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完全に市民権を得たチェーンスパイク

私の記憶では、7~8年ほど前までは「軽アイゼン」が主流でしたが、その後、着脱が簡単で軽量、足運びも楽なチェーンスパイクが徐々に広がりを見せ、現在では軽アイゼンよりも一般的になってきています。

足袋を履くようにつま先(トー)を挿入し、踵(ヒール)部分のエラストマーを両手で引っ張って装着するのが、一般的な登山用チェーンスパイクです。

これまで、どのメーカーからもトレランシューズに特化し、ランニングも想定したチェーンスパイクは出ていないはず。一般的なチェーンスパイクと比較し、どのような違いがあるのか一緒に見ていきましょう!
Black Diamondの「ディスタンススパイク トラクションディバイス」の特長
雪の侵入をシャットアウトするソフトシェル製トーカバー
これがBD製「ディスタンススパイク トラクションディバイス(以下、ディスタンススパイク)」。パッと見て気づく一般的なチェーンスパイクとの違いは、トー部分のアッパー素材。ディスタンススパイクは、ソフトシェルとエラストマーを組み合わせたハイブリッドアッパーとなっています。

これについては、実際のレビュー時にもう少し触れますね。
なお、トレランシューズにゴアテックス仕様が少ない理由は、運動量が多いトレイルランニングでは足裏に汗をかきやすく、かつ登山と比較し着地衝撃が強いため、蒸れによる水膨れや皮めくれなど故障の誘発リスクがあるため。このリスクを低減することを目的とし、通気性の良い生地・構造となっているのです。
ブレードの数は14本、レイアウトにも工夫あり!

ディスタンススパイクはブレード数の多さに加え先端にフロントポイント(〇部分)を有し、より雪面でのトラクション(推進力)を得られる仕様になっています。
またフロント部のレイアウトは楕円状になっており、トレラン独特のフォアフット着地+着地時のインパクトでも前後に広く面で捉えられるよう、設計に盛り込まれていることが伺えます。

どちらも同じ5本刃ですが、ディスタンススパイクは比較的中央寄りにレイアウトされていることがわかります。一見するとリア部も後方にレイアウトされていた方が良さそうですが……

上のフォトは、私が雪上でのラン&ハイク向けに使用しているトレランシューズですが、ソール全体がゆったりとアーチを描いています。
このようなトレランシューズの場合、リアブレードが後方にレイアウトされていると、フラットフッティング時におけるヒール部分の雪面へのグリップ力が低下する可能性があります。つまり同じ5本ブレードでも実際のグリップ力に差が出てくることが想像できます。
トレランシューズのシェイプやデザインは様々ですので、こういった設計配慮は多様なシューズへの適応性を高めてくれそうです。
ブレード長は控え目。その狙いは……
今回実測した一般的なチェーンスパイクのブレード長は約11.5mmに対し、ディスタンススパイクは14本すべて8mm設計。これは露出した岩場やガレ場などでの安定性を想定しているのだろうと推察されます。念のためにメーカーに確認を取ってみると、ガレ場などでの安定性向上に加え、必要十分なトラクションを得ると同時に、より自然な足裏感覚を実現するために、最適なブレード長として8mmを採用したとのこと。
開発には、マウンテンアスリートであるジョー・グラントとカイル・リチャードソンが関与しているため、実際のフィールドテストからの判断なのだと思われます。
ウェビングループで着脱が楽!
ヒール部に大きめのウェビングループが装備されています。これにより、トー部分を挿入したあとは、片手の親指か人差し指をウェビングループに引っ掛け、ヒールに向けてグッと引っ張るだけで装着が可能。雪用の分厚いグローブだったとしても、輪っかサイズは指を挿入するのに充分なため、とてもありがたい設計です。通常はエラストマーのヒール部分を両手で引っ張って装着しないといけませんからね。か、軽い……!!
持った瞬間、「軽っ!」と衝撃を受けました。
片足分での実測重量、ディスタンススパイク=約116g(サイズ=L)、他社品=約178g、中国品=約194gと圧倒的な軽さです。
両足セットとなるとその重さの違いは顕著に。手で持っても足に装着した状態でも気づくことができるほどの差異となります。

こうして細部を見てみると、パッと見よりも深い設計思想が隠れていることを実感するに至りました。これは雪山で楽しく遊べそうですよ!
いざ雪山へ遊びに行こう!
まずは装着した感じは……

装着感はとても軽量で装着しているのを自覚できないほど自然。ウェビングループのおかげで簡単に装着できます。トーカバーのフィット感がすごい。
ブレードのレイアウトは安心感をくれる
シューズ裏全体にバランス良くブレードが配置され、かつ14本のブレードで安心感があります。

キックステップにソフトシェル製トーカバーが大活躍!
急斜面の登りでは、つま先を蹴り込む「キックステップ」を使用しますが、この時、トー部分は雪中に。やはり大役立ちなのはソフトシェル製トーカバー。 蹴り込んだ後、次のステップですぐに雪が落ちます。

ランニング時もほぼ重さを感じない!


ただ、今回のように雪のコンディションが良い場合でのグリップ力に関しては、顕著な差異を感じ取ることは難しそうです。
アイスバーン化したトレイルでの能力は未知数

トレランシューズ+一般的なチェーンスパイクで臨みましたが、標高が低めのゾーンでは、三寒四温で融雪し凍ることを繰り返し、トレイル表層は硬い氷に覆われたアイスバーン/スケートリンク化しており、こちらのチェーンスパイクではまったく歯が立ちませんでした。(特に復路の下りにて)

ただし、ディスタンススパイクはブレードが全体的に小粒で尖形状となっているため、硬い氷の表層への食いつきも良いのでは…という印象を持っています。

未検証項目はあるものの、全体的にとても優等生でやはり「軽さは正義!」。 とっても楽に足運びができますよ!念のためザックに忍ばせておけば、いざという時の安全をくれるはずです。
また、一般的なチェーンスパイクと比較し、耐雪対策や軽量化、ブレードのレイアウトなど、トレランシューズに特化した設計が盛り込まれていることは特筆すべきことでしょう。最後に……チェーンスパイクはシーンに応じて選びましょう!

昨今は低山・里山では、走らない登山であってもトレランシューズを着用するハイカーもかなり多くなりました。
1,500m級の里山では融雪も進み、登山靴かトレランシューズか迷うような時期ですが、万が一の雪上ハイクでも、トーカバーのある「ディスタンススパイク」なら安心感が増しますよね。

間違ってもピッケル+12本刃アイゼンが必要なところへチェーンスパイクで出掛けたりせず、適切な装備で安全に雪山をエンジョイしましょう!
それでは皆さま、どうぞ良いスノーハイクを!
Black Diamond 「ディスタンススパイク トラクションディバイス」
Black Diamond ディスタンススパイク トラクションディバイス
素材:ソフトシェル、エラストマー、ステンレススチール
サイズ:S、M、L、XL
重量:S=110g、M=115g、L=120g、XL=125g (片側)
サイズ:S、M、L、XL
重量:S=110g、M=115g、L=120g、XL=125g (片側)
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