【遠隔で山道具アドバイス!】ハイカーズデポにみる「オンライン接客」の可能性(3ページ目)

突然の営業自粛と売り上げへの影響について

土屋さんと店内

撮影:編集部(再開初日6月3日の店内風景。取材中もお客さんがやってきていた)

そんなハイカーズデポの自粛期間はどんな状況だったのでしょうか。そのなかで、果たして「オンライン接客」は店を閉めていた時期のフォローになったのかどうか。そのあたりを含めて、土屋さんにインタビューしました。

──自粛を受けて、やはり売り上げは激減ですか?

激減ですねぇ。正直言って半分以下。いや、もっとかな。通信販売は稼働していましたが、ウチはもともと通販の比率が低いんですよ。やはり、店に来てみたい、というお客様が圧倒的に多かったんです。また、実際に山に行けない、という状況も少なからず影響したと思います。

──店を閉めたぶん、オンライン接客で補填させたいという意図はありましたか?

それは最初からなかったです。今回のマイナスぶんをひとつのことで補填できるとは思っていませんでしたし、始めた理由は補填というよりは、チャンネルを増やす感覚です。通販の申し込みにメールや電話やファックスがあるように、接客もオンラインでできますよ、という感じです。

オンライン接客を始めたきっかけについて

──そもそもオンライン接客を導入しようと考えたきっかけは?

「ハイカーズデポがオンライン接客をやってくれたら」と、何人かがSNSで発信してしているのを目にしてからです。
最初、僕はノリ気ではなかったんです。実物が触れないからストレスも溜まるだろうしと。でも、試しにスタッフとやってみたら「画面越しでも、実物に触れなくても面白い」という反応でした。だったら考えてみる価値はあるなと。それが4月の終わりごろでした。

──Zoomというアプリケーションを選んだ理由はなんですか?

特に理由はないんですよ。単純に多くの人が使っていたからです。多くの人が理解できて、使えるものがベターだろうと。FacebookのメッセンジャーやLINEでもテレビ電話はできるわけですが、それだと僕のプライベートな情報をさらすことになりますしね。

21日間のオンライン接客とは一体どんなものだった?

ツェルト

撮影:筆者(オンライン接客でもツェルトは購買につながった)

──現在までに、オンライン接客は何件受けたのですか?

5月13日からスタートして、まだ全部で6件です。バーナー、バックパック、ツェルトがそれぞれ2件ずつ。その場で決めた人も、後日あらためてという人もいましたが、最終的にはみなさん買っていただきました

──接客の所要時間は?

機材トラブルで1時間かかったこともありましたが、だいたい30〜40分です。これが店頭での接客だったら、30分で終われば短いほうです。メインの商品以外のものも見て回ったり、ほかの人の接客を聞いたりもしますから、1時間や2時間は普通です。

土屋さんが気づいた「新たな可能性」と「接客への思い」

オンライン接客を振り返る土屋さん

撮影:編集部

──実際にオンライン接客を体験取材してみて、これはアリだな、という印象を受けました。

やりようはありますよね。でもたぶん、多くのお客さんは、もっと気軽にふらりと店に来るような感じの配信的なものを求めているのかもしれません。その方向とは今は違いますよね。
でも、今感じているのは、遠方のお客様への接客ツールとしては非常に有効だということ。なので、店を再開したこの先も続けていこうと考えています

──メールよりは手軽で、電話よりは具体的。

メールで十分な方もいらっしゃるでしょうし、でも、もっと詳しく見るならZoomでお見せできますよ、という感じです。また、これまでも電話口で長々と説明して買って頂くことがけっこう多かったんです。その電話での接客をグレードアップさせたものという感覚もありますね。

──なるほど。

あとは、逆にこちらからお客様の装備を確認するときもZoomは便利です。「バックパックの中身を軽量化したいからアドバイスを」という要望がたまにあるんです。それには、使っている道具を詰めたバックパックを店に持ってきてもらう必要があるわけですが、それって面倒じゃないですか。それがZoomならお客様の家の中で道具を並べてもらえばいいわけです。

──いろいろと可能性は広がりますね。

動画配信も含めていろいろアイデアは生まれますね。店が再開してもしばらくは確実に売り上げは落ちるわけです。なにが正解かはわからないこれからの時代のなかで、少しでも可能性のあることにチャレンジしていくのはアリだと思うんです。

とはいえ、自分やスタッフが割ける労力は限られているわけです。だから、これまでウチを支えきた店頭での接客をまずはしっかりする。それをおざなりにしてオンラインサービスに必要以上の労力をかけるのは、ちょっと土台が揺らぐような気がします。

──やはりハイカーズデポは接客が命だと。

今回のコロナで、さまざまな可能性を考えることができたのは、ひとつの大きな収穫でした。そこで僕があらためて思ったのは、山や道具と同じくらい「接客」という仕事が好きだという点です。なので、今後とも接客を大事にしながら店を守りたいと思っています。

コロナがもたらした、接客の新しいかたち

再開後の店内

撮影:編集部(再開後の店内はレジ回りの空間を広くし、密接状態にならないよう配慮している)

6月3日の正午に店を再開したハイカーズデポには、開店直後からひとり、またひとりと来客が相次ぎました。みなさんマスク着用で、入口に置かれたアルコールで当たり前のように手指を消毒してから店に入ってきます。迎える土屋さんとスタッフは、マスクとフェイスシールドを着用し、換気扇とサーキュレーターは全開で回っています。

おそらく、今後は多くのショップがこうした形でウィズコロナ時代のスタンダードを模索していく日々が続くのでしょう。そのなかのひとつのオプションとして、オンライン接客サービスが位置づけられるのかもしれません。

ハイカーズデポ

スタッフ二宮勇太郎さんによる「ハンモック登山」記事

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