オーダーメイドのザック専門店<うと鞄工作所>
クラシカルでありながら、どこか現代的でシンプルな外観。ロゴや装飾も一切無い質実剛健なデザインのザックを手掛けたのは、愛知県に工房を構える<うと鞄工作所>。オーダーメイド専門のザックメーカーです。
このザックこそが<うと鞄工作所>の代表作であり、カスタムのベース。一見シンプルでオーソドックスながら、細部にわたって考え抜かれた使いやすさは注目すべきポイントです。
(1)無駄を省いた合理的なデザイン
本体開口部はロールトップ方式。荷物の容量に応じて大きさの調整が容易に行えます。
また、ユニークなのが開口部を留めるこちらのバックル。実はこの部分、ロードリフトストラップの役割も兼ねており、歩行時のザックの揺れを抑える役割も果たしています。
メインの生地には、<東レ>の高強力ナイロン織物「鎧布®(※1)」を採用。本体には400デニール、底部には1000デニールのものを使用しています。一般的に使用される200デニール程度の生地でも充分に強度はありますが、それと比較してもかなり安心感のある厚みです。
しかしながら、兼用できるパーツを削ることで、軽量性と耐久性を両立。60リットルで1300g程度と、比較的軽量になっています。
(2)シンプルで快適なパッド類
体に直接触れるショルダーハーネスやヒップベルトは、背負い心地を左右する重要な要素。
ここでも余計な機能は省きつつ、快適に背負うためにパッドの厚みや幅をしっかり確保。一般的なものよりも1~2cm程度幅が広く、吸い付くようで快適な背負い心地になっています。
また、フレームレスのザックは背面にウレタンパッドを入れて剛性を確保することが多いですが、こちらは別の素材も併せて採用。<パネフリ工業>の「カルファイバー®(※2)」という特殊な素材のパッドも組み合わせた2枚使いを基本とすることで、背中へのフィット感と通気性の両立に成功しています。
(3)大きい開口部やサイドポケット
雨蓋を省いたロールトップ式のザックは荷物の出し入れが快適です。それに加えて特徴的なのが大きなサイドポケット。
各サイドともに1リットルのナルゲンボトルが余裕で2本収納できるサイズで、大きめのポーチをそのまま収納できたり、アイゼンを収納したりと多用途に使えます。
このように、シンプルさと使いやすさ、耐久性を兼ね備えたザックを作る<うと鞄工作所>。
実は、たった一人の職人さんが手作りしている、ミニマルなザックメーカーなんです。
長く愛用するためのシンプルさ
愛知県・名古屋市から程近い、閑静な住宅街に工房を構える<うと鞄工作所>。今回はその工房にお邪魔し、代表であり職人である「宇都悠平(うとゆうへい)」さんにお話しを伺うことができました。
不要なパーツは省く
ウルトラライトの流れを汲むようなガレージブランドのザックは、その多くが背中に収まるサイズである30リットル前後。
そんな中、<うと鞄工作所>は30リットルの小型ザックから60リットルの大型ザックにまで幅広く対応しています。特に、フィッティングが重要な大型のザックこそ、オーダーメイドで作るメリットが大きいそう。
「大型のザックは、背負う人の体形に合わせる必要があります。そのため、市販品のザックは背面長調整のためのパーツを付ける必要がある。一方、オーダーメイドであればこれらを省いて、よりシンプルなザックに出来ます。」
生地の耐久性や背負い心地といった部分は妥協しない代わりに、不要なパーツを省いてシンプルさを追求すること。それこそがオーダーメイドでザックを作るメリットの一つです。そのシンプルさは、ひいてはザックのトラブルの可能性を軽減し、軽量性にも繋がります。
長く使うためのクラシックなパーツ類
使用する細かなパーツ類はあえてクラシックなものをセレクト。
「入手しやすいパーツを使っているので、ご自身での交換やメンテナンスが簡単です。耐久性と並んで、メンテナンス性の高さも長く使うためには重要なことだと考えています。」
例えば、サイドポケットの口元のゴムは、末端を結んで留めてあるだけ。交換が簡単なように、あえてシンプルな仕様になっています。
このように、全ての作りに通底しているのは「充分である」という感覚。
便利過ぎない仕様が工夫の余地を生み、結果的に使用者にとっての便利さや、使う面白さにつながると考えているそうです。
“客”から“職人”へ
宇都さんが職人として独立したのは2018年。兵庫県の老舗メーカー<神戸ザック>での修業後のことです。しかし、それ以前はザック作りとは無縁の、普通の会社員だったそう。
「昔から父親に連れられて山には行っていました。ただ、社会人になってからは仕事中心の生活で、サラリーマンであることにもそれほど不満はありませんでした。山はというと、仕事の合間に一人になるために登っていた感じ。その当時愛用していたのが神戸ザックで、『自分のために作ってもらった』という事が何よりも魅力的でした。」