チマキ状の巣を作るカバキコマチグモの生態とは
沖縄を除いた日本全国に分布するフクロクモ科の毒グモで、在来グモの中では最も毒性が強いとされる要注意のクモがこの「カバキコマチグモ」。
体長はオスが8~10mmほど、メスが12〜15mmほど。口が黒く、頭と体はオレンジや黄色の色合いが特徴です。
名称のカバキ(樺黄)は、茶色がかった黄色という意味で、コマチは、小野小町から由来しているとされています。
メスグモは、日中はススキの葉を巻いた巣にひそみ、夜間は歩き回って主に昆虫類を捕食しています。一般的な網目状のクモの巣を張ることはありません。
チマキ状のクモの巣を作る目的
カバキコマチグモの最大の特徴は、ススキなどのイネ科の葉を、チマキのように巻いた形の巣を作ることです。この巣は、メスしか作らず、夏から秋に産室として利用されています。
母グモは、大体100個程度の卵を産卵。孵化した幼体を外敵から懸命に守りますが、そのあと最初の脱皮を終えると、驚くことに自分の身体を子どもたちにエサとして捧げてしまいます。カバキコマチグモは、強烈な母性愛の持ち主としても知られているクモなのです。
強い毒性を持つカバキコマチグモ
カバキコマチグモは、日本での死亡事例はないものの、咬まれると強い痛みを伴います。毒は神経毒と考えられています。
ちなみに毒を投与した動物の半数が死亡する、体重1kgあたりの用量を「半数致死量」と言いますが、「猛毒動物 最恐50 改訂版」(今泉忠明著、サイエンス・アイ新書)では、「半数致死量(実験動物に投与した場合に、その半数が試験期間内に死亡する用量)を基準とした有毒動物ランキング」で、このカバキコマチグモを5位としています。
(ただし持っている毒の量が数ないため、実際には死まではいたりません。しかし、猛毒であることに変わりないので用心を!)
咬まれた時の被害状況
咬症被害は、5〜8月に多い傾向があり、咬まれた箇所は激しく痛んで、赤く腫れたり痺れを感じることもあります。
ただ、一般的には軽症で、痛みの程度や持続時間には個人差が大きいとされているものの、多くは数時間から、長くても数日程度で快方する傾向にあります。
とはいえ、体質によっては吐き気や頭痛、発熱などを伴う全身症状に発展するケースもあるので注意が必要です。
カバキコマチグモの行動傾向を探ろう
カバキコマチグモの習性
日中、メスは巣の中に潜み、夜になるとエサを探して徘徊します。また、オスは巣を作らずにメスを探して徘徊する習性があり、共に室内に侵入するケースもあります。ときに靴や洗濯物の中に入り込むケースもあり、咬まれる被害が報告されています。
また、巣材として使用される植物は、ススキやヨシ(アシ)のほかに、ツルヨシ、オギ、メダケ、ヤナギ類など、基本的にイネ科の草本を利用して巣を作ります。
活動時期と遭遇しやすい場所や時間帯
成虫は、5〜9月に出現しますが、6〜8月頃が特に活発に行動します。鹿児島県における過去の調査では、7月が最盛期と報告されています。
カバキコマチグモは、沖縄を除く、全国の平地から山地まで広く生息しているので、どこでも出会う可能性がある毒グモです。夜行性と考えられており、活発に動き回る夕方から夜にかけて被害が多く出ています。
カバキコマチグモへの対処方法
偶然見つけた時には?
登山中に、葉が巻かれた巣を見つけても、近づいて不用意に開いたりしないでください。カバキコマチグモが自ら我々人に襲い掛かってくることはないので、そっとしていれば被害に遭うことはまずありません。
見つけてもいたずらに巣を開けないことが、最大のリスクマネジメントになります。また、孵化した子どもを守っている時期の母グモは、いつもより攻撃性が高いともいわれるので要注意です。
露出を避けた服装を
予防策としては、できるだけ露出を抑えた服装を心がけるようにしましょう。特に、イネ科の刈り取りの際には、十分注意が必要です。その際は、素肌を見せない服装を着用して、ある程度厚手の手袋を装着してください。
咬まれた時の応急処置について
もしも、山行時にカバキコマチグモに咬まれてしまったら、以下の応急処置を参考にしてください。
患部を水洗い
まずは、流水で咬まれた患部をよく水洗いします。毒を洗い流して清潔にした後には、患部を冷やすことで、腫れや痛みを軽減することができます。
抗ヒスタミン薬を塗布
ステロイド系の抗ヒスタミン薬を患部に塗ります。塗布することで、腫れなどの症状を軽減させることが期待できます。
重い症状の場合は病院へ
一般的には、軽症で済むことがほとんどなので、それほど心配はいりません。しかし、症状が治らない場合や、頭痛や悪寒などの「全身症状」が出る時には、無理せず医療機関を受診するのが安心です。
気になっても決して触らない
カバキコマチグモが作る独特な形の巣を見つけたら、興味本位からいじってみたくなるかもしれません。でも、猛毒を持つクモなので、決して触れないでください!こちらからちょっかいを出さなければ、クモから襲ってくることはありません。見つけてもそっとしておいてあげましょう。