【レビュー】雪上でもトレランシューズでラン&ハイクしたい人の強い味方!ブラックダイヤモンドの『ディスタンススパイク』

2021/03/16 更新

登山道の凍結時に活躍するチェーンスパイク。低山・里山などで、雪でもトレランシューズを履いて登山したい、またはランニングしたいという人向けに、<ブラックダイヤモンド>からは、トレラン専用のチェーンスパイク『ディスタンススパイク トラクションディバイス』が発売されています。一般的なチェーンスパイクとどう違うのでしょうか。実際に雪山で試したインプレッションをお届けします。


アイキャッチ画像撮影:筆者同行者

完全に市民権を得たチェーンスパイク

撮影:三宅 雅也
積雪期の低山・里山のお手軽ハイクや、天候が安定してくる残雪期のアルプスなど、アイゼンが不要な適応シーンにおいて、「チェーンスパイク」は今や多くのハイカーが着用しており、完全に市民権を得ました。

私の記憶では、7~8年ほど前までは「軽アイゼン」が主流でしたが、その後、着脱が簡単で軽量、足運びも楽なチェーンスパイクが徐々に広がりを見せ、現在では軽アイゼンよりも一般的になってきています。

撮影:三宅 雅也(2015年5月1日@燕岳にて)
チェーンとブレード以外のアッパー部分は、写真のようにエラストマー(ゴムのような弾性があり、プラスチックのように成形できる素材)でできており、およそ10本程度のブレードがついています。

足袋を履くようにつま先(トー)を挿入し、踵(ヒール)部分のエラストマーを両手で引っ張って装着するのが、一般的な登山用チェーンスパイクです。

撮影:筆者同行者
今回レビューするBlack Diamond(以下BD)のディスタンススパイクは、「冬場のランニングで優れた走破性を発揮するトレランシューズ用チェーンスパイク」とメーカーウェブサイトでうたわれています。

これまで、どのメーカーからもトレランシューズに特化し、ランニングも想定したチェーンスパイクは出ていないはず。一般的なチェーンスパイクと比較し、どのような違いがあるのか一緒に見ていきましょう!

Black Diamondの『ディスタンススパイク トラクションディバイス』の特長

雪の侵入をシャットアウトするソフトシェル製トーカバー

提供:LOST ARROW
これがBD製「ディスタンススパイク トラクションディバイス(以下、ディスタンススパイク)」。

パッと見て気づく一般的なチェーンスパイクとの違いは、トー部分のアッパー素材。ディスタンススパイクは、ソフトシェルとエラストマーを組み合わせたハイブリッドアッパーとなっています。

撮影:三宅 雅也(一般的なチェンースパイク[右]はつま先部分の多くが露出している)
かたや一般的なチェーンスパイクは、トー部分のエラストマーが軽量化のためトリミングされています。これは登山靴では特に問題ないのですが、トレランシューズの多くはゴアテックスではないため、雪に触れると内部が濡れやすく冷たさに襲われてしまうのです。このトーカバーはその点を対策しています。
これについては、実際のレビュー時にもう少し触れますね。

なお、トレランシューズにゴアテックス仕様が少ない理由は、運動量が多いトレイルランニングでは足裏に汗をかきやすく、かつ登山と比較し着地衝撃が強いため、蒸れによる水膨れや皮めくれなど故障の誘発リスクがあるため。このリスクを低減することを目的とし、通気性の良い生地・構造となっているのです。

ブレードの数は14本、レイアウトにも工夫あり!

撮影:三宅 雅也(ディスタンススパイクは14本/一般的な登山用チェーンスパイクは10本)
装着したシューズ裏の状態です。左のディスタンススパイクのブレード本数は14本(フロント9本+リア5本)、右の一般的なチェーンスパイクは10本(フロント8本+リア2本)。

ディスタンススパイクはブレード数の多さに加え先端にフロントポイント(部分)を有し、より雪面でのトラクション(推進力)を得られる仕様になっています。

またフロント部のレイアウトは楕円状になっており、トレラン独特のフォアフット着地+着地時のインパクトでも前後に広く面で捉えられるよう、設計に盛り込まれていることが伺えます。

撮影:三宅 雅也(右は中国製ノンブランド17本刃品)
リア部においては、参考として自身で保有する別の登山用チェーンスパイク(中国製ノンブランド品)のレイアウトと比較してみました。

どちらも同じ5本刃ですが、ディスタンススパイクは比較的中央寄りにレイアウトされていることがわかります。一見するとリア部も後方にレイアウトされていた方が良さそうですが……

撮影:三宅 雅也(La Sportiva Crossover 2.0 GTX/チェーンスパイク位置イメージ)
横から見ることでその理由が推察できました。それは、登山靴とトレランシューズでのソール形状の差にありそうです。

上のフォトは、私が雪上でのラン&ハイク向けに使用しているトレランシューズですが、ソール全体がゆったりとアーチを描いています

このようなトレランシューズの場合、リアブレードが後方にレイアウトされていると、フラットフッティング時におけるヒール部分の雪面へのグリップ力が低下する可能性があります。つまり同じ5本ブレードでも実際のグリップ力に差が出てくることが想像できます。

トレランシューズのシェイプやデザインは様々ですので、こういった設計配慮は多様なシューズへの適応性を高めてくれそうです。

ブレード長は控え目。その狙いは……

撮影:三宅 雅也([右]一般的なチェーンスパイク)
今回実測した一般的なチェーンスパイクのブレード長は約11.5mmに対し、ディスタンススパイクは14本すべて8mm設計。これは露出した岩場やガレ場などでの安定性を想定しているのだろうと推察されます。

念のためにメーカーに確認を取ってみると、ガレ場などでの安定性向上に加え、必要十分なトラクションを得ると同時に、より自然な足裏感覚を実現するために、最適なブレード長として8mmを採用したとのこと。

開発には、マウンテンアスリートであるジョー・グラントとカイル・リチャードソンが関与しているため、実際のフィールドテストからの判断なのだと思われます。

ウェビングループで着脱が楽!

撮影:三宅 雅也
ヒール部に大きめのウェビングループが装備されています。これにより、トー部分を挿入したあとは、片手の親指か人差し指をウェビングループに引っ掛け、ヒールに向けてグッと引っ張るだけで装着が可能。雪用の分厚いグローブだったとしても、輪っかサイズは指を挿入するのに充分なため、とてもありがたい設計です。通常はエラストマーのヒール部分を両手で引っ張って装着しないといけませんからね。

か、軽い……!!


撮影:三宅 雅也(1枚目:ディスタンススパイク、2枚目:一般的なチェーンスパイク、3枚目:中国製ノンブランドのチェーンスパイク)
持った瞬間、「軽っ!」と衝撃を受けました。
片足分での実測重量、ディスタンススパイク=約116g(サイズ=L)、他社品=約178g、中国品=約194gと圧倒的な軽さです。


撮影:三宅 雅也(1枚目:ディスタンススパイク、2枚目:一般的なチェーンスパイク、3枚目:中国製ノンブランドのチェーンスパイク)
両足セットとなるとその重さの違いは顕著に。手で持っても足に装着した状態でも気づくことができるほどの差異となります。

撮影:三宅 雅也
軽量化を実現しているのは、トーアッパー部分のソフトシェル化、および、チェーンサイズを小型化していることにありそうです。しかも、小型環状で連結させることで、チェーンひとつひとつへの負荷を分散・低減させ、耐久性向上への効果も狙いにあるよう。

こうして細部を見てみると、パッと見よりも深い設計思想が隠れていることを実感するに至りました。これは雪山で楽しく遊べそうですよ!

いざ雪山へ遊びに行こう!

まずは装着した感じは……

撮影:筆者同行者(肉厚なエラストマーがトー部分にないため見た目もすっきり)
2月某日、風速20M前後の風が吹き荒むなかレビューに行ってきました。

装着感はとても軽量で装着しているのを自覚できないほど自然。ウェビングループのおかげで簡単に装着できます。トーカバーのフィット感がすごい。

ブレードのレイアウトは安心感をくれる


撮影:筆者同行者(ブラックダイヤモンド / ディスタンススパイク)
シューズ裏全体にバランス良くブレードが配置され、かつ14本のブレードで安心感があります。

撮影:筆者同行者(一般的なチェーンスパイク)
一般的なチェーンスパイクでは、ヒール部分にほとんどブレードがないため、少し心許なさを感じます。特に下りのフラットフッティング時やヒールキック時にはグリップ力に差が出そうな感じですね。

キックステップにソフトシェル製トーカバーが大活躍!



 
撮影:三宅 雅也(アプリで測定したところ斜度は約37°)
急斜面の登りでは、つま先を蹴り込む「キックステップ」を使用しますが、この時、トー部分は雪中に。やはり大役立ちなのはソフトシェル製トーカバー。 蹴り込んだ後、次のステップですぐに雪が落ちます。

撮影:三宅 雅也
登山靴を想定したチェーンスパイクでは、エラストマー製トーカバーのトリミング部分に雪が入りこむことで徐々に冷たさを感じてきました。(登山靴では問題ありません)

ランニング時もほぼ重さを感じない!

running_flat
撮影:筆者同行者
まずはフラットな雪上を走ってみましたが、充分なグリップ力を実現しつつも、装着している重さを感じにくい。ここ数年よく使用している中国品はかなり重さを感じますので、このBD製ディスタンススパイクでは軽快な足運びを楽しめます。これはスノーハイクでも同様です。

running_down
撮影:筆者同行者
下りでもヒールキックとフラットフッティングを織り交ぜ、軽快な足運びが楽しめます。
ただ、今回のように雪のコンディションが良い場合でのグリップ力に関しては、顕著な差異を感じ取ることは難しそうです。

アイスバーン化したトレイルでの能力は未知数

撮影:三宅 雅也(氷が硬くグリップが利かずツルツルとよく滑る)
フォトは2018年3月18日、夜叉神峠から鳳凰山へスピードハイクした時のものです。

トレランシューズ+一般的なチェーンスパイクで臨みましたが、標高が低めのゾーンでは、三寒四温で融雪し凍ることを繰り返し、トレイル表層は硬い氷に覆われたアイスバーン/スケートリンク化しており、こちらのチェーンスパイクではまったく歯が立ちませんでした。(特に復路の下りにて)

撮影:三宅 雅也(今回は腐った雪と露出した岩のミックス程度)
残念ながら今回の検証では、そのような箇所はありませんでしたので未検証のまま。

ただし、ディスタンススパイクはブレードが全体的に小粒で尖形状となっているため、硬い氷の表層への食いつきも良いのでは…という印象を持っています。

撮影:筆者同行者
未検証項目はあるものの、全体的にとても優等生でやはり「軽さは正義!」。 とっても楽に足運びができますよ!念のためザックに忍ばせておけば、いざという時の安全をくれるはずです。
また、一般的なチェーンスパイクと比較し、耐雪対策や軽量化、ブレードのレイアウトなど、トレランシューズに特化した設計が盛り込まれていることは特筆すべきことでしょう。

最後に……チェーンスパイクはシーンに応じて選びましょう!

撮影:三宅 雅也(アイゼン&ピッケルはBD品を長らく愛用)
Black Diamondは、本格雪山登山向け12本刃・10本刃アイゼン(クランポン)も数多く設計しているため、それら培った技術をベースに、もっとお手軽なところで使え、トレイルランに特化しつつも幅広い層に役立つチェーンスパイクとしてディスタンススパイクを開発した印象。

昨今は低山・里山では、走らない登山であってもトレランシューズを着用するハイカーもかなり多くなりました。
1,500m級の里山では融雪も進み、登山靴かトレランシューズか迷うような時期ですが、万が一の雪上ハイクでも、トーカバーのある「ディスタンススパイク」なら安心感が増しますよね。

撮影:三宅 雅也(厳冬期の宝剣岳ピークから千畳敷カールを望む)
ただし、トレランシューズや登山靴×チェーンスパイクの組み合わせは、時期や山、積雪状況によって適切に選定しなければなりません。


撮影:三宅 雅也(積雪期の西穂高岳)
間違ってもピッケル+12本刃アイゼンが必要なところへチェーンスパイクで出掛けたりせず、適切な装備で安全に雪山をエンジョイしましょう!

それでは皆さま、どうぞ良いスノーハイクを!

Black Diamond  『ディスタンススパイク トラクションディバイス』
ITEM
Black Diamond ディスタンススパイク トラクションディバイス
素材:ソフトシェル、エラストマー、ステンレススチール
サイズ:S、M、L、XL
重量:S=110g、M=115g、L=120g、XL=125g (片側)



紹介されたアイテム

Black Diamond ディスタンス…

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ブラックダイヤモンド ディスタンススパイク トラクションディバイス
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三宅 雅也

長野県自然保護レンジャー、山岳ライター。 アルプスを中心に、トレランから厳冬期登山まで幅広く活動。 鷲羽-水晶-赤牛岳、槍ヶ岳~笠ヶ岳、荒川三山、中央アルプス主峰全山など、ロング日帰りのスピードハイクを得意とする。 また、キャンピングカーにて、登山と旅を掛け合わせた「外遊び人生漫遊術」を構築中。 スピードハイクの詳細はこちら! ウェブサイトはこちら

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