恐るべし…ハチ被害の実態

毎年厚生労働省が発表する人口動態調査の結果によると、ハチによる死亡者数は例年20人ほどと報告されています。この死亡者数は、有毒生物によるものとしては国内トップです。ハチに刺されても必ず死に至るわけではないので、軽症で済んだケースを含めれば、ハチ被害の母数は、この何十倍もあることが想定されます。
2017年度に登山道で起きたハチ被害事例
命の危険にも繋がるハチ被害は、山での被害も多数報告されています。2017年に実際にニュースになった登山中の事例を見てみましょう。2017年8月11日 高千穂峰

2017年9月10日 大滝山

2017年9月11日 藻岩山

2017年10月1日 白岳

登山に付き添っていた公園の看板犬であるボーダーコリーのオス“ロン”がスズメバチを追い払うようにかけより、自ら標的に。その間に登山者は避難することができたという。ロンは、20か所以上も刺され治療を受け、1ヶ月ほどして回復したとのこと。地元の長崎新聞でもロンの勇気ある行動が報じられ、ロンを称える声が相次いだ。
2017年10月4日 飯盛山

夏から秋は特に注意!

スズメバチが攻撃してくるのはココ!

手を指される被害が多いのは、スズメバチに「動くものを敵とみなして標的とする性質」があるためです。
スズメバチに襲われるとき、とっさに振り払おうと手を動かすことが多いため、こうした結果が生まれてきます。そのため、スズメバチと遭遇した時には、まず落ち着いて動きを少なくすることが、刺される被害を軽減する一つの大切な方法となります。
▼スズメバチの種類と対策についてはこちら
体の部位で狙われやすい箇所は分かりましたが、では、黒いものが狙われるという噂は本当なのでしょうか?
黒いウエアは狙われるって本当!?
黒はハチに狙われる色とよくいいますが、実際はどうなのでしょうか。本当ならば、登山で黒いウエアは避けたいですよね。「スズメバチはなぜ刺すか(松浦 誠 著、北海道大学図書刊行会)」の中で、スズメバチの前で様々な色の布を振り回した実験をされているので、結果をご紹介します。敵意を示した色は…

もともとアジア圏を中心に分布するスズメバチは、ハチノコを狙うアジア人の黒目黒髪に対抗するために、こうした特徴を身に着けたのではないか…、とも考えられているのです。
黒ければ必ず刺されるわけではありませんが、黒いものは彼らの標的になる可能性が高まるため、できれば黒や濃い色のウエアは避けたほうが良いでしょう。
その他の色では「青」にやや多い程度で、他の色はあまりハチを刺激しなかった。とくに「白」や「銀」にたいしては巣にたいする刺激が強くない場合はほとんど反応せず、かなり強い刺激を与えた場合でも、「黒」に比べると攻撃してくるハチは10分の1以下であった。
ハチにの色彩感覚って…

ある程度の色認識はしていても、見ている世界は人間とはまた違う世界になっているのです。スズメバチについては明らかになっていませんが、少なくとも色の濃さについては認識していると考えられるため、黒でなくても濃い色の服は、黒と同じように標的になりやすい可能性があります。
▼ハチ対策にぴったりのウエアの色についてはこちら
▼ハチに刺されるとどうなる!? 正しい対処方はこちら
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スズメバチの巣に気づかず、近づいてしまうことも無きにしもあらず。もしも登山中にスズメバチに遭遇してしまったら、どうしたら良いのでしょうか?
もしも、登山中にスズメバチに遭遇してしまったら…
スズメバチは、フェロモンというニオイ物質をつかって仲間とコミュニケーションをとるため、香水や整髪料、食べ物などのニオイに敏感です。スズメバチは、こうしたニオイや登山者が歩く振動などを察知し、それにより人を気にして時に攻撃をしかけてくるのです。
ただ、必ず攻撃してくるわけではありません。スズメバチが攻撃してくる様子と私たちがとるべき行動を段階ごとに見てみましょう。
スズメバチ目線でチェック! 攻撃するまでの3ステップ

『やっぱり! 怪しい奴がいるぞ!』
※人の周りを旋回する

※毒液を撒いて、仲間に知らせる
『ここは私たちの縄張りだ! これ以上近づくと攻撃するぞ! 』
※カチカチとあごを鳴らしたり、タックルするような行動をとり始めます。
『こっちは攻撃する準備万端だぞ!』

『危険だ!よし攻撃開始だ!』
段階別!スズメバチ遭遇時の対処法

スズメバチが自分の周りをぐるぐると旋回しているのは、こちらを気にしている証拠。巣から遠い場合は、ただニオイを気にして様子をみているだけのときもありますが、巣が近
い場合は危険です。
この時点で必ず攻撃してくるわけではないので、静かに後退りして遠ざかりましょう!
ハチは動いているものに敏感なので、この時点で大きな動きをとるのは控えましょう。じっとしていると離れていく場合もありますが、巣の近くの場合は、距離もとった方がいいので、静かに離れた方が良いでしょう。

あごをカチカチ鳴らしたり、タックルしてくるときは、もう本当の最終警告!
すでに危ない状態に来ているので、手で振り払ったり、身体を大きく動かすとたちまち攻撃されてしまいます。なるべく姿勢を低くし、静かに巣から遠ざかりましょう!
あごの「カチカチ」音は少し高い音なので、慣れないと聞き逃す場合もあります。また巣との距離によっては、この警告をする間もなく刺してくることもあるので、「この音を聞くまでは大丈夫」ということにはなりません。

威嚇したのに巣から離れない、もしくは巣に刺激を与えた敵には、攻撃をしかけてきます。毒液は刺して使ってくるだけでなく、ふきかけてくることも。
毒液には「こいつが敵だ」と仲間に伝えるニオイ物質も含まれるため、こうなるとじっとしていても刺されるようになってしまいます。
ハチが攻撃モードになったら、もう走ってでも逃げるしかありません。ハチが追ってこなくなるまで逃げましょう。
スズメバチも必死!? 登山の際は対策を!
スズメバチの女王は春から巣作りを開始し、晩夏から秋にかけて繁殖期を迎えます。その寿命は女王バチで1年、働きバチで1ヶ月程で、秋に新しく誕生した新女王バチだけが冬越しをし、次の年へと世代をつないでいきます。生物にとって世代をつなぐことはとても大切なので、スズメバチが必死に自分たちの巣を守ろうとするのは生物として当然の行動です。特に攻撃的になる時期も、スズメバチの生態を知ると合点がいくのではないでしょうか。スズメバチも、生態系の一員としては捕食者として大切な役割を果たしています。いなくなると、彼らがエサとする虫が増えるなどの可能性があるため、スズメバチが一定数生息することは、巡り巡って私たちにとって必要なことでもあります。

登山中はとにかくスズメバチの巣に近づかないこと、そしてスズメバチを刺激しないこと。できる対策をしっかりととって登山に出かけましょう。スズメバチも私たちも穏やかに山で過ごせると良いですね!
監修/セルズ環境教育デザイン研究所 西海太介氏