人気イラストレーター・鈴木みきさんが実践!「田舎暮らし、してみます?」

2020/06/10 更新

山好きの人ならば、一度は「山暮らし」や「田舎暮らし」を夢見たことがあるのではないでしょうか?
そんな夢を実現した生活を送っているのが、イラストレーターの鈴木みきさん。「山」に関するさまざまなマンガを書いている大人気の作家さんで、いまや山に関する著書は十数冊。鈴木さんの本を読んで登山を始めたという人も多いはずです。じつは鈴木さんの本のすべては「田舎暮らし」をしながら書かれたものなのでした。


「山の近くで過ごしたい」。都会育ちの女性が“田舎暮らし”を開始

鈴木みきさん
撮影:編集部
撮影:高橋庄太郎(鈴木さんのこれまでの著作の一部。女性の目線で書かれたものながら、男性ファンも多いようです)
鈴木さんはもともと東京生まれの東京育ち。しかし、24歳でカナダ旅行を経験したころから山の魅力に取りつかれ、その後は山小屋勤務~山雑誌の読者モデルなどを経て、イラストレーター/マンガ家になりました。

38歳でかねてからの希望だった「山が見える場所」に住むために山梨県の北杜市に移住することにしてしまいました。その移住生活8年間の「田舎暮らし」をもとに表した最新刊が『中年女子、ひとりで移住してみました』(平凡社)。いったい、どんな田舎暮らしだったのでしょうか?

撮影:高橋庄太郎(鈴木さんの最新刊『中年女子、ひとりで移住してみました』平凡社刊)
「私は高校を卒業してからずっとひとり暮らし。山が好きになってからは、山小屋やスキー場で働いたこともあって、“山”で暮らしていた時期はこれまでにもありました。だけど、“田舎暮らし”は北杜市が初めて。事情があって大家さんが住めなくなったという家を知人から紹介してもらったんです。ご縁があったんですね」

撮影:高橋庄太郎(『中年女子、ひとりで移住してみました』のはじまりのページ。たんなるマンガではなく、情報量たっぷりのコミックエッセイという形式です)

「街」と「山」のあいだにある「田舎」暮らし

ここで注意したいのは、鈴木さんが「山」暮らしと「田舎」暮らしを区別して考えていること。鈴木さんの頭のなかには、さらに「郊外」暮らしや「街」暮らしという区分もあり、「山」「田舎」「郊外」「街」という順番で、大自然から都会での生活までをグラデーションで並べて考えるとわかりやすいようです。

鈴木みきさん図解
「山小屋やスキー場にいたときは、ドアを開ければ絶景が広がる山の中というのが日常。都会はそれとは反対で、山に行くのは非日常の生活でした。その点、田舎暮らしはそのどちらとも違う山との関係性です。私が住んでいた茅葺きの家は冬になると極寒で、家の中でもダウンの上下を着ていたり、屋根裏にはハクビシンが住み着いていたり、ある意味、家の中もアウトドア(笑)。山小屋にいるのと同じようなものですが、登山口がすぐ近くにあるわけではない。だけどいつも近くに山が見られるんです」

撮影:鈴木みき(鈴木さんが北杜市で暮らしていた茅葺きの家。敷地は400坪もあり、庭の管理も大変だったとか)
撮影:鈴木みき(北杜市は積雪が多い地域ではありませんが、さすがは八ヶ岳の山麓。冬になれば雪が積もり、寒さが厳しい地域です)

意外!? 山の近くでも、あまり山には行かない生活

北杜市の周りには南アルプスの甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山、そして八ヶ岳など急峻な山ばかりがそびえています。日帰り登山は難しい山が多く、登るなら朝早くから行動し始めなければならなかったそうです。

「街に住んでいるときなら、今日は“山に行くぞ!”気合が入っていたので平気でしたが、田舎暮らしを始めると時間に縛られないのんびりした生活になることもあって、早起きしてまで“近くの高い山”に行こうとはあまり思わなくなりました。山に登ればもちろん爽快な気分になれるのですが、山が見える田舎に住んでいれば、家の近くでも十分に爽快ですからね。わざわざ行くなら、家の周りではない遠い山だったりしました」

撮影:高橋庄太郎(田舎暮らしには山道具が役立つことが書かれたページ。マット、水筒、ライトなど、アウトドアギアは田舎暮らしでも便利に使えるものが多いそうです)
撮影:鈴木みき(囲炉裏まであったという北杜市のおしゃれすぎる家。茅葺き屋根にムシやカビが付かないように、毎日焚火をするのが日課でした)

生活のなかにある“シンボル”としての「山」

北杜市の鈴木さんの家からは甲斐駒ヶ岳がよく見えました。。

「私は生活の中にシンボリックなものがあってほしいんですよ。例えば、東京生活のときは東京タワー。それが見えるだけでホッとしました。北杜市に引っ越すと、私のシンボルは部屋から見える甲斐駒ヶ岳になりました。眺めていると、地続きで直接つながっている気がして、そこからなにか大きなものをいつももらいながら生活しているような気分でした」

撮影:高橋庄太郎(鈴木さんが暮らしていた家の近くから眺めた甲斐駒ヶ岳。これだけ立派な山を毎日見られる生活がうらやましい!)
撮影:高橋庄太郎(本の中にも当時の家から見えていた甲斐駒ヶ岳や囲炉裏がある家の中が描かれています)

生活スタイルは柔軟にチェンジ。いまは「田舎」から「郊外」での暮らしに

そんな北杜市における鈴木さんの田舎暮らしは、じつは過去形。もともとの大家さんが住めない期間だけ家を借りていたこともあり、一昨年前に北杜市から別の場所に引っ越ししてしまっったのです。

「この本を書いたのは、北杜市を離れたからでもあるんです。住んでいるときに書くと、場所が特定されて大家さんに迷惑をかけてしまいますから。離れるときは、近所のみなさんに引き止められましたよ。ショック~、さみしい~って(笑)。出会う人にも恵まれて、私は運がよかったと思います」

移住先は、北海道の札幌市。鈴木さんはこの引っ越しを機に何か新しいことを始めようと思い、以前から資格を取ろうと考えていた日本語教師の学校がある移住地を探したそうです。そのなかから選んだのが札幌でした。

「北杜市のみなさんも“学校にいくなら仕方ない”と……。私は前から札幌に興味がありましたし、街の周辺には低い山がたくさんあって、昼に起きてもすぐ気軽に行けるのがいいところです。自分の感覚には合っていますね」

撮影:鈴木みき(鈴木さんがよく歩いて通るという、札幌の自宅近くの公園内の川。自然に近い感じが気に入り、動物の足跡を見つけるとうれしくなるそうです)
現在の札幌の家は、先ほどの定義で言えば「田舎」というよりは「郊外」。それも都会よりの郊外です。最初は学校に通うこともあり、比較的交通の便がよい場所を選んだそうです。

「親のこともあるから月に1~2回は東京の実家にも帰りたいですし、海外などの遠くの山へ行くことも増えているので、千歳空港からLCCが使えるのも魅力です。札幌は都会も自然もあって、とても住みやすいですよ。市街地のそばに手軽に登れる山がたくさんあり、私の自宅からは藻岩山が見えるので四季折々の変化を楽しんでいます」

撮影:鈴木みき(鈴木さんの自宅からも見えるという札幌市民の山、藻岩山の山頂近くにあるスキー場。景色がよく、お気に入りの場所とか)

「田舎」「郊外」暮らしは日本に限らない!?

ところで、鈴木さんが日本語教師の資格を取ろうと思ったのは、いつか海外でも暮らしてみたいと思っているから。日本人観光客相手の商売も盛んなヒマラヤ近辺はじめ、日本語を教える人のニーズは高いそうです。

「私にお金の余裕があれば、ネパールで無料の青空教室なんかをやりながら、山の近くで暮らすのもいいですね。なんなら“流し”の日本語教師なんて言うのも……。私が山を好きになったきっかけでもあるカナダでも、仕事をしながらもう一度暮らしてみたいです」

山好きの人が、自分好みの移住先を見つける方法とは?

田舎暮らしから郊外暮らしに生活をマイナーチェンジさせつつも、鈴木さんは今でも山の近くで暮らしています。鈴木さんのように居心地がよい移住先を探していくには、なにかコツのようなものがあるのでしょうか?

撮影:鈴木みき(恵庭岳の山頂からの写真。この山も札幌の自宅近くから見え、山頂の変わった形が気になって、登りに行ったそうです)
「私は山が見える場所に住んでいるだけでもウキウキしてくるタイプですが、もっとアクティブに山に行きかなければ気が済まない人も多いでしょうね。ものすごく好きな山があるのなら、その登山口近くで探すのがいいのかも。でも辺鄙すぎると、他の山へのアクセスが悪くなってしまいます。それならば、私が暮らしていた北杜市のように南アルプスにも八ヶ岳にも奥秩父にも行けるようなハブになっている場所がお勧めかな。大きな登山地図を見ながら考えるといいかもしれません。仕事の確保を優先するなら、観光地やスキー場の近く。田舎はどこも人手不足なので、お金を稼ぐ手段はたくさん見つかりますよ」

撮影:鈴木みき(札幌に近い無意根山の山頂。羊蹄山が見える眺めのいい山頂で、ついのんびり長居してしまったそうです)
北杜市での鈴木さんの田舎暮らしは順調でしたが、田舎暮らしを始めたものの、その地域になじめず、すぐに別の場所に移動してしまう移住者も多いという話もよく聞きます。

「私がいた集落は”生まれたときからそこにいる”という人が多く、移住者は限られた人数でしたが、ぜんぜん問題なかったです。移住してすぐは、人に会えばいつも朗らかに挨拶し、集まりがあれば必ず顔を出して覚えてもらうように心掛けましたけれど、それくらいでなじむことができました。いつの間にか、孫のようにかわいがってもらっていましたよ。でも都会の人から見れば田舎が閉鎖的に感じることもあると思います。最初から田舎暮らしに理想を描きすぎないほうがいいのでは」

人とのつながりは、とても大事なことのひとつ。

「移住先にひとりでもはじめから知っている人がいると安心ですね。とくに私のように家族もいない独身だと。北杜市の家は現地近くに住む知り合いからの紹介でしたが、”なにかのときはサポートするよ”という言葉が頼りになりました。その家自体も紹介していただいたのですから、まさに人の縁ですね。でも、もとから知り合いがいなくても、いろいろな地域で住みたい場所を探しているうちに、たまたま現地で”いい人”と知り合って、それを機に移住先を決める人は多いみたいです。”ここよりもあっちのほうが山の景色がいい”、”こっちのほうがお店が多くて便利”などと考えていても、最後は“あそこの人は親切だったな”という印象で決まるのではないかと思います。だから、いろいろなところで、いろいろな人に会ったほうがいいですよ」

撮影:編集部(今回の取材は東京で。北海道以外の山に登る機会が多く、その前後に故郷の大都市で過ごすのはよい気分転換になるそうです)

田舎に移住するなら、自分の意識改革を!

人とのつながりとともに、鈴木さんはなにより大切なのが「意識改革」だといいます。

「まずは仕事をどうしたいか? 都会と同じ働き方を田舎に求めるのは難しいから、どこを妥協できるのか自分で見つめ直しましょう。田舎暮らしに過度な憧れをもっている移住者が多い気がしますが、もしもその期待が外れたときに移り住んだ田舎のせいにしてほしくないですね。大事なのはよその地域に移住する、移住させてもらうという自分の意識。合わないと思ったらやり直せばいいんです。街暮らしでも、隣の人がうるさいとか、環境が合わないとかがあるじゃないですか。田舎暮らしだからといって失敗を恐れる必要はありません」

北杜市の8年間を経て、札幌の生活は2年目。鈴木さんの次の移住先はヒマラヤなのでしょうか? それともカナダなのでしょうか? もしかしたら、日本の別の場所なのかもしれません。

「札幌近郊には丸くて低い山が多いので、最近は北杜市の近くにあったようなギザギザした山を見るとテンションが上がるんです。隣の庭ならぬ、隣の山が青く見え、カッコよく見えます。今年はまた北アルプスにでも行こうかな。どこに住んでいても、思いついたときに身軽に動けるフットワークがある。私の人生はこれからもそうあるといいなと思っています」

鈴木みき
1972年東京生まれ。イラストレーター・漫画家。登山の楽しさを初心者にもわかりやすく伝える著作を多数発表し、女性ひとりでも参加しやすい登山ツアー「山っていい友!」(アルパインツアーサービス主催)の企画、同行も行なっています。

ITEM
『中年女子、ひとりで移住してみました』鈴木みき・著
38歳で東京を離れ、山梨県北杜市で8年間暮らした著者による、“オトナ女子的”移住案内。仕事・家探し・ご近所付き合いetc.移住に役立つ情報満載!
出版社:平凡社

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高橋庄太郎
高橋庄太郎

山岳/アウトドアライター。高校の山岳部から山歩きを始め、登山歴は30年以上に。好きな山域は北アルプスで、テント泊をこよなく愛する。テレビやイベントへの出演も多く、各メーカーとのコラボでアウトドアギア作りも。『トレッキング実践学 改訂版』『山道具 選び方、使い方』『テント泊登山の基本』など、著書も多数。https://www.instagram.com/shotarotakahashi/

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