽しみやすいコース設計

提供:山形ロングトレイルクラブ
まずは、ガイドブックでルートを確認。大平駐車場を基点にしたグルっと周回するルートにして、ちょうど中間地点にある山形市少年自然の家でテント泊するように計画。
ルートを見ると、1,000m未満の連なる山々のアップダウンに募る不安。
しかし、「湧水」「畑谷城址」「そば処」と、普段読んでいる登山地図には見られない情報に、これから待ち受けるトレイル歩きの風景を想像してワクワクさが込み上げてきました。
あいにくの雨!それでも楽しめちゃうのがトレイル歩き

撮影:筆者
いざトレイル歩きをと勇んだものの、1泊2日の天候はしっかりめの雨に。
標高の高いアルプス登山するなら、すぐに中止の判断のところ、、、
斎藤さん
天気も午後から回復傾向のようですし、大丈夫でしょう。
傘もお貸ししますので、これを差しながら歩きましょう。雨でも歩けちゃうのがトレイルのいいところでもあります。
編集部 大迫
ありがとうございます!傘を差しながらなんて、いかにもハイカーっぽいですね。笑
形だけでもハイカーになれて、モチベーションがあがります!
雨降る森から始まるトレイル歩き

撮影:筆者
スタート地点は、広葉樹や針葉樹が混生し、雪椿が自然のままの姿で生えている森。森の中にも雨がしとしと降り、草も木も登山道も、しっとりと湿っていて幻想的なほど。
装備の違いで感じる変化
撮影:筆者
ふと、いつもより視野が広がっていることに気がつきました。草葉から滴る雨滴はきれいで、耳をすましながら頭上を見ると雨音や鳥の鳴き声も楽しめるほどに。
編集部 大迫
登山だとレインウェアのフードを被っていて音が聞こえにくかったり、下を向きがちだったりしましたが、傘を差していると周りを見渡す余裕もできておもしろいですね。
斉藤さん
登山のように風が吹きすさぶ稜線歩きではなく、樹林帯を歩くことも多いトレイル歩きだからこそできる雨の楽しみ方ですね。
山頂も、点と点を繋ぐ旅の通過ポイント

撮影:筆者
雨の森を抜け、トレイル開通の苦労が垣間見える整備された尾根道を登りきると、山形百名山でもある白鷹山の山頂へ。
標高994mとけして高くはありませんが、山頂に立つと得られる達成感。あいにくの天候で眺望は残念でしたが、雨の中に佇む虚空蔵神社には歴史の趣をひしひしと感じました。
斉藤さん
登山であれば、ここでゴール。あとは下るだけですが、トレイル歩きでは、山頂は通過点のひとつ。
点と点を繋ぐ山の水平旅はまだまだ続きます。
標高は低くても、歩きごたえ十分

撮影:筆者
白鷹丘陵トレイルは、主峰の白鷹山をはじめ、西黒森山、東黒森山などの1,000m未満の山々をめぐります。ひとつの山を登っては集落まで下り、もうひと山を登ってはまた集落まで下りるため、アップダウンの多いルートです。
編集部 大迫
登山みたいに登りがずっと続くわけではないので、イメージでは体力的にも足的にも楽勝だろうと思ってました。
でも、くり返されるアップダウンが意外とタフで、歩きごたえがありますね。
やっぱり山頂からの景色は嬉しい
撮影:筆者 提供:山形ロングトレイルクラブ
地図アプリのログで確認すると最終的なルート全体の累計標高は登り約2,000m、下りも約2,000mありました。くり返されるアップダウンにくじけそうになりますが、登頂のごほうびはちゃんとあります。
白鷹丘陵の前衛でもある富神山(標高402m)の山頂からは、山形市街地とともに蔵王連峰が広がる雄大な眺望を楽しめます。
編集部 大迫
この方向に蔵王がきっとあって、あの辺りが山形駅かな、、、晴れた日にリベンジだ!
登山ではきつくて無になる林道歩きでも

撮影:筆者
「林道ってちょっと退屈だな」と思っているのを見透かされたのか、斎藤さんが植生の見かたを教えてくれました。
斉藤さん
ただ林道を歩いているとつらいですが、植生に目をやるとおもしろいですよ。
自然のままの雑木林の森は明るい
ブナやカエデ、トチノキなどいろいろな広葉樹が生えて多様性がある雑木林は、昔ながらの里山の雰囲気。木と木の間も広くて、光が差し込んで森全体も明るく、下生えが豊かに茂っています。
林業用の杉林は人が暮らしていた痕跡
集落が近くなると、植樹されたスギ林になり、林業など昔の生業を想像できます。スギ林は木と木の間が狭く、たくさん出る枝から葉が密集しているために、光が差し込みにくく、うっそうとした雰囲気に。
編集部 大迫
登山の林道歩きは、ただのアプローチでつらいことが多いです。
でも、人の生活圏とも交差するトレイル歩きは、林道にあるストーリーを想像しながら歩けて楽しいですね!
山から下りた集落も見どころ満載のトレイル

撮影:筆者
山から下りた舗装路もトレイルの一部。
次に目指す山の山容を麓から確かめたり、歴史を感じられる史跡に寄り道したりするのも、トレイル歩きの楽しみです。
食事処があれば、トレイル歩き中だからと固く考えずに、地元の食事を味わうのもいいでしょう。
里でも感じる森の恵み

撮影:筆者
白鷹丘陵トレイルで通過する集落には、こんこんと水が湧くスポットも。白鷹丘陵の森が豊かであることと、この地域の人が森の恵みとともに暮らしていることがわかります。
ハイカーにとっては湧水は、トレイル歩きで火照った体を涼ませられるいい休憩ポイント。
歴史を知って深まる山旅

撮影:筆者
お昼休憩には、雨をさけるためトレイル脇の観音堂の軒先を拝借。静けさ漂う空間はタイムスリップしたようで、昔の人たちも旅の途中はこんな風に休憩していたのかなと、しみじみとした気持になってしまうことも。
また、畑谷地区には戦国時代の畑谷城跡があります。かつて、白鷹丘陵は東の関ヶ原といわれる戦で、最上軍と上杉軍が激突した地。城の空堀の間を縫うように付けられたトレイルを歩けば、戦国時代を味わえるかもしれません。
編集部 大迫
コンクリートの上を歩いているのに、トレイル歩きの途中という気持ちだけで、旅行している気分。不思議です。
振り返れば充実感のある道のり
撮影:筆者
八ヶ岳やアルプスなどの標高の高い山頂に立てば、大きい達成感が得られます。これまでの登りの苦労がすべて報われるくらいの眺望が目の前に広がり、「あぁ、自分の足でここまで登ってきたんだな」と。
一方のトレイル歩きでは、ひとつひとつの山頂で登山のときのような大きな達成感は得られにくいかもしれません。しかし、歩いてきた道のりを振り返れば、出会った人や自然に触れた印象で充実感を得られます。
編集部 大迫
移動した距離もそこそこありますし、登ることだけにとらわれなかったおかげか、得られた情報がすごく多かったような気がします。
もちろん登山の楽しみも捨てがたいですが、頭を切り替えるだけでこういう楽しみ方ができるのは良い発見になりました。
顔を上げて景色からいろんな楽しさを見つけられる
撮影:筆者
充実感をより高めるためには、トレイル沿いの建物や自然に関する案内板にも目を向けてみましょう。その山域や地域の知識が深まり、歩くときの視野が広がります。
斉藤さん
水平の旅だからこそ、歩くときには足元ばかりではなく視線をあげましょう。
かつては人が生活していた集落や、谷間を流れる滝など、いろいろな景色が待ち受けています。
目的の持ち方で山の楽しさも変化する

撮影:筆者
ゴールに到着しました。
雨が降ったり止んだりとあいにくの天気でしたが、斎藤さんと白鷹丘陵やロングトレイルについてなどの話をしながら歩けたためか、2日間が短く感じられ、あっという間。点と点を繋ぎ、いろいろな道を通ることで1本の線として環境の変化を楽しめました。
編集部 大迫
斉藤さんと話したり、スポットの解説があったので、いろんな観光地を回ったような気分です。
山やその近くの集落にいろんなストーリーがあるんだなということが、山登りのときよりも知れたように感じます。
斉藤さん
歩いた距離を振り返ることで、標高にも似た満足感も得られるし、山と麓の歴史や文化を知ることもできるがトレイル歩きの魅力ですね。
実際にトレイルを歩いてみると、事前に感じていたモヤモヤ感はなくなったようです。
編集部 大迫
登山とかトレイルとか、言葉でくくるとどうしても棲み分けするように感じますが、実際に歩いてみると「山や自然を楽しむための心の持ちようの違い」だなと。
ただ、同じ場所を歩いても心の持ちようで感じ方が変わるというのは、今回歩いてみてすごくおもしろい体験でした。
あと、雨で景色が全然見れなかったので、もう一回歩きたいです。笑
白鷹丘陵トレイルからのメッセージ

撮影:筆者
斎藤さんは、もっと多くの人に気軽に自然と触れてもらいたいと白鷹丘陵トレイルを作ったといいます。自然を知って興味を持ってもらうことで、自然環境をより大切にしたり、土地に興味をもったりする心が育つようにと。
斉藤さん
白鷹丘陵トレイルを整備するのに1年。
整備前は草が生い茂って、あるはずの登山道がわからないほどで途方に暮れることも。道がないところには、新しく道を通したりもしました。
トレイル整備はけしてひとりでできることではなく、地元の方のご協力やご理解なくしてはできません。
手を入れすぎない自然を楽しむ

撮影:筆者
白鷹トレイルはもちろん整備された道もありますが、歩きごたえのある自然そのままの道も。
編集部 大迫
しっかり作られた登山道もありましたが場所によっては、自然のままの結構厳しめの登りもありましたね。でも、自然の中に入っている感覚が楽しかったです。
トレイルを示す目印は、自然に馴染みやすく

撮影:筆者
トレイルの要所には道迷いを防いでくれるように、緑テープでも目印がされています。一般的な登山道で多いのはピンクなどの目立つ色のテープです。しかし、白鷹丘陵トレイルでは景観を崩さないため、自然に馴染む緑色のテープを採用。そして、必要以上に道を印さないようにしているとのことです。
山中のルートはもちろん、山から下りてきた集落内は道が分かりにくい区間もあるため、ガイドブックや地図アプリなどで確認しながら歩きましょう。
ガイドブックは山形市カスカワスポーツ本店、天童市マウンテンゴリラ、エイアンドエフ茂庭店で入手できます。
白鷹丘陵トレイル周辺の集落は、過疎化が進んでいるようです。
ハイカーが歩くことで地元の方との交流を増やし、地域活性化につなげたいという思いも白鷹丘陵トレイルには込められています。
ロングトレイルの本場を思わせるロゴにも注目

撮影:筆者
白鷹丘陵トレイルには、トレイルの入口や分岐点などでルートが分かりやすいように目印としてYLT(YAMAGATA LONG TRAIL)のロゴマークのプレートが設置されています。
真ん中の「T」が矢印になっていて、正面に向いていれば真っすぐ、左を向いて入れば左に曲がるということを示しています。
このYLTのロゴは、ロングトレイルの本場であるアメリカのコンチネンタル・ディバイド・トレイルのデザインを採用。
世界のトレイルを歩き回っている斉藤さんだからこそのデザインで、トレイル歩きを楽しんでほしいという思いが伝わってきます。
斉藤さん
なによりも知っていただきたいのはトレイルを歩く旅の楽しさです。
いろいろなロングトレイルを歩いてきた経験を惜しみなく注ぎ込んだ白鷹丘陵トレイルを、ぜひ歩きに来てください!
もっと白鷹丘陵トレイルのことを知りたいなら
2023年9月23日には斉藤さんと一緒にあるけるイベントも