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みんなが登る「夏山」は意外とリスクが多い!

雪山と異なり、誰もが挑戦しているからこそ挑戦しやすい季節に思えますが、実はさまざまなリスクが潜んでいます。いまいちど、夏山で気をつけるべきポイントを確認して、夏山を楽しみましょう。
①道迷い|遭難原因の第1位。周りをよく見よう

簡単に言ってしまえば、行くべきでない方向に進んでしまうのが原因なので、なぜそうなってしまうのかを理解することが大事です。
具体的にどんなことが考えられるか見ていきましょう。
・作業道、獣道を登山道と間違えてしまう。
・おしゃべりや障害物で分岐を見落とす。
・誤ってバリエーションルートに足を踏み入れてしまう。
・霧や日没などで周りが見えないのに無理に行動する。
・雨水の流路などが道に見えてそちらに進んでしまう。
地形図を活用して「歩くルート」を予習しておこう
まずは、足許ばかりでなく周りをよく見ながら歩くようにしましょう。自分の足許、10mくらい先、50〜100m先や周囲を交互に見ながら歩くことで、足許の安全も確保しつつ、この先の道筋も確認することができます。対向者に早めに気づいたり、崖からの落石に備えたりするためにも大事なことです。
また、自分の行きたいルートを地図で事前に把握し、この先の道がどのようになっているか予想し、確認しながら歩くことも大事です。
たとえば上の写真のような状況。「尾根を下っていって、100mくらい下ったところで右の斜面を下りていく」と分かって歩けば、右に下りていく本来の登山道に気づきやすいですが、漫然と歩いていたら尾根をそのまま下ってしまうかもしれません。
便利なGPSアプリも活用を。ただし注意点も

落としたり電池切れになるリスクはありますが、現在地や進むべき方向を確認するのにはスマートフォンのGPSアプリも有用です。
ただし、ストラップをつけるなど落下や紛失に備える、予備バッテリーを持つ、機内モード利用で持ち歩くなどして、緊急時の連絡などいざというときに使えるように対策を講じておきましょう。
②身体の不調|自身の「違和感」にいち早く気づこう
病気や疲労も五本の指に入る遭難の原因です。ありがちなさまざまな「不調」を見ていきましょう。風邪や寝不足による「体調不良」

風邪気味や寝不足で山を歩くと、すぐにバテてしまったり注意力が低下し、ケガや事故に繋がりやすくなります。特に早朝から行動を開始する登山では、車中泊や夜行バスでの移動など、睡眠不足になりがちです。
体調がすぐれない場合、途中で違和感を感じた場合には勇気を持って中止しましょう。山は逃げません。体調を整えて当日を迎えるのも登山のうちということを忘れずに。
炎天下を歩いて起こる「熱中症」

ひどい場合には、汗もかけないくらいに水分が出てしまって身体がオーバーヒート状態になり、内臓に障害が出ることもあります。

対策方法として、帽子をかぶり、水をたっぷりとるとともに、塩飴などで塩分補給もしながら歩きましょう。熱中症の症状を感じたら、日陰で休み、水をかけて仰いだりして体温を下げ、回復を待ちましょう。
しばらく処置しても改善の兆しがない場合や、会話が成り立たなかったり頻繁にふらついたりするなどの神経症状が見られる場合には迷わず救助要請します。
急激な高度変化による「高山病」

高山病は頭痛や吐き気、動悸やめまい、脱力感などから始まって、食欲不振や睡眠障害などの症状があります。
意識や運動の障害があったり、脈や呼吸に著しい乱れがあれば重篤なため即救助要請ですが、そうでなければ安静にして様子を見ましょう。ただし、昼寝は呼吸が落ちて酸素がより欠乏するので逆効果。一晩すれば回復することもよくあります。

登山口に到着したら、荷造りやトイレ休憩などに30分くらい時間をかけ、最初の数時間はゆっくりすぎると思うくらいのペースで歩くのが予防には効果的です。水分やミネラル補給も十分にしておきましょう。
雨に濡れ、風に吹かれて起こる「低体温症」

雨水が肌に長い時間接していたり風に吹かれたりしていると、あっという間に体温が下がってしまうのです。特に風の強いときには、襟元から雨が吹き込みやすく、普通に雨具を着ているだけだとすぐに雨具の内側も濡れてしまいます。雨具のフードを調整して防ぎましょう。
過信禁物!体力不足などによる「疲労」

いわゆるバテです。
トレーニング不足や体力不足、オーバーペースだったり、荷物が重かったり……と、いろんな原因で疲れて歩けなくなってしまうことはありがちです。荷物を必要最小限とする、休憩のたびにに少しずつ食べ物と水分を取り、バテないように先手を打つ。この基本が大事です。
③転倒・滑落・転落|一瞬の気の緩みでケガや要救助に!

山を歩く上で「つまづかない/滑らない」というのは、あらゆる場所で気をつけなければならないことのひとつです。
つまづいたり滑ったときにうまく足が出ないと、さらに斜面を滑ってしまったり、崖から落ちてしまったりして大事故になります。
きっかけとしては以下のようなことがありがちです。
・すれ違いや追い越しのときに接触したりバランスを崩す。
・浮き石や枯れ木を掴んだり踏んだりしてしまう。
・アイゼンを引っかけたり、靴紐を踏みつけてしまったりする。
・下山時に足の踏ん張りがきかなくなってしまったりしてスピードを出しすぎる。
適材適所の装備で万一に備えよう

ストックは体重を支えるのではなく、歩行のバランスを保つためのものなので、身体を支えるような使い方はNG。岩場など両手を使う場所ではしまうのも忘れずに。
登山道具は適材適所で使うことで、安全な歩行の助けにもなり、逆の場合には妨げにもなることを覚えておきましょう。
④急な気象変化|予報だけでなく、雲や雨の変化を見逃さない
山の天気は変わりやすいです。自分が登っている場所の天気だけ見ていると、あっという間に天気が変わって窮地に陥ることがあります。天気が移り変わってくる山の西側や日本海側、沢の中では上流の雲の変化にも注意を払い、今後の天気の変化を予測しながら行動しましょう。
風の温度変化や暗い雲が予兆の「落雷」

遠くで雷が起きている場合でも、高山の場合には横から飛んでくることがあるので油断しないように。避難場所が近くにないこともありますので雷が来る徴候を早めに発見して避難することが大切です。
もし雷雲の中に入ってしまったら、なるべく低いところで小さくなってやり過ごしましょう。30分もすればたいていの雷雲は通過するので、腹を据えて気長に通り過ぎるのを待ちましょう。
無理に通過すると流される危険もある「増水」


⑤ハチ|有毒生物による死者数NO.1

実際に刺される前には周りを飛ばれるなど威嚇行動があります。この時点で気づかずにさらに巣に近づいたり振り払ったりしてしまうと攻撃されてしまいます。静かにその場を離れましょう。
夏山だからこそのリスクを知って、楽しく登山を!

まずは誰もが登る夏山にもこういった「リスク」があるということを意識しましょう。繰り返し意識しながら登ることで、対策にしっかり気を配りながらも、余裕を持って周りの景色を楽しみながら登ることができるようになっていきます。そんな姿をイメージしながら、夏山シーズンを楽しんでいただけたらと思います。