Instagramで見かけるようになったバックパック
2021年4月頃からInstagramで見かけるようになったバックパックブランドがあります。
その名は「Vlaminck(ブラマンキ)」。
細かな違いはあるものの「ロールトップ」「背面ポケット」という特徴から、「また、近年増えている軽さ重視のバックパックができたのかな?」程度に見ていました。
その実は「質実剛健」なバックパックだった
Vlaminckの代表的なアイテムが「BLANC(ブロン)」と呼ばれる大型(60L )のバックパック。
商品を手に取る機会があり実物を見てみてビックリ!事前に想像していた「いわゆるフレームレスの軽量バックパック」とは、まったく別ものであることがわかりました。
約20kg(テント泊の荷物+多めの水)になったバックパックを背負ってテストをしたところ、その安定感に感動。フレームレスのバックパックには一見不釣り合いにも思える肉厚のショルダーベルトとヒップベルトが、しっかりとサポートしてくれました。
奇抜な見た目に目を奪われがちですが、これはなかなかの逸品。
さっそく工房にお邪魔して、ものづくりの姿勢について話を訊いてきました。
山好きの鞄職人が持つ、理想をカタチにするチカラ
Vlaminckのバックパックを作るのは、日本鞄ハンドバッグ協会認定の技能士として大手バックメーカーや鞄問屋で活躍した新屋彰平さん。
小さな頃から、アウトドア好きの家族と一緒に登山やキャンプをして過ごしてきました。
そんな新屋さんが「自分がいちばん欲しいバックパック」を追い求めてできたのがBLANC。ブランドの顔とも言えるこの商品には一体どんな機能と思いが込められているのでしょうか。
鞄職人であることへの自信と誇り
「デザイナーだったり、バックパックが作れる人がブランドを立ち上げていますが、その中に鞄職人はいなかったんです」
ブランドの特徴を伺ったときの新屋さんの言葉です。
「鞄職人」と聞いてもざっくりと「カバンを作る人」というイメージで、バッグデザイナーとの違いが明確にわからず「ブランドとしての強みになることなのか?」という印象でした。
「例えば、僕は山で感じたバックパックの不満をどういう風に作れば解決できるかが、下山するときには頭の中でわかるんです」
つまり、今自分が感じている不具合は、バックパックのどの部分が原因なのかを理解し、それをどのように作れば解消されるかの具体策がわかっているということです。
さらに、一般的なデザイナーの場合は解決策のアイディアをバッグ職人に伝えて、それをカタチにしてもらわないといけません。イメージを伝えるデザイナーとそれをカタチにする職人という二人の異なる人間がいる場合、その間で共有されるイメージが100%のカタチを目指すことはとても難しいそうです。
しかし、鞄職人である新屋さんは、自分のイメージしたアイディアを自らの手でカタチにすることが可能。それこそが鞄職人がやっているVlaminckの強みなのです。
職人に嫌がられるデザイン
元々使っていた既製品のバックパックにどうしても合わないところがあり、「鞄職人なんだし、自分で作ってしまおう」とバックパック制作を開始。
ああしたい、こうしたい、と理想を追い求めていった結果、BLANCができあがりました。
新屋さんはBLANCを背負った時の重心の位置を少しでも高くするために、ヒップベルト部分の縫いかたに強いこだわりがあります。
しかしそれは同時に、ものづくりで大事な生産性にマイナスの影響を与えてしまうものでした。
「BLANCはいざ作るとなると結構面倒な仕様になっているので、これを職人さんに依頼するとサンプル制作の段階で嫌がられると思います(笑)」
商品として生産性を上げる工夫がなされることはもちろん大切です。しかし、鞄職人である自分が作るのなら、生産性だけじゃなく背負心地にとことん工夫をすることこそ意味があると言う新屋さん。
「ヒップベルトの縫いかたに工夫をすると、だいたい3cmくらい背負い位置が上がります。その少しの差が背負心地に大きな違いを生んでくれるので、こだわりたいですね」
自分の理想をカタチにするため、とことんこだわる姿勢はガレージブランドの魅力そのもの。その結果、BLANCは生まれ、現在100名以上のオーダー待ちが出るほどの人気商品に成長しました。
「軽さ」ではなく「軽量感」が体感できる工夫
昨今の人気の軽量バックパック。荷物の重量を軽くすることが大きなポイントになっていますが、そのシンプルな作りゆえ、中には上手く使いこなせず肩に痛みを感じたり、疲れやすさの元になってしまうことも。
そこに課題を感じ、Vlaminckが作ったのがしっかりとした従来型のフレーム入りザックと軽量バックパックの両方の良さをバランス良く落とし込んだBLANCです。
バックパックそのものの軽さよりも、背負った時の軽量感のための工夫が詰まっています。