アイキャッチ画像撮影:washio daisuke
コンパスを持っては行くけど…ザックへ入れっぱなしになってない?
撮影:washio daisuke(地図はニーズに合わせてさまざまな種類がある一方、コンパスは…?)
安全登山には欠かせないアイテムとされている、地図とコンパス。用意はしたものの「使い方がよくわからない…」、そんな理由でザックの中へ入れたままになっていませんか?いざという時に使えなければ、持っていても意味がない!
そこで今回は登山者Aさんと共にワンパスワークを学んでいきましょう。
撮影:washio daisuke・イラストの出典:
いらすとや 会社の同僚を登山に連れて行くことになったAさん。これまで、地形図から実際の地形を把握するコツやコンパスを使うための磁北線の引き方、登山前に地図を見てリスクを想定する机上登山の大切さを学んできました。
しかし、まだまだコンパスに対しては苦手意識をぬぐいきれていないようです。
地図を広げてコースタイムや場所を確認することはあっても、コンパスを取り出して何かをしたことってないんです。
たしかに登山教室などで習う機会も限られるし、今までも使わなかったのなら必要性もあまり感じないよね。
でもせっかく地形図に磁北線も記入したんだし、コンパスの使い方もマスターしてみようよ!
そうか…磁北線の記入はコンパスを使うための作業でしたもんね!
今回はコンパスを使ってできる
・地図上の方向と実際の方向を一致させる
・目的地や目標物の方向を把握する
・現在地がどこなのかを把握する
3つのテクニックを紹介していくよ。
いざという時の救世主!目的地や現在地がわかるようになる

撮影:washio daisuke(どっちに行けばいい…?そもそも今どこにいる…?)
まずは、コンパスを使ってできる3つのことをおさらい!
①目的地の方角がわかる(どちらに行けば良いか)
②目標物の方角がわかる(あれは地図上の何か)
③現在地の位置がわかる(今どこにいるか)
実際にどんな場面で役立つのか、詳しく見ていきましょう。
①目的地の方角がわかる(どちらに行けば良いか)

撮影:washio daisuke(いわゆる“ホワイトアウト”の状態でも目的地の方角が把握できる!)
景色が見えない状況でも、コンパスを使えば「進むべき方角」を正しく把握できるようになります。
たとえば雪山で一帯がホワイトアウトになり、方向がわからなくなってしまった時でも、正確な道を導き出すことが可能なのです。
②目標物の方角がわかる(あれは地図上の何か)

撮影:washio daisuke(奥に見える尖った山が、地図上では何岳かわかる!)
地図とコンパスにより、実際の景色で見える目標物が「地図上の何なのか」が特定できます。見渡す山並から“あれは何山?”がわかると、登山の楽しみも倍増。また道迷いの防止にもつながります。
③現在地の位置がわかる(今どこにいるか)

撮影:washio daisuke(山頂などの目立つランドマークから、今自分がどのあたりまで進んでいるかがわかる!)
山名が特定できる特徴ある山頂や、山小屋・電波塔などのランドマークを頼りにコンパスを使えば「自分が地図上の中のどこにいるか」がわかります。ペース配分や道迷い防止にも使えるテクニックです。
コンパスの使い方をマスターしておくと、いざというときに大活躍!まずは基本をチェックしていきましょう。
自分と地図の方向を合わせる!まずは整置テクニックをマスター

撮影:washio daisuke(地図の方向と実際の方向を一致させるのが「整置(正置)」)
コンパスの基本は、「整置=せいち」(正置と記述されることもある)という、地図上の方向と実際の方向を一致させるテクニックです。
たとえば真上が北になっている地図上で、登山口のバス停から右上方向に目的地への登山道が伸びている場合。自分が南を向いていて、そのまま地図通り右前方に進んだら目的地と逆方向に進んでしまい、道を誤って進んでしまう可能性が…。
登山口や分岐では、まずこの整置をしてから行動することで、道間違い防止につながります。
さっそく整置してみよう!

撮影:washio daisuke(登山道の分岐する場所で正しいルートへ進むためにも有効!)
コンパスの基本動作となる整置テクニックに挑戦。
▼整置の2ステップ
①コンパスの進行線と地図の磁北線が平行になるように、地図の上にコンパスを置く
②磁北の方角を向いている回転盤矢印と磁針が平行になるように、地図を回す
各項目詳しくみていきましょう!

撮影・作成:washio daisuke
この時のポイントは…
・ベースプレートの長辺(へり)と記入した磁北線が平行になるようにコンパスを置く→進行線も磁北と平行になる
・回転盤矢印は進行線と同じ真上を指した状態にしておく→回転盤矢印も進行線を同じく磁北と平行になる
のふたつ。

撮影・作成:washio daisuke
磁針の赤い方と回転盤矢印が重なるまで、自分が回るんだ。
地図だけを回す方法もあるんだけど、最初のうちは自分が回るとわかりやすいよ。
ぐるっと…重なりました!これが地図と実際の方向が一致している状態なんですね。
これだけでも「どちらに進めば良い?」や「あの山は何?」の答えを大まかに知れるんだ。
でもせっかくだからほかのテクニックも紹介していくよ。
どっちに行けばいい?あの山は何?をコンパスで解決

撮影:washio daisuke(あの湖は地図上のどこだろう?)
まず紹介するのは…
現在地はわかっているけれど…
・現在地はわかるけど、進むべき道がわからない時
もしくは
・現在地はわかるけど、見えている景色が地図上の何かわからない時
という2パターン。それぞれのポイントをみていきましょう。
現在地はわかるけど、進むべき方向がわからない時
たとえば大菩薩嶺をめざして雷岩まで来たけれど、周囲が濃霧に覆われていた場合。コンパスを使って進む方角を導き出してみましょう。
▼進む方向を導き出すコンパス3ステップ
①現在地と目的地がベースプレートの長辺で結べるように、地図の上にコンパスを置く
②回転盤矢印と磁北線が平行になるように、回転盤を回す
③コンパスを地図から離して、回転盤矢印と磁針が重なるまで自分が回る

撮影・作成:washio daisuke
まず、ベースプレートの長辺(縁)で地図上の現在地である雷岩と、目的地である大菩薩嶺を結ぶ。
この時、コンパスの進行線は必ず現在地→目的地の方向になっているようにしてね。

撮影・作成:washio daisuke
次にベースプレートは動かさないまま、回転盤矢印と地図に記入した磁北線が平行になるまで回転盤を回す。

撮影・作成:washio daisuke
進行線が正面を向くようにコンパスだけを持って、回転盤矢印と磁針が重なるまで自分が回る。
重なった時点で進行線の指す方角が、雷岩からの大菩薩嶺への正しい方向だよ。
なるほど、これなら視界が悪い時でも地図とコンパスがあれば正しい方向に進めて安心ですね。
現在地はわかるけど、見えている景色が地図上の何かわからない時
たとえば、雷岩から景色を見渡した時に「あれは何山だろう?」と地図を見てもわからない場合、地図上の山を特定するテクニック(いわゆる山座同定)を紹介していきます。
▼景色と地図を一致させるコンパス3ステップ
①コンパスの進行線を目標物にまっすぐ向ける
②回転盤矢印と磁針が平行になるように、回転盤を回す
③コンパスを地図の上に、回転盤矢印と磁北線が平行になる&ベースプレートの長辺(へり)が現在地と重なるように置く

撮影・作成:washio daisuke
まずは特定したい目標物(=山)に、コンパスのベースプレートの進行線をまっすぐ向ける。
ちなみにこの時に限らず、山でコンパスを操作する時はベースプレートが地面と水平になるようにしてね。

撮影・作成:washio daisuke
次にベースプレートの進行線を目標物にまっすぐ向けたまま、回転盤矢印が磁針と重なるまで回転盤を回す。

撮影・作成:washio daisuke
地図の上にコンパスを…
・記入した磁北線と回転盤矢印が平行になるように
・ベースプレートの長辺(縁)が現在地に重なるように
置く。

撮影・作成:washio daisuke
この時、現在地からベースプレートの長辺(縁)に沿って進む直線上にあるのが、お目当ての目標物(=山)になるという訳。
現在地がわからない!そんな緊急時にも安心のテクニック

撮影:washio daisuke(今いる場所はどこだろう?)
次に紹介するのは…
名前や場所が特定できるランドマークは見えるけど…
・現在地の場所がわからない
というケースでのコンパスワーク。地図とコンパスで現在地が特定できれば、スマホのバッテリー切れなどでGPSアプリが使えない状況でも安心ですよね。

撮影・作成:washio daisuke(大菩薩湖をランドマークにしてみよう)
たとえば、大菩薩嶺から大菩薩峠への稜線を歩いていて、今どのあたりだろうと思った時に現在地を特定するテクニックはこちら。
▼現在地を特定する3ステップ
①コンパスの進行線を目標物にまっすぐ向ける
②回転盤矢印と磁針が平行になるように、回転盤を回す
③コンパスを地図の上に、回転盤矢印と磁北線が平行になる&ベースプレートの長辺(へり)が目標物と重なるように置く

撮影・作成:washio daisuke
まずは、ベースプレートの進行線をランドマークである大菩薩湖にまっすぐ向ける。
写真だと少し左にずれちゃってるけど…まあこれは誤差の範囲内かな。

撮影・作成:washio daisuke
次にベースプレートの進行線をランドマークである大菩薩湖にまっすぐ向けたまま、回転盤矢印が磁針と重なるまで回転盤を回す。

撮影・作成:washio daisuke
地図の上にコンパスを…
・記入した磁北線と回転盤矢印が平行になるように
・ベースプレートの長辺(縁)がランドマークに重なるように
置く。

撮影・作成:washio daisuke
この時、ランドマークからベースプレートの長辺(縁)に沿って戻る直線上のどこかが、現在地になるという訳。
あとは地形図に描かれた等高線と自分のいる地形から特定するしかないね。
ただし、ランドマークがふたつあればより正確になる。
ランドマークがふたつある場合

撮影・作成:washio daisuke(ふたつめのランドマークは福ちゃん荘)
あの森の中に屋根が見えるよね。
あれは唐松尾根コースと大菩薩峠コースの分岐にある山小屋・福ちゃん荘。

撮影・作成:washio daisuke
方法はさっきと同じ。
ベースプレートの進行線をランドマークである福ちゃん荘にまっすぐ向ける。
これも写真だと少し右にずれちゃってるね…でもこれも誤差の範囲内。

撮影・作成:washio daisuke
続いて、ベースプレートの進行線をランドマークである福ちゃん荘にまっすぐ向けたまま、回転盤矢印が磁針と重なるまで回転盤を回す。

撮影・作成:washio daisuke
地図の上にコンパスを…
・記入した磁北線と回転盤矢印が平行になるように
・ベースプレートの長辺(縁)がランドマークに重なるように
置く。

撮影・作成:washio daisuke
この時も、ランドマークからベースプレートの長辺(縁)に沿って戻る直線上のどこかが、現在地になるという訳。
そして、さっきの大菩薩湖からの直線も加えると…こうなる。

撮影・作成:washio daisuke
なるほど!
直線の交差場所が現在地という訳ですね。
ただし、多少の誤差は生じる。
これも、地形図に描かれた等高線と自分のいる地形から補正して欲しい。
上の図でも交差した場所は実際にいる尾根から少しだけ左下にずれているから、実際には交差した場所の至近の尾根が現在地になる。
仕組みを覚えられれば簡単!“角度の差”で地図と景色が一致する

撮影:washio daisuke(ベースプレート付コンパスの役目とは…)
ここまでさまざまなコンパスの使い方を説明して来ましたが、実は原理は同じ。「目的地・目標物・ランドマーク」と「磁北」の間に生じる“角度の差”を計測しているのです。
山座同定をたとえに、その仕組みを解説していきます。





磁北と目標物の方角との角度の差から、地図上の山を特定できることがわかります。目的地確認や現在地確認も原理は一緒。この仕組みさえ覚えられれば、コンパスワークもよりスピーディーにこなせるようになりますよ。
コンパスを活用して、より安全で楽しい登山を楽しんでくださいね!
身近な場所で練習しよう!公園散策しながらコンパスワーク

撮影:washio daisuke(まずは身近な場所で練習してみよう)
ここまでご紹介してきたコンパスの使い方ですが、いきなり山で実践するのは不安…。そんな人は、事前に安全が担保されている街中で練習をしておくと安心です。
今回は、今までの復習をしながら、Aさんの会社にほど近い「光が丘公園(東京都練馬区・板橋区)」で、実践してみました。
地図上の方向から実際の目的地の方向を把握してみよう

撮影・作成:washio daisuke
今いるのは公園西側の入口。
では、体育館はどちらの方向かな。

撮影・作成:washio daisuke
えっと…。
①まず現在地と目的地をベースプレートの長辺(縁)で結ぶ
②次に回転盤矢印が磁北線と平行になるように回転盤を回す
こうですね。

撮影・作成:washio daisuke
③回転盤矢印と磁針が重なるまで回る
そして進行線の指す方向が、体育館ですね!
実際の目標物が地図上の何なのかを把握してみよう

撮影・作成:washio daisuke
無事に体育館に到着。
では、あそこに見える煙突は地図上のどこ(何)かわかるかな。

撮影・作成:washio daisuke
①まずベースプレートの進行線を煙突に向かってまっすぐ向ける
②次に回転盤矢印が磁針と重なるように回転盤を回す

撮影・作成:washio daisuke
③地図の上にコンパスを…
・記入した磁北線と回転盤矢印が平行になるように
・ベースプレートの長辺(縁)が現在地の体育館に重なるように
置くと、体育館とベースプレートの長辺で結ばれたこの建物が、煙突のある清掃工場ですね!
ふたつのランドマークから地図上の現在地を把握してみよう

撮影・作成:washio daisuke
体育館から少し移動。
では最後に、左に見える病院と右に見える煙突をランドマークに、現在地を特定してみよう。

撮影・作成:washio daisuke
①まずベースプレートの進行線を病院に向かってまっすぐ向ける
②次に回転盤矢印が磁針と重なるように回転盤を回す

撮影・作成:washio daisuke
③地図の上にコンパスを…
・記入した磁北線と回転盤矢印が平行になるように
・ベースプレートの長辺(縁)が目標物の病院に重なるように
置く。

撮影・作成:washio daisuke
撮影・作成:washio daisuke
煙突に対しても、さっきの病院と同じことをやると…。

撮影・作成:washio daisuke
ベースプレートの長辺(縁)が、それぞれ病院と煙突に重なるようにコンパスを置いた時の、直線の交差する場所が、現在地という訳ですね。
ばっちりだね!
実際の現在地は★印の場所なんだけど、この程度の誤差はどうしても出てくる。
周りの景色や地形を頼りに、その誤差を補正するのもコンパスワークには大切なんだ。
でもなるべく誤差は少ない方がいいですよね。
練習を重ねて、精度を高めよう。
それはとてもいいことだよ!
精度が高まれば、より正しい“角度”を計測できる。
“角度を正しく計測すること”が、コンパスワークのキモなんだ。
コンパスワークは、街の中でも体験可能。普段から練習をして、慣れておくことでいざという時に安心です。何度も繰り返しながら、習得していきましょう。
地図読みは実際にやることが大切です!講習会への参加もオススメ
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