【ガイド監修】雪山に行くなら覚えておきたい!もしもの時に備えた「雪洞」の作り方

2021/02/05 更新

その日のうちには目的地の山小屋や下山口に辿り着けなさそう、というときために是非とも覚えておいていただきたいのが、なんとかして一夜を明かすビバーク技術。雪の多い山の場合には雪洞の方がかなり暖かく、外が大荒れでも全く気がつかないほど安心して一夜を過ごすことができます。慣れてくれば、雪洞を掘ることを前提にテントを持たずに登ることもできるようになります。雪山をより安心して登れるように、この機会にぜひ身につけてみましょう。


山でアクシデント発生!

撮影:筆者
その日のうちには目的地の山小屋や下山口に辿り着けなさそう・・・。そんなときのために是非とも覚えておいていただきたいのが「ビバーク」、つまりはなんとかして一夜を明かす心得です。
ツェルトという簡易テントを張って一夜をしのぐ方法が万能ではありますが、雪の多い山の場合には「雪洞」を掘るのも有効。ただツェルトを張るのよりもかなり暖かく、外が大荒れでも全く気がつかないほど安心して一夜を過ごすことができます。
雪山をより安心して登れるように、この機会にぜひ身につけてみましょう。

雪洞のカタチは2つのパターン

雪洞には大きく分けると2つの形があります。
雪洞って聞いたことはあるけどイメージが湧かない…そんな方のためにまずは簡単にイラストで説明します。

竪穴式

比較的平坦な場所に真下方向に雪を掘って作る雪洞です。簡単に言ってしまえば「底を平らにした穴」と言ってもよいでしょう。

雪洞 竪穴式
作成:橋爪勇志
雪原だったらこのように掘るしかありませんが、掘った雪を外に運び出すのが大変で掘りにくく、冷気も下に溜まってしまい、次に挙げる横穴式と比べると寒いです。

ただ、樹林帯の場合には、ツリーホールを広げることで楽に作ることはできます。ツリーホールとは、木の周りにできている空洞のこと。木の周りは少しは暖かいので、体力の余裕が少ないときにはこちらを選ぶのも状況によってはありでしょう。

横穴式

斜面を利用して、横に雪を掘り進めて作る雪洞。

雪洞 横穴式
作成:橋爪勇志
適当な斜面があれば、こちらの方が掘りやすいですし、暖かいです。
この記事では、竪穴式に比べて掘りやすい、こちらの雪洞を中心に説明していきます。

雪洞掘りに必要な「装備」

撮影:筆者
作り方の手順を説明する前に、まずは雪洞を作る時の服装・道具を紹介します。
外側には雨具または冬用のアウターウェアを着て、できるだけ濡れないようにしましょう。特に手はかなり濡れるので、中綿つき、またはインナーを入れたゴム手袋がおすすめ。
足回りはもちろん長靴や冬用の登山靴を履き、雪が入ってこないように裾を絞っておくのも大事です。

撮影:筆者
雪洞を掘るのに使う道具を並べてみました。上から順に説明していきましょう。
ツェルト外の冷たい空気が入ってこないように、中の暖かい空気が逃げないように、雪洞の入り口をふさぐのに使います。雪洞が掘れない状況でもビバークするのに欠かせない装備です。
ショベルこれがないと雪を掘れません。雪山ではいざという時のために必ず持っていきたい装備です。登山用品店で売っているものは軽く折りたたみもでき、持ち運びしやすいのでおすすめ。

(スノーソー)
固くしまった雪を掘り進められるよう、雪に切れ目を入れるために使います。低木が生えている深さまで雪を掘っていくと雪洞内に飛び出した枝を切る必要が出てくるので、その枝も切れるように、雪だけしか切れないモデルではなく、鋸刃のついたものが便利です。登山用品でなくても、普通の鋸で十分です。
プローブ
(ゾンデ)
雪洞を掘るのに十分な深さの雪があるか、雪の深さを測るのに使います。

一番オススメ!「横穴式雪洞」の掘り方

では、横穴式雪洞を実際に掘ってみましょう。

撮影:筆者(今回はここに掘ります。実際の山なら雪崩のリスクを疑う雪面の状況ですが、撮影の都合上、除雪でできた雪の山の一部に作ることにしました。雪面の状況はそんな事情によるものなのでご了承ください。)
居心地の良い雪洞を掘ろうと思うと、慣れていても1時間くらいかかりますし、実際にビバークするときにはご飯を食べたり寝る準備をしたりまだまだやることがたくさん残っています。
体力の余裕を残して早めにビバークする決断をすることをお忘れなく。これはどんな泊まり方をするにしてもとても大事なことです。

①場所選び

撮影:筆者(今回はちょっと浅めの積雪深ですが、ひとり用の最低限の大きさならば問題ありません。)
斜度がある程度ある斜面の方が掘った雪を捨てやすいため、掘りやすいです。プローブで積雪深を確認して、目的の大きさが掘れるか確認しましょう。だいたい2mあれば安心して掘れます。雪崩のリスクのない場所かどうかも忘れずに確認しましょう。
撮影:筆者(掘り進めた雪洞を外から見たところ。掘っていくとこのように雪が溜まってしまいます。斜面に作るとこの雪を捨てるのが楽で良いです)

②入口を掘る

撮影:筆者
撮影:筆者
どんな風に掘るかおおよその目安を雪面につけ、入口の部分を掘ります。

③掘り広げる

撮影:筆者(部屋を掘り広げて行きます。切羽詰まったビバークの時にはこれくらい掘ってツェルトで入口を塞ぐだけでも十分。)
十分な壁や天井の厚みが確保できるところまで掘ったら、中に部屋ができるように掘り広げていきます。

壁や天井の厚さは、外の光が透けて見えない程度にしましょう。もし天井を薄くしすぎてしまったら、雪を天井に押しつけて補強しましょう(さらさらの雪だとできないので注意)。

④最後に一工夫

撮影:筆者(ほぼできあがった雪洞)
雪洞の中に人が入り、ちょっとした煮炊きをしたりすると、雪洞の壁が融けてきます。このときに天井がでこぼこしていると、出っ張ったところから溶けた水が垂れてきます。これを防いで、壁に沿って水が流れていくように、できるだけ天井をショベルやコッヘルで細かく削って平らにします。ウェアを着た背中で押してならすのもよいです。
写真のように部屋の部分は出入り口から一段あげておくのも大事なポイントで、冷気が部屋に溜まりにくくなります。靴を履くなどの作業もしやすくなります。

撮影:筆者
最後に入口を雪のブロックやツェルトで塞いで、冷たい風が流れ込まないように、暖かい空気が外に逃げないようにしましょう。


覚えておきたい、掘るときの”コツ”

使わない道具は雪に立てておく

撮影:筆者
雪の上では、物を不用意に置くと埋もれて分からなくなってしまったり、雪面を滑り落ちていったりすることがよくあります。雪面に刺さるものは刺して立てておく、そうでないものは雪面を踏み固めたりシャベルで掘ったりして平らなところを作り、そこに置きましょう。

雪はブロックのまま掘り出す

撮影:筆者
雪は積もった形のまま掘り出す方が手間がかかりません。バラバラに崩れてしまうと体積も増えてしまい一度にすくえません。写真の例では、向こう側にショベルで切れ目を入れ、横側に切れ目を入れ、最後にすくい取っています。
撮影:筆者(すくい取った雪の塊)

ショベルの歯が立たないときは鋸で切れ目を入れる

撮影:筆者
深く掘っていくと雪が締まっていてショベルの刃が立たないことがよくあります。そんなときには鋸で切れ目を入れてからショベルで掘ると、塊のまま掘り出すことができます。

大きな雪洞を掘るときはツェルトなどで掘った雪を運び出す

大きな雪洞を掘るときには掘る場所と出入り口が離れてしまうので、できるだけ掘った雪をまとめて運び出した方が効率的です。ツェルトなどに乗せて運ぶとよいです。

雪洞で注意しておきたい事

換気口を作る、目印を立てる、入口を塞ぐ

撮影:筆者(雪洞の上に木の枝で×印を作りました。赤布など目立つものをつければより良いです。)
寝ている間に酸欠や一酸化炭素中毒にならないように、念のため、木の枝などで換気口を開けておきましょう。
また、スキーや山登りで下って来た人が知らずに雪洞の上に乗らないように、雪洞の上に目印(あるいは障害物)を立てておきましょう。

雪洞暮らしで気をつけること

撮影:由井義仲
・万万が一、雪洞が潰れたりして閉じ込められたときのために、スコップは必ず雪洞の中に入れて過ごしましょう。
・酸欠や一酸化炭素中毒のリスクを避けるため、また屋根から水が垂れてきて装備が濡れないように、荒れていてとてもではないが外では炊事できないというとき以外はなるべく外で煮炊きしましょう。中でやる場合もなるべく出口付近でやると良いです。

撤収するときはショベルで雪洞をつぶしましょう

撮影:筆者(雪洞を潰した後の雪面)
無事に一夜を過ごした雪洞を後にするのは名残惜しいですが、雪洞を潰しましょう。そのままにしておくと、雪洞の出口側に大きな段差が残ってしまい、特にスキー・スノーボーダーにとって危険です。
また、雪洞の空洞は雪がだんだん融けてきたときに天然の落とし穴になってしまいます。後で通る人の安全も考えて後始末しましょう。

練習すれば1時間ほど!万が一に備えて練習してみましょう

撮影:筆者
雪洞は練習すれば、ひとり用なら1時間あれば掘れます。予め雪洞泊で山行を計画して、テントを持たず軽量化することもできます。
また物置の棚を作ったり土間を作ったり、自分の好みに自分の一夜の「家」を作る楽しみも。時期によってはクリスマスやお正月の飾りで彩るのも乙ですね。
まずは練習がてら、雪洞を掘って泊まることだけを目的に一夜を楽しんでみるとよいでしょう。

雪の山の楽しみと自由を広げてくれて、万が一の時にはお世話になるかもしれない雪洞、この冬に挑戦してみてはいかがでしょうか。
※未経験者だけでの雪洞泊チャレンジは危険なので、経験者と一緒に挑戦するか、いつでも中断できる状況で行ってください。

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田村茂樹

登山ガイド/山伏。生き方に悩んでいた自分を救ってくれたお山に恩返ししたいと登山ガイドになる。日本の登山のルーツである信仰登山を再び日本によみがえらせることを夢見ている。大学で地学の研究をしていたため、地質や地形の解説も得意。https://www.tam-mountainguide.com/

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