日本にこんなところが?知る人ぞ知る「伊藤新道」
北アルプス奥地の秘湯・湯俣温泉から、黒部源流の山々を見渡せる三俣山荘へと続く、伊藤新道。
かつて、三俣蓮華小屋(現在の三俣山荘)には上高地からか烏帽子から、2日以上かけて入山するしかありませんでした。
戦後まもない1946年、三俣蓮華小屋を譲り受けた伊藤正一さんが、湯俣山荘と雲ノ平山荘を建設し、1956年に黒部の最奥地への最短ルートとして伊藤新道を独力で開拓。
戦後の登山ブームでは、1日に1000人以上の登山者が通行する人気ルートでした。
ところが、1979年に湯俣川の下流に高瀬ダムが完成した影響で地盤が緩むなどして、1983年ごろには通行困難となってしまいました。
しかし、現在、伊藤正一さんの息子で、三俣山荘のオーナーである伊藤圭さんらを中心に、伊藤新道の再興が試みられています。
ただ、伊藤新道は基本的にはバリエーションルートです。コースをよく知る登山ガイドと一緒に歩くことをおすすめします。
今回は、高瀬ダムから入山し、湯俣温泉から沢筋を登る伊藤新道の下部を少しだけ、田村さんと一緒に歩きます!

山の神に祈る
水俣川、湯俣川が交わるポイントに湯俣の神が祀られています。今回は湯俣の山の神への参拝も山伏として田村さんに案内してもらいます。
伊藤新道を目指して、高瀬ダムからスタート
長野県大町市にある七倉山荘から高瀬ダムまでは、4月中旬から11月初旬まで運行の、特定タクシーのみ入ることができます。
トンネルをいくつか抜け、積み上げられた岩石の間の急坂をくねくねと登って15分ほど走ると、高瀬ダムえん堤に到着。
高瀬ダムから1時間ほど歩くと、林道終点。さらに高瀬川沿いを湯俣まで、傾斜の少ないなだらかな道を2時間弱歩きます。
アクセスの不便さからハイカーの姿は少ないですが、明るい天然林の森、エメラルドブルーの高瀬川、花崗岩の白砂利と、静かな上高地といった雰囲気を味わえます。
北アルプスのウラを見られるコース
高瀬ダムは裏銀座縦走ルートの起点でもあり、少し歩くとこんな景色も見えてきます。
「あの山、何だかわかりますか?」といたずらっぽく尋ねてくる田村さん。

バリエーションルートの北鎌尾根には、上高地から水俣乗越経由で入る人が多いですが、北鎌尾根を味わい尽くすには湯俣側の基部から入ったほうが楽しいですよ。
北側を振り返ると、後立山連峰もきれいに見えます。
湯俣温泉に到着
森林浴を楽しみながら歩くうちに、湯俣温泉に到着。
「湯俣山荘」は伊藤新道への出発点として、1957年に伊藤正一さんによって建設されました。
現在は休業中ですが、歴史ある建物はそのままに改装をして、来夏にはリニューアルオープン予定だそう。
看板は昔から使っていたもので、雲ノ平を写した古い写真も貼られていました。
対岸にある「湯俣温泉 晴嵐荘」は現在も営業しています。かわいい足湯処でひと息。

川から湧き出る豊かな湯
現在、湯俣から登る一般登山道は竹村新道ですが、今回はここで沢の装備に替えて、湯俣川沿いを歩いて伊藤新道へと入っていきます。
高瀬川は湯俣で水俣川と湯俣川に分岐しており、水俣川が冷たい水なのに対して、湯俣川は川沿いに温泉が沸いていて、水温も少し高くなっているんです。

温泉成分が不思議な形状を作り出す
湯俣から少し進むと、右岸に白い仏塔のようなものが見えてきます。これは、国指定の天然記念物にもなっている噴湯丘(ふんとうきゅう)。
温泉の湧き出し口付近に、温泉水中の石灰質などが固まり、盛り上がってできたものです。
こんな形状が自然にできるなんて驚き!
別の場所でも噴湯丘だったところの吹き出し口にあられ石と呼ばれる粒状に固まっている状態のものも見られました。
独特な形状を作る温泉の力に驚きます。
噴湯丘を直近で見るため、途中、膝下まで沢に入って渡渉しました。
噴湯丘に行く前に登場する右岸の切り立った岸壁。よく見ると、伊藤正一さんらがダイナマイトを使って作った、登山道や鉄杭の跡が残っているのがわかります。
高瀬ダムができたことで地下水位が上昇し、渓谷周辺の岩盤がもろくなって崩落しやすくなったことや、周囲に噴気地帯が多く腐りやすかったことで、吊り橋が次々に崩壊。ついには登山道の維持が難しくなってしまったのだそうです。
今回は比較的危険の少ない地点まで登って、衝立岩あたりで引き返しました。それでも、両岸にそびえ立つ荒々しい岸壁や、巨大な岩々、美しくも激しい沢の流れは圧巻!

地球の営みのスケールの大きさに度肝を抜かれる、そういう場所です。
白装束になり山の神に参拝
田村さんには、山伏というもう一つの顔があります。山伏の白装束に着替えて、湯俣の山の神に参拝。祈りを捧げます。
「生命力」を呼び起こしてくれた山での出来事
社会人になって初めて取った長期休暇で立山に行ったとき、悪天候に見舞われて死ぬかと思った経験が、山で生きていこうと思うきっかけになったという田村さん。
当時、都会でのサラリーマン生活がうまくいっておらず、「いつ死んでもいいや」と思っていたのに、山で命の危険にさらされたとき、生きようとする自分がいた。
山が自分の生命力を呼び覚ましてくれた経験から「山岳信仰ってこういうこと?」と感じたことがきっかけになって、その後誘われて山伏修行に参加し、修験道へと入っていったのだそう。
「考える」より「感じる」に目を向けてほしい
山で修行をし祈りを捧げると、自らの感覚が「考える」から「感じる」に変わっていくと田村さんは言います。
現代は、登山やルートに対して「征服する」という気持ちで挑む人が多いですが、田村さんは山伏として、古来から日本人が山に対して持っていた「山を知りたい、わかりたい、うまく付き合いたい」という気持ちを大切にしています。

今後は、祈りを大事にする人たちで集まって、信仰登山の体験ツアーなどもしてみたいですね。
伊藤新道がガイドの自分をステップアップさせてくれた
伊藤新道には一度行ってみたいと思っていたところ、6年ほど前にテレビ番組の歩荷の仕事で訪れる機会があり、すっかりその魅力の虜になった田村さん。
実際に自分一人で歩いてみた後、伊藤新道のガイドを始め、今では晩夏に案内するメインのルートになりつつあります。
伊藤新道をガイドするようになってから、伊藤新道に行きたいお客さんを連れて、事前の練習として沢登りやバリエーションルートに行く機会も増えたそう。
それによって、登山ガイドとしての幅も広がったと言います。

自然が整備されすぎていなくて、いろんな楽しみ方ができる幅が残されているって、とても大事なことだと思います。
着用したのはスイスの復活ブランドROGER EGGER
今回田村さんが着ていたのは、スイス発の伝説的ブランド「ROGER EGGER(ロジャーエーガー)」。復活を願う声によって、2022年春夏からいよいよ本格的に再始動。
創業時のスピリットに現代のテクノロジーを融合させた、デザインと機能を兼ね備えたアウトドアウェアを展開しています。
ゼビオグループのスポーツ用品店「スーパースポーツゼビオ」や「ヴィクトリア」、「エルブレス」、オンラインショップで購入できます。
耐久撥水のソフトシェル
「BYFARDRY EX BONDINGSHELL JACKET」は、超耐久撥水の「BYFARDRY EX」を採用したソフトシェル。夏の高山では肌寒いときに羽織るジャケットとして、春・秋は行動中のアウターとして活躍します。
ストレッチ性・撥水性・通気性を兼ね備えているうえ、裏はボンディング加工により吸水加工も施しており、肌触りがいいのが嬉しい。
BYFARDRY EX ボンディングシェルジャケットを詳しく見る
肌触りのいいベースレイヤー
「VIATEX LONGSLEEVE T-SHIRTS」は老若男女を問わず着られる、汗処理機能の高いベースレイヤー。肌に接する部分が凹凸になっており、吸水した水分をすばやく発散させ濡れ戻りが少なく、肌面を常にドライに保ってくれます。
「初夏や秋の初めなど、半袖ではちょっと肌寒いときに、快適に着られそうですね」
秋冬登山にあったか小物
「SHIELD TECH NECK GAITER」は、保温性の高いネックゲイター。前面に、宇宙服にも使用されるエアロゲルを加工したシールドテックを採用しており、断熱・断冷性、軽量性、通気性に優れています。
同じくシールドテックを採用したグローブが「SHIELD TECH GLOVE」。春・秋・冬の山だけでなく、タウンでも活躍します。
今回行ったコースは…
最高点の標高: 1529 m
最低点の標高: 1276 m
累積標高(上り): 899 m
累積標高(下り): -842 m
コースの所要時間
約8時間30分(行動時間)
高瀬ダム(60分)→林道終点(110分)→湯俣温泉→山の神→噴湯丘→第1吊り橋→衝立岩→第1吊り橋→山の神→湯俣温泉(110分)→林道終点(60分)→高瀬ダム
アクセス
七倉山荘までのアクセス
公共交通機関:JR大糸線「信濃大町駅」から七倉温泉乗りあいタクシーにて七倉山荘まで約30分(七倉山荘宿泊の場合に限り利用可能。山荘に申し込み)。
クルマ:上信越自動車道 長野ICから七倉山荘まで約80分、長野自動車道 安曇野ICから七倉山荘まで約80分。
Sponsored by 株式会社マイノリティー