夏山だからこそ気をつけたい!登山のハイシーズンに潜む「5つのリスク」

2021/08/04 更新

登山初心者もベテランもみんなが山へ向かう「夏山シーズン」。登山のハイシーズンとあって冬の雪山よりも気軽に登ってしまいがちですが、実は気をつけておきたいリスクも。リスクを理解して、適切な対策を取ることで避けられるものも多いので、いま一度確認しておきましょう!

制作者

登山ガイド・山伏・応急手当普及員

田村茂樹

生き方に悩んでいた自分を救ってくれたお山に恩返ししたいと登山ガイドになる。街道歩きや里山登山からバリエーションルートや雪山登山まで幅広いフィールドを案内している。山の歴史や信仰や古道、地理・地形・地質の解説が得意。

田村茂樹のプロフィール

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アイキャッチ画像出典:PIXTA

みんなが登る「夏山」は意外とリスクが多い!

撮影:筆者(夏の美ヶ原。雲の発達状況はどうだろうか)
待ちに待った夏山シーズン。「今年こそはあの山に!」と意気込んでいる人も多いことでしょう。

雪山と異なり、誰もが挑戦しているからこそ挑戦しやすい季節に思えますが、実はさまざまなリスクが潜んでいます。いまいちど、夏山で気をつけるべきポイントを確認して、夏山を楽しみましょう。

①道迷い|遭難原因の第1位。周りをよく見よう

撮影:筆者(雪渓沿いで時期によって頻繁に道筋が変わる登山道。雨で沢が増水し、霧も出て全く道が分からなくなってしまった。霧が晴れるのを待って行動した)
道迷いは遭難の原因の第1位。2位以下を大きく引き離しており、山でいちばん気をつけるべきことと言っていいかもしれません。

簡単に言ってしまえば、行くべきでない方向に進んでしまうのが原因なので、なぜそうなってしまうのかを理解することが大事です。

具体的にどんなことが考えられるか見ていきましょう。

・作業道、獣道を登山道と間違えてしまう。
・おしゃべりや障害物で分岐を見落とす。
・誤ってバリエーションルートに足を踏み入れてしまう。
・霧や日没などで周りが見えないのに無理に行動する。
・雨水の流路などが道に見えてそちらに進んでしまう。

地形図を活用して「歩くルート」を予習しておこう

まずは、足許ばかりでなく周りをよく見ながら歩くようにしましょう。自分の足許、10mくらい先、50〜100m先や周囲を交互に見ながら歩くことで、足許の安全も確保しつつ、この先の道筋も確認することができます。対向者に早めに気づいたり、崖からの落石に備えたりするためにも大事なことです。

正しい道はどちら
撮影:筆者(正しいルートは道が尾根から外れた右下。倒木で誘導しているが、尾根に踏み跡もあるためそちらに行ってしまうことも)
また、自分の行きたいルートを地図で事前に把握し、この先の道がどのようになっているか予想し、確認しながら歩くことも大事です。

たとえば上の写真のような状況。「尾根を下っていって、100mくらい下ったところで右の斜面を下りていく」と分かって歩けば、右に下りていく本来の登山道に気づきやすいですが、漫然と歩いていたら尾根をそのまま下ってしまうかもしれません。

便利なGPSアプリも活用を。ただし注意点も


出典:PIXTA
落としたり電池切れになるリスクはありますが、現在地や進むべき方向を確認するのにはスマートフォンのGPSアプリも有用です。

ただし、ストラップをつけるなど落下や紛失に備える、予備バッテリーを持つ、機内モード利用で持ち歩くなどして、緊急時の連絡などいざというときに使えるように対策を講じておきましょう。

②身体の不調|自身の「違和感」にいち早く気づこう

病気や疲労も五本の指に入る遭難の原因です。ありがちなさまざまな「不調」を見ていきましょう。

風邪や寝不足による「体調不良」


出典:PIXTA
風邪気味や寝不足で山を歩くと、すぐにバテてしまったり注意力が低下し、ケガや事故に繋がりやすくなります。特に早朝から行動を開始する登山では、車中泊や夜行バスでの移動など、睡眠不足になりがちです。
体調がすぐれない場合、途中で違和感を感じた場合には勇気を持って中止しましょう。山は逃げません。体調を整えて当日を迎えるのも登山のうちということを忘れずに。


炎天下を歩いて起こる「熱中症」

撮影:筆者
汗をかくことで猛暑でも体温が上がりすぎないように身体は自動調整していますが、その過程で水だけでなくミネラルも身体から出ていってしまうことで起こるのが「熱中症」です。限度を超えると手足がつったり痺れたり、めまいがしたり、頭痛や吐き気がしたり身体に力が入らなくなってしまいます。

ひどい場合には、汗もかけないくらいに水分が出てしまって身体がオーバーヒート状態になり、内臓に障害が出ることもあります。


出典:PIXTA
対策方法として、帽子をかぶり、水をたっぷりとるとともに、塩飴などで塩分補給もしながら歩きましょう。熱中症の症状を感じたら、日陰で休み、水をかけて仰いだりして体温を下げ、回復を待ちましょう

しばらく処置しても改善の兆しがない場合や、会話が成り立たなかったり頻繁にふらついたりするなどの神経症状が見られる場合には迷わず救助要請します。


急激な高度変化による「高山病」

撮影:筆者
3000m級の山々に行く人も多くなる夏山登山。ロープウェイや車でかなりの高度まで一気に上がれるような山では、身体があまり高度に順応していない状態で急激な運動を始めてしまうと、高山病になってしまいます。

高山病は頭痛や吐き気、動悸やめまい、脱力感などから始まって、食欲不振や睡眠障害などの症状があります。

意識や運動の障害があったり、脈や呼吸に著しい乱れがあれば重篤なため即救助要請ですが、そうでなければ安静にして様子を見ましょう。ただし、昼寝は呼吸が落ちて酸素がより欠乏するので逆効果。一晩すれば回復することもよくあります。


出典:PIXTA(会話ができるくらいのペースが「ゆっくり」です)
登山口に到着したら、荷造りやトイレ休憩などに30分くらい時間をかけ、最初の数時間はゆっくりすぎると思うくらいのペースで歩くのが予防には効果的です。水分やミネラル補給も十分にしておきましょう。




雨に濡れ、風に吹かれて起こる「低体温症」

撮影:筆者
「低体温症」というと冬だけの話と思いがちですが、夏でもしばしば起こります。

雨水が肌に長い時間接していたり風に吹かれたりしていると、あっという間に体温が下がってしまうのです。特に風の強いときには、襟元から雨が吹き込みやすく、普通に雨具を着ているだけだとすぐに雨具の内側も濡れてしまいます。雨具のフードを調整して防ぎましょう


過信禁物!体力不足などによる「疲労」


出典:PIXTA
いわゆるバテです。

トレーニング不足や体力不足、オーバーペースだったり、荷物が重かったり……と、いろんな原因で疲れて歩けなくなってしまうことはありがちです。荷物を必要最小限とする、休憩のたびにに少しずつ食べ物と水分を取り、バテないように先手を打つ。この基本が大事です。


③転倒・滑落・転落|一瞬の気の緩みでケガや要救助に!


撮影:筆者
山を歩く上で「つまづかない/滑らない」というのは、あらゆる場所で気をつけなければならないことのひとつです。

つまづいたり滑ったときにうまく足が出ないと、さらに斜面を滑ってしまったり、崖から落ちてしまったりして大事故になります。

きっかけとしては以下のようなことがありがちです。

・すれ違いや追い越しのときに接触したりバランスを崩す。
・浮き石や枯れ木を掴んだり踏んだりしてしまう。
・アイゼンを引っかけたり、靴紐を踏みつけてしまったりする。
・下山時に足の踏ん張りがきかなくなってしまったりしてスピードを出しすぎる。

適材適所の装備で万一に備えよう

撮影:筆者(ヘルメットをしているかどうかが重症と無傷の分かれ目になることもよくある)
岩稜帯などを行く場合には、万一に備えてヘルメットの着用もしておきましょう。

ストックは体重を支えるのではなく、歩行のバランスを保つためのものなので、身体を支えるような使い方はNG。岩場など両手を使う場所ではしまうのも忘れずに。

登山道具は適材適所で使うことで、安全な歩行の助けにもなり、逆の場合には妨げにもなることを覚えておきましょう。


④急な気象変化|予報だけでなく、雲や雨の変化を見逃さない

山の天気は変わりやすいです。自分が登っている場所の天気だけ見ていると、あっという間に天気が変わって窮地に陥ることがあります。

天気が移り変わってくる山の西側や日本海側、沢の中では上流の雲の変化にも注意を払い、今後の天気の変化を予測しながら行動しましょう。

風の温度変化や暗い雲が予兆の「落雷」

出典:PIXTA
夏山では午後になると積乱雲が発達しやすくなります。行動中は雲が発達していないか、暗い雲ができてきていないか意識して行動しましょう。急に冷たい風や生暖かい風が吹いたり、急に湿気た空気が流れてきたら、いよいよ雷が来るという合図です。

遠くで雷が起きている場合でも、高山の場合には横から飛んでくることがあるので油断しないように。避難場所が近くにないこともありますので雷が来る徴候を早めに発見して避難することが大切です。

もし雷雲の中に入ってしまったら、なるべく低いところで小さくなってやり過ごしましょう。30分もすればたいていの雷雲は通過するので、腹を据えて気長に通り過ぎるのを待ちましょう。

無理に通過すると流される危険もある「増水」

撮影:林真史(普段は右のような涸れ沢も左のように激流となることがある)
増水した川を無理に渡ろうとして流される事故は、梅雨から台風の時期を中心にしばしば発生しています。急峻な山では上流で大雨が降ればすぐに沢が増水してきます。

撮影:筆者(大雨の後で登山道に滝となって降り注ぐ沢水)
登山道が沢に沿っていたり、沢を横断する箇所がある場合には、行って大丈夫か、最新の現地情報を元に慎重に判断しましょう。行ってみて渡れないとなった場合は待つか引き返すかして、くれぐれも無理に渡らないように。

⑤ハチ|有毒生物による死者数NO.1

出典:PIXTA
山で気をつけなければならない動物はいくつかありますが、夏の里山では特にハチ(スズメバチ)に注意が必要です。刺されてただ痛いだけで済めばまだ良いのですが、アレルギー反応(アナフィラキシーショック)が起きてしまうと生死に関わります

実際に刺される前には周りを飛ばれるなど威嚇行動があります。この時点で気づかずにさらに巣に近づいたり振り払ったりしてしまうと攻撃されてしまいます。静かにその場を離れましょう

夏山だからこそのリスクを知って、楽しく登山を!

撮影:筆者
夏山で気をつけることをひと通り見てきましたが、いかがでしょうか。改めて見ると、どれもが特別なことではなく、注意深く行動することで回避できる可能性があるリスクです。見落としていたことがあれば、少しずつで良いのでぜひ気を配ってみてくださいね。

まずは誰もが登る夏山にもこういった「リスク」があるということを意識しましょう。繰り返し意識しながら登ることで、対策にしっかり気を配りながらも、余裕を持って周りの景色を楽しみながら登ることができるようになっていきます。そんな姿をイメージしながら、夏山シーズンを楽しんでいただけたらと思います。

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