この記事ではクラウドファンディングプラットフォーム「READYFOR」のプロジェクトから、アウトドアシーンにぴったりな注目のプロダクトを編集部が厳選してお届けしています。
今回ご紹介するのは、信州りんご農家の挑戦です。
<以下、起案者・宮下直也(宮下果樹園)さんのプロジェクト内容>
こんにちは!長野県の長野市豊野町にてリンゴ農家をしております『 宮下果樹園 (みやした かじゅえん ) 』の5代目の宮下直也(みやした なおや)と申します。
当園は長野県の、北アルプス・菅平高原・志賀高原・北信五岳など2000〜3000m級の山々に囲まれた、善光寺平の北部の豊野町(とよのまち)にあります。明治時代に高祖父が信州リンゴの栽培を先駆的に導入しリンゴ農園がスタートして以来100年以上もの間、恵まれた自然を生かしながらここまで継承して参りました。
私たちのリンゴは、自然と伝統がおりなす、いわば伝統完熟のリンゴです。近年では若い方にも信州リンゴを食べて欲しい、信州の自然溢れるアウトドアシーンを楽しんで欲しいと、様々な活動を行っています。
昨年は当園のリンゴを使い、アウトドア専用ドライフルーツ『APPLE TRIP』の開発も行いました。
勢いを増して活動も少しづつ形になっていくそんな中、昨年の10月12日から13日にかけて長野県内を通過した台風19号は、100年に1度とも言われる記録的豪雨をもたらしました。
その影響で、長野市内を通る一級河川・千曲川の堤防が決壊。町中全てが濁流に飲み込まれ、壊滅的な被害となりました。当園も多大なる被害を受け、希望が一瞬にして絶望に変わるあの時の想像を絶する光景は、今でも鮮明に目に焼きついています。
今回、台風19号の浸水被害にあった畑を復旧し、新しいリンゴ畑へと改植を行い、また美味しいリンゴを育てアウトドアシーンに届けるためのクラウドファンディングに挑戦します。
未来へと繋がる持続的かつ創造的な農業をするために。信州の自然を愛するみなさんをリンゴを通して笑顔に。お力をお貸しください。
信州の大自然の恵みが凝縮されたリンゴとは?
長野市豊野町は地名の通り豊かな野原から、大自然の恵みの宝庫となっています。
・北信五岳のパワースポット戸隠山の伏流水
上記のように、リンゴにとって最高の環境が相まって、養分をたっぷり溜め込み、濃厚かつ甘みと酸味が絶妙なバランスのジューシーなリンゴが育ちます。
“リンゴ栽培は子育てと一緒だ”と言うのは4代目の父の言葉。毎日言葉をかけてやれば、答えてくれるし、枝を一本切るか切らないかでも変わってきます。
そうして手塩にかけて育て繋いできたリンゴたちがお嫁にいき、「こんな美味しいリンゴを食べたのは初めてだ」と言う便りが返ってきた時は、農業をやっててよかったと幸せを感じる瞬間です。
当園は美味しいリンゴを作る上で一番大切な「肥沃な土作り」と光合成に必要な「元気な葉」にこだわり栽培を行います。また市場のリンゴより収穫を2週間ほど遅らせ、樹上で完熟するまで養分をとりこむことで、美味しさが凝縮したリンゴへと育ちます。
この味は、信州の大自然があってこそ。私はこの土地が本当に大好きで、この場所でリンゴ栽培ができることは本当に幸せなことなのです。
農業を始めたキッカケは、信州の魅力に取り憑かれたこと
2人の姉を持ち、宮下家の長男に生まれた私は、跡取り息子だ!と毎日言われながら育ちました。家の周りはリンゴ畑や田んぼばかり。小さい頃から自然が当たり前の存在で小中学校では、長野県あるあるの学校行事・山登りがありました。北信五岳の「飯縄山」や、北アルプス「燕岳」などにも登りました。
その時は、子供ながらに「山登りとかしんどいな、都会の生活に憧れるな、、」と感じていました。
いつかは農業を継ごうと大学では農学を学びましたが、卒業後は親の反対を押し切り、昔から興味のあったファッションの世界へ。大手アパレル会社にて関西を拠点に勤務しておりました。
その頃、私が長野県出身で家業がリンゴ農家だと周りに話すと、「長野っていいな!リンゴ食べたい!」「長野の自然って本当に素敵!登山やスノボー、キャンプに行きたい!」などたくさんの方から言われて、リンゴを送り食べてもらったところ、「こんな美味しいリンゴは食べた事ない!」と感動され、衝撃的な体験をしたのを覚えています。
そして職場で登山部を結成したり、いろんな自然と向き合って、山頂でご来光を見たときには「自然はなんて素敵なところなんだ!」と涙した自分がいました。
一瞬にして信州の大自然の虜になってしまったのです。
実家に戻り、ものすごく大変だけど大自然と共存しながら農業をしている両親の姿を見たとき、いままでとは全く逆の感情が生まれました。自分には当たり前だと思っていた長野の自然が、離れることでとても魅力的に見えるようになりました。
それからというものの、農業への熱い想いが止まらず、結婚を機に会社を退職。奥さんを連れて長野へUターンし念願の就農をしました。
農家を取り巻く問題
自然災害のリスクと隣合わせで、販売価格の低迷も感じながら、高齢化によって、重労働を要する従来のリンゴ栽培では疲弊の声が飛び交い、耕作放棄地が増えて、農村の人口も減っている悪循環になっています。
このままでは、長野県のリンゴ栽培はどんどん減っていき、農業人口がますます減り、跡継がいなく農村の人口はどんどん減っていき、長野県のリンゴの未来が暗くなるばかりです。
でも可能性はあります!
実は、「49歳以下の新規就農者」に絞ってみると増加傾向にあります。もちろん職としての農業も増加していますが、生き方としての農業も注目されています。
信州の旬のリンゴを食べたときの感動と笑顔、ファンになってしまう美味しさ。信州には世界に誇る、大自然があります。
若い方にリンゴを通して楽しんでもらえたら、信州の自然の魅力を感じてもらえたなら。ここに信州のリンゴ栽培のカギが眠っていると私は感じています。
リンゴの行動食!? アウトドア専用ドライフルーツの誕生
農家になってから、“自分と同じ世代の若い人や子どもにりんごを食べてもらうには、どうすればいいだろう?”と常に考えてきました。
そして、自分の好きなアウトドアシーンにりんごを取り入れることに取り組み始めました。
例えば、キャンプでの乾杯のとき。大人にはりんごのお酒シードル、子供にはリンゴジュースを。
朝食のトーストには、贅沢なりんごジャムをたっぷり乗せて。おやつには焚き火でバターたっぷりの焼きリンゴを作ったり。生食ではなくても、いろいろな形でりんごを味わってもらおうと。
そしてついには、趣味である登山をキッカケに、僕のリンゴ愛は北アルプスの名峰、槍ヶ岳(3,180m)まで想いが届きます。
毎年、合間を見つけて信州の大自然の魅力を見つける旅として、北アルプスをはじめ信州の山々に登っていました。
山小屋に行くと売店にあるものといえば、カロリーメイトやチョコレートなど。せっかく信州の山にいるのに、信州産のものがないのは寂しいな、信州産のリンゴで何か作れたらいいな、と常に考えていました。
ちょうどその頃、テレビのドキュメンタリー番組で、槍ヶ岳山荘の4代目・穂苅大輔さんが出ているのを観ました。僕は、脱サラし家業を継いで、「信州の大自然の魅力を伝えたい、伝統を繋いで守っていきたい」と頑張っている穂苅さんの姿に共感し、心が熱くなり、次の瞬間には勢いで穂苅さんに連絡を取っていました。
「うちのリンゴのドライフルーツを槍ヶ岳山荘で販売させていただけませんか?」と溢れる想いを伝えたところ、穂刈さんはその想いに共感してくださり、快諾してくれました。
商品を持って行きます!と言って、リュックに詰め込んで槍ヶ岳に自分の足で納品をしに登りました。
槍ヶ岳山荘で1年試験的に販売してもらい、登山客の反応など穂苅さんからのフィードバックをもらい、リンゴをより美味しく食べてもらえるように味や食感も加工業者と打合せしながら改良。
登山時の行動食として、補給しやすいようパッケージの大きさやデザインを見直し完成したのが、当園のリンゴを使った100%信州産・アウトドア専用ドライフルーツ。
『APPLE TRIP(アップルトリップ)』です!
デザインには、ハイカーにも絶大な人気を誇る東京・吉祥寺のセレクトショップ「BLACK BRICK」のデザインディレクターも務め、世界中に影響を与えているアーティスト『苦虫ツヨシ』さんにご協力いただき完成しました。
行動食として持ち歩きやすいよう、軽量でポケッタブルに。山に登るリンゴのデザインがなんともキャッチーで、リンゴ愛をくすぐります。なんとこのマークはステッカーになっていて、登山中に食べてもゴミのポイ捨て予防でパッケージも持って帰ってもらえるよう工夫しています。
信州リンゴを低温でじっくり乾燥することで、美味しさと栄養を凝縮しました。アウトドアで必要なエネルギーや炭水化物から、リンゴ酸やクエン酸、ビタミンCによる疲労回復効果、また、リンゴポリフェノールにより、脂肪燃焼まで助けてくれる高栄養価食品です。
2019年の夏に槍ヶ岳山荘にてリリース。
たくさんのハイカーに購入していただき、嬉しい便りが届いたときには、自分が思っていた「信州の自然を愛する方や、若い世代の方を、リンゴを通して笑顔に」というヒントを得た瞬間でした。
槍ヶ岳山荘から頂上まで約30分、そそりたつ岩肌を鎖やハシゴで登った先には360°広がる圧巻の景色に言葉が出てきません。
ここで実際にAPPLE TRIPを食べたときには、「この信州の自然があるから、僕たちはこんなに美味しいリンゴを作ることができるんだ!」
この信州に生まれてよかった。信州の自然の中で農業ができる喜び、支えてくれる皆さん、あらゆるものへの感謝の気持ちが溢れ、一人涙しました。
リンゴの産地信州を襲った台風19号の猛威
多くの方にAPPLE TRIPを届けたい、信州の自然の魅力を伝えたいと検討していた矢先に、超大型の台風19号が長野県内を襲いました。
夕方から鳴り続けるケータイの避難勧告のアラーム。
家からほど近い長野市・穂保地区の千曲川の堤防が決壊し、瞬く間に濁流が街を飲み込み、一夜にして明るい光が絶望に変わった瞬間でした。
決壊場所から家や神社や何もかもが流され、広範囲に渡ってあたり一面がもう茶色い海の様になっており、流れ込んできた濁流は5千世帯以上に浸水被害をもたらしました。
朝にはライフラインがストップし情報手段はリアルな人とのコミュニケーションのみ。何がなんだか分からない状態のまま、連日、消防団として24時間体制でポンプで排水作業を行い、少しでも水位を下げ、住民の救助や安否確認をし続けました。
引っ張り出したキャンプ用品でなんとか自炊。一週間近く経ち、ようやく電気が戻り、通れなかった道が動き出し、全貌があらわとなります。
すぐさま決壊場所近くの仲間の元へ助けに行きました。電柱は倒れ、車は道路にひっくり返って、家は流され半分無くて、中はぐちゃぐちゃ。堆積した泥は30センチ以上溜まっていました。
「生きててよかった!」と仲間と泣いて抱き合いました。
それからというもの、「いますぐ助けにいく!」とたくさんの連絡が入り、大勢の人がボランティアに来てくれました。
皆さんの記憶にも残っているであろう新幹線が水没しているシーンをテレビで見たことがあると思いますが、まさに当園の畑はあの真横にあります。当園の所有している農地の半分以上が被災し、年間収入の8割近くを占めるサンふじ のほとんどが、収穫を前に濁流に飲み込まれてしまいました。
木のテッペンまで水に浸かり、打撲や泥でめちゃくちゃなリンゴ、木々がなぎ倒されている光景に言葉を失いました。泥水が少しでも掛かってしまった果物は、大腸菌などが内部に浸透する恐れがあるため、洗っても食べることはできません。
リンゴを全て木から落とし廃棄。手塩にかけて育ててきた我が子が、こんなにも無残な姿に。途方にくれました。
また植えればという声もありますが、リンゴは新しい木を植えたとしても、本格的に育ち収穫できるまで10年〜20年とかかってしまいます。
多くの木がなぎ倒され、収穫前のリンゴたちが被災し、概算ですが、当園だけでもリンゴや農業機械を含む被害額は数千万円に及びます。
そんな落ち込んでいた僕らを支えてくれたのも、「人」の力でした。
SNSなどで被害状況を発信をしたことによって、本当にたくさんの方からメッセージをいただき、心配してこれが必要なんじゃないかと支援物資を送ってくださったり、チャリティー企画をして支援をしてくださったり、仲間を集めてわざわざ来てくださったりと、当園だけでも100人以上の方が農園の復旧などに来てくださいました。
そして町中にボランティアさんが溢れ、皆さんの力によって、町が少しずつ綺麗になっていき、町に少しずつ笑顔が見える様になったこと。
決して1日や2日で復旧されるわけでは無いし、もちろんまだまだ何ヶ月、何年も時間が必要だけど、この町がいまここまで復旧できたのは、紛れもなく皆さんのおかげであるということ。
私自身も、仲間の力が、本当に励みになり、挫けそうな時も支えてくださり、一歩を踏み出す勇気をくださいました。本当に本当に感謝してもしきれないです。
この災害という出来事を通じて、本当にリアルな『人』との繋がりの大切さを感じました。
この頂いたご恩は必ず返していきたい。そして、復旧をしてまた美味しいリンゴを育て、食べてもらうことが一番の感謝を伝えることだと感じました。
被災したリンゴ畑を、未来を創造する畑に改植
宮下果樹園が保有してる農園は、平野部から山間部まで約10箇所(面積約250アール/サッカーコート約4個分)に点在していますが、畑の約半分以上が被災してしまいました。収穫を控えていたリンゴたちも濁流にのまれ、全て廃棄処分となりました。
その畑の中でも、決壊した千曲川支流の浅川が氾濫した付近は、大きく育った木が濁流の流れで、倒木が多く、新たなリンゴの木に植えかえが必要な状態となりました。
皆さんもよく知る昔ながらのリンゴの木、一本の苗(普通樹)を植えた場合、実をつけるまでに5〜10年、本格的な収穫が見込めるには15年〜20年必要です。
もちろんそれまでには、いろんな自然災害や病気、鳥獣害などに会うこともあります。
そこで行いたいのが、比較的に短期間で、品質の揃ったリンゴを栽培できて、多収穫することができる「高密植栽培」への改植です。