1) 戸台河原~北沢峠
南アルプス林道の開通前までは、北沢峠までは戸台川の河原を歩いて行き、八丁坂を登っていました。冬に仙丈ヶ岳や甲斐駒ヶ岳に北沢峠から登ったことのある人には馴染みあるルートでしょう。
そんな冬ならではのルートと思われがちですが、実は夏もおすすめです。最初の河原歩きはじりじりと日に照らされるときもありますが、流れに足を浸して休むのも乙。
また、後半の苔むす森の歩きは人通りも少なく、癒やしの森を独り占めできます。
2) 重幸新道
八丁坂を登っていくと、北沢峠までもう一息というところに大平山荘があります。これは長衛氏の子に当たる重幸氏が建てた小屋です。今もご親族が経営されており、北沢峠の2軒の小屋と違い、昔懐かしい山小屋の雰囲気を味わえます。
ここから薮沢沿いに馬の背へと登る重幸新道は重幸氏が整備した道で、沢音を聞きながら登っていくのは夏の盛りには心地よいものです。仙丈ヶ岳に登る山を絞り、この重幸新道を利用するのもよいでしょう。
3) 丹渓新道
戸台からの登山道の途中には、今では営業していない丹渓山荘が今も残っていて、南アルプス林道ができる前の往時の雰囲気を今に伝えています。ここから馬の背ヒュッテに直接上がる丹渓新道は、丹渓山荘と馬の背ヒュッテの主であった上島四朗氏が整備した道です。
最も忘れられているといってよい道ですが、実に静かな南アルプスらしい山登りを味わえる名ルート。
ちなみに、戸台川の支流の尾勝谷を詰めて馬の背に上がる道が昔はあり、古くは高遠藩の山中検分(藩有林の盗伐がないか、隣接藩との境界に異常がないかを見回る仕事)でも歩かれていたようですが、戦中くらいの時期には廃道になっていたようです。
4) 地蔵尾根
地元の人以外には昔からあまり歩かれていなかったようですが、南アルプスらしいといえば、地蔵尾根も外せません。途中の松峰小屋(避難小屋)は管理が行き届いていてとても居心地が良いですし、水場も近くにあります。筆者は冬の時期にしか歩いたことはないのですが、夏は苔むしたシラビソ林を緩やかに時間をかけて登っていける道ということです。
ちなみに、登山口は一ノ瀬から少し上がった柏木という集落で、駐車スペースもあります。
「定番」と違う道を歩いてみませんか
登りたい山がたくさんある中では、せっかく日数があるならば少しでも多くの山に登りたい気持ちもよく分かります。ですが、ひとつの山に時間をかけるのも思い出深い山登りとなり、これも捨てがたいもの。
昨今では林道やロープウェイが通じて、そこまでの登山道はなくなってしまった山も少なくないですが、戸台河原の道にしても地蔵尾根の道にしても、里から歩いていける登山道がここには今も残っており、日本の山の持っている本当の奥深さや大きさを味わわせてくれます。
日本の山にとって大変貴重な財産と言えるでしょう。少しでも多くの人が歩いてくれれば、それがそのまま登山道の維持に繋がります。みなさんも今年の夏にぜひ歩いてみませんか。
生い立ちを知れば山登りがもっと面白くなる!
仙丈ヶ岳の生い立ち、いかがでしたか。
「そうだったんだ!」
「へぇ!」
「行ってみようっ!」
そんな声が聞けたらとても嬉しいです。
そんな生い立ちをたどる旅、次回は八ヶ岳の天狗岳をお届けします。