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新しい山道具 開発秘話

今だから言える「新しい山道具」の開発秘話! “俺の”1ポールテントが店に並ぶまで・・・

毎年発表される「新しい山道具」。しかし、それらはいったいどうやって開発されているのでしょうか? ひょっとして、発売までには失敗も? 四季を通して山へ向かい、山道具に関する記事執筆も多い山岳/アウトドアライターがプロデュースした自分オリジナルテントの”YARI3✕3”の開発秘話を明かします。

目次

アイキャッチ画像撮影:高橋庄太郎(以下、全て)

これまでに「ありそうで、なかった」テントを作るという試み

テント YARI 3×3
「MYOG(MAKE YOUR OWN GEAR)」という言葉も広まりつつあるなど、「自分が使いたい山道具を自分で作る」ことを楽しんでいる登山者が増えています。

もちろん大手メーカーの製品は完成度が高いのですが、ショップに並ぶ市販品として考えれば、“最大公約数”として多くの人が使いやすいものになりがち。言い方を変えれば、作り手さえ満足できればいいMYOGよりも、大手メーカーのように個性を少し抑えた製品のほうが売れやすいということかもしれません。

つまり、自分好みを爆発させたギアを作ろうと考えても、それはなかなかショップや通販で買えるものにはしにくく、結局は製品化を見送ることになってしまいがちだということです。

山岳ライターとしての”自分の経験”を活かすモノ造り

しかし僕は作ってしまいましたよ!自分の好みを思いっきり出した「これまでにありそうで、なかった」、しかもショップや通販で手に入れられるテントを。

YARI 3×3

フロアサイズ3×3m、最大高230㎝という巨大さなのに、収納時の大きさは約42×14㎝。総重量約1830g(本体のみは、約1500g)。これなら山に持っていけるはず。

モデル名は「YARI 3×3」といい、長いあいだ山岳ライターとして実際に山中でさまざまな道具を使い、道具の原稿を書き続けてきた僕の経験から生み出した自信作です。

詳しくは後述しますが、この1ポールタイプのテントの特徴は

・山に人力で持っていける重さでありながら、フロアが3×3mと巨大
・出入口を開閉できる画期的なシステムがある
・雪、砂、岩の上でも使いやすい工夫も加えられている

といったところ。

僕が欲しいと思っていた“ちょっと変わり種”のテントが実現されているのです。

「tent-Mark DESIGNS」「BIG SKY」「SCREES」の共同開発

YARI 3×3 設営道具

本体に収納袋とペグ16本、張り綱6本というセット(左側)。右側は別売りの専用ポール。

さて、どういう経緯で、このテントが作られたのか?

じつはこのテント、大手アウトドアショップ「WILD-1」の自社ブランド「tent-Mark DESIGNS」が、僕のアイデアを形にしてくれたもの。
これ以前にも僕は「tent-Mark DESIGNS」と“背負えるトートバッグ”を共同開発したことがあり(そのときに、僕は自分のブランド「SCREES」を設立)、その流れで今回はテントを作ることになったのです。

しかも「自分の好みを全面的に出して、思いっきりやってください」というありがたい言葉といっしょに!

「SCREES」としての僕の役割はいわゆる“プロデューサー”で、実際の製作はツウ好みのアメリカのテントメーカー「BIG SKY」が手掛け、その間に「tent-Mark DESIGNS」という組み合わせで、最終的にこのテントはそれら3ブランドのコラボレーションという形になりました。

予想以上の完成度だった”ファーストサンプル”

YARI 3×3 設営

この話が実際に動き出したのは、2017年のはじめ。あれやこれやと基本となる形状のイメージと、そこに加えるアイデアやディテールを伝え、夏前には早速ファーストサンプルが送られてきました。

最初期のサンプルをドキドキしながら設営し、チェックする僕。うれしくて顔がにやけています。

YARI 3×3 パーツ
ファ-ストサンプルなのに、早くも僕のイメージが細かなパーツにまで反映されていて、ちょっと驚いてしまうほど。

ベンチレーター
天頂部にはベンチレーター。その内側にさりげなく入っているのは「BIG SKY」のロゴ。

フィールドテストもしっかりと繰り返す

このファーストサンプルはただできあがりをチェックするだけではなく、アウトドアのフィールドで何度も試してみました。

フィールドテスト
夜の奥秩父の山中で。サイズがデカいので、小さなランタンでは下まで明るくなりません。

久慈川の河原
久慈川の河原で。強風を受け続けてアンカーが緩み、だいぶ生地が緩んでしまっています。

沖縄の離島
沖縄の離島で。これはものすごい強風を受け、形が思いっきり歪んでいるときのもの。

フィールドテストを繰り返し、さらによいものへ

そんなチェックとテストを踏まえ、素材を改めて吟味し、ジッパーの長さ、ペグループやトグルの位置など、ファーストサンプルに細かな修正を加えることにしました。

報告画

すでに製品は完成しているので公開してしまいますが、これこそ“企業秘密”というもの!

写真は、僕の意見がビジュアル化された“報告画”。「BIG SKY」の日本の窓口である「ロータス」という会社の担当者が丁寧に書いてくださったものです。

ディテールがブラッシュアップされたセカンドサンプルができあがるのは、翌年(この時点では2018年のこと)の予定。
ブランドの「ロゴ」はファーストサンプルには入れていなかったのですが、セカンドサンプルには入れることにしました。

ロゴ 版下

デザインされた「ロゴ」の版下。僕の「SCREES」を目立たせ、「tent-Mark DESIGN」は小さくするという配慮をしてもらっています。

サンプルを作る工場の問題でセカンドサンプルがなかなかできてこなかったのは誤算でしたが、夏前には世界でひとつだけのサンプルが僕の手元に届きました。そして、そこにはブランドのロゴが入っていました! 完成が近づいているのがわかり、うれしくなってしまいます。

製品 ロゴ
ブランド名がプリントされていると、サンプルなのにもはやショップで買ってきた製品のようです。

”セカンドサンプル”の微調整で、とうとう最終段階へ

セカンドサンプルもいろいろな場所で試しました。その結果、見直したほうがいい箇所がまだあり、もう少しだけ微調整することに。サンプルを作る工場の問題はあるものの、これで遅くても来年(2019年のこと)の発売は決定的になりました。

セカンドサンプルのテスト 夕張岳の登山口にある野営場
セカンドサンプルのテストは北海道、夕張岳の登山口にある野営場でも実施。夜になるとエゾシカがまわりを歩き回っていました。

説明書の元データ
商品につける説明書の元データ。工夫がありすぎて、裏表1枚では説明しきれません。

とうとう発売開始! しかし、まさかの問題が発生!

最後の修正がなされ、「YARI 3×3」が発売されたのは、2019年3月。このテントの使い方に関しては改めて別の記事を作りたいと思っていますが、ここでも”自慢”の特徴を簡単に説明させていただきます。

例えば、「コードを引くだけで瞬間的に開く入り口」「大人10人くらいでも”山中宴会”が楽しめる大きなサイズ」。そして「それでいて2キロを切る重さ」「砂や雪、岩を置いて風をシャットアウトでき、まくり上げれば通気性がよくなる”スカート付き”」。しかも「税込みで32,780円というリーズナブルさ」など……。

もう少し具体的な情報は、「WILD-1」のウェブサイトの商品紹介ページをご覧ください。

不具合がないものもいっしょに、全品回収……

発売後、購入してくださった方からは、早速、高い評価をいただきました。数年の成果が実り、僕もひと安心です。僕自身も満足しながら使っていました。

ところが……。なんと、ジッパーと縫製箇所の防水処理に問題がある商品が見つかり、不具合がないものも含め、いったん全品回収することに!

問題があったジッパー部分

問題があったジッパー部分。中途半端な位置でも止まるはずが、滑ってしまうものがあったようで……。僕が持っていたサンプルは大丈夫だったのに。

まさか自信作でリコールが起きるとは思いもしませんでした。ご購入された皆様には大変ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした!

これでもう問題なし!今度こそ最終形の「YARI 3×3」

その後、強いシャワーを長時間浴びせ続けるといったテストを海外工場で実施したりしながら、改めてテントが完成。今年、2020年3月に再発売を開始しました。

今度こそ完璧です。いや、たんに完璧なのではなく、こうなったらテントの作り直しの機会を反対に利用しようと、追加でもう一工夫加えてしまっています。

最上部のループ

最上部のループには夜は光を反射するリフレクターも。小さなパーツですが、非常に有用です。

その工夫とは、「テントの最上部のループ」
2019年の発売時にはなかったディテールですが、これがあれば家でテントを干すときは格段に便利ですからね。

YARI 3×3

一度問題を起こしてしまったせいで、耐水性はますます向上。雨の日にも写真を撮りたかったな。

こうして今年から再び発売開始された「YARI 3×3」。新型コロナウイルス問題で山へ行く人は減っていますが、すでに愛用してくださっている方は多いようです。”プロデューサー”としてはうれしい限りです。

すでに始動! 組み合わせて使える「インナー」も制作中

2020年の段階での「YARI 3×3」は、ダブルウォールテントでいえばフライシートに当たるアウターテントのみです。もともと”仲間と寛げる宴会場”がイメージだったので、土足で入れればよく、眠りたければシートを敷けばいいと考えていましたが、内部にインナーテントを組み合わせられれば、ますます快適に使えるはず。

じつは当初からそういうことも想定し、「YARI 3×3」にはインナーテントを組み合わせるためのループなども内部につけてあり、じつは実際にインナーテントのサンプルも完成しているのです!

YARI 3×3 インナーテント

すでに試作されているインナーのサンプルを組み合わせてテストしているときのカット。まだお見せできませんが……。

インナーテントのファーストサンプルをもとに、現在はセカンドサンプルを製作中です。それも数種類も! 早ければ年内、遅くても来年には発売される予定です。興味がある方は、楽しみにしていてください!


YARI3✕3を詳しくみてみる

YARI 3✕3の使い方を詳しく知るなら

高橋庄太郎の記事はこちら