山岳遭難は他人事ではない

まずは山岳遭難の状況から!
平成29年の夏期(7~8月)の山岳遭難の発生件数は611人、遭難者は705人でした。都道府県別の山岳遭難件数は、アルプスや八ヶ岳といった人気山岳地を有する長野県が101件と最も多く、次いで静岡県の69件、富山県の53件でした。
年齢別山岳遭難者

態様別山岳遭難者構成比

山岳遭難の傾向とは?

山岳遭難が発生する時間帯で最も多いのは午後の2時から3時です。そして全行程の残り4分の1で発生することが多いと言われています。つまり下山での事故が多いということです。山岳遭難のパターンにはいくつかあります。
【道迷い】【気象】【転・滑落】【技術・体力・装備不足】などです。ではパターン別に、遭難が起きる傾向を見てみましょう。
道迷い遭難の傾向

低山は、道が不明確であったり、林業のための作業道があったり、地元の人の踏み跡があったり、紛らわしい作業用のピンクのテープがあったりと道に迷う要素は意外と多いです。また、日帰りだからといって、地図とコンパスを持参せずに入山する人が多い傾向にあります。
2.下り続けてしまう
迷った登山者は、刻一刻と迫る日没から気が焦り、早く下山したい、或いはせっかく下りた道を登る気になれない、下へ行けば林道につながるという考えから、下へ下へどんどん下り、結局滝や崖に阻まれ進退窮まるか、滑落してしまう傾向があります。或いは、山中をさまよっているうちに水が無くなり水を求めて沢へ下るというケースも多いようです。
3.遭難しているという自覚がない
なんとか下れるのではないかという意識があり、自分が遭難しているという考えに至らず、動き続けてしまいます。
気象遭難の傾向

山の天気は変わりやすいうえに予測が難しいです。いくら地上の天気が晴れていても山では雨の場合もあります。また、最初は晴れていたけど、次第に風雨となり、体力を奪われ身動きがとれなくなり、低体温症などで遭難に至るケースも多くあります。
2.視界不明瞭が要因
濃霧やホワイトアウトでの状況だと、道迷いにつながったり、転倒・滑落に結び付く事があります。
転・滑落遭難の傾向

北アルプスなど岩場の多い登山道で滑落するというのはよく耳にしますが、奥多摩など低山で、足を滑らせて斜面を転げ落ちたり、石や段差につまづいて転倒したりと、難易度が高い山だけではなく低山でも転・滑落が発生しています。
2.下山に多い
疲れてきて足の踏ん張りがきかなくなる事や、集中力の低下などがあげられます。
装備・技術不足による遭難傾向

特に多いのが富士登山で見かける軽装で登山をする人々。ジーンズとスニーカーというスタイルで、防寒着・雨具を持たずに登山をして、寒さで動けなくなったり、体調を崩したりする人が続出しています。また、雪があるのにアイゼンやピッケルも持たず入山してしまったり、ツェルト、ヘッドランプ、防寒具、非常食、地図、コンパスなど、いざという時に持っていないと致命的になる装備を忘れがちたったりします。
2.技術、経験不足
自分のレベル以上の山に登ってしまい身動きがとれなくなる人、登山未経験者を多く連れていき対応できなかったパーティなども遭難につながっています。
山岳遭難の対策とは? テーマ別にご紹介
道迷い遭難の対策

まず入山前に地図を確認し、山中でも、休憩時や分岐など頻繁に地図を見ることがとても大切です!地図は迷ったときに見るのではなく、頻繁に見て迷うのを防ぐのが重要です。また、スマートフォンアプリのGPSを使ったりするのもいいでしょう。
2.しっかりとした下調べ
ガイドブックやインターネットでのブログや記録、観光協会のHPなどで、事前にコースをチェックしましょう。山小屋でも登山道の状況などを教えてくれます。また、各山域の警察署ホームページで、遭難事例や危険個所を公表しているところもあるので、事前に把握しておくことも大切です。さらに、山岳遭難の事例をまとめた書籍を読むのも勉強になります。
3.登山計画書の提出
登山計画書を作成すると、コースの概要が把握できるので有効的です。また、いざという時は、捜索の手掛かりにもなるので早期発見につながります。
登山計画書の作成方法
それでも、もし道に迷ってしまったら…

あやしいと思ったら突き進まず戻りましょう。
●どんどん下るのではなく尾根に出る!
山の裾野は広大で、下っていくと沢や滝に出くわします。携帯の電波も尾根では通じることもありますが、谷に入ると電波が通じなくなります。ヘリで捜索するにも尾根の方が発見しやすいでしょう。
●むやみやたらに動きまわらない!
山中をさまよったあげく力尽きてしまう場合や、余計捜索しづらくなる場合があります。動かず落ち葉や発煙筒などで”のろし”をあげるなどの方法もあります。
●家族や警察に救助を要請する。
自分の限界が訪れる前に救助を要請して下さい。
気象遭難の対策

頻繁に天気予報をチェックしてください。特に、「ヤマテン」や「てんきとくらす」など山に特化した天気予報サイトを利用するのが有効です。
2.予備日を設ける
日帰り登山では、その日の天気が悪ければ”行かない”という選択肢もありますが、縦走登山では、行くか留まるか、またはコース変更して下山するかなど、判断するのに難しい場合があります。なので、縦走登山では無理な行動を防ぐために、予備日を設け食料も多く持参しましょう。
転・滑落遭難の対策

岩場の悪路では三点支持(両手両足のうち3ヶ所で体をささえて残りの1ヶ所だけを動かすこと)が基本です。
2.余裕を持って
前夜に寝ずに車を走らせ、仮眠をとり入山したりすると午後は、眠気と疲れで集中力が低下し、転倒・滑落にいたるケースもありますので、日程には余裕を。
3.日ごろのトレーニングを!
特に中高年登山者の転・滑落事故が多いので普段のトレーニングを心がけてください。脚力を鍛えるトレーニングをしたりバランス感覚を鍛えることも大切です。また、いきなり険しい山登りをするのではなく、まずはハイキングから足慣らしをしてきましょう。
4.ストック(トレッキングポール)を使用する
ストックを使用するのも転倒を防ぐのに効果的です。
5.しっかりとした登山靴で!
転・滑落は、険しい登山道だけではなく、落ち葉や石でスリップして滑落というケースも多いので、登山靴にも注意が必要です。足首まであり靴底もしっかりフリクションの効くタイプを選びましょう。
装備不足による遭難の対策

日帰り登山で忘れがちな装備が、ツェルト、ヘッドランプ、防寒具、非常食などがあげられます。
確かに緊急事態にしか使用しないツェルトを日帰り登山で持っていくかどうかは悩むかもしれません。しかし、ツェルトがあったがために寒さがしのげ、助かる場合もあります。しかもコンパクトで重量も1~2人用だと250gほどなので持っていく癖をつけるといいでしょう。
2.適材適所の装備で
地上は春でも、高い山ではまだ雪が多く残っていることも。アイゼンやピッケルなど必要に応じて持っていく装備を決めましょう。
楽しい登山をするために!

Safe Hiking!!
安全な登山を!!