実は平出さんは世界的な冒険家でありながら、手に職を持ち、第一線で活躍している著名な山岳カメラマンでもあります。
過去にはビッグマウンテンスキーヤー佐々木大輔氏のデナリ大滑降や、三浦雄一郎氏のアコンカグア(6961m)への挑戦に山岳カメラマンとして同行。現在は田中陽希氏の日本3百名山ひと筆書き(Great Traverse3)にも、撮影隊として参加しています。
このカメラマンとしての仕事が、冒険家としての能力向上にも一役買っているのだとか。
「カメラマンのときは、空気を読んで、裏方に徹します。そして、些細な変化も映像に残さないといけないので、全体に気を配る必要があるんです」。
——脇役としてのカメラマンの仕事では、具体的にどういった目線になるのでしょうか?
「例えば、被写体の足が急に重くなったとします。今までの行動に原因があるのですが、カメラマンとしては、その要因になった一瞬を撮影していないといけない。そのような視点、思考で山に登っていると、自分が新しいルートに挑戦しているときも、どこか一歩引いて周りの状況を把握できるようになったんです。これが結果として、危険察知能力につながっていると感じています」。
平出さんのように、冒険活動と仕事をどちらも犠牲にすることなく、相乗効果で高め合いながら第一線で活躍している人は珍しい存在といえるでしょう。
しかし、過去には失敗も経験してきました。2005年に挑戦したシブリン(6543m)では、軽量化のために食料と燃料が尽きた結果、凍傷になり足の指を切断。2010年に北西壁を初登攀したアマダブラム(6856m)では、前進できないルートコンディションからヘリコプターで救出されています。
「生きて経験を積んで冒険を追求できてきたからこそ、山岳カメラマンとしての視野も広がり、様々な視点から状況を判断できるようになりました。安全を考える上では周囲を客観視する他にも、経験を積みながら、より謙虚に、臆病に、恐怖心を持つことが大切だと思っています」。
経験は得てして自信につながります。しかしその自信を過信しないことも、安全に山登りを続ける登山者に求められる姿勢なのでしょう。
「臆病になることで、そこから様々なリスクをイメージできて、はじめて安全と危険の境界線に線を引いて判断できるようになるのです」。
ラカポシへのアタックで青空の山頂へ導いてくれたモノは?
安全第一で冷静な判断を欠かさない平出和也さんですが、今年の7月に登ったラカポシでは、山頂直下6800m地点で悪天候につかまり、2日間も停滞しました。
——なぜ撤退ではなく、停滞する判断に至ったのでしょうか?
「現地では簡単な天気予報しかなく、正確ではないんです。案の定、予報が外れて信用できるものが無くなったときに、頼りにしたのが気圧でした」。
ラカポシの挑戦を記録した動画のなかには、テントのなかでビバークしながら、SUUNTOの気圧計で気圧の変化を確認している様子が残されています。
「すると、徐々に気圧が高くなっている傾向を読み取ることができたんです。SUUNTOの気圧計は、過去12時間の気圧の推移を表示してくれるので、一時的な変化に惑わされることなく、冷静に判断することができました」。
気圧の情報を頼りに停滞開始から3日目にピークへ向けて出発。予想通り天候は回復し、喜びとともに山頂に到達した背景には、青空が広がる様子が記録されています。
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冒険家・平出和也が見据えるこれからの活動
また一つの挑戦を成功させた冒険家は、これからどこへ向かうのでしょうか。
「今までの冒険は自分だけのものと思っていたのですが、徐々に応援してくださる人が増え、皆の冒険に変わってきたと感じているんです。これからはそうした方々に何か還元できる活動をしてきたいですね」。
一見すると重くて荷物になるカメラですが、自分の冒険を映像に残すことは、ひとつの大切な手段だと言います。
「見守ってくれる人にこの景色を見せてあげたい、見て欲しいという気持ちがモチベーションになっています」。
冒険家と山岳カメラマンの経験を最大限に活かし、平出和也さんはさらなる境地を目指します。
「歳を重ねるごとに挑戦できる冒険の数が限られてくるなかで、これからは“記録”よりも、自分のなかでしっかりと“記憶”に残る挑戦をしていきたいんです。結果、それが皆さんの記憶にも残ればいいなと。それを続けて、ゆくゆくは多くの人々の記憶に残る冒険家になれたらいいなと思います」。
世界的な冒険家は、自身のことをスペシャリストではなく、社会で暮らしながら、悩み、立ち止まり、そして自らの力でその壁を乗り越えていく社会人と同じだと言いました。目標を持ち、準備を行い、冷静に状況を判断しながら勇気を持って挑戦する。フィールドを社会に置き換えても、平出さんの活動から学ぶことは多いのではないでしょうか。
山の魅力が無限にある以上、平出和也さんの挑戦はこれからも続きます。
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