ひっそりと、都内のビルの一室にある『MT.FABs』

そこにはウルトラライト=UL道具を愛し、そして自作する多くの仲間たちのギアも並び、普段はネット上でしか見られないUL道具を手に取って見られる場所でもあります。いわゆるセオリーとは異なるハイキングスタイルで、UL道具を活用し、つくり、それぞれの目的で旅してきたおふたりの知見に触れられる貴重なお店です。

それにともない、感度の高い一部のハイカーだけが愛用していたUL道具もかなり一般化して、すべての道具とまではいかないでも装備の一部に使うハイカーが多くいます。例えば、日本のULハイキングスタイルの象徴のサコッシュがそうでしょう。またフレームレスの軽量バックパックを背負うハイカーも、少し前に比べれば圧倒的に増えている印象です。
道具だけでなく、心も軽くしてみて

そう教えてくれた粟津さん。山との出会いは社会人になってから。最初の登山は冬山テント泊。「危なくなったら宿泊できるから、より安全」だろうというのが、その理由だといいます。
できるだけ失敗は避けたい。でも…

いろいろな山に登って考えたのは、山で生きるのに本当に必要なものとは、なんだろうか? ということ。例えば失敗を避けようとするメンタリティ。これって、場合によっては危険なことです。自分が危機に陥っていても計画、予定を変更できないことに繋がりかねないからです。だからこそ自分自身に植え付けられた既成概念や固定観念を疑い、つまり心を軽くしたら、もっと自由でより安全に山を楽しめると思うんです」
普通はデイハイクの方が簡単で安全だと考えます。しかし、その固定観念を疑うことで「危なくなったら宿泊できるから、より安全」と考え、テント泊から粟津さんの山旅が始まったのは、軽やかで柔軟な思考を持っていたからでしょう。
“軽さ”を装備することで、広がる視野

と語るのは小川さん。

その証拠に、『OGAWAND』では自転車のキャリアに固定することもできる『Acperience』というパックがあったり、フィッシングロッドを括り付けたパックが店内に並べられていました。
なんでもかんでも装備を削らなくていい

またウルトラライトのストーブといえば軽さを重視したアルコールストーブというイメージがあると思います。でも、デイハイクや1~2泊のハイキングならガスストーブの方が素早く湯を沸かせて、状況によっては安全を確保するものになる。だからなんでもかんでも、装備や重さを削らなくてもいい。自分の目的に合わせて、ウルトラライトのエッセンスを利用していけばいいと思います」
「同じ山に3回登る」の真意

粟津さんは、こんなことも話してくれました。
「固定観念から自由になることは案外難しいことです。それにセオリーも、時ともに変わります。だからこそ現場の最前線の人から教わったり、話したりすることで気が付くことがあると思います。例えば、山であたたかいものを絶対に食べなくてはいけない訳でもないし、水がなくなったら川や沢の水を飲めばいいんです。とにかく思考停止しないことです」
最前線の人に触れる機会、それはここ『MT.FABs』を訪れることでもあると感じます。事実、おふたりと話しているだけで、「そうか!」「そうだよな!」と、思うことがいくつもありました。

「ここに来るお客さんも、当初はいわゆるULっぽい人が多かったんです。でも今は一般的なハイカーがメインで、年配の方も多いです。彼らは自分のスタイルを持っていることが多いので、どういう道具を選ぶかあまり迷いませんね。でもビギナーはどうしていいかわからないようです。
そんなときに提案するのが、ひとつの山を3回登ってみてはということです。メインルート、マイナールート、そして違う季節(冬)や天候(雨)の時に、合わせて3回。そうすると、同じ山という安心感もありつつ、廻りの状況が変わることで、いろいろな風景が見え、視野が広がるんです。そうして、自分が装備した道具を改めて広げてみて、持って行って良かったもの、使わなかったもの、どちらかわからないものと分類していくと、本当に持つべき装備がだんだんとわかってくるんです」
さらに、分類しながらひとつひとつ重さを量ることも重要だそう。具体的な数値を知ることで、必要だと思っていたものを不要に思うようになったお客さんを、たくさん見てきたといいます。
正解は常に変わるもの

さらに、
「目的意識を持ったお客さんとハイキングや道具のあれこれを話していると、触発されて、いろんなアイデアが生まれます」
と、おふたりがそう話すように、ここはこれからのハイキング文化を、つくり手とお客さんがともに生み出す場所でもあると感じました。是非、その空気に触れること、おふたりとの話を楽しみに訪れてみてください!
それでは、皆さん、よい山旅を!

住所:東京都新宿区水道町1-18-2F
営業時間:水、木曜 16:00~21:00 ※祝日除く、その他不定休あり
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