何回も登ってるんだから、遭難するわけないっ!
とある山に50回ほど登っているA男さん。地図も把握していて、景色もある程度見ればわかる。だから彼はいうんです。
「絶対に迷うはずがない」と。
ただそんな彼が
初ルートへ挑戦する時、地図も準備していたにもかかわらず、道を間違えて自分の居場所がわからなくなってしまいました。
彼が遭難してしまった理由は何だったのでしょうか。
それは
自分の感覚を頼りに歩いてしまったこと。地図を見るだけで、判断しているつもりになっていたのです。
これはあくまでも仮想のお話。ただ、もしかしたら明日は我が身かもしれません!
「自分は大丈夫」は、大丈夫じゃないかも
山の経験値が高くなればなるほど、知識や自信がついていきます。「自分は大丈夫」と思っていても、もしかしたらそれって慢心かも……。どんなに準備をしていても、遭難は誰にでも起こりうることなのです。
今回インタビューした平田さん(仮名)は、登山歴15年。日本だけでなく海外の未踏峰にも挑戦している登山者です。そんな彼が当日判断を誤り、遭難してしまいました。
平田さんはどんな対策をしていたら、よかったのでしょうか。当日の状況とともに、「遭難のリスクを最小限に抑える」ために実行するようになったことを伺いました。
馴染みのある山だから。「迷う」なんて思ってもいなかった
彼の登山計画は、半年間準備をしていた「奥利根〜丹後山〜十字峡」の沢登りルート。利根川の源流を登るバリエーションルートで、奥深い谷間からスタートします。同行者も登山キャリアが長く、信頼あるバディだったとのこと。山域自体は20回以上経験していましたが、このルートは初の挑戦だったそうです。
「ちょっとした油断」は、なぜ起きてしまったのでしょうか。
遭難した原因は何でしたか?
平田さん:分岐で道を間違えたことです。
同行者の「こっちだね」という言葉に疑いを持たず、自分も誤った選択をしてしまいました。お互い経験と信頼がある分、「この人が間違えるわけない」と思ったんです。
もちろん地図とコンパスで方向確認を随時していました。ただ今思うと「大丈夫だろう」という慢心により、「確実に判断すること」が疎かになってしまっていたんだと思います。
携帯にGPSアプリを入れていましたが、上手く座標をキャッチできていなかったので、確認をせずザックに入れっぱなしでした。そのため、正しいと思い込んだまま誤った道へ進んでいってしまったんです。
1番に考えたのは家族のこと。2番目に仕事のこと。
見晴らしのいい尾根まで登ると、想定とは180度異なる景色が広がっていたそうです。そこでようやく自分が遭難したことに気づいた、という平田さん。
救助を呼ぼうにも電波がない。そんな状況のなかで、同行者とともに冷静に状況を整理して、最前の策を考えました。その時の心情と対応について伺います。
自分が遭難したとわかった時、どんなことを考えましたか?
平田さん:家族のことや仕事に迷惑をかけたらどうしようという思いがずっとありました。不思議と自分のことではなく、周りの人のことを考えてしまうんです。
ただそうすると、「すぐに家へ帰るため」が先行して、ついムリな判断をしてしまいそうに。的確な判断ができないと思ったので、ただ自分が生きて帰ることだけに集中しました。
具体的にどんな行動をとりましたか?
平田さん:その日下山口に迎えを呼んでいたので、その人が救助を呼んでくれると思いました。そのため、見晴らしのいい尾根に宿泊。ただ翌日になっても救助がこなくて、このままでは水不足になると判断し、来た道を戻ることにしたんです。ある程度現在地がわかり、ロープやハーネスなどでの登攀経験のあるメンバーだったので、そう判断しました。
平田さん:すると最初の誤った分岐あたりで、救助のヘリが来てくれたんです。驚きとともになぜこんな谷間で発見できたんだろうと疑問でした。
「ヒトココ(※ココヘリ の旧名称)持っていますよね!?」と救助隊の方にいわれてハッとしたんです、これのおかげだったのかと。
事前に家族へ山岳捜索サービスであるココヘリのIDと下山予定日を伝えていたので、いち早く救助の連絡をしてくれていたんです。何かあったときのお守として身につけていましたが、まさかこれに助けられるとは。
「本当に見つかるんだ」という感動と救助隊が来てくれたことに対しての安堵の気持ち、そして迷惑をかけてしまって申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。
家族も随時連絡を受けていたようで、状況を確認できて安心できたそうです。本当に持っていてよかったと心から思いました。