【遠隔で山道具アドバイス!】ハイカーズデポにみる「オンライン接客」の可能性

2020/06/22 更新

5月25日に緊急事態宣言が発令され「店舗で山道具を買う」ということができなくなりました。プロの販売スタッフのアドバイスが大きな意味を持つアウトドア道具選び。いち早く「オンライン接客」を取り入れたのは、あの有名店。今回は実際にZoom接客を受けたメリット・デメリットを踏まえ、「新しい接客」のあり方をレポートします!


アイキャッチ画像撮影:筆者

外出自粛を機に、あらゆる集まりの「オンライン化」が広まる!

会議から飲み会まで、あらゆる”集まり”が「オンライン化」された自粛期間でした。そうしたなか、アウトドアショップとしていち早く「オンライン接客」を導入したのが東京・三鷹の「ハイカーズデポ」。

実店舗での接客を重視してきたこの専門店が、このオンラインツールをどう受け入れたのでしょうか。Zoomを使った接客を実際に体験しつつ、詳細をレポートします。

実験的にZoomでの接客を導入した「ハイカーズデポ」

ハイカーズデポ
撮影:編集部
ハイカーズデポは都内のアウトドアショップでも1、2を争う個性派として知られる専門店です。

ライトウェイトなギアに特化した濃密な品揃えが特徴的で、小さなショップながら大型の登山用品店でもなかなか見ることのできない道具やウエアが店内に所狭しと収まっています。

オーナーの土屋智哉さんはウルトラライト(UL)ハイキングを日本に紹介した先駆けで、幅広いハイカーに向けて、軽量な装備で自由に軽やかに山を歩くことを提案しています。

オンラインショッピングとも違う、オンライン接客とは?

撮影:筆者(オンライン接客告知。ハイカーズデポHPよりキャプチャー撮影)
ハイカーズデポが新型コロナウイルス感染拡大防止のために店舗営業を休止したのは4月4日、東京都が非常事態宣言を発する3日前でした。そこから1カ月以上経ったゴールデンウィーク明けの5月13日からオンライン接客をスタートさせています。

もちろん、ハイカーズデポにもオンラインでの通信販売はありますし、ウェブサイトでのアイテム紹介はわかりやすく、驚くほど詳細にわたっています。それでも、実店舗での接客に比べれば、やはり限界があります。

特にUL系ギアには、一見しただけでは使い道すら想像できないニッチなアイテムも少なくありません。そうした見知らぬギアを手に入れて、自分の山行で有効に活用するには、やはり店頭での接客を通じたアドバイスが一番なわけです。

それだけに、ハイカーズデポが「オンライン接客」という新しい取り組みを始めたことは、理に叶った選択であり、私たち登山者にとってもメリットがあるように思えます。なぜなら、画面を通した疑似的な体験だとしても、店主の土屋さんと面と向かったリアルタイムなやり取りができるわけですから

というわけで、実際にオンライン接客を受けてみることにしました。

実際にオンライン接客を受けてみた!

オンライン接客を希望する人は、まずはメールに所定事項を明記して申し込みます。日時が決まれば、店からオンライン接客への招待状、つまり、オンラインミーティングのURLとID、パスワードが返送されるというシステムです。

zoomミーティング招待状
撮影:筆者(お店から送られたZoom接客招待状)
使用アプリケーションはZoomで、事前にサインアップ(無料)しておく必要があります。そして、オンライン接客はすべてオーナーの土屋さんが担当します。

接客時間は45分ということで、具体的な商品や質問がはっきりしていたほうが有意義な接客を受けられそうですが、「最近のお勧めアイテムは?」とか「ひと通り店内を見てみたい」といったザックリとした要望でもOKとのことです。

店からの返信メールにある指定のURLをクリックすると、ブラウザ上でZoomが開きます。で、指定のIDとパスワードを打ち込むと別ウインドウが開いてミーティング画面。実に簡単です。

ちなみに、今回の体験取材用に私が選んだ質問は、今話題のMSRの高効率バーナー「ウインドバーナー」について。ウェブサイトや雑誌の記事を読んで基本的な商品知識はあるが、まだ実際に使ったことはない、と事前に伝えています。

ウインドバーナー

土屋智哉さん本人のマンツーマン接客はじまる

接客を始める土屋さん
撮影:筆者(実際のZoom画面より。メイン画面は店内で接客する土屋さん。上部に筆者)
土屋さん
さて、MSRのウインドバーナーということで、実際にお湯を沸かしながらお話を進めていきましょう

寺倉
へぇ〜、そんなこともできるんですね。なかなか新鮮です


実際に湯を沸かしてみる土屋さん
撮影:筆者(画面の向こうで実際の商品を使用し、湯沸かしを実演中)
土屋さん
ご要望に応じていろいろなシーンをお見せしながら説明できるのが、いわゆるオンラインストアとの大きな違いですね

寺倉
たしかにそうですね。では、着火したバーナー部分をよく見せていただけますか。「炎が見えない」と書かれた記事が多かったもので


疑問点を見せて解決
撮影:筆者(「炎が見えない」という商品特性をわかりやすく解説中)
土屋さん
はい、ここですね。ニクロム線が赤化している状態がよくわかると思います。いかがです?

寺倉
ははぁ、なるほど。たしかに炎自体は見えないけれど、火が付いているかどうかは一目瞭然ですね

土屋さん
ですよね。だから使用上はなんの問題もないと思います。ほら、もう沸いてきましたよ

寺倉
手に持ったときのサイズ感がわかりやすいですね

土屋さん
そうなんですよ。そこがオンライン接客のいいところだと思います


Zoom画面筆者側
撮影:筆者(先ほどの接客を筆者側から見るとこんな感じでした)

意外とあり?!メリットデメリットを検証

Zoom接客使用ツール
提供:ハイカーズデポ(オンライン接客での使用ツールであるPCとスマートフォン)
ハイカーズデポのオンライン接客は、とりあえずの試験運用ということもあり、ノートPCとスマートフォンという身近な機材でスタートしています。

カウンターで接客できる小さめのアイテムはノートPCでじっくりと、店内をぐるりと回って見せるときや、バックパックやツェルトのなどディテールをさまざまな角度から説明するときには、スマートフォンに切り替えて、ハンディカメラ代わり使います。

商品を見せるのに、スマホのカメラをフル活用

土屋さんが言うように、サイズ感がわかりやすいという点は、オンライン接客の大きなメリットに思えます。小さなアイテムは手に持って見せ、たとえばバックパックは土屋さんが背負って見せ、ツェルトでは中に入って寝転んでみたり……。

ザックを背負う土屋さん
撮影:筆者(実際にザックを背負って見せてくれる土屋さん)
実際の人が使っている様子を見ることで、サイズ感をイメージしやすいんですね。また、わかりにくい部分はアングルを変えてもらったり、カメラを近づけたり遠ざけたりと、要望通りに工夫して見せてくれます

アイテムの特徴や使い方などはオンラインストアでもわかりやすくまとめられた画像や動画がありますが、オンライン接客の場合は、わかりにくい部分をいちいち巻き戻す必要もないし、わからない点は瞬時に要望できる。それも大きなメリットに思えます。

でも「ぶらぶら買い物」の楽しさは……

物量が多いハイカーズデポ通常店内
提供:ハイカーズデポ(お店に行けばいろいろなアイテムを直に見ることができる)
では、オンライン接客でできないこととはなんでしょうか。

ひとつは当然ながら、商品に触れることができない点です。なので、手に持ったときの重さや、手触り、質感といったあたりがわからない。実際の店頭だったら、意外に重要な選択肢になる要素ですね。

また、目的が明確でないショッピングが苦手です。「なにかおもしろいモノ、ないかな?」と、店内をぶらぶら見て回る楽しみってあるじゃないですか。それができない。

もちろん、手持ちのスマートフォンで店内をくまなく見せてもらうことは可能です。けれども、店内を見て回るペースや、気になった箇所をじっくり見たいときはその都度指示しなければならないので、いわゆる「ぶらぶら」ショッピングとは、ニュアンスが違ってくるわけです。

オンライン接客のメリット・デメリットをおさらい

というわけで、「オンライン接客」体験取材のまとめです。
メリット
・手触りや匂い、試着や試し履き以外は、店頭での接客に近いものが得られる
・オンラインストアと比べると、わかりにくかったサイズ感やディテールが明快に
・買いたいアイテムが決まっていたり、いくつかの商品を比較したい人には特に有効
・自分の条件を加味した突っ込んだ相談の場合、メールより手軽で、電話より具体的
・場合によっては、友達2、3人と同時にオンライン接客を受けることもできる
・電車やクルマに乗って実際に店に足を運ぶ必要がない
 
デメリット
・メールで事前に日時を特定させる必要がある
・オンラインアプリの使用は慣れない人には敷居が高い
・ウエアの試着やシューズの試し履きができない
・ぶらりと店内を見て回るには自由度が足りない
・「ついつい衝動買い」のチャンスが少ない

緊急事態宣言明け、実店舗営業を再開

5月25日に東京都の非常事態宣言が解除された翌週、ハイカーズデポを訪ねてみました。この日(6月3日)東京都による「ステップ2」移行を受けて、店舗営業を再開する直前でした。

店舗営業を自粛していた2ヶ月間は、3人いるスタッフのうち、遠方のふたりは在宅で主にウェブ関連の仕事、店に近い土屋さんともうひとりで毎日店舗に出勤していたとのこと。電話とメールの問い合わせも多く、また、春夏商品の入荷時期で、毎日のように荷受けが続いたそうです。

突然の営業自粛と売り上げへの影響について

土屋さんと店内
撮影:編集部(再開初日6月3日の店内風景。取材中もお客さんがやってきていた)
そんなハイカーズデポの自粛期間はどんな状況だったのでしょうか。そのなかで、果たして「オンライン接客」は店を閉めていた時期のフォローになったのかどうか。そのあたりを含めて、土屋さんにインタビューしました。

──自粛を受けて、やはり売り上げは激減ですか?

激減ですねぇ。正直言って半分以下。いや、もっとかな。通信販売は稼働していましたが、ウチはもともと通販の比率が低いんですよ。やはり、店に来てみたい、というお客様が圧倒的に多かったんです。また、実際に山に行けない、という状況も少なからず影響したと思います。

──店を閉めたぶん、オンライン接客で補填させたいという意図はありましたか?

それは最初からなかったです。今回のマイナスぶんをひとつのことで補填できるとは思っていませんでしたし、始めた理由は補填というよりは、チャンネルを増やす感覚です。通販の申し込みにメールや電話やファックスがあるように、接客もオンラインでできますよ、という感じです。

オンライン接客を始めたきっかけについて

──そもそもオンライン接客を導入しようと考えたきっかけは?

「ハイカーズデポがオンライン接客をやってくれたら」と、何人かがSNSで発信してしているのを目にしてからです。
最初、僕はノリ気ではなかったんです。実物が触れないからストレスも溜まるだろうしと。でも、試しにスタッフとやってみたら「画面越しでも、実物に触れなくても面白い」という反応でした。だったら考えてみる価値はあるなと。それが4月の終わりごろでした。

──Zoomというアプリケーションを選んだ理由はなんですか?

特に理由はないんですよ。単純に多くの人が使っていたからです。多くの人が理解できて、使えるものがベターだろうと。FacebookのメッセンジャーやLINEでもテレビ電話はできるわけですが、それだと僕のプライベートな情報をさらすことになりますしね。

21日間のオンライン接客とは一体どんなものだった?

ツェルト
撮影:筆者(オンライン接客でもツェルトは購買につながった)
──現在までに、オンライン接客は何件受けたのですか?

5月13日からスタートして、まだ全部で6件です。バーナー、バックパック、ツェルトがそれぞれ2件ずつ。その場で決めた人も、後日あらためてという人もいましたが、最終的にはみなさん買っていただきました

──接客の所要時間は?

機材トラブルで1時間かかったこともありましたが、だいたい30〜40分です。これが店頭での接客だったら、30分で終われば短いほうです。メインの商品以外のものも見て回ったり、ほかの人の接客を聞いたりもしますから、1時間や2時間は普通です。

土屋さんが気づいた「新たな可能性」と「接客への思い」

オンライン接客を振り返る土屋さん
撮影:編集部
──実際にオンライン接客を体験取材してみて、これはアリだな、という印象を受けました。

やりようはありますよね。でもたぶん、多くのお客さんは、もっと気軽にふらりと店に来るような感じの配信的なものを求めているのかもしれません。その方向とは今は違いますよね。
でも、今感じているのは、遠方のお客様への接客ツールとしては非常に有効だということ。なので、店を再開したこの先も続けていこうと考えています

──メールよりは手軽で、電話よりは具体的。

メールで十分な方もいらっしゃるでしょうし、でも、もっと詳しく見るならZoomでお見せできますよ、という感じです。また、これまでも電話口で長々と説明して買って頂くことがけっこう多かったんです。その電話での接客をグレードアップさせたものという感覚もありますね。

──なるほど。

あとは、逆にこちらからお客様の装備を確認するときもZoomは便利です。「バックパックの中身を軽量化したいからアドバイスを」という要望がたまにあるんです。それには、使っている道具を詰めたバックパックを店に持ってきてもらう必要があるわけですが、それって面倒じゃないですか。それがZoomならお客様の家の中で道具を並べてもらえばいいわけです。

──いろいろと可能性は広がりますね。

動画配信も含めていろいろアイデアは生まれますね。店が再開してもしばらくは確実に売り上げは落ちるわけです。なにが正解かはわからないこれからの時代のなかで、少しでも可能性のあることにチャレンジしていくのはアリだと思うんです。

とはいえ、自分やスタッフが割ける労力は限られているわけです。だから、これまでウチを支えきた店頭での接客をまずはしっかりする。それをおざなりにしてオンラインサービスに必要以上の労力をかけるのは、ちょっと土台が揺らぐような気がします。

──やはりハイカーズデポは接客が命だと。

今回のコロナで、さまざまな可能性を考えることができたのは、ひとつの大きな収穫でした。そこで僕があらためて思ったのは、山や道具と同じくらい「接客」という仕事が好きだという点です。なので、今後とも接客を大事にしながら店を守りたいと思っています。

コロナがもたらした、接客の新しいかたち

再開後の店内
撮影:編集部(再開後の店内はレジ回りの空間を広くし、密接状態にならないよう配慮している)
6月3日の正午に店を再開したハイカーズデポには、開店直後からひとり、またひとりと来客が相次ぎました。みなさんマスク着用で、入口に置かれたアルコールで当たり前のように手指を消毒してから店に入ってきます。迎える土屋さんとスタッフは、マスクとフェイスシールドを着用し、換気扇とサーキュレーターは全開で回っています。

おそらく、今後は多くのショップがこうした形でウィズコロナ時代のスタンダードを模索していく日々が続くのでしょう。そのなかのひとつのオプションとして、オンライン接客サービスが位置づけられるのかもしれません。

ハイカーズデポ

スタッフ二宮勇太郎さんによる「ハンモック登山」記事

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Zoom画面筆者側
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寺倉力
寺倉力

ライター+編集者。スキー&スノーボード専門誌『Fall Line』編集長。長年に渡り、国内外のスキー&スノーボードシーンの取材に携わる。登山総合誌『PEAKS』の長期連載「Because it is there…」では、山にまつわる人々の素顔と言葉を引き出すインタビューを執筆している。

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