質実剛健、丈夫さが必要な機能である山道具。だからこそ発売から10年以上も経つ道具や、10年以上問題なく使い続けられる定番の山道具があります。
そんな山道具の中から、ライターPONCHOが愛用してきたモノを紹介。
今回は第6回、購入してから25年目にして初めてアウトソールを張り替え、一生モノになりつつある『ダナーライトⅡ』について。
初めて憧れを抱いた道具
アウトドアに興味を持った10代後半、雑誌で見た一足のブーツが無性に欲しくなったことを、今でも覚えています。
1979年に、世界で初めて防水透湿素材GORE-TEXを採用した靴。MADE in U.S.A.のハンドメイド。そのアメリカではバックパッキングブーツの定番として評判。防水フルグレインレザー、そして化繊ながら風合いを感じさせるコーデュラナイロンを組み合わせたアッパーは、自然の風景によく馴染むものに感じられました。
元々ワークブーツを手掛けていたブランド故に、登山靴とは一線を画すデザイン。それがバックパッキングブーツ、『ダナーライト』でした。
購入したのはヌバックアッパーの『ダナーライトⅡ』
現在6万円もする『ダナーライト』は、当時は3万5000円ほど。しかし10代の私には、高価で手を伸ばせるものではありませんでした。ようやく手に入れたのは、その存在を知ってから8年が経った1996年。
前年に日本で新発売され、アッパー素材を起毛素材のヌバックに変更、コーデュラナイロンと組み合わせた『ダナーライトⅡ』でした。
フィールドには『ダナーライト』を愛用する人が多くいましたが、発売されたばかりの『ダナーライトⅡ』は、まだ少数。なにより『ダナーライトⅡ』の濃い茶カラーが、薄い茶の『ダナーライト』よりも山に似合うように思えたのです。
山で履けるのか、履いていいのか
バックパッキングブーツとして日本に紹介された『ダナーライトⅡ』。
しかし、それは登山靴とは認められず、しかもファッションアイテムとして流行ったこともあり、アウトドア用ではあるけれど、山で履くブーツではないと言われたこともありました。
当時は軽量なトレッキングブーツが浸透しはじめたばかり。低山でも、ゴツい登山靴を履くハイカーがまだ多くいた時代でした。
私の登山スタイル、好きな山では問題なし!

でも、バックパッキングに出掛けるアメリカのゆるやかな勾配の山であっても、山は山。
バックパッキングに使えて登山に使えないはずがないと、高尾から試し、奥多摩を歩き、奥秩父に入り、南八ヶ岳を縦走。少しずつ、試すように『ダナーライトⅡ』で山を歩いてみました。
結果、私が好きな山、フィールド、登り方では、なんの問題もありませんでした。
今、振り返れば、それらの山域に加えて夏山ならアルプスでも、さらにソフトで軽量なローカットのトレイルランニングシューズで歩いたり走ったりしているので、当然の結果です。
道具をカラダに合わせ、カラダを道具に合わせる

ソールが柔らかく、重い荷物を背負う登山向きではないかも…と思うなら、足にダメージが残らないように背負う荷物を軽くしたり、ソールが硬い登山靴とは歩き方を変えて、靴と足と相談しながら前に進んでいけばよい。
バックパックもそうですが、トレッキングブーツという道具は、カラダ、そして足と常に相談しながら使うもの。
進むほどにフィット感を変えたり歩き方を変えて、道具をカラダに合わせ、カラダを道具に合わせることで、道具の機能性とカラダの可能性を引き出し、引き上げられるものだと思うんです。
インソールを装備していないけれど、歩行感はソフト

また『ダナーライト』、『ダナーライトⅡ』は、ブーツ内にインソールを装備していません。そのため「クッション性やフィット性に欠け、長時間の歩行には向いてない」と評されることもありました。
けれどもそもそもインソールは、ひとつの木型で大量生産した靴を、多くの人にフィットさせるために使われるようになったパーツです。だから、履く人の足に合わせたオーダーやセミオーダーの登山靴には、インソールを装備していないモデルも存在します。
インソールのない『ダナーライトⅡ』は、オーダー、セミオーダーの靴ではありませんが、それでもアッパーは履くほどに足に馴染み、シューレースでフィット感を細かく調整して履けば、長時間歩いても不具合を感じたことがありません。
クッション性についても、インソールがないので、足を入れると足裏に硬さを感じますが、登山靴同様にEVA製のミッドソールのクッションが歩く際に機能を発揮。歩行感は思った以上にソフト。ソフトですが、ゴツゴツとした岩場のトレイルでは、突き上げを和らげてくれるハードさも備えています。
しかも重量は見た目よりも軽く、私が履いている27cmで実測780g。当時の軽量トレッキングブーツと同等です。
ソフトさ、軽さゆえに、街でも履けます。アウトドアファッションにもよく似合い、いつでも、どこに行くにも履ける、履きたくなる、私の定番靴として長く愛用するものとなりました。
厳禁のはずのオイルフィニッシュ
さて、履きはじめて15年経った頃、アッパーの起毛素材のヌバックが、どんなに手入れをしても劣化が目立つようになりました。
ちょうどその時、取材で訪れたセミオーダーのアウトドアブーツを手掛けるショップで、起毛素材の風合いを損なうから厳禁だとされていたミンクオイルを塗ったブーツを発見しました。
モノとしての輝きが蘇った!
確かに起毛素材らしさはまるで失われてしまいますが、表革とも異なるオイルフィニッシュされたヌバックのブーツの独特の雰囲気に、私の『ダナーライトⅡ』も、ミンクオイルを塗って磨けば、似た雰囲気になるかもしれないと試してみました。
すると、厳禁だとされていたことは、なんだったのだろうか?と思えるほど、モノとしての輝きが蘇りました。山を歩いてできたつま先の傷も、オイルを塗ると、傷が“味”へと昇華しました。起毛素材の風合いはなくなり、オリジナルとは表情はガラっと変わりますが、むしろオイルを塗った後の方が、道具としての美しさは増しました。
当たり前だと考えられていることは、そのことに囚われず、時に失敗することもあるかもしれませんが、自分なりに試してみる方がよい。
オイルフィニッシュして、私のオリジナルとなった『ダナーライトⅡ』に、そう教わりました。
25年目にして初めてアウトソール交換
20年目を迎えた頃になると、アウトソールのすり減りが目立つようになりました。
しかし、その頃の『ダナーライトⅡ』は、山でも街でもローカットのトレイルランニングシューズを履くようになっていた私にとって、たまに履く、昔の靴。だから、「アウトソールを交換しなきゃ」と思いながら、靴箱に長く眠らせてしまっていました。
それが今年、コロナの影響で山に行けなくなり、山やアウトドアの道具を改めてメンテナンスしたり、不要なものを処分。
久しぶりに『ダナーライトⅡ』も靴箱から取り出し、オイルを塗り、磨いている時、ふと「この機会を逃したら、たぶんもう二度と履かない靴にしてしまうかもしれない・・・」と感じ、すぐにアウトソールの交換をすることにしました。
購入時に輸入販売していたダナージャパンという会社はなくなり、現在では小売りのABCマートが正規代理店。調べてみるとアウトソールの張り替えには、1~2ヶ月掛かると、ホームページに書かれていました。
履く機会が迫っていた訳ではないので、そこにお願いしてもよかったのですが、ダナー他、ワークブーツやスニーカーのソール交換も手掛け、ホームページやSNSにアップされた画像を見ると、間違いのない仕事をしてくれそうだと目を付けていたお店に、お願いしました。
自宅から近く、靴を修理してくれる職人さんと直接やりとりしてから、依頼したかったことも理由のひとつです。
修理を終えたブーツは、またどこかへ行こうと語りかけてきた
お店は、千葉県・船橋市にある「ららぽーとTOKYO-BAY」の東急ハンズ内にある靴の修理店『クツショウテン』。
『ダナーライトⅡ』を持って行き、状態を見てもらうと、アウトソールに加えてミッドソールの作成も必要。期間は2週間、料金は、合わせて14,839円。その価格で買えるトレイルランニングシューズやトレッキングブーツもあります。
ありますが、この『ダナーライトⅡ』を買うことはできません。
修理を終えた『ダナーライトⅡ』は、職人さんとの話し合いで、純正のクレッターリフトというアウトソールから、シエラというよりソフトな履き心地と強度を併せ持つものに変更。
これまで以上に誇らしさを纏い、「さぁ、またどこかに行こうよ」と語りかけているようでした。
試し履きをしてみると、メンテナンス、そして修理をしながら、長くひとつの道具を使うことの充足感に満たされました。
そして伊豆大島・三原山ハイクへ
「ソールを張り替えながら履けば、一生モノとして使える」。25年前、そう雑誌に書かれていた言葉の意味を、ようやく理解しました。
思えば、この25年間で使い古し、ソールをすり減らし、アッパーや履き口が破け、気に入っていたのに履けなくなり、廃棄したトレッキングブーツやトレイルランニングシューズは、20足余りになります。その中で唯一、手元に残ったのが『ダナーライトⅡ』です。
このバックパッキングブーツの機能性を再び確かめられ、そして『ダナーライトⅡ』が似合う山はどこか?
選んだ山は、砂礫のトレイルが続く、伊豆大島・三原山です。
地球の躍動を感じられる三原山の雄大な風景を眺めながら、ゆっくりと噛みしめるように歩くのに、『ダナーライトⅡ』はぴったりでした。
「この道具が似合う場所を旅しよう」
そんな、道具によって誘われる旅のよさを、改めて感じさせてくれました。
10代の頃に憧れて、ようやく手に入れたこのバックパッキングブーツで、次はどこに行こうか?とワクワクしていた旅に対する想いさえも一生モノにしてくれる道具と、私は出合いました。
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ダナーライト