脱サラし職人の道へ。“自分専用”のザックを生み出す<うと鞄工作所>

2020/08/06 更新

大型のザックをメインに作る<うと鞄工作所>。2019年に本格的にスタートし、たった一人の職人が手作りしている新進気鋭のブランドです。シンプルさと耐久性に加え、使う人それぞれに合わせた快適性と使いやすさを実現するため、オーダーメイドでの生産にこだわっています。今回は愛知県にある工房を訪ね、ブランド誕生の背景や、ザック作りに込めた想いを伺ってきました。


アイキャッチ画像撮影:筆者

オーダーメイドのザック専門店<うと鞄工作所>

ザック表・裏
作成:筆者(撮影:うと鞄工作所) 60Lモデルのサンプル(宇都さん私物)
クラシカルでありながら、どこか現代的でシンプルな外観。ロゴや装飾も一切無い質実剛健なデザインのザックを手掛けたのは、愛知県に工房を構える<うと鞄工作所>。オーダーメイド専門のザックメーカーです。

このザックこそが<うと鞄工作所>の代表作であり、カスタムのベース。一見シンプルでオーソドックスながら、細部にわたって考え抜かれた使いやすさは注目すべきポイントです。

(1)無駄を省いた合理的なデザイン

最大と最小
作成:筆者(撮影:うと鞄工作所) 荷物量の変動にも容易に対応
本体開口部はロールトップ方式。荷物の容量に応じて大きさの調整が容易に行えます。

ロードリフタ―
作成:筆者(撮影:うと鞄工作所) 開口部の留め具はロードリフトストラップを兼ねる
また、ユニークなのが開口部を留めるこちらのバックル。実はこの部分、ロードリフトストラップの役割も兼ねており、歩行時のザックの揺れを抑える役割も果たしています。

400Dの本体と1000Dの底部
撮影:筆者 本体生地(左上)と底部生地(右下)
メインの生地には、<東レ>の高強力ナイロン織物鎧布®(※1)を採用。本体には400デニール、底部には1000デニールのものを使用しています。一般的に使用される200デニール程度の生地でも充分に強度はありますが、それと比較してもかなり安心感のある厚みです。

しかしながら、兼用できるパーツを削ることで、軽量性と耐久性を両立。60リットルで1300g程度と、比較的軽量になっています。
(※1)世界最高水準の強力を持つ超高強力ナイロン糸を使用した生地。耐久性も高く、ビジネスバッグやアウトドアバッグに最適。

(2)シンプルで快適なパッド類

ショルダーハーネス
撮影:筆者 幅広のショルダーハーネス
体に直接触れるショルダーハーネスやヒップベルトは、背負い心地を左右する重要な要素。

ここでも余計な機能は省きつつ、快適に背負うためにパッドの厚みや幅をしっかり確保。一般的なものよりも1~2cm程度幅が広く、吸い付くようで快適な背負い心地になっています。

ブレスエアー
撮影:筆者 「カルファイバー」のパッド
また、フレームレスのザックは背面にウレタンパッドを入れて剛性を確保することが多いですが、こちらは別の素材も併せて採用。<パネフリ工業>の「カルファイバー®(※2)」という特殊な素材のパッドも組み合わせた2枚使いを基本とすることで、背中へのフィット感通気性の両立に成功しています。
(※)カルファイバー:PPスプリング構造体とも呼ばれる、通気性や耐久性、メンテナンス性に優れた軽量なクッション素材。一般的には寝具や座面等に使われることが多い。

(3)大きい開口部やサイドポケット

開口部
撮影:筆者 大きくシンプルな開口部
雨蓋を省いたロールトップ式のザックは荷物の出し入れが快適です。それに加えて特徴的なのが大きなサイドポケット。

サイドポケット
撮影:筆者 大きく深さのあるサイドポケット
各サイドともに1リットルのナルゲンボトルが余裕で2本収納できるサイズで、大きめのポーチをそのまま収納できたり、アイゼンを収納したりと多用途に使えます。

このように、シンプルさと使いやすさ、耐久性を兼ね備えたザックを作る<うと鞄工作所>。

実は、たった一人の職人さんが手作りしている、ミニマルなザックメーカーなんです。

長く愛用するためのシンプルさ

宇都さん
撮影:筆者
愛知県・名古屋市から程近い、閑静な住宅街に工房を構える<うと鞄工作所>。今回はその工房にお邪魔し、代表であり職人である「宇都悠平(うとゆうへい)さんにお話しを伺うことができました。

不要なパーツは省く

ウルトラライトの流れを汲むようなガレージブランドのザックは、その多くが背中に収まるサイズである30リットル前後。

そんな中、<うと鞄工作所>は30リットルの小型ザックから60リットルの大型ザックにまで幅広く対応しています。特に、フィッティングが重要な大型のザックこそ、オーダーメイドで作るメリットが大きいそう。

使用者に合わせた背面長
撮影:筆者
「大型のザックは、背負う人の体形に合わせる必要があります。そのため、市販品のザックは背面長調整のためのパーツを付ける必要がある。一方、オーダーメイドであればこれらを省いて、よりシンプルなザックに出来ます。」

生地の耐久性や背負い心地といった部分は妥協しない代わりに、不要なパーツを省いてシンプルさを追求すること。それこそがオーダーメイドでザックを作るメリットの一つです。そのシンプルさは、ひいてはザックのトラブルの可能性を軽減し、軽量性にも繋がります。

長く使うためのクラシックなパーツ類

サイドポケットのゴム
撮影:筆者
使用する細かなパーツ類はあえてクラシックなものをセレクト。

「入手しやすいパーツを使っているので、ご自身での交換やメンテナンスが簡単です。耐久性と並んで、メンテナンス性の高さも長く使うためには重要なことだと考えています。」

サイドポケットのゴム
撮影:筆者
例えば、サイドポケットの口元のゴムは、末端を結んで留めてあるだけ。交換が簡単なように、あえてシンプルな仕様になっています。

このように、全ての作りに通底しているのは「充分である」という感覚。

便利過ぎない仕様が工夫の余地を生み、結果的に使用者にとっての便利さや、使う面白さにつながると考えているそうです。

“客”から“職人”へ

気合いとミシン
撮影:筆者
宇都さんが職人として独立したのは2018年。兵庫県の老舗メーカー<神戸ザック>での修業後のことです。しかし、それ以前はザック作りとは無縁の、普通の会社員だったそう。

「昔から父親に連れられて山には行っていました。ただ、社会人になってからは仕事中心の生活で、サラリーマンであることにもそれほど不満はありませんでした。山はというと、仕事の合間に一人になるために登っていた感じ。その当時愛用していたのが神戸ザックで、『自分のために作ってもらった』という事が何よりも魅力的でした。」


物作りの世界への憧れ

もともとは神戸ザックの愛用者に過ぎなかった宇都さん。しかしある時、神戸ザックのお店に遊びに行ったとき、後に師匠となる星加さん(神戸ザック代表)の一言に気持ちを動かされたそう。

「師匠が高齢で、そろそろお店を畳むことを考えているという話を聞きました。その時に、これから使うザック、どうしようと切実に考えたんです。それで『それなら自分で作ろう』と。仕事に不満はないと言いながら、製造からアフターサービスまで一貫して関わるような“物作りの世界”への憧れがあったんだと思います。」

宇都さんとミシン
撮影:筆者
ところが、師匠は弟子をとったことは一度もなく、何度も弟子入りを断られたそう。それでも粘り強く頼み込んだ末、なんとか弟子入りを許されました。その後、2018年にザック職人として独立。

とりあえず始めて、改良を重ねる

生地写真
撮影:筆者
「2018年の独立当初は、色々悩みました。生地の仕入れ先もなかなか見つからないし、デザインも完全に納得するには至らなかった。そんなときに友人からかけられたのが『巧遅は拙速に如かず』という言葉。完璧でなくとも、まずは始めてみることが大事なんだと思います。」

その後、数多くのモニターさんの意見をもとに改良を重ねました。そして2019年、1年以上のモニター期間を経て、<うと鞄工作所>を正式にスタート。ようやく、自身でも納得のいくデザインに仕上がってきたそうです。

ショルダーハーネスのデザイン
撮影:筆者
「デザインはほとんどオリジナルですが、ショルダーハーネスの形は神戸ザックのものをベースに改良を加えています。」

しかし、宇都さんの使いやすさに対する探求心は果てることなく、これからも使いやすさの進化は止まりそうにありません。

「あと一歩なんです。背面パッドやショルダーベルトへの使用に耐えるウール素材が見つかれば完璧なんですが、耐久性やコストなど問題は山積で…でも、近い将来に『臭わないザック』は実現したいです。」

「あくまで道具」という人から「道具そのものが好き」という人まで

自身のザックを背負う宇都さん
提供:うと鞄工作所
「登山の楽しみ方は色々あると思います。僕自身、バリエーションルートに挑むときもあればテント場でのんびり過ごして楽しむこともあって、これといったスタイルは決めていません。」

冬山
提供:うと鞄工作所
そんな宇都さんが作るザックは、それぞれのスタイルで楽しむ登山者に広く受け入れられる汎用性があります。登山の楽しみ方が人それぞれ異なるように、オーダーの傾向も人それぞれなんだとか。

「ストイックな登山をする方の場合、初めからオーダーの具体的なイメージが出来上がっている事が多いです。一方、『自分専用の道具が欲しい』という思いがあっても、具体的なイメージを持てない初心者の方もいる。その場合には、話を伺いながら具体的な仕様をこちらから提案するという事も多いです。いずれにせよ、必ず対話を重ねて、お客さんと一緒に納得のいくザックを作り上げていくことを大事にしています。」

「高級品」にはしたくない

「革の登山靴のように、メンテナンスしながら長く使う。そんな風に、道具に愛着を持って使ってもらいたいと思っています。」

愛用の登山靴
撮影:筆者
長く使える物と聞くと、いわゆる「高級品」を想像してしまいますが、決してそんなことはありません。

「お金持ちしか買えないものは作りたくない」と話す宇都さんのザックは、オーダーメイドでありながらも価格は4万円から(ウエストベルトの無い中型ザックであれば3万円から)。市販のザックに少し上乗せした金額で購入できるのは非常にうれしい点です。

”自分専用”が最大の価値

<うと鞄工作所>のザックの最大の価値は“自分専用”であること。背負い心地はもちろん、細かな使い勝手へのリクエストにも対応しています。

「お客さんからの反応やリクエストを直接頂けるのが一番嬉しい。」

そう話す宇都さんは、お客さんと相談しながら、日々試行錯誤をしています。

ギアラック
撮影:筆者
例えばザック前面をデイジーチェーンやメッシュポケットへ変更したり、ウエストベルトに大きなポケットやギアラックを付たりといったカスタムは定番。

中にはザックの底部に行動食のゴミを入れるスリットを付けて欲しいというニッチなオーダーもあったそうです。

宇都さん
撮影:筆者
「今後もオーダーならではの製作にこだわっていきたい。うちでしか作れないザック、うちで作る必要があるザックを作り続けていきたいと思っています。」

人それぞれの楽しみ方に共感し、それを反映したザック作りをする<うと鞄工作所>。皆さんも宇都さんに思いを共有して、長く使えるザックをオーダーしてみてはいかがでしょうか。

ザックのオーダーはメール/インスタグラムから

現在、オーダーはメールまたはインスタグラムのダイレクトメッセージにて受け付けています。具体的なザックのイメージがある方も、漠然としたイメージしかない方も、まずはお気軽に連絡してみてください!早速、私もオーダーさせていただこうと思います。
オーダー受付メールアドレス:uto.kaban@gmail.com
Instagram|yuhei_uto


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早太朗

長野県・南信地方在住。大学時代は山漬けの日々。卒業後も、そのまま山の世界へ。 興味の対象はアルプスから里山へと移り、身近な山の楽しみ方を探求中です。

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