頭部の負傷は生死を分ける…!八ヶ岳・行者小屋のカモシー番長に聴くヘルメット着用のススメ
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登山者の間でもすっかりポピュラーになったヘルメット。着用するのは槍ヶ岳・穂高連峰など限られた山だけでOKだと思っていませんか?単なる転倒でも“頭部の負傷”は生命の危険に関わります。
今回は、そんなヘルメット着用の重要性をカモシー番長に聞いてみました!
2023/11/01 更新
編集者
YAMA HACK編集部
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制作者
山岳ライター・登山ガイド
鷲尾 太輔
登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。登山ガイド・登山教室講師・山岳地域の観光コンサルタント・山岳ライターなど山の「何でも屋」です。登山歴は30年以上、ガイド歴は10年以上。得意分野は読図(等高線フェチ)、チカラを入れているのは安全啓蒙(事故防止・ファーストエイド)。山と人をつなぐ架け橋をめざして活動しています。
公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅠ 総合旅行業務取扱管理者
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アイキャッチ画像撮影:washio daisuke
八ヶ岳・行者小屋から聞こえる……カモシー番長のぼやき

撮影:washio daisuke(カモシー番長の住む八ヶ岳・行者小屋)
赤岳、横岳、阿弥陀岳など南八ヶ岳の登山基地となる山小屋・行者小屋。こちらの安全登山啓発キャラクター「カモシー番長」のぼやきが最近止まらないとの噂をキャッチ。
原因は、どうやら今シーズンから行者小屋でレンタルを開始した“ヘルメット”についてらしい……カモシー番長を師匠として崇める私としては居ても立ってもいられず、早速馳せ参じてお話を伺ってきました(2019年取材)。
ヘルメットを囲んでカモシー番長と語る

撮影:washio daisuke(カモシー番長との茶話会)
2019年からこの行者小屋でもヘルメットのレンタルを始めたのだ。
だが、ヘルメットを着用していれば……という事故も後を絶たなくてな。
系列の赤岳鉱泉さんでは、以前からレンタルされていましたよね。
赤岳鉱泉と行者小屋、どちらで借りてどちらで返却してもOKの利便性が高いシステムは登山者に歓迎されたと思います。
夏山シーズンを終えての反響はどうでしたか。
レンタルされる数は、前年の2倍以上に増えた。しかし、目の前を通り過ぎる登山者たちの中にはヘルメットを着用していない人々もまだまだいて、道半ばなんだよなあ。

そういえば今シーズン初めてのヘリ救助も、負傷者はヘルメットを着用していませんでしたよね。
うむ、あれは6月の文三郎尾根の下りだった。あそこは登山道に階段が整備されているんだが、そこで転倒して頭部を負傷したのだ。
あれはヘルメットを被っていれば、そこまで大事に至らなかったはずなのだ。
「ヘルメットの意味わかってんのかよ!?」

撮影:washio daisuke(登山用ヘルメット)
登山用ヘルメットが急速に普及したのは、2013年に長野県がヘルメット着用推奨山域を指定したことがきっかけ。その前年の長野県内の山岳遭難者のうち4人に1人が頭部を負傷していた一方、滑落してもヘルメットを着用していたおかげで命を取り留めた登山者もいたことが理由です。
けれども、着用推奨山域以外であればヘルメットは不要だと思っていませんか。その認識は大きな間違い。実際に着用推奨山域でない山で登山者が頭部を負傷し、重篤な怪我を負ったり死亡する痛ましい事故が毎年のように発生しています。
ヘルメット着用推奨山域は「滑落=致命傷」のルートがメイン

出典:PIXTA(北穂高岳〜涸沢岳の稜線から見た大キレット/全てヘルメット着用推奨山域です)
ヘルメット着用推奨山域は、長野県山岳遭難防止対策協会が指定した山域。
長野県・山岳ヘルメット推奨山域について
挙げられている山域は、破線ルート(難路)やバリエーションルート(一般登山道でない熟達者向けルート)を含む、危険度の高い場所に限定されてます。
▼稜線の幅が極めて狭い
▼稜線自体の高度が高い
▼稜線周囲の斜面の斜度が大きい
これらの山域で滑落すれば、数十メートルから数百メートルは滑落し致命傷を負うでしょう。
また、当然のことながらこれは長野県が指定した山域です。他県にも、滑落したら同様に致命傷を負いかねない山域は存在します。
剱岳(富山県)、八海山(新潟県)、妙義山(群馬県)などはその代表格と言えるでしょう。

撮影:washio daisuke(富山県の剱岳も滑落したら大惨事になる険しい岩稜に囲まれています)
このヘルメット着用推奨山域に関しては「※ただし、他の山域においてヘルメットが不要という主旨ではない」という文言が、どうも見落とされがちなのではないでしょうか。
着用推奨山域以外でもヘルメットが必要な理由とは?

出典:PIXTA(険しい岩稜が続く横岳)
無数の岩峰の登降を繰り返す「横岳」や、切り立った稜線を通過する権現岳と赤岳の間の「キレット」などもある八ヶ岳ですが、ヘルメット着用推奨山域には指定されていません。
とはいえヘルメット着用をオススメしたい理由は……
▼滑落までには至らない単なる転倒
▼他の登山者の不注意による人工落石
という原因でも、頭部を負傷する可能性があるからです。

撮影:washio daisuke(赤岳・地蔵尾根)
例えば、地蔵尾根は鎖場・ハシゴ・階段が連続する岩稜だ。
ヘルメット着用推奨山域の山々ほど稜線の幅は狭くないから、何百メートルも転落するような滑落事故にいたる箇所は多くない。
だが、もしここで転倒して岩にぶつかれば、頭部を負傷する可能性は大いにあるぞ。
撮影:washio daisuke(赤岳・山頂直下の稜線)
赤岳山頂周辺の稜線はいわゆる「ガレ場」の登山道で浮石も多い。
しかも、八ヶ岳最高峰&日本百名山という理由で多くの登山者が訪れる。
誰かが不注意で引き起こした落石が他の登山者の頭部を直撃したら…考えるだけで冷や汗ものだ。
登山用ヘルメット着用の重要性については、こちらの記事もご覧ください。
赤岳鉱泉・行者小屋の安全登山に対する“想い”と“配慮”