モットーは「遊びこそ安全に」
―――冬になると小屋横にできる氷の巨大壁(通称:アイスキャンディ)も、お客さんを楽しませるための施策として始まったのでしょうか?
どちらかというと、「安全登山の啓蒙」が目的ですね。冬の南八ヶ岳は自然の氷瀑が十数本できるようなところですから、昔からアイスクライミングのメッカとして有名でした。下は初心者から上は山岳ガイドなどの上級者まで、とにかく大勢の人たちが全国各地から訪れてくれるのですが、知識や技術レベルの異なる人たちがわっとひとつの氷に集まると、当然、事故や喧嘩が頻発します。
どうにか事故を減らせないものかと考えあぐねていた時に、小屋に出入りしていた広瀬さんという山岳ガイドの方から提案があったそうなんです。「小屋の横に、初心者が安全にアイスクライミングの練習をできる場所をつくれないか?」と。
遊びで死んじゃったら、いやじゃないですか
―――なるほど。そこから初心者体験会や、週末に定期開催されているクライミング講習会に繋がるわけですね。
そうですね。アイスクライミングにしても登山にしても、命がかかっている遊びというか。ひとつの操作ミスでさよなら、なんてことがあり得る世界なので……。だからこそ正しい技術を持った指導者の方からロープワークなどの技術をしっかり学んでおかなければならないと思うんです。
すべては自分の命を守るため。登山者の皆さんがそういうことを理解して、自分ひとりでもいろんな山の楽しみ方をできるように。だって、遊びで山に来て死んじゃったらいやじゃないですか。だから、そのお手伝いをできたらいいなと思っています。遊びこそ安全に。この気持ちを常に忘れないようにしています。
アイスキャンディでプロポーズ大作戦?!
―――命あっての遊び……うむむ。まさしくその通りだなと、しみじみ感じ入ってしまいました。浮ついた気持ちで登っちゃいかん、ですね!!
あ、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ(笑)楽しみや思い出といえば、アイスキャンディがプロポーズの場所になったことがあるんです。
―――へえ! プロポーズ!!
たしか4年前くらいだったと思うんですけど、たまにテント泊をするような男性客からある日「アイスキャンディでプロポーズしたいんです」とお声がけをいただいて。常連さんを巻き込んでの一大イベントに発展しました。彼女さんからの返事だけが唯一心配だったんですけど(笑)、結果は「もちろんYES!」で。
―――ステキなお話ですね! 聞いているだけで心が温まります。
本当に。「安全啓発」「遭難防止」のために始めたアイスキャンディが、人の人生の節目に関われる場所になったと思うと感慨深かったですね。自然相手に仕事をしているといろんなことが起こりますが、人と人とのつながりでもこんなに素晴らしいことが起こるんだなって。
アイスキャンディフェスティバルは今年15年目を迎えましたが、これも人とのつながりがあってこそだと思います。毎年協力してくださるメーカーやガイドさん、ボランティアスタッフの方々のおかげで、なんとかここまで大きな事故もなく続けてこられたという気持ちでいます。
象だけど一石二“鳥”な「マムート階段」
―――登山道についても聞かせてください。赤岳といえば文三郎尾根の「マムート階段」ですが、これはどういうきっかけで生まれたのですか?
あの階段は6年前、マムートさんと先代の親父の間で始まったものです。八ヶ岳の登山道整備は基本的に長野県の補助金で行いますが、当時は補助金額がどんどん減っていて、直したいところを100%直せない、ということが何度かあったんですね。
そんな時に偶然、マムートさんの方から「登山道整備に協力させてくれないか」と言ってくださったみたいで。国定公園なので色々と調整は必要だったのですが、先代が役所の人と話し合って説得しまして。