マッターホルンはどんな山?初登頂の歴史と悲劇とは
マッターホルンとはどんな山なのでしょう?山の構造、初登頂の歴史や当時のエピソードを調べてみました。
マッターホルンとは
マッターホルンはヨーロッパ中央部にあるアルプス山脈に属する山です。標高は4478mで、モンブラン、モンテ・ローザに次いで標高が高い山になります。マッターホルンはドイツ語で「牧草地の角」という意味の名前で、世界的に広く使われています。山頂にはスイスとイタリアの国境が通り、スイスでは「モン・セルバン」、イタリアでは「モンテ・チェルビーノ」と呼ばれています。
麓にはスイス側に「チェルマット」、イタリア側に「ブレイユ=チェルヴィニア」という町があり、どちらもマッターホルンや他の山々への登山口として多くの人が訪れます。
4つの壁と4つの尾根
マッターホルンは東西南北の壁とヘルンリ尾根、ツムット尾根、リオン尾根、フルッケン尾根の4つの尾根で構成される、ピラミッド形の山です。基部は堆積岩、山体は片麻岩で形成されており、アフリカ大陸のプレートが地殻変動により隆起した岩を、氷河が削って現在の形になったと言われています。
傾斜の激しい斜面では、雪はその場に残らず雪崩として滑り落ち、氷河を造る場所もあります。その圧倒的な外観から、現地では古くから「悪魔が住んでいる山」と言われ人々から恐れられていました。
初登頂までの歴史と悲劇
1786年にモンブランが初登頂されてからヨーロッパアルプスの登山ブームが始まり、主な高峰が次々と制覇されていきました。その中でも最後に残ったのがマッターホルンです。モンブラン初登頂からおよそ70年後、マッターホルン制覇への挑戦が始まりました。
スイス側から見るマッターホルンは壁が垂直に切れ上がっており登頂は困難という意見が多く、当時はイタリア側からの登攀が一般的でした。しかし、イタリア側からのコースも難所が多く岩が崩れやすいことから、どの登山家も成功には至りませんでした。
1865年7月、エドワード・ウィンパーとジャン・アントワーヌ・カレルがイタリア側からの登攀を計画していましたが、カレルが悪天候を理由に計画をキャンセルしました。しかしその数日後、カレルはウィンパーに黙って他のパーティーでイタリア側からのアタックをスタート。それを知ったウィンパーはスイス側からの登攀を再計画し、別のパーティーを組みスイス側からのアタックに挑戦。
そして7月14日、カレルよりも早く、ウィンパーはマッターホルンの初登頂に成功しました。
しかしその下山中、ウィンパーたちに悲劇が起こります。ウィンパーたち7人は各自をロープでつないで下山していました。難所に差し掛かった時、登山経験の浅いハドウが足を滑らせて落下、それに巻き込まれハドウの前後にいた3人も落下してしまいます。4人目にいたダグラス卿のところでロープが切れ、ウィンパーを含む残り3人は助かりました。4人をつないでいたロープは強度の低いロープが誤って使用されていたそうです。
下山後、ウィンパーは自身の経験を「アルプス登攀記」につづっています。
アルプス登攀記
マッターホルンへの行き方
マッターホルンへはどうやって行けばいいのでしょう?マッターホルンの登山口はスイスのチェルマットと、イタリアのチェルヴィニアの2つがあります。
ツェルマットからマッターホルンへ行こう!
マッターホルンのスイス側にあるチェルマットは、アルプスでも人気の観光地のひとつです。チェルマットへはチューリッヒ国際空港から列車で約3時間半、ジュネーブ国際空港から列車で約4時間、ミラノからも国際列車で約4時間で行くことができます。環境保護のためガソリン車で村まで行くことができないので、車やバスの人も電車に乗り換えてツェルマットへ向かいます。
チェルヴィニアからマッターホルンへ行こう!
マッターホルンのイタリア側の登山口はチェルヴィニアという小さな村です。チェルマットより小さな村ですが、年間を通してスキーができるリゾート地として有名です。ミラノやトリノからシャティヨン(Chatillon)という駅まで行き、そこから出ているバスに乗って約1時間で到着します。
マッターホルンへ観光に行きたい!
登山はできないけど、マッターホルンを観光したい!という方。ツェルマットには初心者でも歩けるハイキングコースや、ケーブルカーなどで行ける展望台が多数あり、アルプスの山々を堪能できるように整備されています!
景観に感動!展望台
ツェルマットにはいくつもの展望台があり、ケーブルカーなどで効率的に行けるようになっています。様々な角度から美しいマッターホルンを楽しみましょう!
1.ゴルナーグラート
ツェルマットから登山列車で約30分、標高3089mのところにある展望台です。マッターホルンだけでなく、モンテ・ローザ、ドムなど4000m級の高峰を鑑賞することができます。下を見下ろすと、スイスアルプスで3番目に長いゴルナー氷河も見られます。晴れた日は、白い山々と青空のコントラストを眺めながらレストランのテラスでランチ、なんていう贅沢も。
2.マッターホルン・グレッシャー・パラダイス
ヨーロッパで一番高い場所に架かるロープウェーで行く、標高3883mの展望台です。ロープウェーを2回乗り換え、更にエレベーターで展望台へ向かうと、38峰の4000級の山々が目の前に迫ってきます。マッターホルンの雄大さもさることながら、モンブランやグランパラディーソの迫力にも感動。氷河の下15mに造られた氷河宮殿を見学することもできます。
3.スネガ
ケーブルカーでわずか3分で行ける、ツェルマットから最も近い展望台です。標高2288mのところにあり、稜線が美しく見える角度でマッターホルンを眺めることができます。レストランにはテラスもあり、ファミリーなど多くの人々で賑わいます。
4.ロートホルン
スネガ展望台からさらに20分、ケーブルカーで上ると到着する展望台です。標高3103mにあり、マッターホルンが最も尖って見えると言われています。4000m級の山々とフィンデルン氷河を展望台から360度ぐるりと眺めることができます。
5.シュヴァルツゼー
高速ケーブルカーで約12分、標高2583mの場所にある展望台です。近距離でマッターホルンを眺めることができ、その迫力を体感できます。駅から少し下ると深い色をたたえたシュヴァルツゼー湖が。
マッターホルンを眺めながら!ハイキング
ツェルマット周辺には、延べ400kmにも及ぶハイキングコースがあります。体力に合わせてコースを組み立てられるので、初心者から上級者まで、自分のペースでハイキングをすることができます。その中でも人気のコースをご紹介します。
1.リッフェル湖で逆さマッターホルン鑑賞コース
ゴルナーグラート展望台へ行く途中の、リッフェルベルク駅からローテンボーデン駅までのコースは初心者にも人気のハイキングコースです。途中のリッフェル湖は湖に映る逆さマッターホルンが見られることで人気です。
2.ライ湖で逆さマッターホルンお手軽鑑賞コース
体力に自身のない方は標高の低いスネガ展望台から周るコースがおすすめ。展望台から少し歩くと、ライ湖という湖があり、そこでも逆さマッターホルンを見ることができます。
3.3つの湖とエーデルワイスの群生地を巡るコース
ロートホルンの一つ下にあるブラウヘルト展望台から3つの湖を巡るコースも人気です。シュテリー湖、グリンジー湖、ライ湖とどれもマッターホルンを映す美しい山上湖です。特にシュテリー湖は標高が高い位置にあるため、遮るものなくマッターホルンを堪能することができます。運がよければエーデルワイスの群生に出会えるかも。
4.マッターホルンの北壁鑑賞コース
マッターホルンが目前まで迫るシュヴァルツゼーから周るコースです。シュヴァルツゼー湖は「黒い湖」と言われており、深い色の湖と畔にたたずむ白いチャペルのコントラストが美しく人気。マッターホルンの北壁や氷河から流れる美しい小川も間近に見られるコースです。
ツェルマット観光時の気をつけたいポイント3つ
ツェルマットは6月下旬から9月にかけて、夏の間がハイシーズンとして観光客で賑わいます。標高が高いところにある村なので、観光にはいくつか気をつけたいポイントが。
・一日の温度差に注意
日中は15~25℃あっても、朝晩は冷え込み5~10℃ほどになります。昼間でも天候が崩れれば気温が下がりますので、防寒着を必ず持参しましょう。また、麓と展望台でも標高によってかなりの温度差がありますので、気をつけてください。
・空気の乾燥に注意
日本に比べて乾燥していますので、お肌の弱い方は対策をしていきましょう。リップクリームや保湿クリームが役立ちます。
・日差しに注意
標高が高い分日差しも強くなっています。日焼け対策、サングラスや帽子を必ず持参しましょう。また雪面を歩く際も照り返しに気をつけてください。
マッターホルンへ登山に行きたい!
登山好きなら憧れるマッターホルン登頂、実は、ある程度登山経験があれば不可能ではありません。単独で登ることもできますが、安全性、確実性を考えるとガイド付きで登るのが一般的でおすすめです。計画的に準備をしっかり行えば、マッターホルンの頂上に立つ夢がかなうかも!
安全に登るための目安は?
マッターホルンは夏には1日で150人ほどが頂上を目指す山です。事故があれば渋滞を引き起こし、他の登山家を疲労させるだけでなく新たな事故につながりかねません。高度順応はもちろん、体力や技術面でも十分な準備を行い、登頂に挑みましょう。
安全に登るための目安
・登山技術:ピッケルやアイゼンを十分使いこなせ、クライミング技術をマスターしていること。
・体力:日本の登山道で1時間に高低差300m~400m登れ、5時間ほど休まず歩き続けられる体力を保有していること。
・英会話:登山時に必要な簡単な英語が理解できること。
最もメジャーなコース、ヘルンリ尾根ルート
マッターホルン登頂には、北壁と東壁の間を走るヘルンリ尾根を登るコースが一般的に使われています。
・ツェルマットからロープウェーでシュヴァルツゼー駅へ
・シュヴァルツゼー駅からヘルンリ小屋まで登る(約2時間半)
・ヘルンリ小屋で1泊し、翌日の午前4時頃から登頂開始(往復で約10時間)
というスケジュールがメジャーです。
三大北壁のひとつ、マッターホルンの北壁とは?
マッターホルンの北壁は非常に切り立っており、アイガー、グラント・ジョラスと合わせて三大北壁と呼ばれています。熟練者であっても困難なルートとされる北壁を制覇した登山家をご紹介します!
日本人初の北壁制覇者は?
1965年8月、芳野満彦と渡部恒明がマッターホルン北壁の日本人初登攀を達成しました。芳野と渡部は夏季でしたが、冬季での登攀は1967年2月、小西政継、遠藤二郎、星野隆男が日本人として初めて成功させています。また、その10年後の1977年2月に、長谷川恒夫が冬季単独登攀を日本人として初めて成功させました。これはイタリアの登山家ヴァナテル・ボナッティに続いて2人目の記録です。
冬季の北壁日本人初登攀を果たした小西政継は著書「マッターホルン北壁」で自身の経験を綴っています。
マッターホルン北壁
女性の北壁制覇者は?
女性としての冬季北壁初登攀は日本人であるのを知っていますか?1978年3月、鴫秋子が夫の鴫満則と共に女性として初めて北壁を制覇しました。また、1967年7月、今井通子が女性だけのパーティーで北壁登攀を成功させました。これは世界初の記録で、女性登山家という肩書きが脚光を浴びるきっかけとなっています。
北壁最速登攀者は?
マッターホルンの最速登攀者として有名なのがウーリー・ステックです。彼は2009年、1時間56分という驚異的なスピードで北壁単独登攀を成功させます。それまでの最速記録が4時間10分であったことからも、彼の圧倒的なスピードがうかがい知れます。ステックは三大北壁の最速登攀記録を持ち世界的に有名になりましたが、残念ながら2017年4月に滑落により亡くなりました。
2015年5月にダニー・アーノルドがステックより約10分速い1時間46分で北壁登攀を成功させ、ステックの記録を破っています。
人々を魅了する山、マッターホルン
古くから現地の人に恐れられ、今でもその美しさ、厳しさから人々を魅了する山、マッターホルン。観光でも、登山でも、特別な体験ができること間違いなしです。ぜひ一度訪れて、その美しさと迫力を体感してみてください!
Powerful and Beautiful mountain, MATTERHORN!
力強く美しい山、マッターホルン!