黒部峡谷の秘境「下ノ廊下」とは?

このルートは黒部峡谷の中心部に位置し、非常に狭い崖沿いの道を長時間かけて歩くことから経験を積んだ上級者向けのルートとして知られています。
ちなみに、黒部湖から上流は「上ノ廊下」、さらに薬師沢小屋から黒部川の最上流までを「奥ノ廊下」と呼びますが、どちらも沢登りの要素が入ってくるため、通常の登山装備のみでは行くことはできません。

下ノ廊下ができるまで

また、下ノ廊下を歩く場合、一般的には仙人谷から欅平までのびる「水平歩道」もセットで歩くことになります。こちらも下ノ廊下と同様、断崖絶壁が続く上級者コース。どちらも緊張感のある平坦な道で、ピークを登らないのが特徴です。
難易度高!挑戦する前に知っておくべきこととは?

難易度が高く、万一の際には重大な事故にもつながる下ノ廊下の山行では、注意しておくべき点がいくつかあります。改めて確認しておきましょう。
事故多発地帯!
うっかりつまづいたり、岩にザックが引っ掛かってバランスを崩して滑落してしまうと、死亡事故につながります。落石による事故も近年発生しているため、ヘルメットを持参するのがおすすめです。必要な装備・技術は?
通常の登山装備に加え、落石用のヘルメット、雪渓の通過に不安がある場合はアイゼンを持っていくのがおすすめです。クライミングや沢登りなど特別な技術は必要ありませんが、絶壁に作られた狭い道を長時間歩くため、ダブルストックは厳禁。登山道沿いに張られた番線を意識しながら集中力を長時間持続させることが必要になります。
また、水平歩道では照明のない真っ暗のトンネルを通過するため、ヘッドランプは必ず忘れないようにしましょう。
開通時期は?
峡谷ということもあり、雪解けが遅く、通行自体ができない時期が長くあります。例年9月中旬〜10月にかけて整備が行われ登山道が開通しますが、残雪の量によっては開通しない年もあります。開通状況は道中にある阿曽原温泉小屋のホームページや富山県警察の山岳情報を参考にしていくようにしましょう。
なお、富山県警察山岳警備隊や関西電力の開通情報は下記の通り、開通検査後の発表となります。より詳細なコースの情報は阿曽原温泉小屋のHPチェックや問い合わせるのがおすすめです。
富山県警察山岳警備隊、関西電力などから発表される開通情報については、ルート整備工事完了後の開通検査が終わった時点で発表されます。あくまでも工事が完了したかどうかの検査ですので整備終了後直ちに検査に入るものではありません。開通情報と実際に整備が終わっているかどうかは別と考えてもらって構いません。
また、開通検査が終了したからといって、関係機関が通行の安全を保障するものではありません。
下ノ廊下の天気は?
エスケープルートのない下ノ廊下は天候を見誤ると致命的です。中心エリアとなる阿曽原温泉付近の天気を事前にチェックしておきましょう。てんきとくらす|阿曽原温泉
紅葉の見ごろはいつ?

下ノ廊下は美しい紅葉を眺められる絶景スポットでもあります。青く透き通った黒部川と荒々しい岩に映える色とりどりの紅葉は、まさにここでしか見ることができない景色でしょう。標高はそこまで高くないため、見ごろは北アルプスのほかのエリアより少し遅く、例年10月中旬ごろになります。
【実録写真で解説!】下ノ廊下のルート紹介
合計距離: 29.53 km
最高点の標高: 1534 m
最低点の標高: 597 m
累積標高(上り): 5942 m
累積標高(下り): -6839 m
最高点の標高: 1534 m
最低点の標高: 597 m
累積標高(上り): 5942 m
累積標高(下り): -6839 m
- 【体力レベル】★★★★☆
- 1泊2日
- コースタイム:12時間40分
- 【技術的難易度】★★★★★
- ・岩場、雪渓を長時間継続して通過できる技術が必要
・ルートファインディングの技術に加え、撤退などの判断能力ができる
ルート概要(縦走)
【1日目】黒部ダム(160分)→別山谷出合(100分)→十字峡(135分)→仙人谷ダム(50分)→阿曽原温泉
【2日目】阿曽原温泉(125分)→折尾谷(80分)→トンネル(110分)→欅平駅
黒部ダムを朝早めに出発
急坂は黒部ダムから登山道に降りる最初の道と最後の欅平駅までの下り道ぐらいですが、1日目が約14.7km、2日目が約9.3kmと非常に長い道のりを歩きます。V字になった峡谷の道を歩くため日照時間も短く、できるだけ早く出て早く目的地に到着する必要があります。



足がすくむ!序盤の難所「大ヘツリ」のハシゴ


白竜峡に十字峡……。秘境らしい景勝地が続く!





阿曽原温泉小屋にて1泊

阿曽原温泉小屋|公式サイト
2日目は水平歩道。油断は禁物!

緊張感を持続し続けることが必要で、こけて落ちたら怪我をするよりも助からないことが多いことから「黒部に怪我なし」と言われるほど。水平歩道はかつて発電所建設のための資材を多くの歩荷(ボッカ)が歩いた道。運んだ資材は数十kgもあったというから驚きです。
真っ暗なトンネルを経て、ゴールの欅平へ!

志合谷をすぎて欅平まで近くなると対岸に見えてくるのが、堂々とした奥鐘山。奥鐘山の西壁はクライマーから「黒部の怪人」と呼ばれており黒部三大岩壁のひとつにも数えられています。


山と高原地図 剱・立山
下ノ廊下は危険個所が多く、行程も長いため、必ず地図でルートの情報を確認しておきましょう。黒部ダムまでのアクセス

下ノ廊下の起点/終点は離れているため、公共交通でアクセスしましょう。また、2日間とも長時間の山行となるため、前日のうちに登山口の近くにアクセスし、朝のできるだけ早い時間帯に出発するようにしましょう。
登山口となる黒部ダムへは富山県側からは室堂方面、長野県側からは扇沢を目指すことになります。黒部ダムまでのアクセスは室堂方面からの場合、ケーブルカーやトロリーバスなどで何度も乗り換える必要があり時間がかかるため、扇沢から出発するのがおすすめです。
立山黒部アルペンルート|公式サイト
扇沢方面からのアクセス
・JR大糸線「信濃大町」駅より路線バスもしくはタクシー乗車−「扇沢」バス停にて下車、立山黒部アルペンルートに乗換−電気バス乗車−「黒部ダム」下車・「バスタ新宿」より高速バス乗車−「扇沢」バス停にて下車、立山黒部アルペンルートの電気バス乗車−「黒部ダム」下車
アルピコ交通|路線バス 扇沢線
アルピコ交通|高速バス
室堂方面からのアクセス
富山地方鉄道「電鉄富山」駅−「立山」駅下車、立山黒部アルペンルートに乗換−ケーブルカー「美女平」下車、立山高原バス乗換−「室堂」駅下車、立山トンネルトロリーバス乗換−「大観峰」駅下車、立山ロープウェイ乗換−「黒部平」駅下車、黒部ケーブルカー乗換−「黒部湖」下車、黒部ダムまで徒歩室堂方面からアクセスするなら前日入りがおすすめ

ロッジくろよんの宿泊料などは直接の問い合わせとなります。
ロッジくろよん|公式サイト
知れば知るほど奥深い、黒部の魅力

先人たちの努力と人間ドラマが交錯する下ノ廊下は、人工的な道でありながら、北アルプスの中でも最も秘境に近い場所です。十分に経験を積んだうえで、長い歴史をかみしめながら歩いてみてくださいね。
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