新緑の上高地・岳沢

植物採取はNGだけど魚取りはNGじゃない!?国立公園の予想外すぎる実情

国立公園と聞くと「自然が豊かな場所」というイメージを持っている人は多いでしょう。ですが、何を持ってその区画が整備されたか知っている人は少ないはず。そういえば国定公園などと何が違うのでしょうか?実は国立公園には知られていないことが沢山あり、意外なことだらけなんです!

目次

アイキャッチ画像出典:PIXTA

『国立公園』には知られていないことが沢山ある

新緑の上高地・岳沢

出典:PIXTA(中部山岳国立公園)

国立公園といえば、日本の美しい自然を満喫できる場所として知られた存在。自然の景観だけではなく、野生の動植物、歴史文化などの魅力に溢れています。
そのため、自然を保護するために「厳しいルールがあるエリア」というイメージがある人も多いのではないでしょうか?

尾瀬ハイキングの厳しいルール

尾瀬国立公園

出典:PIXTA(尾瀬国立公園)

本州最大規模の高層湿原が広がる『尾瀬国立公園』には「尾瀬ルール」という歩行時のマナーがあります。

・湿原には立ち入らない
・靴底の汚れをしっかり落として移入植物の侵入を防ぐ
・動植物をとってはいけない
など、美しい自然を守るため、厳しい管理体制がしかれています。

耳を疑う噂話

尾瀬沼

出典:PIXTA(尾瀬沼)

そんな厳しいルールがある尾瀬国立公園ですが、「魚を取ってもいい」という噂があることをご存知でしょうか?

編集部 生井
尾瀬に美しい自然があるのは、制度によって保護されてきた背景があってこそ。

この噂話、にわかには信じがたい…


そこで今回、ことの真偽や国立公園について、詳しい専門家にお話を伺いました。

教えてくれた人

准教授 下嶋
東京農業大学 地域環境科学部 准教授
下嶋 聖(シモジマ ヒジリ)さん
プロフィール

■取得学位
東京農業大学 – 博士(造園学)
■専門分野
環境影響評価
環境政策・環境社会システム
■所属学会・委員会 
日本造園学会、環境情報科学センター、日本レジャー・レクリエーション学会、日本景観生態学会、日本野外教育学会

国立公園の目的は〇〇保護

尾瀬国立公園

出典:PIXTA(尾瀬国立公園)

編集部 生井
先日「尾瀬で魚を取ってもいいらしいよ」と噂を聞いたのですが、これって本当でしょうか?

尾瀬ルールには「動植物をとってはいけない」と書かれていますし。


下嶋さん
ええ、厳密には禁止されてませんよ。

(※法律的な観点での話であり、マナーとしては絶対にNGです)


編集部 生井
随分あっさり…
魚も保護の対象になるんじゃないですか?

下嶋さん
それはですね、尾瀬だけの問題ではなく、国立公園のそもそもの目的が『風景保護』にあることが大きなポイントなんです。

<国立公園の定義>
日本を代表するすぐれた自然の風景地を保護するために開発等の人為を制限するとともに、風景の観賞などの自然に親しむ利用がし易いように、必要な情報の提供や利用施設を整備しているところであり、環境大臣が自然公園法に基づき指定し、国が直接管理する自然公園です。

引用:環境省

魚は風景には含まれない

下嶋さん
風景保護と自然保護はかなり近い意味合いもあるのですが、厳密には少し違うんです。
高山植物を取るのはNG、なぜなら風景が乱れてしまうから。でも魚をとっても風景は変わりませんよね?

編集部 生井
そんな微妙な違いが…

下嶋さん
さらに、自然公園法で全てを規制・保護することは難しく、国立公園では河川はとり扱えません。
だから「魚類は取っちゃダメ」とは書けないんです。

問題はルールが現代に対応していないこと

雲仙天草国立公園

出典:PIXTA(雲仙天草国立公園は日本で最初に指定された国立公園の一つ)

世界初の国立公園はアメリカのイエローストーン国立公園で、1872年に指定されました。日本では1931年に国立公園法が制定され、1934年に初めて国立公園が指定されています。日本の国立公園は、世界的にみても長い歴史があるんです。

下嶋さん
実は、国立公園に関する法律は約80年ほど変わってないんです。

編集部 生井
そうなんですか!?
でも、それって特に問題がないから長い間そのままという裏返しとも言えるんじゃないでしょうか?

下嶋さん
確かに「開発から守る」という意味では保護できています。
ですが、「どういう風景であるべきか」「それに見合った利用方法はどんなものか」という議論がされてないんです。

使い方は時代によって変わるものなので、この部分がリンクしていないんです。

それって何が問題なの?

編集部 生井
専門家から見るとそうなのかもしれませんが、登山をしていたりして特に不満を感じたことはないんですよね。

下嶋さん
80年間変わってない制度設計では、現代に対応できていないんです。

編集部 生井
それは具体的にはどのようなことがありますか?

下嶋さん
日本の山、特に北アルプスは稀有な例で、元々山岳信仰が根強かった。そこに後からヨーロッパの登山文化が入ってきたわけです。

例えば、トレイルランニングの大会など、新しいことをやりたくても、規制があって開催できていない状況です。
昔の基準で決められたことが、ずっとそのままであることが問題なんです。

他にもある国立公園の意外な実情

登山基地椹島

出典:PIXTA

編集部 生井
そういえば、国立公園の範囲ってよく分からないんですよね。
「ここから国立公園ですよ!」みたいなポイントが分かりにくいというか…

南アルプスの椹島にある看板のようなものがあると判断しやすいですけど。


下嶋さん
それも国立公園の抱える問題の一つですね。範囲が複雑なのにも理由があるんです。
そして厳密には、椹島周辺は国立公園に含まれていないんですよ

南アルプス国立公園の範囲

黄色線が国立公園の境界(画像をクリックすると拡大します)

編集部 生井
そうなんですか!?
てっきり国立公園内だと思ってました…

下嶋さん
国が買収しきれなかった土地は、開発が進まないように法の網をかけている状態ですが、土地の所有者の了解を得られないと国立公園と名乗れないんです。

そのため、範囲が限定的になり「どこからどこが国立公園か分からない」というケースが生まれているんです。

「もっと多くの人に興味を持って欲しい」

剱岳とキャンプ場

出典:PIXTA(中部山岳国立公園)

編集部 生井
改めて、国立公園について知らないことばかりで驚きが多かったです。
そもそも、どうして国立公園ってあまり深く知られていないのでしょうか?

下嶋さん
国立公園は造園学から派生したものなんですが、義務教育の過程に登場しないんです

国立公園やそこで働くレンジャーなどの存在もあまり認知されていない。
だから国民全体の興味関心が集まりにくいという構図になってしまっていると思いますね。


編集部 生井
ではこの先、国立公園が抱える問題を解決していくためには何が必要だとお考えでしょうか?

下嶋さん
まずは、多くの人に現状を知って、興味を持ってほしいですね。

新しい価値観やスタイルなど、時代に合わせてルールもカスタマイズしていくことが大切なんです。

普段何気なく歩いている登山道は、場所によって様々な事情が異なります。そんなことを考えながら登山をすると、新しい発見があるかもしれません。
本記事を読んで少しでも国立公園に興味を持ってもらえたら幸いです。

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