なんと過去30年間で起きた190もの雪崩事故に関する調査結果を収録。通常、雪崩に関する本といえば知識や対処法などに関する教科書的な本が多いのですが、今回は国内で初の雪崩事例集となります。
この本を刊行した理由、そして、雪山に向かう登山者にこそ知っておいてほしいことを著者であり日本雪崩ネットワークの理事でもある出川あずささんにインタビューしました。
※日本雪崩ネットワーク・・・雪崩教育と雪崩情報、そして雪崩事故の調査などを行っている専門団体

『雪崩事例集190』とはどんな本?
まずは今回出版された『雪崩事故事例集190』について。内容は、冒頭に雪崩事故の傾向と特徴、その後は雪崩の事故事例が収録されています。
実は雪崩死亡者数のナンバー1は登山者。その理由は?

雪崩による死者で最も多いのは「登山者」

際立つ登山者のビーコン不携帯

この他にも、発生した雪崩の種類や発生したエリアの集計など、参考になる情報がたくさん。上記のデータから気になるのは登山者の雪崩対策装備の不携帯や死者数の割合の高さ。雪崩事故は雪山に登る以上は他人事ではないのです。
では私たちのような雪山登山をする人はどのようなことを学んでいけば良いでしょうか。
雪崩教育は「事例に始まり、事例に終わる」
雪崩に関する書籍といえば、一般的には弱層テストや救助の方法、ビーコンの使い方などをまとめた教科書的な書籍が多いイメージですが、この本はあくまで事例に特化しています。その理由は本のイントロダクションにありました。雪崩教育は「事例に始まり、事例に終わる」と表現されます。
実はこれまで日本の雪崩事故の事例は登山者や滑走者向けに整理されたものがありませんでした。
「ないのであれば作ろう」ということで、過去のデータの収集確認に始まり、雪崩被害者や関係者への取材、さらに日本雪崩ネットワーク会員が日々、集積している山岳積雪コンディションの情報、場合によっては事故現場での現地調査も行い、この本がまとめられました。
まさに緻密な情報収集の集大成なのです。
とはいえ、データ集としての色が強いこちらの本は、従来の雪崩教本とは大きく異なります。どうして事例だけに絞ったのか、また、どのように活用していけばいいかを出川さんへ取材してみました。
雪崩事故は「他者を批判する道具」ではない
事故が起きるまでは誰にも積雪の状態は「完全」にはわかりません。それなのに人は事故という結果に対して「起こるべくして起こった」と思い込み、それを支持する証拠のみを後付で考えていきます。
これは「後知恵バイアス」と呼ばれる考える際の一種のクセです。これに陥りますと、事故から適切な教訓を得ることができません。
青柳
青柳
実際、雪崩を起こすにいたるまでにどこかで誤った判断があると思うのですが、どのようなパターンが多いのでしょう?
数多くの正しい判断に潜む「たったひとつのミス」
最終的にたったひとつの判断ミスで雪崩を起こしてしまったというパターンもしばしばあります。
青柳
青柳
事故の詳細を知ることは自分が雪崩を回避する最大の学びにつながります。
雪崩事故は「他者を批判する道具」ではありません。
雪山初心者がこのデータを活用するには?

事故事例のページは気象と積雪の情報や被害者がとった行動、救助方法などが、項目ごとにきれいに整理されています。ただ、我流で学んできた人や雪山初心者がこれをいきなり全部理解するのはやや大変な印象も……。
全部を一気に理解することは難しいとしても、雪山初心者が特に読んでおくべき箇所はどこでしょうか。

また「捜索救助」を読むことで、雪崩捜索の現場の状況や装備の重要性についても理解することができると思います。
それ以外の情報は徐々に学んで理解できればいいでしょう。
「登山者は経験を積みにくい」という落とし穴
本の冒頭にある「雪崩死亡事故の傾向と特徴」を見ていると雪崩による死者は滑走者よりも登山者が多いというデータがありました。なぜこういった傾向が見られるのでしょう青柳

つまり、登山者はそもそも雪山登山の中で雪崩に関連する経験を積みにくいということなんです。
青柳
やはりビーコンは持ったほうがいいの?

青柳
その上で誰でも事故を起こす可能性がある。これを理解できれば「携帯しよう」という考えになるのではないでしょうか。
青柳
使う機会は少ないかも知れませんが、それがなければ、事故が発生したとき、現場では何もできないのですから。
雪崩に対する知識を正しく学ぶためにできること
今回の取材で特に気になったのは「登山者ほど雪崩に対して地形の考え方を学ぶキッカケが乏しい」ということ。雪山のルートは夏山とは違い、雪崩の可能性が低いルートを地形から探りつつ、さらに雪のコンディションを見て進む総合的な判断力が必要です。しかしその判断を正しく下せる自信のある人はそういないのではないでしょうか。
毎日雪山に行っている人ならまだしも、年に数回しか雪山に行かない人が今から行く山のコンディションまで把握するのは難しいものがあります。

サイトには山の標高ごとに3つのゾーンに分けて危険度や行動時の助言を日々更新。行動をする上での重要な判断材料になるので必ず確認するようにしましょう。
もし書籍の内容やこれらコンディションに関する情報について理解したり判断することが難しいと感じている人は無料セミナー「アバランチナイト」に参加してみるのがおすすめ。

なお、今シーズンのセミナーはすべて受付を終了。次の秋冬の開催に向けてチェックしておきましょう。
日本雪崩ネットワーク・セミナー(アバランチナイト)
より良い教育を受け、本に掲載されている事例から正しい判断を紡ぎ出すことが、雪山登山のステップアップにつながります。
雪山と夏山はまったく条件が異なります。フィールドにあった知識を正しく身につけて雪山登山を楽しみましょう!