これまでの話はコチラ☟
ようやく移動のための移動が終わった。ベースキャンプで1日休養日を挟み、本格的に登山が始まる。と言ってもいきなり頂上を目指すわけではない。超高所のヒマラヤ登山が成功するか否かはいかに高所順応できるかが鍵となる。そのため、通常ベースキャンプと山頂の間にキャンプ1、キャンプ2、キャンプ3というふうにいくつもキャンプ地を設置し、それらを経由しながらゆっくりと高度を上げていく。
右側の稜線が今回登る南西稜ルート 撮影:上田優紀
アマ・ダブラムにおいても今回、僕はハイキャンプ(ベースキャンプとキャンプ1との間に設置されたキャンプサイト)を往復した後、キャンプ1に上がり、1泊してからベースキャンプに戻って1日休養。再度、キャンプ1、そしてキャンプ2へと登っていき、6,000mの標高に体を慣らしていく。キャンプ2で順応を終えるともう一度ベースキャンプに戻って休養し、風が弱く好天が3日ほど続く日を待ってアタックを仕掛ける、というプランを立てた。
このゆるやかな丘を登り、まずはハイキャンプを目指す 撮影:上田優紀
ハイキャンプまでは緩やかな丘を登っていく。特に危険なポイントもないトレッキングだが標高は5,000mを超えるためゆっくりと呼吸に気をつけながら歩き、2時間ほどで到着した。
ハイキャンプからアマ・ダブラムを見上げる。恐ろしく美しい 撮影:上田優紀
ハイキャンプから今回登っていく南西稜が真っ直ぐアマ・ダブラム頂上へと伸びている。雲を抱え、威風堂々とそびえるその山容は今まで見てきたアマ・ダブラムとは全く違っていた。恐ろしく美しい。畏怖の念さえ覚えながらいつまでもその姿から目を離すことが出来なかった。
ハイキャンプを超えると氷河を抱えたヒマラヤの山々が姿を現す 撮影:上田優紀
翌日、同じ道を歩いてハイキャンプ、そしてさらに上部のキャンプ1を目指す。前日と同様に深い呼吸を意識しながら時間をかけてゆるい傾斜を歩いていく。ハイキャンプを超えると突如世界が変わった。ベースキャンプからは見えないが南壁側はいくつもの氷河を抱え、その奥には白く美しいヒマラヤの山々が静かにたたずんでいる。
ガレ場から南西稜を見上げるとキャンプ1のテントが見えてくる 撮影:上田優紀
そこからはひたすら南西稜を進む。歩きやすかった道も次第に岩が散乱するガレ場に変わっていった。浮石に注意しながら歩いていくと遥か上空の稜線上にいくつかのテントがシミのようにポツリポツリと張り付いている。ガレ場から先はロープが設置されていた。
滑りやすいルンゼや傾斜の強い岩壁をロープを頼りに登っていく。標高は5,600mになり、激しく動くたびに呼吸は苦しくなる。深く鼻から息を吸い、しっかり肺に酸素を届ける。足場を確かめながら時間をかけて稜線上に辿り着いた。
稜線上に作られたキャンプ1 撮影:上田優紀
テントに入って熱いコーヒーを飲む。高所において水分はいくら飲んでも飲みすぎるということはない。水分不足は血をドロドロにし、高山病や凍傷の原因になる。