米海軍基地があり、独自の文化が根付く横須賀。そのディープな雰囲気を味わえる“どぶ板通り商店街”に、その店はあります。
心躍らずにはいられない山道具店『Kadoya』




しかし、この店がアウトドア好きを惹きつける理由はそれだけではないんです。
山好きが、何度も『Kadoya』に通ってしまう本当のワケ
「どうやらKadoyaには、知る人ぞ知る“名物店主”がいるらしい。」そんな噂を聞きつけた編集部員。これだけの山道具を揃えているのだから相当なアウトドア好きには違いありませんが、いったいどんな店主なのでしょうか。気になったので、実際に会いに行ってみることにしました。

恐る恐る話かけてみると…

アウトドア好きの“名物店主”というから、底抜けに明るいキャラクターなどを勝手に想像していた編集部員。しかし、実際にそこにいた店主は笑顔ひとつ見せてくれず、鋭い眼差しだったものだから、しばし困惑…。
「いや、ここで屈してはいけない!」と角さんのことを知るべく、これまでどんな風にアウトドアと関わってきたのか、お話を伺ってみました。

30歳を前にドロップアウト。
高校時代から山岳部に入って山をやっていたんで、年間何十回も行くわけじゃないけど、もともと山が好きだったね。いつかは山道具の店なんかもやってみたいなと考えてた。学生を卒業してからは就職して、何社かの会社に入って。30歳ちょっと前にドロップアウトして、地元の東京目黒から単身で湘南に。葉山の方にずっと住んでいたんだけど、あっちの方って会社がいっぱいあるわけじゃないから、設備関係の設計担当だとか、いろいろやったね。それをやりながら横須賀に、ここからちょっと行ったところに上町(うわまち)というところがあって、小さな飲食店と今のKadoyaと同じようなもっと小型の店を始めたの。
山に行けなかったからこそ、都会の山小屋を。
最初から飲食店と山道具は一緒にという想いはなんとなくあって。それはね、人が山小屋に集まるような雰囲気の。とにかく、自分で牡蠣の燻製だとかからすみだとかを作っていたんですよ。それをお客さんに出しながら「おいしいね」って話したりして。仕事をしていた頃は、本当に山に行かない時期だった。そんなに山に行けなかったから、そういうことをやっていたかったんだろうね。お店には自分の好きなものを。
ここに移転したのは28年くらい前かな。ここって米軍向けのスーベニア屋さんがほとんどなんだけど、そんなのはやりたくなかった。そしたら、好きなものを置くしかないよね。好きなものに囲まれてるのが一番。仕入れるときのポイントは直観というか、自分で使ってみて使いやすいやつだね。いろんなお客さんといろんな話を。
お客さんはアウトドアが好きだったり、山やクライミングやっている人もいるし、ふらっと覗いてくれる人もいて。山へ行ったっていう人がいれば、どんな感じだったか聞いたり、行くっていう人がいれば、「あそこはこうでこうだ!」って教えたり。知ってる範囲だけどね。うちで売ってるもので、こんなものが使いやすいよとか。前はちょっとだけツアーをやっていたことがあって、そのときはもっと山の情報交換ができていたかな。今はバーの方でみんなで話したりね。

今も山に行く、釣りが大好き。
もう70歳を超えまして、最近はイージーハイクが多いかな。それでも山に入って、岩魚釣りをしたりとか、1週間くらいの縦走とかはするね。あんまりシビアなところまではしないけど、気をつけなきゃいけない体になってきちゃったんで。アウトドア全般が好きだから、家でも薪を割ったり、薪を集めにその辺の山を駆けずり回って伐採しにいったりね。春から初夏にかけては山に入って山菜をとってきたりとか、岩魚の燻製を山で作ってきて、それをバーで出したりするわけ。
今後は好きなことをやりたい、もう歳だから…。
この店も好きなことのひとつだけど、もうちょっと好きなことを“自分がやりたい”かな。もっと外に行きたい、自分の本当のところに行きたいって感じ。どっかでゆっくりと自分の住み家みたいな、渓流そばのいい場所で、焚火をしながらゆっくり。重たい荷物を背負わずにのんびりと落ち着いて。

穏やかに、そしてちょっぴりボソボソと話す角さんには、不思議なあたたかさがあるんです。そして本当に自然が、アウトドアが大好きなんだということがヒシヒシと伝わってきます。
いくつになっても山遊びを楽しんでいるからでしょうか、メガネの奥のキラキラとした目も印象的。今日初めて会い、1時間程度話しただけなのに、「角さんの話をもっと聞きたい」「いろんなことを角さんに教えてほしい」とすっかり魅了されてしまいました。角さんは、“隠れ人たらし”に違いありません!
そのことは、カドヤのバールのマスターを務める中谷さんも話しています。

もともと僕は、ここの常連だった。
僕はここがオープンしたときから常連で。30歳くらいだから、30年くらい前かな。この店がオープンするちょっと前からハイキングや低山ハイクをしていたんです。そのうちKadoyaがオープンして、「地元にアウトドアショップができたんだ!」って覗いたのが角さんとの出会い。角さんが精力的に山に登ってるという話を聞いていたから、本格的に山に登るんだったらどういう道具がいいとか、どこの山に行ったら面白いとかの情報を教えてもらっていました。当時は角さんが意外と人見知りで、店をやっている人にしては全然愛想がなくってね。今でも親しい人たちはみんな言ってるの、「不愛想だし、感じ悪かったよね」って(笑)。でもね、どこか愛される感じがあって。付き合えば付き合うほど味があって、不思議と通っちゃうんだよね。
サラリーマンを辞めたのが5年前。
ずっとサラリーマンをしていたんだけど、もう区切りをつけようと思ったのが5年前。その頃は、バーも角さんが1人でやっていたんです。バーの方をやるときは、ショップをアルバイトの人に任せたりして。週末にどこかに出掛けても、よくここに飲みにきていました。それまで何年間か考えてはいたんだけど、会社を辞めるなら今かなと。それこそ職場で「辞めます」って言ったあとに角さんに電話して、「バーコーナーやらせてくれない?サラリーマン辞める!」と伝えたのがスタート。「いいよ、じゃあ直接話をしよう。」と角さんが言ってくれて、食べていかなきゃいけないしということで、バーのマスターになりました。

Kadoyaは毎日顔を出しやすい場所。
山道具をインターネットで購入したり、人とコミュニケーションを取ることを嫌う人が増えてきてはいますよね、若い人に限らず。その点Kadoyaは、山小屋みたいな近い距離感で話をできるし、こういうバーコーナーもある。たまたま居合わせたお客さん同士で盛り上がっていることもあります。毎日山道具を買う訳じゃないけど、でも毎日飲むでしょ? だから本当にいいところを作ってくれたよね。もっともっと気軽に立ち寄れる場所に。
ガンガンにアウトドアをやる人じゃなくても、気軽に訪れることができる場所にしていきたいね。グッズもウエアもデザインも色ももちろん、機能性ももっと知ってもらって、普段にも使ってもらえる品揃えと、そんなやりとりができればいいなって。結構ね、バーだけにきていたお客さんがアウトドアに興味を持ってくれることもあるんですよ。登山まではしなくても、山道具に興味を持ってくれたり、アウトドアウエアを普段から着てくださったり。Kadoyaはいろんなブランドを置いているから、「このメーカーにはこういう良さがあるんだよ」っていうのを、着てもらって、使ってみて、感じてほしいんです。こういう店があったから、僕は週末が楽しみでしたよ。
山好きが密かに通う山道具店は、愛され店主のいる下界の山小屋だった。


【あとがき】

こういう店をやっていると自身が外にでる時間がどうしても減ってしまいますが、それでも年に数回、二人で一緒に岩魚を釣りに行くとのこと。この日はラッキーなことに、新潟で釣ってその場で作ってきたばかりの“岩魚の焼き枯らし”を『カドヤのバール』でいただくことができました。





住所:〒238-0041神奈川県横須賀市本町2-8
電話番号:046-827-8957
KadoyaOutdoor Shop Kadoya|facebookカドヤのバール|facebookdobuitakadoya|Instagram