新しい行き先は、自分の経験が教えてくれる――立教大学山岳部コーチ・武石浩明さんインタビュー

山を登っている人でも大学の山岳部に所属していた経験があるのは一部ではないでしょうか?時間と若さにあふれた青春を山で過ごした立教大学山岳部OB(現コーチ)の武石浩明さんに、大学山岳部の魅力について語っていただきました。

アイキャッチ撮影:YAMA HACK編集部

キツいイメージ?大学山岳部がやっていること

アイスクライミング
大学の山岳部というと、どんなイメージでしょうか?キツイ、クライミング、ガツガツ登山をしているなど、様々なイメージがあるかもしれません。トレイルランニングやクライミングなど、山をフィールドにした様々なアクティビティが世の中に浸透してきた今だからこそ、あえて硬派なイメージの「山岳部」にスポットライトを当て、その魅力をご紹介します。

立教大学山岳部のコーチに話を聞いてみた

武石氏
撮影:YAMA HACK編集部
今回お話をおうかがいしたのは、立教大学山岳部のOBであり、現役のコーチも務めている武石浩明さん。ヒマラヤやシルクロードといった僻地にあこがれて入部し、同部が約80年前に日本人として初めてヒマラヤの山に登頂したことで知られる、ナンダ・コート(6867m)への再登頂を達成。また、同じくヒマラヤにあるチョモロンゾ(7816m)のチベット側北西面から世界初登攀など、世界的な記録を打ち立てた経歴の持ち主でもあります。
ヒマラヤにて
撮影:YAMA HACK編集部
現在は定期的に現役への技術指導などを行っているという武石さん。同大学の山岳部や昔と今の違いなどについて教えてもらいました。

現在の立教大学山岳部について聞かせてください

武石さん:現在は全部で4人。積雪期の谷川岳での雪上訓練や、剱岳の定着合宿(縦走)など、年7回の合宿を行っています。

編集部 :人数はとても少ないですが、大学の山岳部というのはやはり減少気味なのでしょうか?

武石さん:他大学では、明治学院大や成蹊大学などの山岳部はなくなったと聞いています。ただ、一方で東大はすごく多いと聞いたこともあります。どこも少なくなっているというわけではなくて、波があるんでしょうね。

今と昔の山岳部の違いは?

海外遠征
撮影:YAMA HACK編集部
編集部 :昔は未踏峰や新ルートなど、各大学の山岳部がこぞって挑戦していたようなイメージなのですが、今の山岳部はどんな活動をしたり、何かを目指していたりするのでしょうか?

武石さん:今の活動は大学によっても様々。海外遠征までするところはあまりないけど、自分たちの好きなようにチャレンジをしてくれればいいと思ってますよ。本人たちで行き先も決めてもらうんです。「したい!」と思ったことに対して今の状態で無理ならば技術の指導をするし、「ここに行け!」という誘導をすることもない。自分が現役のころは円高やトレッキングピーク(※)の開放があったりでタイミングもよく、入部1年以内にヒマラヤにもチャレンジできていたんですよ。でも、今でもその気になればできるはず。
※通常面倒な手続きが多いヒマラヤの山の中で、トレッキングピークの対象となる山は簡易的な手続きで登ることが可能になった。

編集部 :現役にはどのような技術指導をされているんですか?

武石さん:体力は最低限必要ですが、命を守るために必要な技術。雪上訓練やクライミング技術などですね。部員が少なくなってしまうことでこういった技術が後輩に継承されづらくなるし、いったん0人になれば途絶えてしまいます。そんなときのために、我々OBが様々な登山技術を継承するバックアップをしています。

編集部 :たしかに、そうすることで山岳部や山岳会といった団体は世代を超えて技術が継承されていくことができますね。

山岳部などで継承される技術が果たす役割って、どんなものだと思いますか?

武石さん:ワンダーフォーゲル部や高校山岳部では雪山など禁止されているところもある。でも、山岳部にはそういった規制はありません。例えば、現役の時に北海道の日高山脈で沢登り縦走をしたことがあるんです。軽量化するために食料は自給自足で考えていたんですが、結局1日目にイワナが釣れただけで、ほかは全部ふりかけ(笑)。岩登りや懸垂下降の連続、ゴルジュで流されたりハイマツをかき分けたり、ヒグマに出会ったり、様々な経験をしました。一週間誰にも会わなかったけど、めちゃくちゃ面白かった!

日高沢登りの話をする武石さん
撮影:YAMA HACK編集部
武石さん:つまり、山岳部って、「つらいこと」をするところではなくて、「何でも好きなこと」をやっていいところなんですよ。そのために必要なのが、最低限の技術ということですね。やりたいことをするには技術が必要。だからそれを現役に教えるけど、それ以上のことは言わない。部員は自分たちなりの挑戦を考えて活動していく。その中で、もっと面白いことは何だろう?と考え、過酷かもしれないけど、どんどん経験を積み重ね、レベルアップしていくんです。


編集部 :
沢登りの話も、きっと何も経験がない人はそんなことをしようとも思わない。でも、経験を積むことで、「日高山脈で自給自足の沢登り合宿やってみたら楽しそうじゃない?」という発想に至るんですね。

武石さん:そのとおり。コーチとして教えることは技術。あとは経験談を話す程度。部員たちは自分たちで道を切り開いていく。単純に、南アルプスを端から端まで縦走しても面白いですよ。大体十数日でできますし、冬に全山縦走を1か月かけてやった人もいます。学生には長い時間があるのがいいところ。みんなが足を踏み入れている山でもいろんな楽しみ方があることを知ってほしいね。

世代を超えて価値観を共有できるということ

武石さん:私が現役の時は北アルプスの黒部横断を試みたけどできなかったんですよね。でも、そのあと後輩がやってのけた。夢を引き継いで、世代を超えてそういう話ができるのは面白いですよ。昔からやってることはそんなに変わらないんです。技術を磨いて挑戦して、クリアしたら新たな行き先が見えて・・・その先にヒマラヤ遠征などがあるんです。

チョモロンゾ登頂
撮影:YAMA HACK編集部(チョモロンゾ山頂にて)
武石さん:私たちの部活の歴史には日本初のヒマラヤ登山を成功させたナンダ・コートの登頂記録があります。はじめはハイキング程度の部活だったのに、堀田さん(遠征隊長)が入部して数年でヒマラヤ遠征を実現させた。当時のそういったフロンティア精神は平成卒でも昭和卒でも持っていて、ナンダ・コートの話をすれば時間軸を超えて分け隔てなく話せるんですよ。これってすごくいいことじゃないですか。そういう歴史や伝統みたいなのは続いていってほしいと思いますね。

編集部 :記録は時間をかけてもずっと残るものであり、特にそういった世界的なものは世代を超えてつながるきっかけにもなってるんですね。




武石さん:
自分にとっては、チョモロンゾの新ルートを登ったのが一番の誇り。世界初のルートだから、今でも記録には「Japanese route」って書いてあるんです。これは僕が死んでも残ります。ナンダ・コートや、自分が打ち立てた記録は時がたつほど価値があるものと気づかせてくれるし、「自分にはこれがある!」と時間を超えて自分を奮い立たせてくれるんです。
もちろん、その時間を共にした仲間も一生ものですよ。

ルールはない。レベルアップすることで見えてくるもの

チョモロンゾ登頂記録
撮影:YAMA HACK編集部(チョモロンゾ登頂時は立教大学校友会報の一面を飾った)
自由だからこそ活動範囲は無限大、だからこそ、命にかかわる登山技術は大切に伝えていきたい。技術や経験を積むことでしか見えない景色を知っている武石さんだからこそ、「やりたいことをやればいい」という言葉の奥に秘めた深い意味と熱い思いを感じることができました。

山の楽しみは数あれど、いつだって盛り上げたり、新たな道を切り開いてきたのはチャレンジ精神あふれる人たち。山岳部というのはそういう人が活躍する源泉のような場所なのかもしれませんね。

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YAMA HACK編集部
YAMA HACK編集部

YAMA HACK運営&記事編集担当。登山をきっかけに自然の力に魅了される。山で飲むコーヒーが大好き。何かあれば必ず山に行き、心身共に整える。山について新しい視点を与えられるような記事作りを心がけて日々執筆活動を行う。

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