ウルトラライト道具について、つくり手に話を聞ける工房兼ショールーム『MT.FABs』

2019/04/18 更新

ウルトラライトギアを手掛ける『WANDERLUST EQUIPMENT』、そして『OGAWAND』の工房であり、それ以外の新世代系アウトドアガレージメーカーのアイテムのショールーム『MT.FAB』。日本の自然環境にあった新しい旅とウルトラライトのかたちを、作り手とユーザがともに考え生み出していこうとしている場にお邪魔し、ウルトラライト、そしてハイキングギアについて話しを聞いてきました。


アイキャッチ画像撮影:PONCHO

ひっそりと、都内のビルの一室にある『MT.FABs』

撮影:PONCHO(左が『WANDERLUST EQUIPMENT』の粟津 創さん、右が『OGAWAND』の小川隆行さん)
体のラインに沿う立体的で独特なデザインのサコッシュ”KHAMPA LA PACK”で知られる『WANDERLUST EQUIPMENT』の粟津 創さん。そしてオリジナルのデイジーチェインシステムによって、ひとつのパックで25ℓ~50ℓまで容量を可変できるパック”OWN”が話題の『OGAWAND』小川隆行さん。おふたりは神楽坂近くの古い建物の一室を借り、『MT.FABs』という名で2013年から工房兼ショールームを共にしています。

そこにはウルトラライト=UL道具を愛し、そして自作する多くの仲間たちのギアも並び、普段はネット上でしか見られないUL道具を手に取って見られる場所でもあります。いわゆるセオリーとは異なるハイキングスタイルで、UL道具を活用し、つくり、それぞれの目的で旅してきたおふたりの知見に触れられる貴重なお店です。

撮影:PONCHO(『WANDERLUST EQUIPMENT』を象徴するギア・KHAMPA LA PACK)
おふたりが手掛けるウルトラライト=UL道具のムーブメントは、日本でも大きな広がりを見せて久しいです。当初は米国のガレージメーカーの商品が紹介されるだけだったのが、日本でも米国同様の、そしておふたりのような本格的なガレージメーカーが立ち上がり、現在ではマスメーカーの多くもULに影響を受けた道具を販売しています。

それにともない、感度の高い一部のハイカーだけが愛用していたUL道具もかなり一般化して、すべての道具とまではいかないでも装備の一部に使うハイカーが多くいます。例えば、日本のULハイキングスタイルの象徴のサコッシュがそうでしょう。またフレームレスの軽量バックパックを背負うハイカーも、少し前に比べれば圧倒的に増えている印象です。

道具だけでなく、心も軽くしてみて

撮影:PONCHO
「ウルトラライトというと、日本では超軽量な装備で山に登るスタイルのように捉えられていますが、本来はアメリカの長大なトレイルを歩くために積み上げられたノウハウ、方法論のことです。多機能な道具によってそれを可能にするのではなく、シンプルな道具と昔からある古典的な野営術などを用いて、山で本当に必要なモノをハイカーそれぞれが吟味、精査して、より遠くまで歩いて行く方法。だからスタイルや道具をコピーだけしていても、実はあまり意味がないんです。ハイカー自身が試行錯誤してこそ、取り入れられるものです」

そう教えてくれた粟津さん。山との出会いは社会人になってから。最初の登山は冬山テント泊。「危なくなったら宿泊できるから、より安全」だろうというのが、その理由だといいます。

できるだけ失敗は避けたい。でも…

撮影:PONCHO
冬山に使う装備って、重い。だからそれ以外の道具をできる限り軽くしたかった、というのがウルトラライトに至ったきっかけです。道具だけでなく、その方法を学んで、ガレージメーカーから素材を取り寄せて自分でつくったのが今に繋がることです。

いろいろな山に登って考えたのは、山で生きるのに本当に必要なものとは、なんだろうか? ということ。例えば失敗を避けようとするメンタリティ。これって、場合によっては危険なことです。自分が危機に陥っていても計画、予定を変更できないことに繋がりかねないからです。だからこそ自分自身に植え付けられた既成概念や固定観念を疑い、つまり心を軽くしたら、もっと自由でより安全に山を楽しめると思うんです」

普通はデイハイクの方が簡単で安全だと考えます。しかし、その固定観念を疑うことで「危なくなったら宿泊できるから、より安全」と考え、テント泊から粟津さんの山旅が始まったのは、軽やかで柔軟な思考を持っていたからでしょう。

“軽さ”を装備することで、広がる視野



撮影:PONCHO(写真は『OGAWAND/Acperience(アクペリエンス)』。15~30ℓの容量可変のデイハイクから山小屋泊対応パック)
「不安や自信のなさというのは、僕らも同じように持っているものです。失敗するかもしれないという時に、ただ避けようとするだけでなく、それまで培った経験や、練習してきた技術などでリカバリー、クリアしていくことも楽しさのひとつだと思うんです。それは山という現場でないと、なかなか見つけづらいことでもあります。山道具づくりも、それ以外のすべてのことも、トライ&エラーの繰り返しだと思っています」
と語るのは小川さん。

撮影:PONCHO
「僕は、ULのムーブメントに乗った部分もあるけれど、実際に軽い道具を背負って旅してみると、なにをするにもラクだなとわかったのがきっかけです。重い荷物を背負っていると、疲れるし、いつの間にか下を向いて歩いていました。でも荷物が軽いと目線が上がって、周囲をよく見られるようになったんです。それは歩いている最中の余裕にも繋がるし、発見や楽しみも増えます。もっと若い頃は山のピークを目指すことが目的でしたが、歩いてる時の視野が広がってからは、山や自然の楽しみ方がいろいろと増えました」

その証拠に、『OGAWAND』では自転車のキャリアに固定することもできる『Acperience』というパックがあったり、フィッシングロッドを括り付けたパックが店内に並べられていました。

なんでもかんでも装備を削らなくていい

撮影:PONCHO
「ウルトラライトは、軽い装備、荷物で遠くまで行くということがベースにはありますが、それだけではありません。このショールームでもいろいろなガレージメーカーのウルトラライトギアを展示していますが、『VIVAHDE/山のうつわ』は、国産の栓(セン)の木できた大中小の器のセットで重さ210g。軽いけれど、軽さだけを追求したものではなく、こうした道具を使って、山での豊かな時間を美味しく味わおうとするものです。

またウルトラライトのストーブといえば軽さを重視したアルコールストーブというイメージがあると思います。でも、デイハイクや1~2泊のハイキングならガスストーブの方が素早く湯を沸かせて、状況によっては安全を確保するものになる。だからなんでもかんでも、装備や重さを削らなくてもいい。自分の目的に合わせて、ウルトラライトのエッセンスを利用していけばいいと思います」

「同じ山に3回登る」の真意

撮影:PONCHO
自分自身がどんな装備で、どのように山や自然の中で楽しみたいか。セオリーや固定観念の向こう側へと進むヒントが、装備の軽量化を考えたり、ULハイキングを学び自分なりに実践することで見えてきます。
粟津さんは、こんなことも話してくれました。

固定観念から自由になることは案外難しいことです。それにセオリーも、時ともに変わります。だからこそ現場の最前線の人から教わったり、話したりすることで気が付くことがあると思います。例えば、山であたたかいものを絶対に食べなくてはいけない訳でもないし、水がなくなったら川や沢の水を飲めばいいんです。とにかく思考停止しないことです」

最前線の人に触れる機会、それはここ『MT.FABs』を訪れることでもあると感じます。事実、おふたりと話しているだけで、「そうか!」「そうだよな!」と、思うことがいくつもありました。

撮影:PONCHO
小川さんは、こう続けます。

「ここに来るお客さんも、当初はいわゆるULっぽい人が多かったんです。でも今は一般的なハイカーがメインで、年配の方も多いです。彼らは自分のスタイルを持っていることが多いので、どういう道具を選ぶかあまり迷いませんね。でもビギナーはどうしていいかわからないようです。

そんなときに提案するのが、ひとつの山を3回登ってみてはということです。メインルート、マイナールート、そして違う季節(冬)や天候(雨)の時に、合わせて3回。そうすると、同じ山という安心感もありつつ、廻りの状況が変わることで、いろいろな風景が見え、視野が広がるんです。そうして、自分が装備した道具を改めて広げてみて、持って行って良かったもの、使わなかったもの、どちらかわからないものと分類していくと、本当に持つべき装備がだんだんとわかってくるんです」

さらに、分類しながらひとつひとつ重さを量ることも重要だそう。具体的な数値を知ることで、必要だと思っていたものを不要に思うようになったお客さんを、たくさん見てきたといいます。

正解は常に変わるもの

撮影:PONCHO
とかく正解を求めがちな私達。おふたりは、正解は常に変わるものだと教えてくれました。「この装備でこの山に行けますか?」と誰かに正解を尋ねるのではなく、ちょっとずつ失敗しながら、取捨選択を繰り返し、無駄を省き、シンプルを目指すこと。そうして目的や場所、状況に応じた答えを自分なりに導き、見つけること。それがULに限らず、山や自然を楽しむ神髄なのでしょう。そうしたプロセスを進む上で、『MT.FABs』はなにかしらのヒントや気付きを与えてくれる場所です。
さらに、
「目的意識を持ったお客さんとハイキングや道具のあれこれを話していると、触発されて、いろんなアイデアが生まれます」
と、おふたりがそう話すように、ここはこれからのハイキング文化を、つくり手とお客さんがともに生み出す場所でもあると感じました。是非、その空気に触れること、おふたりとの話を楽しみに訪れてみてください!

それでは、皆さん、よい山旅を!

撮影:PONCHO
【MT.FABs】
住所:東京都新宿区水道町1-18-2F
営業時間:水、木曜 16:00~21:00 ※祝日除く、その他不定休あり

MT.FABsの詳細はこちら


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PONCHO
PONCHO

登山、トレイルラン、自転車、キャンプ、旅をテーマに雑誌、WEBで企画、執筆する編集・ライター。低山ハイクとヨガをMixしたツアー・イベント『ちょい山CLUB』を妻と共に主催する山の案内人。

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