下ノ廊下|黒部峡谷の核心部!一度は歩きたい上級者ルートを解説

下ノ廊下にまつわる歴史やルート情報を一挙解説します。危険個所が連続するこのルートは上級者向きで、開通期間も一年のうちほんの1か月前後。事前にしっかりと情報収集したうえで臨むようにしましょう。


アイキャッチ画像撮影:YAMA HACK編集部

黒部峡谷「下ノ廊下」とは?

白竜峡付近
撮影:YAMA HACK編集部
「下ノ廊下(しものろうか)」とは、北アルプスにある黒部湖を境にして黒部川の下流にあたるエリアのことで、一般的には黒部ダムから仙人谷ダムまで南北にのびる黒部川沿いのルートをさします。このルートは黒部峡谷の中心部に位置し、非常に狭い崖沿いの道を長時間かけて歩くことから経験を積んだ上級者向けのルートとして知られています。
ちなみに、黒部湖から上流は「上ノ廊下」、さらに薬師沢小屋から黒部川の最上流までを「奥ノ廊下」と呼びますが、どちらも沢登りの要素が入ってくるため、通常の登山装備のみで行くことはできません。

下ノ廊下ができるまで

コの字の道
撮影:YAMA HACK編集部
下ノ廊下は高度感のある非常に狭いルートが続き、岩盤を「コ」の字にくりぬいたような人工的な道がほとんど。実は、戦前から続く電源開発の調査目的で作られたもので、その名残から「旧日電歩道」とも呼ばれています。
また、下ノ廊下を歩く場合、一般的には仙人谷から欅平までのびる「水平歩道」もセットで歩くことになります。こちらも下ノ廊下と同様、断崖絶壁が続く上級者コース。どちらも緊張感のある平坦な道で、ピークを登らないのが特徴です。

事故多発地帯!

うっかり躓いたり、岩にザックが引っ掛かってバランスを崩すとそのまま滑落してしまい、まず助かることはありません。落石による事故も近年発生しているため、ヘルメットを持参するのがおすすめです。

必要な装備・技術は?

通常の登山装備に加え、落石用のヘルメット、雪渓の通過に不安がある場合はアイゼンを持っていくのがおすすめです。クライミングや沢登りなど技術は必要ありませんが、絶壁に作られた狭い道を長時間歩くため、集中力を長時間持続させることが必要になります。また、水平歩道では照明のない真っ暗のトンネルを通過するため、ヘッドランプは必ず忘れないようにしましょう。

開通時期は?

峡谷ということもあり、雪解けが遅く、7,8月の間は通行自体ができません。例年9月中旬から10月にかけて整備が行われ登山道が開通しますが、残雪の量によっては開通しない年も。開通状況は道中にある阿曽原温泉小屋や富山県警察の山岳情報を参考にしていくようにしましょう。
なお、富山県警察山岳警備隊や関西電力の開通情報は下記の通り、開通検査後の発表となります。より詳細なコースの情報は阿曽原温泉小屋のHPチェックや問い合わせるのがおすすめです。

富山県警察山岳警備隊、関西電力などから発表される開通情報については、ルート整備工事完了後の開通検査が終わった時点で発表されます。あくまでも工事が完了したかどうかの検査ですので整備終了後直ちに検査に入るものではありません。開通情報と実際に整備が終わっているかどうかは別と考えてもらって構いません。
また、開通検査が終了したからといって、関係機関が通行の安全を保障するものではありません。

阿曽原温泉小屋

富山県警察山岳情報

下ノ廊下の天気は?

エスケープルートのない下ノ廊下は天候を見誤ると致命的です。中心エリアとなる阿曽原温泉付近の天気を事前にチェックしておきましょう。
てんきとくらす(阿曽原温泉の天気)

紅葉の見ごろは?

下ノ廊下の紅葉 下ノ廊下は美しい紅葉を眺められる絶景スポットでもあります。青く透き通った黒部川と荒々しい岩に映える色とりどりの紅葉は、まさにここでしか見ることができない景色でしょう。標高はそこまで高くないため、見頃自体は北アルプスのほかのエリアより少し遅く、10月中旬ごろと言われています。

ルート紹介

黒部ダム~欅平までの南北に伸びる長い道のりのルートが最も一般的です。今回は黒部ダムからスタートするルートをご紹介します。エスケープルートがなく、常に緊張感の必要な道が連続するため、十分に体力と経験を積んだうえで臨むようにしましょう。
コースマップ
出典:ヤマプラ
距離コースタイム標高差日程難易度
約24km約12時間40分871m1泊2日★★★★
参考:ヤマプラ
1日目:黒部ダム(160分)→別山谷出合(100分)→十字峡(135分)→仙人谷ダム(50分)→阿曽原温泉
2日目:阿曽原温泉(125分)→折尾谷(80分)→トンネル(110分)→欅平駅
急坂は黒部ダムから登山道に降りる最初の道と最後の欅平駅までの下り道ぐらいですが、1日目が約14.7km、2日目が約9.3kmと非常に長い道のりです。V字になった峡谷の道を歩くため日照時間も短く、できるだけ早く出て早く目的地に到着する必要があります。
トロリーバス
撮影:YAMA HACK編集部
出発地点となるのは立山黒部アルペンルートのトロリーバス黒部ダム駅。長野県側からのアクセスの場合は、扇沢駅からトロリーバスに乗って黒部ダムで下車後、トンネルを通って峡谷側におります。富山県側からアクセスする場合は室堂からトロリーバス~ロープウェイ~ケーブルカーを乗り継いで黒部湖から歩いて向かいます。
黒部ダム
撮影:YAMA HACK編集部
普段は上から見下ろす黒部ダムですが、下ノ廊下の入り口は黒部ダムの観光放水を見上げながらのスタートです。
大タテガビン
撮影:YAMA HACK編集部
ダムをすぎてすぐに前方に見えるのが、黒部別山の南端に位置する「大タテガビン」。南東壁は「黒部の魔人」とも呼ばれ、黒部三大岩壁のひとつに数えられています。ここを下ると一気に急斜面に挟まれた峡谷の雰囲気漂う道に入ります。
下ノ廊下
撮影:YAMA HACK編集部
道幅は場所によっては数十cmほどで荒々しい岩の上を右手に黒部川を見ながらひたすら歩きます。途中、不安定な場所は桟橋や番線の手すりが用意されているので、慎重に通過しましょう。
大ヘツリ付近
撮影:YAMA HACK編集部
序盤の難所となる、大ヘツリは特に幅が狭く、急な断崖をはしごで登ることになります。コース中、特に高度感がある場所です。
雪渓
撮影:YAMA HACK編集部
この付近には雪渓の道もあるので、不安な場合はアイゼンを持っていくのがおすすめです。雪渓を踏み抜いて思わぬ重大事故を招くこともあるので、川や端の方には行かないようにしましょう。
白竜峡付近
撮影:YAMA HACK編集部
さらに進むと、より水量が激しく、ダイナミックな風景が広がります。大ヘツリを過ぎたこの付近は「白竜峡」と呼ばれており、特に美しい景勝地となっています。
十字峡
撮影:YAMA HACK編集部
白竜峡を横目に見ながら進むこと約1時間半、下ノ廊下の核心部ともいえる「十字峡」に到着です。十字峡はこれまで歩いてきた黒部川に剱岳から流れる剱沢と、爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳を源とする棒小屋沢が合流する珍しいスポット。吊り橋からその全容を眺めることができます。
下ノ廊下
撮影:YAMA HACK編集部
十字峡を越えるとさらに道は狭く、険しくなります。
S字峡付近
撮影:YAMA HACK編集部(半月峡~S字峡付近)
スパッと切れ落ちたスリルのある道を進み、半月峡、S字峡といった景勝地を通ります。遠くに「関西電力」「黒四発電所」と書いてある送電線の出口が見えたら仙人谷ダムまであと少し。
仙人谷ダム施設
撮影:YAMA HACK編集部
仙人谷ダムには宿舎や管理所などの施設があり、管理所の中を進むことになります。旧日電歩道はここまで。ここから先は阿曽原温泉を経由して水平歩道が続きます。
阿曽原温泉
撮影:YAMA HACK編集部
仙人谷ダムから約1時間ほどで阿曽原温泉小屋に到着です。小屋から数分下ったところには温泉があり、有料で入浴することも可能です。360度の大自然に囲まれた温泉は、まさに至福のひと時。

【山小屋情報】
阿曽原温泉小屋
営業期間:7月中旬~10月29日の宿泊まで
住所:富山県下新川郡宇奈月町浦山1402-2
TEL:0765-62-1148
料金
1泊2食付き10000円
素泊まり7000円
テント場利用料800円
テント場利用者の入浴料700円
 

阿曽原温泉小屋

水平歩道
撮影:YAMA HACK編集部
2日目は長い水平歩道を歩くルート。標高差はほとんどなく、1日目ほどのダイナミックな岩場はほとんどありませんが、バランスを崩すと命取りな断崖絶壁の道が続きます。緊張感を持続し続けることが必要で、こけて落ちたら怪我をするよりも助からないことが多いことから「黒部に怪我なし」と言われるほど。水平歩道はかつて発電所建設のための資材を多くの歩荷(ボッカ)が歩いた道。運んだ資材は数十kgもあったというから驚きです。
奥鐘山
撮影:YAMA HACK編集部
道中、折尾谷と志合谷という大きな谷を横断していくことになりますが、特に志合谷は砂防提となっており、内部のトンネルを進むことになります。このトンネルは長く照明がないため、ヘッドランプは必須!
志合谷をすぎて欅平まで近くなると対岸に見えてくるのが、堂々とした奥鐘山。奥鐘山の西壁はクライマーから「黒部の怪人」と呼ばれており黒部三大岩壁のひとつにも数えられています。
欅平駅
撮影:YAMA HACK編集部
最後は「しじみ坂」と呼ばれる急坂を一気に下って欅平駅に到着。

トロッコ列車
撮影:YAMA HACK編集部
欅平からは宇奈月温泉まで黒部峡谷トロッコ電車が運行しています。宇奈月温泉でゆったりと疲れを洗い流して帰路につきましょう。

山と高原地図 剱・立山 2017

下ノ廊下は危険個所が多く、行程も長いため、必ず地図でルートの情報を確認しておきましょう。
山と高原地図 剱・立山 2017
ITEM
山と高原地図 剱・立山 2017
・出版社:昭文社
・出版日:2017年3月10日頃

黒部ダムまでのアクセス方法

下ノ廊下は往復せずスタート地点からかなり離れてしまうため、マイカーでのアクセスはお勧めできません。また、2日間とも長時間の山行となるため、前日のうちに登山口の近くにアクセスし、朝のできるだけ早い時間帯に出発するようにしましょう。

扇沢方面からのアクセス

黒部ダムは立山黒部アルペンルート上に位置し、富山県側からは室堂方面、長野県側からは扇沢を目指すことになります。黒部ダムまでのアクセスは室堂方面からの場合、ケーブルカーやトロリーバスなどで何度も乗り換える必要があり時間がかかるため、富山からでなければ扇沢を目指すのがお勧めです。
【電車・バスでのアクセス(東京からの場合)】
新宿駅(特急あずさ)→信濃大町駅(路線バス)→扇沢(トロリーバス)→黒部ダム(約4時間30分)
料金:10550円
立山黒部アルペンルート(運賃)
【タクシーでのアクセス】
新宿駅(特急あずさ)→信濃大町駅(タクシー)→扇沢(トロリーバス)→黒部ダム(約4時間20分)
料金:約15590円(タクシーは普通車4〜5人乗り6400円の場合)
信濃町なび(扇沢へのアクセス)
【高速バスでのアクセス】
新宿(高速バス)→扇沢(トロリーバス)→黒部ダム(約6時間40分)※深夜発便のみ
料金:7740円
アクセス信州(扇沢への高速バス情報)

室堂方面からのアクセス

室堂方面からのアクセスは電鉄富山駅から約3時間ほどかかります。
【電車・バスでのアクセス(富山からの場合)】
電鉄富山(富山地方鉄道)→立山駅(ケーブルカー)→美女平(立山高原バス)→室堂(立山トンネルトロリーバス)→大観峰(立山ロープウェイ)→黒部平(黒部ケーブルカー)→黒部湖(徒歩)→黒部ダム(約2時間50分)
料金:7950円

室堂方面からアクセスするなら前日入りがおすすめ

立山黒部アルペンルートでのアクセスは始発の時間の影響などもあり、早朝に行程を開始するのは難しいのが現実。前日入りできる場合は黒部湖畔にある「ロッジくろよん」に宿泊しておけば翌日早朝からスタートできます。

ロッジくろよん
出典:ヤマプラ
ロッジくろよんからトロリーバス黒部ダム駅まではおよそ1時間弱。室堂方面から黒部ケーブルカーで黒部湖を目指すと始発でも8:35着、扇沢から来た場合でも6:46着なので、特に室堂方面からくる場合は前日泊しておくのがおすすめです。

ロッジくろよん ロッジくろよんは鉄骨三階建てで約100人を収容できるしっかりとした宿泊施設。宿泊料などは直接の問い合わせとなります。

ロッジくろよん


知れば知るほど奥深い、黒部の魅力

仙人谷ダムのトンネル
撮影:YAMA HACK編集部
黒部ダムをはじめとする黒部川の電源開発には、たくさんの殉職者が出た過去もあります。トンネルを掘っていく中で高熱の岩盤地帯に出くわし、過酷な環境下でも働き続けた作業員など、このエリアでの電源開発にまつわる話はノンフィクション小説「高熱隧道」でも登場するので、行く前に読んでおくのもおすすめです。
高熱隧道 (新潮文庫)
ITEM
高熱隧道 (新潮文庫)
完成までに300人を超える死者を出した、
黒部峡谷発電所設立のための隧道(トンネル)工事についてのルポルタージュ。
冠されたタイトルの名の通り、異様な熱気が文字から浮かび上がる。
舞台は昭和初期の富山であるが、
温泉湧出地帯で大規模な隧道工事を完遂させた例はその時点ではほぼゼロに等しく、
また、その山に入って人間が手を加えようとすること自体、
地元の人間からすれば狂気じみた行為であったため、
計画から実際の工事に至るまで全てが暗中模索の苦労の連続であったことがうかがえる。 出典:Amazon

先人たちの努力と人間ドラマが交錯する下ノ廊下は、人工的な道でありながら、北アルプスの中でも最も秘境に近い場所です。十分に経験を積んだうえで、長い歴史をかみしめながら歩いてみてくださいね。

 

【登山時の注意点】
・北アルプスは本格的な山岳エリアですので、しっかりとした登山装備と充分なトレーニングをしたうえで入山して下さい。足首まである登山靴、厚手の靴下、雨具上下、防寒具、ヘッドランプ、帽子、ザック、速乾性の衣類、食料、水など。
・登山路も複数あり分岐も多くあるので地図・コンパスも必携。
・もしものためにも登山届と山岳保険を忘れずに!
・紹介したコースは、登山経験や体力、天候などによって難易度が変わります。あくまでも参考とし、ご自身の体力に合わせた無理のない計画を立てて登山を楽しんで下さい。
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YAMA HACK編集部
YAMA HACK編集部

YAMA HACK運営&記事編集担当。登山をきっかけに自然の力に魅了される。山で飲むコーヒーが大好き。何かあれば必ず山に行き、心身共に整える。山について新しい視点を与えられるような記事作りを心がけて日々執筆活動を行う。

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