東北の山、ひと味違った魅力があります
東北の山はひと味もふた味も違うと感じます。標高はアルプスほど高くないものの、山本来の姿を残している山塊が多いからでしょうか。
特に、飯豊連峰や朝日連峰など磐梯朝日国立公園にある山脈は、懐が深く、稜線に上がればおおらかで幾重にも連なる美しい山並みを味わうことができるのです。
豪雪地ゆえの豊かな植生、豊かな水源、そして広大な眺望は、一度見れば虜になるに違いありません。
避難小屋泊は山小屋泊からのステップアップに
東北の縦走で欠かせないのが、避難小屋の存在。避難小屋というと、その言葉から想像するのは、「かろうじて一夜を過ごせるような狭くてちょっぴり怖い」。そんなイメージをもっている人もいるかもしれません。
しかし、東北の避難小屋の多くは、鉄筋造りの立派な小屋で、床はピカピカ、トイレもあり、時期によっては管理人さんがいて飲み物や食べ物を買えるところもあるのです。「あの避難小屋に泊まってみたい」と憧れて、長いアプローチを経て訪れる人もいるほど。
寝具や食事など全てが提供される山小屋には泊まったことがあるという人で、テント泊は未経験という人には、ピカピカでキレイな東北の避難小屋はステップアップとしても最適。
小屋泊装備にマット・寝袋・食事などをプラスして、快適な避難小屋に泊まってみましょう!
稜線歩きを楽しめる大朝日岳
そこで今回、避難小屋泊のデビューにピッタリな朝日連峰の主峰「大朝日岳」をご紹介します。朝日連峰は花の百名山にも選ばれるほど、森林限界ではたくさんの高山植物に出会うことができます。
雪解け後の夏には花が咲き乱れ、秋は紅葉が一面を彩ります。主峰である三角錐の大朝日岳は日本百名山のひとつです。
日本百名山のなかでもなかなかにアプローチは長いものの、コース上に危険な箇所は少なく、水場も多いため、休み休みじっくり登ることができれば達成感が得られます。
縦走となると何日もかかりますが、大朝日岳のみであれば1日6〜7時間ほどかけてじっくり登ることができ、それでいて東北の山の魅力をたっぷり味わうことのできる山です。
登るのは古寺鉱泉登山口からのコース
朝日連峰の最高峰、山脈の南端に位置する大朝日岳への入り口は、古寺登山口が人気で多くの登山者に利用されています。朝日連峰の登山口はいずれも交通手段が多くはないため、十分なリサーチをしておきましょう。
古寺登山口(朝日連峰古寺案内センター)には約200台駐車できる大きな駐車場(駐車場利用協力金1,000円)があるため、帰りの下山時間、温泉やグルメスポットに立ち寄ることなどを考えると山形駅からレンタカーを利用するのが理想的。
鉄道の場合はJR山形駅からJR左沢線で45分の左沢駅からタクシーを利用することも可能です。
標高差はあれど、登りやすい
最高点の標高: 1832 m
最低点の標高: 687 m
累積標高(上り): 2614 m
累積標高(下り): -2614 m
今回は、旧古寺鉱泉を起点に小朝日岳を越えて大朝日岳に至る水場豊富なルートを往路に選び、復路は小朝日岳から鳥原山を経て下山するたっぷり満喫コースを選びました。
初日の上りは、古寺山で景色が見え始めるまでが長いけれど、冷たくておいしい水場の水を飲みながらじっくり登ることができるのです。
小朝日岳からの稜線は絶景、大パノラマ!ピストンじゃつまらないという欲張りさんも、鳥原コースを帰りに選べば、また違った雰囲気を楽しめるはず。
今回は、実際に登った様子を紹介しながら、大朝日岳の魅力に迫ります。
麓に前泊。山行前においしいもの探し
新幹線で山形駅に到着し、“地のもの”探し。東北の魅力は山だけにあらず。東北はおいしいものがたくさん。日頃買えないグルメを物色!お酒好きは日本酒にも目が輝く……。
避難小屋では、食事は自炊が基本。ちょっと荷物が多くなるものの、好きなものを作って食べる、それもまた楽しみのひとつ。
「夜は何を食べようかな?やっぱり山形ならではのものを買って作ってみるか!」ああでもないこうでもないと言いながら、地元スーパーでの買い出しする時間もワクワク!
麓のゲストハウス、松本亭一農舎に前泊
前泊の宿に選んだのは、山麓の朝日町にあるゲストハウス。ゲストハウス松本亭一農舎は、「松本邸」として地域に知られた築100年以上の古民家を改装して生まれ変わったゲストハウスです。
町と旅人との橋渡しとなっており、大朝日岳登山の人にも多く利用されているのだとか。おしゃれさと古民家の両面を併せ持った佇まいがカッコいい!
中はなんだか実家かおじいちゃんおばあちゃん家に帰ってきたような、ほっとする畳の大広間に、日本の古き良き建築を残しつつうまくリノベーションされた空間。
ボードゲームやテレビゲーム、古書なども用意されていて、旅の出会いをきっかけに他の宿泊者と交流するのも楽しそう。もちろんWi-Fi完備でシャワーも快適。
ゲストハウスには共同キッチンがあり、炊飯器も借りられると聞いて翌日の行動食はおにぎりに決定!米どころ、東北のとびっきりおいしい新米を炊いてお弁当作り。これは元気が出るぞ!
いざ、朝日連峰の稜線を目指して
翌朝は早々に登山口に到着。古寺登山口にある朝日連峰古寺案内センターには宿泊機能もあります。
今回は、朝日連峰に魅せられた地元の山好きご夫妻、鈴木愛さん&秀和さんと一緒に山歩きをすることに。毎週のように大朝日岳に登り、地元山岳会の一員として登山道整備も行っているそうで、心強い!地元の方だからこそ知る朝日連峰の魅力を聞かせてもらいながら、いざ出発。
樹林帯の山道、気持ちがいい!
登山口からしばらくは、森の中。草木生い茂るなか、根の張る道を一歩一歩、じわじわと。木陰だから意外と暑くなく、時折遠く離れていく川の音に耳を澄ませて涼んでみたりして、森林浴を楽しみます。
初秋とは思えない暖かさだったけれど、徐々に色付き始める葉っぱに思わず見惚れて足を止めてしまいます。実は、朝日連峰の秋は、とびっきりの紅葉スポットなのです。
歩いていると「樹齢何年かな?」と思うほどの巨木がたくさん。豪雪地の厳しい寒さや風雨に耐えてきたのでしょうか。右に左に伸び、隣の樹と身を寄せ合い、朽ちているかと思いきや枝葉を伸ばす生命力に感動!力強い風貌にパワーをもらってさらに先を目指します。
水場が豊富なコース
古寺登山口から古寺山と小朝日岳を経ていくルートには、水場が3箇所。どれも冷たくて透き通った湧水は、柔らかな口当たりの軟水でとってもおいしい!食糧や寝具を持っていて荷物が多い時こそ、水場がありがたい。天然水の旨さは格別で、思わずグビグビ飲んでしまいます。
稜線に出てみたら紅葉の世界だった!
稜線に出ると、そこに現れたのは……カラフルな稜線!
古寺山から小朝日岳へ
「うしろを振り返ってみてください!」
古寺山に必死で取り付いている最中に、そう声をかけられて足を停めて振り返ると……
「わぁ!すごい!」
東北の名峰のひとつ、月山がお目見え。紅葉している姿が遠くからもはっきりわかりました。
「あれはなんだろう、蔵王かな?」
次はあの山に行きたい!なんて話しながら周りの山を見るのも、あそこから来たんだ!?と山麓を見下ろすのも、山歩きの醍醐味。
古寺山まで登ると遠くに見える三角の山。
「あれが大朝日岳かぁ!」
「残念、あれは小朝日岳!」
大朝日岳はさらにその先で、まだまだあります。ひと山でも縦走感たっぷり。この重なるような山容と連なる稜線が朝日連峰の美しさ。ほんのり色づいた山肌にうっとりします。
森の雰囲気も良かったけれど、やっぱり稜線が好き! 見晴らしの良い尾根では、なかなか足が進まないほど絶景続き。歩きやすいトレイルもうれしい。小朝日岳の登りは思いのほか急峻で、ちょっと嘆きたくなる急坂だけれど距離は短いので、一気にグィッと登ります。
広い小朝日山頂は360度パノラマ。大朝日岳がドーンと目の前に現れ、歩いてきた道のり、これから歩く道のりが一望できます。以東岳までの縦走路も見えて、朝日連峰の全貌を見渡せるスポットなのです。
小朝日岳から大朝日岳山頂避難小屋へ
ザレたトラバースに注意しつつ、最後の一踏ん張りで大朝日岳を目指します。
カエデやナナカマド、オオカメノキが色付いて、赤や黄色の鮮やかな稜線。植生が豊かだからこそ、四季を感じられるところも良いですよね。一度と言わず二度三度、いろんな季節に登りたくなるなぁ。
この日は午後から天気がやや下り坂。小朝日岳で「最高〜!」と叫んだ青空も次第に霧がかかって真っ白に。そんな時は足元の花に目をやり、黙々と歩くべし!
避難小屋に着く頃には霧が濃くなってきました。そして、霧の中にぼんやり浮かび上がる建物……。
「着いた〜!」ようやく、避難小屋に到着!小屋の前のベルを鳴らして、今日の行程は終了!ほぼ登り一辺倒、よくがんばりました。