草鹿教授
登山においては「登りは心肺機能」「下りは筋力」が特段要求されます。先に伝えたとおり転倒は下りに多い。 転倒を未然に防ぐには日頃の筋力トレーニングと持久力向上が重要なんです。
ライター三宅
毎週末登山に行く場合はどうでしょうか。
草鹿教授
週1回程度の登山では体力向上効果は不十分のため、平日のトレーニングが大切です。
階段の昇り降りや坂道など、積極的に筋肉に負荷を掛けることで、筋力と持久力向上に繋がります。
階段の昇り降りや坂道など、積極的に筋肉に負荷を掛けることで、筋力と持久力向上に繋がります。
ライター三宅
なるほど、やはり普段の積み重ねが安全登山に役立ってくるわけなんですね。
草鹿教授
通勤時やすきま時間などに意識的に取り込み、少しずつでも良いので継続していきましょう。
それでも万が一ケガをしてしまったら
日々の努力により体力向上し、行動食をしっかり摂取していても、不測の事態に見舞われることもあります。そんな「万が一」にはどのように対処したら良いのでしょうか?
草鹿教授
当然ケガの内容によって様々ですが、擦過傷などであれば清潔な水で患部を洗うこと。
打ち身などの場合は、痛みの程度を以って登山の継続可否判断を行います。
打ち身などの場合は、痛みの程度を以って登山の継続可否判断を行います。
ライター三宅
冒頭で「頭皮の挫創」は出血が多くパニックになり易いとのことでしたが、その場合も何か対処法はあるのでしょうか?
草鹿教授
大抵の場合は強く圧迫することで止血します。そのことをしっかり理解しておきパニックになるのを回避しましょう。
対処手順としては、水で患部を洗浄し清潔な布やタオルで断裂部をしっかりと押さえる。非常にシンプルです。
対処手順としては、水で患部を洗浄し清潔な布やタオルで断裂部をしっかりと押さえる。非常にシンプルです。
ライター三宅
なるほど、万が一の際、この処置法を思い出し冷静に対処することが重要ですね。
前述の複雑骨折の場合はどうすべきでしょう?
前述の複雑骨折の場合はどうすべきでしょう?
草鹿教授
緊急対応が必要ですので、基本的には近くの山岳診療所や警察、消防に救助要請すべきです。無理な自力下山は感染症の合併リスクもあり危険です。
出血が少ないケガや捻挫程度なら、患部の保護や固定で自力下山もできるでしょう。
出血が少ないケガや捻挫程度なら、患部の保護や固定で自力下山もできるでしょう。
登山ギアを有効活用しよう
草鹿教授
もっとも簡単な方法としては、万が一の転倒に備え、「頭部保護のためにヘルメットをかぶる」こと。 そして、「トレッキングポールでのバランス補助」。 これは岩稜帯などに限らず、低山・里山でも推奨します。
ライター三宅
なるほど、それは確かに誰でもできる簡単な方法で、かつ効果が高いですね!
草鹿教授
頭部保護は深刻な事故を回避できる確率が高まりますし、トレッキングポールによる四足歩行での負荷分散は、疲労軽減や足攣り予防にも効果があり、且つ転倒しにくくなりますよ。
備えあれば憂いなし、安全係数を上げよう!
せっかくの登山も、ケガや体調不良になってしまっては楽しむどころか逆に深刻な事態になりかねません。 今回、草鹿教授から教えていただいた内容は、いずれも少しの安全意識の向上で取り入れられるものばかり。 自身のため、そして、あなたの無事の下山を待つ人のためにも、ぜひ積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。それでは皆さま、どうぞ良いハイクを!
教えてくれた人
■草鹿 元
日本登山医学会理事
認定山岳医委員会 委員長
自治医科大学附属さいたま医療センター脳神経外科教授
栃木県勤労者山岳連盟 野木山想会副会長
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取材・文 三宅 雅也 (山岳ライター/長野県自然保護レンジャー)